100話 うさぎさん達、色々ありましたが帰ります
【修学旅行の最終日って思い残したことないか不安になったことってない?】
スパム団の一件のあと。
無事グリモアへと帰った私達は、即座にギルドに報告。集団自体は逃がしたもののクエストで支払われる報酬がそれぞれ支払われた。
スーちゃんが言っていた通り、ギルドを仕切っていたのは、グリモア協会の人達だった。昨夜見かけた服装に既視感を持ち把握。
報告に伺うと、スーちゃん達が事の顛末を説明してくれた。……すんなり首を縦に振り頷いてくれると、顔を綻ばせ軽く私に握手。「とても助かりました」と感謝の言葉を述べられたがここは素直に聞き入れる。
と言ってもほんの一部くらいの半分の報酬。アンコちゃんによれば本来だと倍以上のものがもらえるはずだったらしいが、これでも十分多い方だ。半信半疑でグリモアの賃金は高い認識をしていたが舐めていた。明らかにリーベルの倍をいく報酬金額。なにこのふんだんにも及ぶ硬貨の数は。
グリモアのギルド内にあるテーブル。
ギルドの中はというとリーベルとそんなに変わらない。
装飾品が違うだけで内装はほぼ一緒。相違点をあげるとなればやはり魔法使いが多い。高級そうなローブを身に纏った人もいれば、安っぽいそれこそゲームでよくいそうな魔法使いの初期装備を携えた人達が雑踏を作りながら。
少々帰った後ギルドで冒険者達に囲まれたが、まあ大変だった。……インタビュー記者の質問ラッシュみたいなあんな感じ。
難を潜り抜けた私達は、報酬額を凝視しながら反省会。
「これで1割なの?」
「はいそうですよ。信じられねえかもですが、これで本来の1割の額に当たる報酬金です」
「……とても多いですね。それほどギルド内では目を付けられていた連中なのですか?」
「えぇそうです。なんでもムゲンダイセキの偽造及び販売は立派な犯罪ですからね、手を付けた瞬間誰であろうと立派な悪党ですよ」
なにそれこわ。
じゃあ私が生み出す力であれ作ったとしたら犯罪者確定かよ。やはり正規のルートで入手するほうが無難か。
私はどちらかというとチートはいざという時の手であって、頻繁に使用するやからではない。
え、変わんねえだろうって? 細かいことはいいの。
というか今はお疲れモード。みんなは平然と顔を上げているけど、私は机に顔を伏しているが外野の喧噪はうるさく止めどない様子。
「あの愛理さん、帰ってからずっと机に顔付けていますけどとても疲れているんですか? ……リーシエさんも待っていることですし、報酬金を分けてから帰りましょうか」
「いやシホさんそれはいいですよ、私1人じゃ到底できなかったことですし……私は雀の涙程度でいいですからあとは愛理さん達の分にして構いませんよ」
「……アンコさん、アンコさんがいなかったら今頃愛理さんはピンチだったのでは? ……あなたのお陰でもあるのでそこは気にする必要ないと思いますよ」
やっぱスーちゃんって誰に対しても優しいなぁ。
……と考えていると背中からとても力強い引力に押される。
もしや。
「愛理さん! もうちょっとですから、頑張っておきましょうよ! ほらリーシエさんの美味しい手料理が待っていますよ!」
「あいたたたたたたたたた!! し、シホさん! 分かったから、分かったから力強く私を起こすのはやめて愛理さん壊れちゃうから!」
「愛理さんはその……頑丈なので大丈夫なのでは?」
一応断っておくけど、なぜか彼女の力にはこのパーカーの力を持ってしてもすげえ痛むんだよな。どんな力量があるかしらないけどマジでやめて。
でもこのままずっとギルドに浸るのもリーシエさんに悪いし、そろそろ起き上がろう。
私は精一杯の力を込めて起床。
「……はぁ分かったよ。やればいいんでしょやれば」
呆れつつ頭を掻きながら、率先して前を歩く。
本当は睡魔の方が勝っているので、多少体がふらふらするが少しの辛抱。
あぁクエスト後ってなんでこうも疲れるのだろう…………って当たり前か人間なんだし。
「……おぉやっと起きてくれましたか。……って待って下さいよ愛理さんま、迷子は嫌ですよぉ」
「スーちゃんは相変わらずじゃねえですか。まだ夜道歩くのがこわいんですか?」
「え、スーちゃんってそんな一面あったの以外だわ」
ミヤリーそれ私が言おうとしたセリフ。勝手にとりやがってこのやろう。まあいいや今はそんなことよりも疲労感が非常にやばいのでここはミヤリーに全てを譲ることにする。
でもいままでそんな夜道が怖いってこと私に言っていなかったけどミヤリーが言うように意外な一面あったんだな。まあだがスーちゃんはそこがいい。
「いいからさみんな行こうよ、リーシエさんが待っているし。あ、行かないなら私が全部食べる」
無理して私は少しみんなを揶揄ってみせる。
疾走するがごとく、身構えようとするが私の方に一斉口を揃え。
「「ダメです!!」」
「ダメ!」
と反対する意見が飛んできた。
どうやら私と同じくみんなも腹が減っている模様。
独り占めってやはりよくありませんよね、はい知っていました。ジョークだってだからその真顔やめてくれ。
凝視。すげぇ目を凝らしていらっしゃる。
「だ、だったらさ、はよ行こうよ。あ、そうだアンコちゃんも一緒にどうよ? ……お母さんやお父さんにもし食べるんだったら今のうちに言っておきな」
「え、え、わ、私ですか? ……私の親は全然フリーな人で大丈夫なんですがみんなと食べるのはちょっと……」
あぁ結構シャイな感じなのアンコちゃん。スーちゃんがちょいツンデレ成分があると言っていたからあながち嘘ではなかったのか。少々憚る様子を見せる彼女は指先同士をくっつけ合いながらツンツンと。恥ずかしいんだねわかるよ。
「大丈夫ですよアンコさん、それに私もアンコさんと一緒に食べたいですから……さっさ行きましょ行きましょ」
「ちょっちょ! 押すな! 押さねえでくださいシホさん! ぐ、ぐおおおおおおおおぉ」
意外それは不可抗力。
アンコちゃんは彼女の馬鹿力になすすべもなく押され連れて行かれる。
そのまま数分。歩きながら色んなことをみんなで話しながらスーちゃんの家へと向かい。
「……ほんと愛理さんは凄いんですよ。いろんな服の色に変身するのですが、どれも強力なものばかりで、どれも驚くものばかりなんです」
「そうなんですか。あの服やはりなにかあるんですね。で、愛理さんその強さの秘訣は一体なんですか」
しらんがな!
一文でどう説明しろと言うんだよ。だからまだ分からないことだらけだから説明のしようがないんだよ自重しろ!
するとシホさんが代わりに説明してくれる。はいいつもの。
「あぁ本人いわく、あの服には特殊な力がいくつも眠っているんだとか。でもその大まかなことは分からないみたいなのですが」
「ふむ。まだわからないそんな力を使いながら冒険者をやっているとは……ますます興味が湧きましたよ。……よくわかりませんがとりあえずはとんでもパワーが眠っていると理解しましたよ。因みにそれいくらです?(袋の硬貨を漁りながら)」
「いやこれ非売品だから……う、売らないよ悪いけど」
漁るのを止め私の方を見上げ呆然とした顔で答えて。
「あ、そうなんですね。どこにでも売られている物かと勝手に思ったじゃねえですか」
大雑把すぎだなおい!
シホさんがちょいと困り果てた様子で「あぁそれちょっと違いますけどま、いっか」みたいな顔しているけど喋らせてあげて頼むから。
このパーカー売り物じゃあないということを彼女にきっぱり言うと寂しい顔で嘆息をつく。え、欲しかったの私のパーカー。
私は後ろから私の方に歩いてくるみんなに横目を送り。
「な、なによ愛理。……ちょっとあんたやばいんじゃない? 凄く疲れ果てた顔してるわよ」
「そうだよ。今愛理さんはひじょーに空腹に飢えているんだ」
「あぁなるほどね。ならそれなら急ぎ足ね。わかったからその死んだような顔で歩くのはやめなさいよ“死んだゾンビみたいな顔”って思われて魔法でも打たれたらどうするの」
「だーれがゾンビじゃい! 分かったおめえら置いていくわ!」
「あ、愛理さん分かりましたから、そんなちょっと小走りで私達を置いていこうとしないでくださいよ」
少し憂さ晴らしにわたしは悪戯で小走りでみんなを置いて行こうとしたが、勘の鋭いシホさんに先読みされて止められる。
ちぇ。うまくいくと思っていたのに。
そして夜のグリモアの道を進みながらスーちゃんの家へ帰宅し。
☾ ☾ ☾
「へえ大変だったのねえ」
「……えぇにしても逃がしてしまったのが少々悔いですよ」
「まあそれはそれとして、アンコちゃんよくうちに来たわね。スーちゃんも顔にはだしてないけど喜んでいるわよ」
スーちゃんの家へと帰ると、リーシエさんが出迎えてくれた。
妹であるイルシィちゃんと父親は眠いせいかもう寝てしまったらしい。こんな時間に食べちゃって大丈夫なのか?
時間はちょっと深夜が始まったくらいの時間帯。
帰った頃にはもうよるほーを向かえていたから、もう睡魔が臨界点を超えていた。
当たり前のようにリーシエさんは、魔法を使い何1つなかった食卓に豪華な食事を並べ一瞬で準備を整えた。
だからどこから沸いているのさその食事。
大人の事情が関与しているのなら易々触るのはよした方がいい感じかな。
「あのすんません。帰るの遅くなって」
「いいのよ。それに帰って久々のクエストだったのでしょう? なら仕方ないわ」
「……お母さん」
「スーちゃんっていいわね。こんな美人なお母さんがいるなんて」
「ミヤリーちゃん、恥ずかしいわそんなこと言うなんて……こう見えても私の年齢は……」
とその先リーシエさんが年齢を晒そうとした時、唐突にスーちゃんが大声で。
「わああああああああああああああああ! ……お、お母さん! ダメですよそういうの言っては」
「あらそう? 私は歳なんて気にしないんだけど……言ってなかったっけ」
なぜ年齢を言うのをスーちゃんが拒んだのかはしらないが、あれか見た目に似合わず結構歳取ってたりするのかなリーシエさんは。よく見た目がかわいい人を『永遠の〇〇歳』とか比喩するがその部類かな。
まああれですよね、世の中知らない方がいいことってあるよね激しく同意。
「それでみなさん、明日帰るんですよね」
「ええそうです、愛理はもうちょっとここに留まりたいって言っているみたいですけど」
「おいミヤリー私がいつそんな事言った?」
こいつ明日のことを話しているというのに、私が口にもしてないことを言うとかイミフ。
向かえに座るアンコちゃんが真正面にいるスーちゃんをまじまじと見て。
「そうなんですね。明日でまた離ればなれですね」
「……」
「私いつもスーちゃんに正直になれないから、あんな振る舞いしちまいますけど……あはは」
「……アンコさん」
何か言いづらそうなアンコちゃんに対して、スーちゃんは彼女の手を小さな両手で掴む。その生暖かそうな手で彼女の手を掴むと少し綻ばせた顔して囁く。
「スーちゃん? どうしたんですか」
「アンコさん、離ればなれになっても私達はいつでも繋がっていますよ。それにもう会えないわけではないでしょう? ……また機会があったら来ますよ」
アンコちゃんは少し喜ばしい顔をすると、彼女もスーちゃんの手を優しく掴んで。
「あ、当たり前じゃねえですか。スーちゃんは私の最高のライバルですから…………次会うまで精々技を磨き上げておくことですね!」
少し傲然としてはいるが、ふたりのやりとりは仲睦まじい様子だった。
私はこういう経験全くないから少し羨ましい気持ちにもなり。
と、隣に座るシホさんが私のことを気にしたのか、小声で話しかけてくる。
「どうしたんですか。なんか羨む顔をしていますけど大丈夫ですか?」
「ありがとう……。ちょっとね。友達っていいなあって」
「愛理さんって戦いは得意ですけど、こういうのはあまり経験ないんですね」
「ぐぬぬ。そう言われると頭があがらないよ」
実のことを言うと戦闘経験は豊富ではないけどね。
でもシホさんがこうやって心遣いしてくれる振る舞いは、街中を歩く親切で優しいお姉さんみたいな感じ。私には一生疎遠的な存在だったけど叶ってこちらとしては嬉しい限り。
「うふふ。では私達は少し席外すとしますか。……リーシエさん私達先に上がりますね。さ、ミヤリーさん行きますよ」
「ええ、分かったわ。スーちゃんあまり遅くならないでね」
珍しくうるさく騒がないミヤリーに少し違和感を覚えるが、ここは2人のことを考えてあえて気をつかったのかも。
まったくいつもはああやってぎゃーぎゃー騒ぐのにさ、どうしてこういうときに限って大人しくなるのか……まぁいいけどさ。
「あら、そう分かったわおやすみなさい。スーちゃん事が済んだら電気消すのよ」
こくりと頷くスーちゃんを見送って私は借り部屋へと入り、夜の挨拶をみんなにしてその日を終えた。
スーちゃんはというと。
そのあと、積もる話を夜遅くまでアンコちゃんと話したあと彼女を見送ったらしい。……スーちゃんが夜更かしって珍しい一面あるんだな。
夜中。
多少意識がある中、ドアが開く音がした。
恐らくスーちゃんが入ってきたのだろう。眠くて目を開ける気にはならないが、なんとなく私には分かる。
スーちゃんは部屋の窓辺へと近づいて夜風に当たると一言呟く。
「……また会いましょうねアンコさん約束ですよ」
少し嬉しそうな口調で喋るスーちゃんの姿がそこにあった。
その別れを惜しむ様子をみながら私は自ずと不思議な気持ちが湧いてきて、彼女の元へ近づこうとせずそっとさせようとその場を去り距離を置く。
(スーちゃん、大切な友達はいつまでも大事にしないとね)
☾ ☾ ☾
【生きていればまた会えるからそんな心配すんな】
翌日。
スーちゃんの一家に見送られながら街中に出た。
家族は私達がに最後の一言を告げて。
「ステシア、お父さん達はいつでもお前を待っているからな。また手紙送れよ」
「お、お姉ちゃん……ぐすん。また帰れたら帰ってきてね、それまでとびっきりの魔法覚えておくから」
少々泣き声になるイルシィちゃんにスーちゃんは彼女の頭に手を乗せ。
「ふふ、期待してますよ。だからそうやってすぐ泣くのはやめなさい。……立派な魔法使いなんかにそれではなれませんよ」
「う、うん」
その拍子にリーシエさんが。
「スーちゃんまた来てねお母さん待っているから。……と出航の時間間に合うかしら?」
「スーさん、少しヤバめかもです」
時間は少しぎりぎりだった。
前日早く起きるようにみんなに言ったはずが、その言った本人……つまり私がうっかり寝坊して時間が遅くなったのだ。はいみなさん学校や仕事で遅刻は重罪よ、ここ重要テストに出るよ。こんな愛理さんみたいなヘマしないようにひとつよろしく。
出航まであと1時間。船場まで2時間はかかりそうだがどうしたものか。
「あぁどうしよう。みんなごめん私が寝坊したせいで」
足を素早く地面に左右踏みつけ余裕をみせない私。時間配分下手なんだよな私、もう少し時間にゆとり持とうぜと自分に言い聞かせ。
「はぁ愛理は。言った本人が寝坊してどうするのよ。……まさかあんた泳いで帰る気?」
「いくら私でもそこまでの体力ねえわ‼」
冗談言うミヤリーにツッコミを入れる。
アクアラビットを使ったとしても、結構時間かかりそうだな。……というか他のみんなどうするの。綱みたいなもので縛るのもなんかかわいそうだし。
そうして私が悩んでいるとリーシエさんが。
「なんなら私が移動魔法でワープさせてもいいわよ。私の移動魔法は最上位種の魔法だから何処にだって移動させられるわよ?」
お、救いの手がここにあった。
ならここでリーベル付近まで一気に移動させてもらうことにしようかな。
「その前に、スーちゃんにこの魔法教えておくわね。……でもこの魔法を教えるからには必ず私達に顔を見せに来てね」
リーシエさんがなにやら魔法陣を作ってスーちゃんに向かって投げると、彼女の体が一瞬にして発光する。
どうやら伝授系の魔法みたいだ。おそらくその上位種の移動魔法を彼女に教えたんだと思う。
今まで使っていたスーちゃんの移動魔法は。初級者が覚える魔法だったらしく正確な移動位置、言ったことのある場所以外に無理に移動しようとすると中途半端な場所に着いてしまう欠点があったがこれはそれが解消されるんだとか。
ならこれで行ったことのない場所でも、空中オチになることはなくなるじゃないか。
スーちゃんのおかんってなんかチート過ぎね。
「……ありがとうございますお母さん。では」
「リーシエさんありがとうございました、また機会があったらきますね」
「愛理さん娘のこと頼みますね。あとみなさんもどうかお元気で」
私達がそれぞれリーシエさんにお礼を言うとスーちゃんは、習ったばかりの魔法を唱え。
「……ハイレポーション!」
一瞬にして、私の視界は真っ白になり地点が移動する。
気がつけば見知らぬ空間におり、下を見ると宙を飛んでいた。
うぅ高いところ苦手なんだよなぁ。高所恐怖症乙だが辛抱、まあ下を見なければいいって言うし前をむこう。
その移動する空間の中。
「……数分かかりますがお待ちください」
「はあなんやかんやであっという間だったわね」
「ミヤリーさん、もう十分楽しめたでしょう……それにまた来れますよ」
「……そうですね、またみんなで行きましょう」
「そんな頻繁に行けるほど私の残高は多くないからな!」
「分かってますよ愛理さん、今度は計画性もちゃんと持って行きましょうね」
そして暫くの沈黙のあと。
私はスーちゃんに声をかけ。
「ねえスーちゃん?」
「? ……なんでしょう」
「明るくて賑やかな家族だねスーちゃんの家って」
「……はい。私の自慢の家族です!」
スーちゃんは普段見せない満足いく顔で楽しそうな笑みで微笑んだ。
やっぱり家族って一番だよな。