109話 うさぎさんの戦士危険な賭けに出る その3
【暫く登場皆無かもしれませんが待っていてくださいね】
周囲一帯から地響きが。
風は荒々しく揺れ踊り、木々がその引力によってなびきます。
未確認モンスターである敵を発動した自前の能力を駆使し、一瞬にして距離を詰めます。
「……!?」
「はぁッ!!」
隙を突いて背後へ回り、愛用の剣を力一杯振り下ろすと敵は地面へ急降下。激しい土煙と共に大きな音が反響します。絶え間なく私は瞬間移動し、再び距離を詰め空へ突き上げるように敵を放り上げました。
「ついてこれますか? この速度に」
シュッシュッシュッ!
自分でも今どれぐらい速くなっているのか、検討もつきません。体を意思で動かした時には敵の目の前に移動するくらいの速さで今動いていますから。そのまま飛んでいく敵を追いかけては切り裂きまた飛んでは斬り裂くの繰り返しで、敵は為す術なしといった感じでした。
私の発動したこの力によって、痛感は無効、空中浮遊効果の付与、そして身体能力を極限まで引き上げています。……その倍率はというと、大体100倍です。
今の私は空腹さえ感じることもないので、途中倒れることはありません、そのせいか敵の動きが止まって見えたり、非常に鈍足に見えたりします。目も昼間と同じくらいに鮮明に見えるので暗さは気になることないです。
単なる錯覚かもしれませんが、これなら私の本来の力を発揮できるのです。
負けまいと、敵は銃で応戦しますがそれを軽々と受け流し、斬撃を入れます。……片手の拳を前に突き出して、堪えようとしますが敵の体に若干の亀裂が広がりかけているのが見えました。……隙を突いて得意の剣術を振るい。
「はぁあああああああああ!」
嵐のように迫る刃の波が敵の体に傷を次々と作っていき、気がつけばボロボロに。一撃一撃が重い斬撃が何発も斬りかかっているのですから、食らえばただではすまないです。並の人間ならば一瞬で体が切断されるくらいの威力です。
使っている自分が言うのもあれですけど、やり過ぎな大技感が否めませんねこれは。
「どうしたんですか? ……まさかそれでもうおわりだなんていいませんよね?」
「…………!」
すると敵は自分自ら、今にも千切れそうになっている不要な腕を引きちぎり、欠損した部分から腕を再生させました。
ほうなるほど。どうりで愛理さんが苦戦するはずです。……愛理さんの使ったあの力は制限時間はあるようですが、その分強大な力を得ることができるみたいです。私の力にそっくりではありますが、相違点をあげるとすれば、制限時間でしょうか。……ないんですよこの脅精の変異力には。
その分頻繁に使い続けると高い代償が体にあらわれて来るので、単なる欠点無しの最強技では断じてありません。
再生を完了させると、拳で私に向かって殴りかかってきます。片手の平でその手を力強く、今でも握り潰されてしまうのではないかと思わん強さで握りしめ――。
ギィィィィィィィィィィッ!
「…………ゥ!?」
「便利ですねその再生能力そうこなくては。ですが、力は全然私に及ばずと言った感じですが見せ物程度ですかその能力は?」
苦しそうに悶え苦しむ敵は、なんとか反撃しようとしますが攻撃は残像に命中してしまい私の姿はそこから消えます。
感触も全て再現可能です。言わば先ほど敵が攻撃した私は分身みたいなものですね。……揺動している感じが見てとれます。
周囲を見渡しながら真下に待機する私を探します。……その隙に私は剣に力を込めて。
「エクスターミネーション!」
光を纏った私の剣から放たれる巨大斬撃3発は敵に見事命中し光に飲まれます。空中で戦っているので、地形はそこまで気にならないので、存分に撃てます。
普段は1発撃つだけでも大変なのですが、この力を併用することによって、瞬時で溜めが完了し連発でそれを何発も放てる技へと変貌します。
地面に降りると、両腕を失った敵の姿が。私の足にも及ばなかった敵ですが今の私には妥協の妥の字もありませんでしたなぜなら。
「愛理さんを痛めつけようとしたその罰は重いですよ。……この一撃は私の怒りが籠もった一撃です!」
のそのそと歩く敵。……私が今怒りを感じているのは、愛理さんそっくりな格好もそうですがそれよりも倒れている彼女を一方的に攻撃しようとしていたことです。……それが一番許せませんでした。
だから私はやむを得ずこの力を使い。一方的に敵をねじ伏せ、痛めつけ格の差を思い知らせる強さを誇るこの力で押し切ろうと自分の中で細やかな覚悟を心で決心しました。
あとのことは仲間が……愛理さん達が必ずやってくれる……そう信じて。
空に振りかざすように剣を手に振り上げて、極限まで剣に力を溜め広大な大剣を生成し無謀に襲いかかってくる敵に対して私は振り下ろし。
「100倍エクスターミネーション!」
いつも以上に炸裂する巨大斬撃。避ける間も与えず、一直線に特攻する攻撃は数秒経たない内に敵を飲み込み空高く光の柱を作りながら姿を消しました。
☾ ☾ ☾
「し……シホ?」
後ろからミヤリーさんの声が聞こえてきます。追うようにスーさんが必死に私の名を呼び続け。振り向こうとしましたが、その力は私には一切残されておらず、そのまま倒れ。
バタン。
倒れる私を仲間が起こし、心配そうな顔つきで私を揺さぶりながら問いかけます。
意識がはっきりしているのか区別の付かない状況ですが、耳を必死に傾けました。その顔は今でも大粒の涙が零れるのではないかと悲しそうな表情で。なんだか心の底が痛むようなそんな感じがしました。
「シホ……!? シホ? ねぇ大丈夫!?」
「……動きが全く見えませんでしたが大丈夫ですか? とても疲れてそうな顔ですよ」
「愛……理さんは?」
そう言うとスーさんは担いでいる愛理さんを私に見せてきました。……どうやら彼女は無事なようです。
よかった。これなら安心して気絶できますね。……次愛理さんが目覚める頃に少しビックリされるかもしれないですけど、だんだん意識が遠くなって。
朦朧する中私は、必死でミヤリーさんの袖を掴んで小さな声で言いました。
「…………お二人共後のことは頼みます。……愛理さん凄く心配するかもですがよろしくです」
「当たり前よ。必ずあなたを助けてみせるから、後のことは任せてちょうだい」
「……そのシホさん。死ぬわけではありませんがしばしの休息を」
「……そうさせてもらいますね。うっ」
満足げに言い切った私は仲間の言葉を聞いて安心すると、そのまま深い眠りに落ちるのでした。
愛理さんごめんなさいでも頑張ってください。目覚めた……そのときにはまたみなさんで楽しく冒険しましょうね。