90話 うさぎさん達と、危険な大型昆虫さん その3
【卑怯な手で戦うぐらいだったら、真正面から敵と渡り合えそれでプラマイ0】
シホさんの手を引っ張り秒速で林の中を駆け抜ける。
ミラクル・ラビットパーカーは、他のパーカーと違って迅速で移動できる。
おかげで数分足らずで敵の近くまで足を運べた。
空間移動も可能で空間の狭間と狭間を飛び越え、一瞬で移動を完了させる。
「うぉぉぉ愛理さんんんん!?? 速い速すぎますよぉ」
「え、そう? 少し辛抱してくれないかな。ほんの数秒の辛抱だからガンバシホさん」
風力に押されながらも必死に私に訴えようとする彼女の精神には感服した。
さすが戦士といったところか。
でもその移動範囲は、ほんの数メートル足らずで10メートルにも満たないが。
だが小刻みに移動すれば実質いくらでも移動できる万能能力。
あぁでも使いすぎると魔力が枯渇するから、そんなに乱発はしないようにしている。
「一瞬でこんなところまで。あそこで戦っているのはミヤリーさんとスーさんですね」
「私達が作戦会議している間、持ちこたえてくれたみたいだよ」
作戦をシホさんとしたのはほんの10分程度。
あんな大きな敵を前にしたら、いくら2人とはいえバテるんじゃないかと。
心配していたが2人は、絶え間なく飛行する敵に向かって攻撃していた。
「……フレア!」
「こんのぉ!」
スーちゃんの炎魔法と、追いであるミヤリーの繰り出すジャンプからの回転斬りが炸裂。
微量のダメージながらも、正確に敵へと当て続けている。
「シャ!」
デスホーネットの口から放たれる毒玉。
やばいあれを真面に食らったら、体溶かされるぞ。
大声で私が2人に注意を呼びかけようとしたが、戦う様子を見て言うのを躊躇う。
「……ミヤリーさん危ないです ベール!」
スーちゃんが杖を走りながら前へ突き出しそう唱えると、2人を白いオーラが覆う。
おそらくデバフ防止用の魔法だろう。
いざというときに気が利くスーちゃんは非常に優秀。
お互いの弱点を補いつつ安定した戦法をとっている。ミヤリーの跳躍はそれなりに高く、辺りにそびえる木の枝を踏み台にして跳躍し攻撃を仕掛けている。
攻撃すれば丁度空に受けるぐらいの高さ。……状態異常にならない限りは彼女のHPが0になることにはならない。
あいつぅ。自分が死なないことを効率よく使いやがった。中々やるじゃあないか。
「助かった! やっぱり頼りがいあるわねスーちゃん」
「……私を見るより敵を見てください。愛理さんがくるまでもうちょっと持ちこたえますよ」
気合いの入ったコンビネーション。
2人は隣同士居立ちながら迎え撃つ。
指示も一切だしていないのにこんな戦い方ができるなんて。
スーちゃんは存在が薄くなる力が働いているせいか、魔法で攻撃しても相手は見向きもしない。
「そろそろ準備した方がいいですかね」
「うん、いつでもおっけい」
私がbサインを出すと、隣のシホさんがbサインを返してくれた。
これは私達2人の合図だったり挨拶みたいなもの。
そして必死で戦う向こうの2人に大声で声をかける。
「おーいみんな、ごめんお待たせ! 無事シホさん救出できたから今そっち向かうね」
「……やっとですか、そろそろ魔法が尽きそうだったのでまだかと待っていましたよ」
私はシホさんに能力を使い、反発力を引き上げる効力を与える。
「? 何しているの愛理」
「まあ見てなって、これはシホさんだから頼めることだから」
「では行ってきます」
シホさんが地面を蹴ると、通常とは比較できないくらいの反発力でデスホーネットのいる背面へとあがった。
そしていつもの剣。
ではなく。
盾を前に出して身構える。
「ギャ!?」
シホさんの方を向いたデスホーネットは、鋭い顎を使って彼女をかみ砕こうとした。
「エクステッド・ガード!」
瞬発的に敵からの攻撃を。
その技によって跳ね返すようにかき消した。
反った反動も能力の効力によって倍になり、敵は一瞬怯みだす。
「シホさん、あと数秒だけだよもう少しで、その効力消えちゃうからちゃっちゃとして!」
「お任せを」
私がシホさんと練った作戦はこうだ。
彼女が今使った、防御技は敵の攻撃から高防御で耐えてかつ跳ね返す技。
本来ならばあれほどの挙動にはならないが、私が与えた反発力を倍にする力によって反りも倍増している。
私の能力一部に、数秒間反発力を倍にするバフ能力があるのだが。
今回はそれを使った。
そのおかげか、敵はその引力に耐えきれずバランスを崩したというわけだ。
どうやらこの効果は敵側に攻撃を跳ね返した場合、その跳ね返す威力も倍増する仕様となっているみたいだ。
ひとつの可能性として、賭けやってみたが上手くいってよかった。
行動を終えた私の次にシホさんは実行すると鞘から剣を抜く。
敵の背中に付いた4本の羽を。
「はぁ!」
交差状に斬りを入れた。
羽は完全に切断され揚力がなくなり、デスホーネットはそのまま落下。シホさんは落下速度に耐えつつ宙返りするように地面へと着地した。
ドスン。
敵に背中を見せるように彼女は屈みながら膝を立て、剣を鞘にそっとしまう。
彼女に指示したのは、反発力を上手く利用して敵の羽を完全に切り落とし地上戦に持ち込む。
これにより地上で有利に戦える。
だから彼女にやつを地上へと叩き落とし、自由に戦えるように場を整えるよう指示をだしたのだ。
羽を切り落とされた、デスホーネットは憤慨。奇声を張り上げ立ち上がる。
そのハチさんはシホさんを目の敵にしているせいか、他の私達は眼中にない様子だった。
隙を突いて私は、ノーマルアサルトラビットパーカーへとチェンジする。
腕っ節に力を込めて素早い動きで移動する。
タイミングを見計らって私はデスホーネットの体をポンポンと軽く叩く。
こちらを見下ろすように振り返ってきたので私は。
「やっと目が合ったな……食らえガトリング・ラビットパンチ」
連続で放たれるパンチがデスホーネットを襲う。私は気が済むまで殴り続け。
10コンボ……50コンボ……100コンボと。
殴る度に火力はバカなように跳ね上がっていき、気がつくと敵はいたるところ凹みが目立つ状態となっていた。
切りがいいのでそこで一瞬攻撃を止め、最後の拳を敵に助走をつけて叩き込む。
最後に放った私の拳によって、デスホーネットは力尽きその場で倒れ込んだ。
「これでKOだ!」
ダメ押しにラビット・ショットで宙に舞い上がる敵に向かって砲弾を撃つ。
体の隅々まで連射すると穴が空いていき、自主規制いりそうな見た目に成り果て急降下。
ドスン!
「ふう。……ってげ、原型留めてねえ」
敵の亡骸をみると無残にミンチ状になった敵の姿がそこにあった。
バ火力もほどほどにするべきだな確信。
【愛理達はデスホーネットを倒した! ……愛理はハチのミンチを入手した】
いらねえよというか触りたくもねえ。
肉団子にして食えと? ……私ゲテモノとか絶対無理よ美味いとか言う人もいるけど私は無理な人間。
でも素材として保留しておくのは別に悪くはないだろう。
躊躇いつつもその素材を無限バッグに収納し。
私達は林を抜けた。
緑溢れる緑地。
視野が開けると自然豊かな草原と、日差しが私達を迎えてくれた。
死闘の末、勝ち取った喜ばしい果てしない平原は、甚だ絶景であり1枚絵になりそうな景観。
「ちょっと面倒くさい、長く苦しい戦いだったけどようやくよ」
おいまだEDの道は険しいぞ終わらすな。
まだ旅行終わってもいないのにコイツは何言い出すんだ。
「それよりもミヤリーさん、遠くに巨大な街が見えますよ?」
「え街? ……ほんとだピカピカ光り物の多い街だけどあれは」
木々と山々がそびえ立つ地帯に1箇所、巨大な建物がたくさんある街が見える。
RPGなどでよくある聖堂が幾多も林立とし淡い光を放っていた。ファンタジー感極まりない神々しい雰囲気を漂わせながら。
遠い場所にあり少々正確な物を視認はできないが。蓋しあれがスーちゃんの故郷である……。
「……見えてきましたね。あそこが」
そこは。
私達の旅行の終着点であり目的地。
長旅乙自分。それをここまで同行してくれた仲間にも心底感謝しよう。
「……あそこが我が故郷。魔法大都市グリモアです」
スーちゃんが眉をしかめ、その巨大な都市を指さしそう言う。
一同そこに目を向けて凝視。
何かに食いつきそうな視線を送りつつ歩一歩地を進ませて先に向かう。
魔法の都市ねぇ色々見て回りたいところあったら、とことん見て回ろうかな。