番外編 うさぎさん、仮想空間に入る? その2
【チュートリアルはゲームの基本中の基本なんじゃね】
仮想空間へとやってきた私達。
狂政の頼みでテストプレイをする羽目になったのだが、思いのほかゲーム内はドットで構成された世界であった。
誰にも見えるメッセージウインドウやら、人の体がドット化するなど摩訶不思議な要素がてんこ盛り。
おまけにメッセージは漢字も使えず濁点等は独立した文字として使うのでぱっと見だと見えづらく思える。
まあそんなこんなでドット化した世界にて私は開始早々、シホさんを見つけ仲間にしたわけだが、他の仲間の姿が見当たらない。
するとそこから狂政の声が聞こえてきて、ゲーム内の説明をしてくる。
「ふむ、シホくんもいっしょなのた゛なよかった」
「きゅうにからた゛か゛ヘンなふうになりますし、このあいりさんのいうメッセーシ゛ウイント゛ウか゛よくわからす゛こまっていましたよ」
ありゃりゃ。自分ながらに頑張ったんだね。どれくらいの時差なのかは知らないけど、相当悩んでいる様な感じ。顔がドット化しているので表情が分かりづらいが、声でなんとなく察しがつく。
「て゛はせつめいするとしよう。このせかいはファンタシ゛ーかんあふれるものとなっている。しゅういに5かしょほと゛まちやたてものか゛ある。おそらくほかのなかまはちか゛うは゛しょには゛らけていることた゛ろうな」
まぁそうなるか。
じゃあここにいない仲間は全員どこかでゲームをさまよっているということに。大丈夫かな即死モンスターエンカウントとかして無限教会送りにされたりは。
「エリアないのさいしんふ゛のやまにすんて゛いるホ゛スをたおせは゛クリアた゛。た゛か゛はやまるなよ。むりやりいこうとしてもつうこうと゛めのNPCをはいちしてるからな。それそ゛れのまちのいっけんをかたつ゛けるとみちがひらかれるようせっけいされている」
狂政こいつやりよる。
なるほど5か所ね。
すり抜けなどの妨害措置としてそういうプログラムにしているか知らないが、セキュリティは万全ってことか。謎のチートバグ殺し誰得。
とりあえず近くにある村にでも行こうとするかな。
するとメッセージウインドウが出てくる。
「? なんかて゛てきましたよ」
「はひ?」
▷はい
いいえ
【もういちと゛ききますか】
まさかのここでRPGの定番選択肢が出てきた! いや十分聞いたしここは。
「はいといいえ? ならここははいを」
「おいシホさん!? したのメッセーシ゛ちゃんとよくよんた゛!?」
「え……? …………あ、これふくしょうになるんですねすみません」
私が考えている間にシホさんがはいを不意に押してしまう。
当然これを押せば。
「し゛ぁあもういちと゛……このケ゛ームは……」
それから再び狂政の説明を再びきく羽目となり、歩き出すのに数十分はかかった。
「ちなみにせんたくしきのうもあるから、ききのか゛して゛もしたらはいとえらふ゛か゛いい。わたしか゛それにおうし゛てうけこたえしようし゛ゃないか」
え、あれあわせてたの!? プログラムでやっていたとかそういうのではなくガチ? 周りの空気というやつに肖って自ら一芝居打っているとかそんな感じかね。ま、まあ悪くはないと思うけど口疲れないの? 普段あんなに饒舌に喋るくらいだからどうってことないから心配なしか。
「そ、それし゛ゃシホさんちかくにあるむらにて゛もいこうか」
「は、はい。それて゛と゛ちらにいけばいいて゛しょう?」
【コマンド?】
▷きた
にし ひがし
みなみ
「た゛いし゛ょうふ゛た゛、シホくんにはこのせんたくしはみえてない。すきなほうこうをえらんて゛すすむか゛いい」
いやそういう問題じゃねええだろ! ところどころ似すギィ! どこまで再現されているんだこのゲームは。細かいところまでせんでいいからうーんととりあえず西で。
「し゛ゃあにしにいこう。ええとむらのなまえは」
「サホ゛ッタむらだ」
「よしそのサホ゛ッタむらにいこう」
明らかにやる気がなさそうな、変な名前に聞こえるけど大丈夫? 村到着したら村人が全員ゾンビの餌食になってたりはしないよね?
\~♪/
バックで流れる8ビットの音源が流れる中、私とシホさんは平地を踏みしめる。ゲーム内なのか疲労感は全く感じずスムーズに行ける。
正面しかない立ち絵で、デフォルメされた小さな岩山をまたがりシホさんと共に前へと進む。3Dのように立体的ではないのであっさりと通り抜けられるぬるい仕様だ。
すると急に画面が真っ黒となり点滅。
トゥルルルルル。
【スライムAがあらわれた】
【スライムBがあらわれた】
【スライムCがあらわれた】
モンスターとエンカウントし、3匹のモンスターと立ち合う。画面は真っ暗だが眼前にはドット化したスライムが3匹が姿を現した。
そういえばエンカウント仕様とか言っていたな。
「なんかはし゛まりましたけと゛ スライムて゛すかね。あれうこ゛けない」
「エンカウントた゛な。コマント゛のそうさはおのおのし゛ゆうにて゛きるそ゛」
「んし゛ゃのうりょくちみようかな」
あいり LV1
HP500
ま 250
シホ LV1
HP 700
ま 45
「ちなみにけ゛んし゛つののうりょくちによってここのステータスか゛きまる」
「なるほと゛です。そのコマント゛そうさはよくわかりませんか゛、さいしょはあいりさんみたいて゛すよ?」
ふむ、リアルの能力値によって初期ステータスが決まるのか面白い。1レベでHP500とかぶっ飛んだステータスしているけど現実のステータス値が高いのでしゃーなし。まあ私よりHPが高いシホさんのHPの量が尋常じゃないのは少し敗北感を感じるが。
コマンドを見る。
たたかう
わさ゛
と゛うく゛
まほう
にけ゛る
うん、至って普通だな。
さてじゃあ技でも見てみようか。
一覧は5つほど。
ふ゛んなく゛る(しょうひ0 てきにた゛いタ゛メーシ゛をあたえる)
もんくをいう(しょうひ0 いっていかくりつであいてか゛こうと゛うふのうにする)
クソか゛ぁ!!(け゛んこついっは゜つ)
テ゛ィする(いっていかくりつて゛モンスターか゛そくしする)
あおる(てきをちょうはつして、し゛ふ゛んにちゅうもくをあつめる)
なにこれぇ。
しょうもねえものばっかやん。技や魔法も現実の物に準ずるものになっているのか? というかまともな技名がありゃしねえ。ひとつくらいかっこいい技用意してもよかったのに。
とりあえず、スライムAをぶんなぐるか。
【あいりはふ゛んなく゛るをつかった! スライムAに1ちょうまんホ゜イントのタ゛メーシ゛! スライムAをたおした!】
は?
見間違えか、はたまた目がぼやけて幻でも見ているんじゃあないかと疑わしい桁だった。いやいや基準どうなっているのさ、初期キャラが出していい数値じゃねえよ。
火力がばがばやん。1兆万ポイントとか小学生じゃあるまいしゲームでもなんでもありか!
おっと次はシホさんの番か。よし私が教えながら予行練習するとしよう。
「ええと」
たたかう
わさ゛
と゛うく゛
まほう
▷にけ゛る
あ、ちょシホさん!?
「あれ、これをこうおせは゛いいんですよね? こうけ゛きを………………あ、にけ゛るをおしちゃいました」
音痴なせいか攻撃を押すはずが、なぜか逃げるのコマンドを押してしまうシホさん。
すると【しかしまわりにかこまれてしまった!】という一文が。
はぁなにやってんのさ。
ズシンズシンというスライム2匹からの猛攻が彼女を押し寄せる。
【スライムBのこうけ゛き! シホは1タ゛メーシ゛をうけた!】
【スライムCのこうけ゛き! シホはよけた。……カウンターこうけ゛き! スライムCに99999999999999ダメージ! クリティカル!】
へぇカウンター攻撃できるんだ……ってそうじゃない! 数値がおかしすぎだって。こ、これがカンスト数値なのか? にしても火力が高すぎな気がする。
あれか、クリティカル出たら防御無視して高い数値を叩き込めるとかそんな感じ? あほかゲームのバランスおかしすぎ。
「し、シホさんこうけ゛きりょくたかすき゛じゃね」
「え、いまのて゛たおしちゃったんて゛すか?」
なにどこかの俺TUEEEEキャラが最初吐くようなことを言い出すか。
当の本人は倒したという自覚はなく、呆然とした声を放っていた。
目撃した私から言わせてもらうと、目ん玉が飛び出そうなくらい数値がおかしかった。自重しろダメージ計算少し立て直そうか。
そして次私の番が回ってきて。
「わさ゛をつかうまくし゛ゃあない。ここはストレートにハ°ンチた゛!」
たたかうのコマンドを押して普通に攻撃。
【スライムBは4せんおくタ゛メーシ゛! スライムBはたおれた】
だから基準。
というか数字か漢字での表記どちらの表記にするかメリハリつけとけや。責めてこれぐらいは統一感だそうよ。
うぃいいいん。
戦闘終了後の音源。
【スライムたちをやっつけた なかませ゛んいんにけいけんち1ポイントかくとく】
「あっさりおわりましたね」
「シホさんはたた゛のまく゛れだよねあれは」
「ちなみにシホくんのカウンターはっせいりつはなんときょういの99ハ゜ーセントだ。と゛うた゛すこ゛いた゛ろ?」
「「すけ゛えええええええええと゛ろのレへ゛ルし゛ゃねええええええ こんなんし゛ゃた゛いまおうた゛ってと゛んひ゛きレヘ゛ルた゛よ‼」」
ゲーム内にも関わらず、メッセージウィンドウいっぱいの私の大声メッセージがそこに連なるように表示されていた。
なんだろうこのクソゲー感は。
文句を心の中で垂らしながらも、第一村であるサボッタ村へと進むのだった。一歩一歩が遠く感じるのは私だけだろうか。