91話 うさぎさん達と魔法大都市 その1
【空を飛ぶのって憧れ抱くよね】
草原を抜け魔法の盛んな大都市へと足を踏んだ。
入国を済ませその街へと踏み入れると上空に目を奪われた。
立ち並ぶ聖堂の上を人が杖やほうきで飛び回っている。
やべえまじでファンタジーだここ。
「す、スーちゃんあの杖って種も仕掛けもないちゃんとした魔法なの?」
「……もちろんですとも。この街にいる全員が空飛べちゃいます」
目の前の出来事を実感できずつい聞いてしまう。蓋し夢かもしれないそんなことを思いながら私は考えに耽る。
この街と言うぐらいだから、それは自分も例外ではないと捉えることもできる。スーちゃんはなにかしら飛ばない理由でもあるのかな。
「……これまでは目立たないよう、飛ばなかったのですが」
やっぱそうなんや。
「……それに1人だけズルして相手に卑怯者扱いされるのも嫌ですし」
「気を遣ってくれていたの? 私ならスーちゃんに乗せて欲しいくらいなのに」
「お前はすぐ落っこちて大怪我するからやめとけ」
ミヤリーが割り込みし話に入ってくる。
こら、自転車と一緒で2人乗りは厳禁だぞ。そんな法がなくても愛理さん許さないぞ安全第一。
言われてみればまあ確かに。
ときには周りに合わせるのも大事だし、それはいい判断だと思う。
宝くじ1等を公共の場で見せびらかしながら歩くと、非常に目立つしようはあれと同義語。
目立ちすぎなのもよくないし、相手から卑怯だと思われるのもなにかと気まずい。
とりまスーちゃんは空気が読める子なんだなと確信した。
「それでどこ行きます? 魔法のことはあまり存知上げませんが、スーさんがおすすめの場所がありましたら是非紹介してくれるとありがたいのですが」
「……」
スーちゃんが拳を顎に当てよそ見しながら考え始める。
故郷とはいえそんなに考えるまで至るってことは、それぐらいこの街は大きいの?
大きさはリーベルの2倍くらい。目算だけど私達の住む街より遙かに大きな街……都市であり、あちらこちら魔導具が売られた店が見える。
規模が大きいせいかその店は数え切れないほどあった。
歩きながらこれといって当てもなく探索。
お店をぶらつきながら気になる物を見物したりする。
「この魔導具なんだろ? ランタンみたいなものだけど」
立ち寄った店に置かれていた商品の中から、照明器具を手に取った。片手にぶら下げられる物で頑丈な鉄で作られている。
「すげー頑丈そうだけど……っていっつてぇ!」
試しに叩いてみると響きのいい鉄の音色がなった。
同時に頑丈過ぎるせいか多少痛みも感じた。……固すぎだろ。
すると横からシホさんが解説してくれる。
「あぁそれ持っていますよ。魔力を注入すると点灯する照明ですね、魔法使いさんの魔力が入っていて魔法が使えない人がよく使う品物です」
「つまりは、シホさんみたいな戦士が持つ必需品ってこと?」
うんと首肯するシホさん。
まじで言ってんの? RPGだとたいまつが必要なダンジョンもあったりするけど、コレ1つでその問題を解消してくれる一品。
でも大丈夫かね。使えるのは最初のうちで、使い続けていくと次第に使えなくなったりは……。胡散臭いテレショみたいな劣化品でないことを願わんばかりだ。
この世界の人は様々な才能に満ちあふれているような気がする。
エジソンが聞いたらビックリするような発想力。ようするにこれライトみたいなものだろ?
もう少し早く来ていれば、私も買っていたかもしれない。ボルト・ラビットパーカーの力があるので今は不要だが……うーんどうしよう。
「一応買っておこうかな」
「私のが一応ありますけど、不要なのでは?」
「ほらいざっていうときにこういうのっているじゃん。緊急時的な」
念には念をということで購入することにした。
見たところ発光カラーが色々あるらしく、中には虹色のランプがある。……ってあれゲーミング系のやつじゃねえか。スタンダードにここは黄色のランプを選ぶとしよう。
支払い場の受付にいき、店主の机にそれをポンと置き。
「おや、旅のお方かな? 見ない格好だけどなにそのうさぎの服。はやってんの?」
「いやいや……流行ってねえよ。とりあえずさこれ買いたいんだけど。いいかな?」
店主に話しかけるといつもの流れで、ジロジロと私の服を見回す様子をとっていた。
だからさ、何回言えばいいのさ、流行っているとかダサい服、などと揶揄されるのはもう飽きたっていってんだろうが。
「それは失礼した。お連れの方は……ほうほう4人ですか。中に魔法使いもいるじゃないですか……買う必要ないんじゃないですか?」
マジレスはいいから買わせろ。
「余計なことはいいからさ。いくらだよ」
「ふーむ。あなたとはもうちょっと話したかったのですが……いいでしょう銀貨5枚さあ払うがいいさ!」
一応この人魔法使いらしきローブきているけど、なんでこうも私に突っかかってくるかな。
硬貨を引き出す。えぇと銀貨5枚ねほいさと。
すると店主は指で何か描くと、私が置いた硬貨が宙に浮き店主の手元の方に移動する。
「まいど。 それどあなた方はどこから来たんです?」
「えぇと並大陸のリーベル。旅行でたまたま訪れたんだ」
店主……男性の店主は、私に興味ありげな顔で見つめる。
なんだよその目は、変なことまた言ってくるんじゃ。
「まけだ! 持って行け」
【愛理は魔法瓶を手に入れた】
魔法瓶 解説:魔力を半分くらい回復してくれる瓶。中大陸と大大陸付近でのみ流通している。値段はそこそこ。
なんかもらっちゃったんだけどいいのこれ。
魔力を回復する消費アイテムらしいが、これ無料でもらうとか本当はこのパーカー幸運アップの効力でも付いているんじゃないの考え過ぎか。
というかご当地限定みたいな設定やめろ。……まあ考えてみれば魔法が発展している一帯ではあるしこれが普通に手に入るのは普通のことなんだろうな。
すると横からスーちゃんが私に何か言いたそうな顔付きをする。
どうやらある程度の行き先が決まった模様。
「……すみません愛理さん取り乱して」
「大丈夫だよ。それでどこいくか決まった?」
「……はい」
スーちゃんに連れられるがまま向かった先は。
「ここが私が学業に勤しんだ、魔法私立学校です」
「おぉ、なんていう大きさ」
教会と見間違えるような大きさをした立派な建物。
西洋の立派な学校と酷似した見た目で、神々しいステンドグラスがとても印象的だ。
日本人の私にとっては、こういうのを学校と認識しにくいイメージだが正直スーちゃんが羨ましい。
こっちはろくに海外旅行もしたことないっていうのに。……グリモアの経済ってやばくね最低賃金いくらよこの街。
美味しい料理がさぞたくさんでるのだろうと思いを巡らす。
「……入ってみますか? 一般の方でも出入りは自由です。 冒険者カードさえあれば許可はおりるはずですから」
「まじ? できれば魔法を1つ覚えたいんだけどな」
「学校と言われるぐらいですから教えてくれるんじゃないですか?」
「私も1つ覚えたいわね、例えばお金を大量に増やせる魔法とか」
盗賊みたいなこと言い出すなお前。
それはチートだチート。"不正はなかった"とかいう言い訳は絶対通用しないからな。
でも学校だし、お金かかりそうなイメージ。現実世界だと専学とかは学費が100万ぐらいかかるって聞くし、少しの時間でも相当な額踏みそうだが。
「スーちゃん料金とか、かかっちゃう?」
言っておくけど充実した冒険者業をできるようになったとはいえ、億万長者になったわけではないからな。
100万なんて洒落にならないから。せめてゲーム1プレイ料金である100円くらいが理想だが。
「……あぁご安心を基本ウチの学校は学費も全部タダなので。因みになんですけど母から聞いた話大金貨10枚くらいかかったみたいですよ」
「え、大金貨10枚って」
えーとちょっと待ってくださいね。愛理さん暗算は苦手だからな。
指折りしながら日本円に置き換えて数える。
一番高いのが高金貨は100万円に値する。で大金貨10枚か……。
…………。
(100万じゃねえか!)
「スーちゃんのお母さんお金持ち?」
「……いいえ、この街だと普通の金額ですよ。グリモア協会という街を支持する団体があるのですが、最低額でも1か月コツコツクエストをやりくりして大金貨10枚は普通に稼げますよ」
「…………因みにシホさん、他の街も大金貨10枚って」
念には念をとシホさんに、最低額を聞いてみようと彼女の方を振り返った。
都会と田舎じゃあ最低賃金に雲泥の差があるからね。
「た、高いです。他の大陸……一部の地域は除いて精々大金貨5枚しか稼げないです。……グリモアは経済が非常に発展している地域なので私達の住んでいる場所とは比較ならないですはい」
ですって奥さん。
つまり大金持ちの街……というか国じゃねえか。
そのグリモア協会っていうのがよく知らないが、あれでしょ日本で言う警察やら政治系の類い。
「……そうですね。魔法という最大の武器をこの国は持っていますから金貨10枚なんて余裕です」
「ねえスーちゃん、私ここに住んでもいいかしら! すごぉぉぉぉく稼ぎたいわ豪遊しながら」
「あ、言っておきますけどミヤリーさんグリモアに住むためには最低でも、学校を卒業できるくらいの魔法を取得しておかないといけませんよ」
「えうそ!? ちぇ折角おお稼ぎしようと思ったのに」
無茶するな。世の中そんな甘くないってことだよこん畜生め。
それにしても、セルフサービスなのか学校。
明らかに関係者立ち入り禁止の雰囲気を醸しだしているが、大丈夫なんかここ。
こうして魔法学校内に入ることにした私達。
学校に通う生徒達が、どんな魔法を使えるのか気になってままならなかった私は。
しばしの時間仲間と共に、スーちゃんのかつて通っていた学舎を見学するのだった。