102話 うさぎさん達、危険なクエストに向かう その1
【ゲームにおけるゲリラの時間帯は戦場である】
気を取り直して翌日。
だいぶ疲れが引いた私達はいつも通りギルドに赴いて、丁度いいクエストを探す。
そんなにまだランクは高くないので、行ける範囲はそこまで広くはないがやらないと生きていけぬ。
「げ、留守にしている間にこんなに増えてやがる」
クエスト表の貼ってある掲示板を見ると、行く前とは比較にならないくらい増えており目の前で冒険者達は獲物に食いつくハイエナのように群集を作っていた。……遠巻きに見るだけでもこちらとしてはキツいんだが。背の高い冒険者が多く何があるか正確に確認することも一苦労。いや困ったなあ。ドローンとか使えたら多少は分かるんだけど、異世界だしそれはなしで。
あ、そうだ唐突。
「シホさん悪い。ちょいと何のクエストがあるか見てくれない? ……私の背丈じゃ見えないからさ」
後ろに控えているミヤリーとスーちゃんも私との身長差は1~5センチほど変わらない低い。……なのでここはうちのメンバーで一番背の高い彼女にお願いすることにした。
すると気前がいいように。
「あ、いいですよ。取ってきますね丁度いいものを」
と言い残して群がる冒険者の渦に入っていく。身を飲まれながらも華奢な体付きを効率よく使い、前へと前進していく。目前に到着した彼女はキョロキョロと掲示板を一瞥し丁度いいクエストの紙を探す。
「……大丈夫でしょうかシホさん」
「問題……ないとおもうわ。一瞬の隙も見逃さない彼女ですもの。あんなの朝飯前よ」
と言ってももうすぐお昼なんですが。(現在正午前)
支度やら色々していたら出るの遅くなってギルドについた時には11時前くらいだった。
旅行のだらけなんかね。心底では未だに旅行気分のパラダイスが行われているかもしれない。これは諸君私の言い訳として捉えて構わない。非常にくだらない愛理さんの言い訳だからね。
「できればハード過ぎるクエストは控えたいんだけど……お、シホさんが帰ってきた」
本の数分。
シホさんがたったと小歩で帰ってきた。手元には…………なにもない。
あれ、また私達タイミングの悪いときに来ちゃったわけ?
「すみません、一応探しはしたんですけどどこもランクが高いところばかりで」
「いやまじか。……というかこの流れ前もあった気がするんだけど気のせいですかね!?」
「愛理、そいういうのをデジャブって言うのよ。きっとあなたには予知能力があるのよきっと」
「私は導かれた勇者でもないし、悪を滅ぼす正義の味方でもない。んな勇者の補正能力私にはかかってないんだよ!!」
横にいるミヤリーに言い返す。
この前のゲームやりすぎたせいでミヤリーおかしくなったんじゃないの? ほらゲームするとき必ず出ているでしょ。"ゲームは1日1時間"だとか。小まめの休憩は忘れたらだめだって。
「そんなことより、ないならしゃーない奥の手を使うとしよう」
このように行き詰まっているときの手段はただ1つ。
☾ ☾ ☾
「で、愛理さんまたですか?」
いつものお姉さんのところにやってきた。
今にもあくびを漏らしそうな素振りをしていたので真っ先に駆け込んだところ。私がいきなり挨拶すると一瞬瞠目した様子をみせたが。
「またとは失礼な。とりまなんかクエストない? どうもランクがSばかりのものばかりが多くてね」
因みに私達のランクは。
私がA、シホさんがB、スーちゃんがA+、ミヤリーがF。(転職の副作用のせいか一気に下がった)
一番低すぎるミヤリーは放っておいて、どれもS物ばかりで訪れ先もそれに因んだ場所ばかりであった。なんかこうハードルが高すぎるなって自分でも思うよこの世界。やはり現実ってつらひ。
「すみませんね。あ……そういえば」
「ん? なんかあるの?」
「ちょっとランク設定もない、高難易度クエストがあるんですがどうですか?」
手渡されたのは星が多く描かれた高難易度クエストだった。
エリアにランク指定もなく、誰でも受注できるクエストっぽかった。
……内容は、いわゆる調査系のクエスト。記録にない謎の生物が遠くの森辺りでいるらしいとのことだが、それの調査に当たって欲しいとのこと。
そのエリアは強いモンスターがたくさんいるらしいが、報酬はその分高かった。
「どうします? 未確認のモンスターを調査することになるので危険はつきものです。あ、でも決して倒さないといけない相手ではないのでそれだけ理解してもらえると助かります。ある程度戦って報告してもらえればいいですので」
要はデータ収集かよ。
でも他にクエストはなかったので仕方なしに。
「是非とも受けさせてください」
さっと。私はお願いするように言い、クエストを受けることに。
非常に敗北感のあることだが仕方あるまい。
そして善は急げということで今宵に出発し、目的の場所へ向かい調査を開始するのであった。
☾ ☾ ☾
街から遙か離れた森にて、薄暗い夜道を歩く。
物音ひとつひとつが恐ろしく感じてしまい、日中とは違った雰囲気を醸し出す。
ボルト・ラビットパーカーって辺りを照らしているがそれでもなんか怖い。まだモンスターに遭遇してはいないがどうしよういきなり奇襲とかは勘弁。
「ね、みんな怖くないの? 一応ご飯は済ませて出かけたけどさこんなに暗いとか聞いてないよ」
「……ここのブラックフォレストという森は1パーティが最悪はぐれ離ればなれになったという怖いお話が。実話かは不明ですがそれぐらい冒険者との間では怯える存在の森みたいですよ」
実際目の前が黒炭で塗りつぶされたかのように真っ暗で、言ってみれば暗黒空間を彷徨っているような気分だった。
因みに日中もそれなりに暗く、無策で進むのは非常に困難の模様。
「とりあえずさ、愛理今日はちょいと野宿でもしない?」
「い、一時休戦って大事だよねそうしよう」
「まあ愛理さんならなんとかできそうですし、ひとまずそうしましょうか」
気持ちを和らげるが為にひとまず開けた草原に出て休憩を取る私達なのだった。
というかマジで怖い。ホラゲでもやっているような気分だぜ。……がんばろ。
このままなにも立てず野宿するのもあれなので私は1つみんなに提案する。
「少し拠点でも立てない? 暗くて薄気味悪いでしょ」
「そうですね。できれば一晩泊まれる場所が欲しいです。愛理さんそういうことができるんですか」
一同に頷いて賛成。
了承を得た上でそれに取りかかろうとする。
なあにこういう場所にだったら立てる物は一点に絞られる。そのためのこの能力である。
「私の力があればちょちょいだよ」
呆然とする3人は私をまじまじと見つめ始める。ちょいとそんなに見つめないでもらえますかね。
集中がちょい途切れそうな気がして。
まあそれはさておき、頭の中である物をイメージする。
するとでかめな三角形をした物体がポンっと出現。再現できているかはわからないけど大体店(元の世界)で売られていた物と大体一緒。
布でできたその物体が出現するとシホさん達は初見な顔つきをし「おぉ」と声を揃えて言う。
ほらよくキャンプとかで使うあれだよ。
「テントって言うんだよこれ」
「……テント? 興味深いものですねこの三角な物体が一体どんな役割を担うんですか?」
「あれよ、きっと空を飛べるのよ。きっとあの入り口は操縦する場所かなにかよ」
それ某アニメのOPで流れていたぞ。……言っておくけど飛ばないからね? そんなSFの世界じゃないんだからテントからミサイルも出やしない。
「いやそんな装置ないから。ここを開けて……」
テントの入り口にあるチャックを見開いて中に入る。そしてボルト・ラビットパーカーの力を使ってランタン代わりにテント内を明るく照らす。中は私達4人が窮屈しない程度の範囲。うんこれなら寝ているときに誰かに蹴られる心配もない。
「へぇ凄い物があるのね」
「私も初めて見ましたよ、普通なら木やらなにやら集めて拠点を作ったりしますけど」
「……シホさんってそういう経験あるんですか?」
「えぇ当然です。父と姉で昔獲物狩りに森に行ったことありまして、1週間くらいは家に帰らなかった気がします」
「それすげえ過酷じゃない? 私だったら3日でバテられるよ」
シホさんの一家は一体どんな家系なのだろうと彼女の口が開かれる度に思う事柄である。
1週間か、それもう遠出と言っても問題ないレベルじゃない?
……この一家怖すぎやしないか。
「とりあえず、夜明けになる時間までにここで休息をとって引き続き明日のクエストに備えよ」
「賛成です。食事は愛理さんが仕舞っているんでしたねそれをみんなで分配して食べましょう」
「腐ってないわよね大丈夫よね?」
「……せめて食べ物くらい美味しい物がいいのですが」
「いやそんなことねーよ。ちゃっちゃと準備するから待ってろ」
暗黒漂う森の空間に、1つだけ光が灯る私のテント。
探索は始まったばかりだがひとまずここにいれば安心。明日の調査に備えてしばしこのテントで時間を費やすのであった。