113話 うさぎさん、遠い山岳地帯を目指す その1
【ときには無茶なことをするくらいの心遣いも大事かも】
翌日。
リーベルを立ちシホさんの故郷を目指す。
スーちゃんの魔法でも移動できない場所にある村のため近くの麓までワープしてもらった。
そういえばゲームでも移動できない特定の街や洞窟とかあった気がする。そこでしか買えなかったアイテムとか見落としがちだったなあ。
「結構まぁた高いわね。上に雲が降りかかっているくらい高いわよ」
「……聞けば中層部に火口のエリアがあるみたいです。1歩踏み外せば骨になってしまうくらいに危険な場所です」
「やばじゃんそれ」
3人でこの山岳地帯の情報を確認する。
巨大な山々が連なる山道地帯。木々も多少とあるが、洞窟内に入ると迷路のように似たような場所がたくさん用意されていた。
暗い道を通ると、天井から水がポタポタと滴る音が聞こえてきた。1、2、3結構あるわこれ。
「……暗いですね。少し光の魔法で照らしますか」
「あ、スーちゃん? どうせするなら私のボルト・ラビットパーカーでやるよそれ?」
普通に考えてここは私の能力を使えば事足りる。こういうときに使えるボルト・ラビットパーカーの汎用性は高いんじゃね。
え。スーちゃんなんで首横に振ってんのさ。その……『だが断る』みたいにしてなんかプライドでもあるの?
「……あぁいえ、愛理さんにしてもらうほどではないですよ。これぐらいの暗さなら私の魔法で十分明るくできます。それにいつも愛理さんに助けてもらってばかりでは魔法使いが廃りますからね」
「あぁ確かに。というかミヤリーお前私をぎゅーぎゅー押すなよ」
「あ、ごめん。暗くってよく見えないからさ。怖かったからあんたの服に付いている耳を掴んでいたわ」
どおりでさっきから引っ張られるような感覚がするわけだ。ミヤリーさんもし千切ったりでもしたらそんときはよろしく。
と厳つい顔を彼女に送りつつ。
「何よその顔。……分かった謝るから! 謝るからだからそんな顔しないでよ」
「……これでよしっと。……ミヤリーさん愛理さんをあまり困らせちゃだめですよ。洞窟とは言え強いモンスターが出ることも視野に入れておいてください」
スーちゃんについていくように後を追う。この前の森とは違い多少明るみがあるので、視認出来る物もある。
途中強力なモンスターと出くわしても。
【ツチモグラ 説明:山に住むモグラのモンスター。地面を掘り返しながら攻撃を行う】
3匹のモグラモンスターが出現する。
鋭利なツメでひっかく攻撃を駆使し私達に飛びかかってくる。
「おいミヤリー。そっちがら空きだぞ?」
「へ?」
偶然地面に潜ったツチモグラを見失い一瞥していた彼女。瞳孔をくるくるさせながら敵を追っていた。いる場所を教えてやったのだがもう手遅れ。
「モグン!」
小柄な手から生えた鋭いツメがミヤリーの背中を斬り裂き。
グサン!
「いたたたたたたた! ちょなにやっちゃってくれてんの! このモグラそいや!」
仕返してやろうとミヤリーは食らった直後のタイミングを見計らって長剣で斬り裂く…………が瞬時にかわされ退けられる。
体が小さいこともあるので少々この攻撃は無理があったか。
彼女のHPを確認すると……HPが1に減少している。
あ。
「ふふんかかったわねこのモグラ! 久々にコレ使うけど悪く思わないでね! たああああああああああああ」
「おいおま、やめろ! 空気嫁!」
おめえは脳筋野郎か。
そんなことを思いつつ彼女の瀕死で使える最強スキル、九死乱狂醒が覚醒! 再びだなこの技。
紫の光を帯び目に止まらぬ速さで急加速! 周りにある複数の岩が、彼女の強引な一振りによって一瞬でまっ2つに切断される。
バシ! ドゴゴゴゴゴゴゴゴォ!
もはや物理法則を無視しているかのような想定不可能な力量。発動条件が限定的とはいえ甚だしいぞこれ。
焦りを見せたツチモグラは地面に潜って避難しようと逃げ込む。……が彼女の迅速な動きによって首元を捕まれ身動きを封じられる。
「へへん! もう逃がさないわよ! ごりりゃああああああああああ!」
そのまま宙に放り持ち前の最大出力の斬撃を使い、ツチモグラを撃退。馬鹿な火力もとい馬火力によって地形の殆どが彼女の攻撃により粉々に。
ミヤリーさぁ。いくら何でもやり過ぎだって。
ぴょこぴょこと後ろで戦っていたスーちゃんが駆け寄り、地形がリフォームされた洞窟内をみて言葉を失う。
「……あのなんですかこれ?」
「どうやらあいつ力の加減っていうものをまるで分かってないみたい。……おっとおめえの存在忘れていたな。『モグ!』じゃねえラビット・パンチ」
「……は、はぁ」
丁度近くを通りかかった最後のツチモグラがいたので、ついでにその1匹を私のパンチで倒しておいた。
そして私はミヤリーに声をかけて。
「おーいミヤリー! もどってこおおおおおおい! つうかやり過ぎこんなにリフォームしなくていいから!」
「あ、ホントだ何1つ邪魔な物が残ってないわね。はは!」
「ははじぇねえよ。もう少し自重しやがれ」
覚醒したら破壊神級な強さを発揮する彼女のこの力はやはりとんでもないスペック。
だが1つ言わせてくれ。
たかが1匹。しかもあんなクソ雑魚なモンスター相手に何ムキになってそれ使うのさ。使うまででもねえだろ、ほんの少し振るうだけでいいのに。……なにカスっただけで自棄になってんのさはあミヤリーもうちょっと頭使え。
2人で呆れる表情をするミヤリーをじっと見つめながら。
「な、なによ!? 変な物か何かついてる!? ってちょっとなんで置いて行こうとするのねぇねえってば! ちょっと2人共おおおおおおなんか言って!」
答え1つもせずに先へと進みながら私達は思いふける。
コイツには今度加減というものを教える必要があるなと。
☾ ☾ ☾
洞窟を駆け上ると、違う山へと続く橋が架けられていた。
どうもそこを渡らないと先へは行けないらしい。
が。
「……あ、あの」
「うそでしょ。」
「いやないわ、来て早々これとか。ていうか補助アイテムくれよ」
嘘やん。
渡ろうと思いはしたものの、ここでみなさんに残念なお知らせ。
あろうことか、その肝心な吊り橋が見事にくっきり破壊され、先に進めないではないか。
あまりの唐突な展開に目を丸くさせ声を張り上げた。
「詰み要素ありとか聞いてねぇぞおい!!」
「……まぁまぁ愛理さんお気を確かに」
仕方なしに何かいい策はないかと作戦を練る私達なのだった。