112話 うさぎさん、シホさんの故郷へ向かう準備をする その2
【宇宙人でも色々事情があるらしい】
ブラフから少し時間があるかと聞いてみることにした。
なぜその理由かというと、この前戦ったあのバイタスという生物。……ここでは未確認生物もとい、危険生物扱いされているけど明らかに地球に住むモンスターじゃない感じがした。
ので。
「ところでさ、ちょっと聞いたいんだけどいいかな?」
ドーナツを一口。結構いけるなここの菓子は。
「なんだ?」
首を傾げこちらをまじまじと見つめる。いやこっちみんな。
そんなちらちらみても、見えないところから変なもんなんて出やしねえよ。
「昨日さ妙なモンスターに会ったんだよ」
「ふむ、そいつはなんて言うヤツだ?」
「バイタス。……倒す度に強くなっては体を組み変えるモンスターなんだけど、それが手の付けようがなくってね。明らかに地球のモンスターとは思えないんだけど……なんか知ってる?」
「………………まじか?」
汗を額からたらたらと流し、少々焦り気味な様子を見せる。顔に書いてあるぞ『やばいぞやばいぞ』って。
「まじよ」
「………………」
「……あのブラフさん何か知っているですかあのモンスターを」
するとブラフは唐突にその場で蹲り、頭に手を乗せ極小な声で囁く。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁないわああああああぁぁぁ!! うそだろぉぉぉぉぉぉぉ!」
「お……おい大丈夫か? いかにもやっちまったなみたいな展開になってるけどまじで大丈夫!?」
事後発生みたいな感じで、どうやらブラフはあのモンスターのことを何か知ってそうだった。……汗めっちゃ流しているし訳あり感、大だなこれは。
少々の沈黙の後に。
気を取り直しスタンドアップ。
一旦落ち着けたのかな。
「と、取り乱してすまなかった仲宮愛理」
「いいよ。それよりも知ってるんでしょあのモンスター」
「あぁ知ってるもなにもあのモンスターは……」
☾ ☾ ☾
「それガチで言ってんの?」
ブラフは包み隠さず、私達が戦ったバイタスに関する情報を提供してくれた。
敵とはいえ、ソースあざっす。
「あぁ先ほど言った通りだ。……あのバイタスは俺の先代が、地球侵略目的に人工的に作り出して生物第1号……つまり初の異生物に当たる。……因みにお前が随分前に蹴散らしたヤツは第334号だ」
どれだけ作っているんだよ。っていうか数字がなんか悲しくないかそれ関係ないやろ。
「今のヤツと違ってちょいと問題を抱えていてな」
「ほうほう」
「これは俺のじーちゃんとばーちゃんから聞いた話だが、最初はちゃんと言う事を聞いていたらしい。……が戦いを積んで行く度に手が付けられなくなり、仕舞いには制御も効かずなモンスターになってしまった」
考え無しに当時は侵略兵器を作っていたとかそんな流れか? 当時と今のナメップ星人の科学力がどれぐらいの物だったかはしらないけど、セキュリティが昔弱かったんでしょきっと。
「なんかすっげえ事情抱えてた!!」
「で……最終的にその時の地球侵略は諦め、バイタスは地球の暗い森に放置し先代は地球を撤退したらしい」
「……あのそんなにやばかったですかバイタスは」
「当時はスライムみたいなちっこいモンスターだったらしい。手放すときもちっこかったから放置して問題ないと判断したんだろうな」
「私が戦ったヤツ、めっちゃ大きかったよ。でかいドラゴンにも化けたし」
「そ、想定外だ。今すぐでもナメップ星に通信を入れたいのだが……無理だな」
まあ乗り物がぶっ壊れているなら通信も無理か。……幸い通信機が生きていれば援軍を呼べただろうに。
……まじか。まさか本当にあのモンスターが昔ナメップ星人が落としていった廃産物的なモンスターだったとは。通りで強いわけだ。
「……倒す手あるの?」
「今のところないな。ヤツは手放しても問題ない処分をしているから、倒すまでの手段は用意されていない。……つまり要約すると詰んだんだよ」
さらっとそんな事言われても。
そんな僕の作った最強モンスターみたいなヤツだが、無敵なそのバイタスを倒す方法は果たしてあるのか。
ワンチャン無効化を入れた攻撃ならなんとかなりそうだが、うまくいくか?
ブラフは困りながらも、身を乗り出して私に言う。机をドンと叩いて。
「1度、一時休戦にしようか仲宮愛理。……頼む! あのバイタスを葬ってくれ! あいつが残っていたら俺は資金を集められないどころか、故郷へ帰る金もなくなっちまう。だから……」
う。こいつってこんなやつだったか? それぐらいやばいヤツなんですかそのモンスターは!? いや無理ゲー。今のこの状況でどうやって倒せって言うんだ。
まあ本格的に動くとしたら、シホさんが復活した後の話になりそうだが。
「つまり、手の付けようがなくなった最強モンスターを倒してくれと?」
「そういうことだな。申し訳ないがこの通りだ!」
なんかこのまま私が断れば、悪党扱いされそうな感じがする。……イベント入ったですかねこれ。おいこらカウンターでゴンゴン頭突きしなくていいから!!
「わわわわわわわかったよ!!!! やればいいんでしょやれば。ナメップ星人にはちょーうぜえことこれまでされては来たけど今回だけはやってやるよ」
「あ、ありがとう愛理」
「……それで弱点なんかは分かりますか?」
「今のところはないな。もしかしたらUFOの中にそれに関する情報があるかもしれん。……なにか分かったら伝えに行く」
「おk。んじゃなんかあったらうちに来なよ。いなかったら手紙かなんかで書いて…………あ、でも私宇宙人語は読めないからな」
「心配するな。どうやってバイトに入ったと思っている? ナメップ星の科学力なめるなよ」
さり気なく私のセリフパクるのやめてもらえます?
☾ ☾ ☾
【持つべきは仲間案外こいつ役に立つなぁという実感沸くな】
家に帰り、自室の方に行くと。
「? シホさん?」
シホさんが寝込む姿が。
かわいらしい吐息をしながら深い眠りについている。
「あ、スーちゃん愛理」
すぐ横で彼女を見ていたミヤリーがこちらへと近づいて来る。
まさか、準備とか言っといて、わざわざ1人で家までシホさんを運んだって言うの? 案外気前がいいだなミヤリーって。
「ミヤリー? シホさんを運んでくれたのありがとう」
「へへ。大丈夫よドーピング系もたくさん買っといたしついでにと思って連れて帰ったのよ。……重すぎて何度も街歩く人に助けてもらいながら運んでもらいはしたけどね」
おい無理すんな。
「……それは大変でしたね。ハイヒール。これで前回ですね」
「ありがとうスーちゃん。あ、愛理今のうちにシホを入れておく?」
「そうだね、バッグの中は時間が止まっているから餓死することもないよ」
本当はシホさんには悪いと思っている。なんか誘拐犯になったような気持ちになりそうでさ。……だが許せシホさん元気になったら大きなおにぎりどーんとあげるからさ!
そうして私はシホさんを吸い込むようにバッグへと仕舞う。
「……後はシホさんの故郷に行って、容態を見てもらうだけですね」
「そうだね」
「……聞けばその剣練の里は山岳地帯にあるみたいで、山々を越えないとダメらしいです」
「え、まじ?」
なんかまた面倒くさそう。
道中またクソモンスターに出会わないか心配。祈祷力試されるゲームですかコレ?
「そんなまずい顔しないで愛理。シホがいなくてもあなたがいるじゃない」
「ま、まあね。でも油断禁物だぞ。死亡フラグ立てて棺桶に入ったりしたら承知しねえからな?」
「しないって!! 心外ねぇ」
「……さぁみなさん今日は明日に備えてちゃんと食事をとりますよ。あ、シホさんがいないので今日は久々にギルドメシを食べに行きましょうか」
「そうだね、食材もそこを尽きていることだし今日は大人しくギルドでメシにするか」
こうして私達は。
その日はしっかりとメシを取り、明日シホさんの故郷である剣練の里を目指してぐっすりと体を休めるのだった。