99話 うさぎさん達、スパム団のボスしばきます その2
【ゴリ押しはの手加減ってどれぐらいがいいだろうか】
前に立つスパム団のボス。手には何も持っていない。
どうやって戦うつもりかしらないが、肉弾戦なら受けて立とう。
ストロング・パーカーに力を蓄え中腰に。さあかかってこいや。
一同身構えて体制をとり。
「部下のやつらに聞いたが、本当に見た目うさぎなんだな」
「で? 悪い? うさぎだからって舐めていると痛い目にあうよ」
「舐めた口ぶりをぉ」
言っている傍からボスの巨大な拳からストレートパンチが飛んでくる。私はストロングの剛力で受け止め地を引きずる。やたらと攻撃が飛んできたので私もパンチ出迎えうち応戦。
拳がぶつかる度に激しい衝撃が木霊し、軽い地響きが起きる。
隙を伺おうにも次行う行動の転換が早く中々見切れない。
そこそこやるな。ひしひしと拳の力が体から伝わって来るのだが、さすがボスといったところだろうか。
力の押し合いとなり多少押され気味になるがそこへ。
「はぁ!」
シホさんが割って入るようにボスに向かい斬りを入れ私達を引き離す。天井から斬りつけようとした一振りに危険を感知したボスは間合いをとる。
瞬く間に発生した剣の風が飛んでくるが得意とするパンチでかき消す。
「大丈夫ですか愛理さん?」
「うん大丈夫、それよりもあのボス……結構な力の持ち主だよ」
「ヘルフレア!」
隙をつくようにアンコちゃんが闇の炎魔法を放った。フレアって魔法だっけスーちゃんがいつも使っているけど、あれの闇バージョン? 漆黒の炎が際立つというか演出がとても派手でその威力は敵をあっという間に闇渦に包み込むような凄まじい炎だった。
敵に回せば非常に相手にするのがきつそうだが。
「どうですかぁ私の魔法は。普通のフレアの数倍の威力はあるですよぉ!」
自慢げに堂々と鼻息を吐きながら仁王立ちするアンコちゃん。
やめた方がいいかもよ、そうやって粋がっていると相手に隙を狙われたりするからさ。
「おぉあぶねぇ。少しは堪えたぜ」
だがしかし彼の体は軽傷で多少服が破れる程度で済んだ。炎だよねそして服なら焼けるんじゃ……金属製なんですかその服。
巨体とは思えない猛スピード。野獣のごとく疾走していくと、先ほど攻撃してきたアンコちゃんに矛先が向けられた。
「お返しだ! 拳でくたばりやがれ」
近くにいたアンコちゃんにパンチで攻撃。その巨体とは思えない俊敏な速さが彼女に襲いかかった。その攻撃は彼女に………………は当たらず。
「な!?」
「間一髪でしたね。……スパム団の親玉さん残念でしたね私とても速いので」
隼の如く、盾を構えアンコちゃんを守ったのは他の誰でもないシホさんだった。そのままシホさんは控えさせている、片手で剣を一振りして敵を壁に叩きつけた。
「ぐふ。……まだまだぁ」
「……させませんよ」
スーちゃんが束縛の魔法を唱えて敵の足を止める。彼の背後から光の輪が現れてそのまま結束させ身動きが取れない状態になる。縛りが強いせいか無理矢理でも解こうとするスパム団のボス。
束縛系の魔法きた、どれぐらいの強度あるかしらないけど、見る感じそれは強固な魔法であった。振りほどこうにも全くびくともせず頑丈。
「……不可抗力って知ってます? その魔法はとても非常にかたーい縄なのですよ。そこらの力ではなかなかほどけないですよ? ……なんなら自前のその強そうな力で引きちぎってみせてもいいですが」
「舐めるなよこのチビがぁ!」
おいスーちゃんをチビ呼ばわりするな。あれでもそんなこと言われたのにも関わらず、依然としてスーちゃんは『ふっ』と鼻で笑っているけど。
まだなにか隠し球でもあるのだろうか。まるで次相手のする行動を待つように彼女は彼から視線を逸らさない。
「こんのおおおおおおおおおおお!」
命一杯の力で輪を破壊する。間を空けず遠くにいるスーちゃんの方に駆けて行くが。
スーちゃんはそこから動こうとしなかった。
「……読めていましたよそう出ることを」
パチンと指ならし。
地面から地雷のような爆発が炸裂し、敵を宙に放り上げた。そのまま連続して氷の魔法を放って攻撃。
おぉスーちゃんやりよるなぁ。よし今がチャンスだ。
傍にいたシホさんに目を合わせると、軽く首肯。行ってこいということかシホさん分かるようになってきてんじゃん。
宙を蹴って、敵の方へと飛び上がって…………。
と思ったがここで致命的な欠陥にぶち当たる。
それはストロングの最大の欠点である、素早さが多少落ちてしまうこと。飛び上がったのはいいがノマアサ並の跳躍力がなく、相手に追いつきそうになかった。
「ち、畜生ドジッた」
「……愛理さんサポートはしますって言いましたよねっ!」
後ろからスーちゃんがまた魔法を私に向かって放つ。すると下から強力な風が一瞬発生し漸次私の体を彼の元へと近づけた。おまけに素早さも上がって……。
さんきゅスーちゃん。
どうやら風の魔法に素早さ上げの魔法を併用したものを、私に与えストロングの欠点箇所を補ってくれたみたいだ。これなら敵に距離を詰めることができる。
今回の敵はちょいと図体のでかい強力そうな敵なので、攻撃は少し強めで。
猛然としたパンチを遠慮なく放つ。素早くなおかつ力強い拳で。
「ストロング……ガトリング・ラビットパンチ!」
ドドドドドドドドドドドッ!
各体の箇所全てに行き渡るように拳を幾度も入れた。歯応えのあるパンチが敵の方に触れる。なんかうなり声が聞こえるが無視だ無視。しめに両手で頭を叩き落として落下させる。ふうバフが切れたせいか少々体に重みが。このパーカーちょっと空中戦が不利なんだわ。空飛べたらどれぐらい自由度が増すか。
そして。
「わわわわあ!」
引力に耐えきれず私も空中で泳ぐように落下しちゃったんだわ。
茶番はさておき、やはりストロングは地上戦向きだよねぇ。うわ、これ本気でやべぇぞパーカーチェンジが間に合わん。
すると空中から声が。
「ドッペル!」
黒く渦巻く影から現れたのは、アンコちゃん。そのまま私は彼女に抱きかかえられ助けられる。……なんだこれ、例のお姫様抱っこってやつか? はははは、はずいわ! あれでも。
その私が密かに抱く羞恥心がそれを見た瞬間失せた。
下にはアンコちゃんが私に手を振っている。……あれどゆこと。
私を下まで送ると、その私を助けたアンコちゃんは姿を消す。
「……考えましたね、アンコさん。……ドッペルを使って愛理さんを助けるなんて」
「ドッペル? なんぞその魔法」
「愛理ドッペルっていうのはね、自分及び他の誰かの分身を作って指示を出す魔法よ。昔私の仲間もよく使ってたから思い出したけど」
「ドッペルは魔力から成る分身の魔法。自分の複製体を作って愛理さんを救助です」
解説を入れてくれるミヤリー。
なにそのチートみたいな魔法⁉ あれじゃんたくさん私を作ってあいつをタコ殴りにできるんじゃねそれ。
「あ、でも持続時間はほんと一瞬だから救助目的に使われるのが普通よ。……まぁ時間は個人差があるみたいだけど」
がっくし。
本の一瞬かよ。すげぇ悪知恵が働きそうなことやろうと思ったのにさぁ。
影分身とは少し相違点がある特殊な魔法みたいだね。魔法って奥深い。
興ざめた顔をしていると指差して。
「そ、そんな残念がる顔しなくてもいいでしょう! 愛理風に言えば『仕様です、お許しください』とか言うんじゃない?」
「いや別にぜーんぜん気にしてないよぉ。これくらいの制約ないとそれこそぶっ壊れな魔法になるし良調整うん」
ミヤリーさぁおめぇはエスパーか。
でもアンコちゃんには助けられた。もしあのまま落下したらさすがの愛理さんも大打撃だったよ。
彼女は非常に気前がいい。どこかスーちゃんに似通った部分もあるが、さすが1位2位を争った中だな。
「……さぁ起きてくださいよ、観念するなら今のうちですよ」
すぐそこには、怯えるボスの姿がそこにあった。
「く、おのれぇこ、こうなったら最後の手段だ! うぉぉぉぉぉぉぉ!」
なんだ今度はなんだ!? 変身……第2形態とか来る感じ? ……あ、でも変身は負けフラグって言うし負け犬の遠吠えじゃねそれって。
でもそんなのはどうでもいい、私は拳を突き出して攻撃しようとしたが。
「す、すまねぇ。わ、悪かったよ、このことは偽造の件は謝るからさぁ」
「は?」
襲ってくるとおもいきや、逆に降伏してきた。
私達の力に恐れて戦意喪失かな。うぅこれだと殴りたくても殴れないんですが。
改まった態度で、自首かなんか行くとか言い出す……と思っていると。
「頼む! 愛理の強さに敬意を表してここは見逃してくれないか!」
「嫌だ」
「頼むよぉ~。そんなことに言わずにさぁなっな?」
「嫌だ」
「そんなこと言わずにさぁなっな?」
「いy」
以降無限ループ。
あぁこれもう固定イベントじゃねえか。某ゲームでもよくあったシーン。テンプレなお約束主義で話が進まない。
「……愛理さん、悔しいですがここは見逃してもいいのでは。……凄く反省しているようですし」
「はい。あのボスさん非常に申し訳なさそうな目でこちらを見てますよ」
「だぁもう! 分かったよ。……あのボスさんならとっととこの洞窟から出てどっか行ってくれないかな。あと……場所を変えたからと言って悪いことはすんなよ」
「わ、わかったよ!! き、金貨50枚やるから……お、おい! お前らいつまで寝ているんだ! 寝ている暇があったら動け!」
「「へ、へいッ!!」」
一斉に撤収する準備に取りかかるスパム団達。
そしてそんまま私達は手出しをせず、50枚の金貨を受け取ったのアンコちゃんの移動魔法を経由して、街――グリモアに帰るのだった。はあみんなお人好しだねぇ。
「では帰るとしますですよ? ギルドに報告して事情を説明するべきです」
「善し悪しがわからないけど、とりあえずはしておかないとねぇ……そんじゃみんな撤収」
「……全く飛んだ災難に、お母さん待っていそうですからお早めにですよ」
そんなスーちゃんに向かって私は、彼女の頭に手を乗せ頭撫でをし言う。
「スーちゃんありがとね」
「いえいえ……別に大したことないです」
「あれ、スーちゃん顔が赤くねぇですか⁉ 照れですか」
「……な、なんでもないですよ‼ というか仲間なんですから助けるのは当然でしょう」
おいアンコちゃん空気嫁。
移動中、帽子で素顔を隠す彼女の姿が見えた。
顔を火照られうずうずする様子は非常に愛嬌があった。スーちゃんはやはりこの顔が一番可愛いと思う。普段帽子で素顔が見えにくいけど、いつ見ても守りたくなるよこの顔は。
でもほんと感謝しているよスーちゃん。