89話 うさぎさん達と、危険な大型昆虫さん その2
【危険生物には注意しなければとんだへまをする】
目の前に立ち塞がるのは、巨大なスズメバチ――デスホーネット。
ハチって色んな種がいるけどやはりスズメは非常に怖い。
それが巨大化するとなれば怖さ倍増。というかデカすぎやしねえか。
俊敏な速さと臀部から繰り出される毒針の攻撃は隙を一切見せない。
巨大な体には似合わない軽快な動き。毒の含んだ針が私達を止めどなく襲ってくる。
「……注意してください、あの針毒性は非常に強いですから油断したらだめですよ」
「大丈夫だって私は、随分前に毒耐性は会得したし」
随分前に習得した毒耐性がここで真価を発揮する。
だが他のみんなは当然のこと、そんな神耐性は持ち合わせていないので。
私の後ろに下がりながら援護するよう指示をだした。
毒性を持つモンスターなので用心は必須。油断でもすればすぐさま即死である。
豆知識なのだが、スズメバチはカリの4倍を所持しているので非常に危険。
私の大切な仲間だしここは一番強い自分が率先してみんなを守りながら攻撃するべき。
敵に見つからないように近くにある茂みで隠れ待機。
「ピンチになったら、私がグーパンで倒しに行ってあげる」
「……大丈夫ですか? 即死攻撃が急に飛んできたりでもしたら」
スーちゃんがぷるぷる身震いさせながら言う。
別にそういう追加効果って、大体低確率に設定されているパターンが多いだろ。
現実でもこの理屈が果たして通用するかはさておき、問題ないと私の勘がそう言っている。
自分の能力をここでばらせば戦況を有利にできる気もしなくないが、ネタバレよくないから敢えて言わないでおく。
今やつは。
私達から見て数メートル先の広間上辺りで、宙を飛びながらこちらを探している。
毒液の詰まった唾液を地面へと垂らしながらカチカチと音を鳴らす。
確かこういうの警戒音と言ったはず。
キョロキョロと漏らしがないように、一瞥する様子がうかがえた。
低音で飛行する音がまた耳障りなのだが、あぁもううるせぇ殺虫スプレーとかあったらな。
攻撃の面々や敵の動きにあくせくしながら行動するべきか。
しかし。
そんな毒持っている、ハチだろうが今の私の敵ではない。
この力を過信しているわけではないけど、負ける気はせずむしろ叩く気満々である。
「今日のその服一体何ができるのよ?」
「まあ見てなって。ちょいとトリッキーな現象が起きるかもよ」
「……それってどういう」
「それは小説的にあれでしょ……"見てからのお楽しみ"的な」
試運転限りで1度だけしかまだ使用していないミラクル・ラビットパーカーだが、ある程度の制約はありつつもあれぐらいの敵フルボッコにするのは造作もない。
「……はぁ」
「へぇ」
なんだその無反応!? そこはもうちょっと『『なに!? 私の知らない力があの服に秘められているというのか!?』』
みたいなこと言うべきでしょ。
だいぶ同じ時間を過ごしてきて、こういう私の流れが彼女達にとって鉄板になってきたのか。
当たり前だよなぁ。
何言っているんだ私は。
もう少し驚いた反応とってくれよと目配せをやってみても冷淡な態度をする。
「なんなん? その分かりきったような顔付きは」
「……だって愛理さんがこういうの得意そうですし、また秘めたる力でそのモンスターを倒してくれるんでしょう? そういういつも目に見えた事を前にして今更おどろきませんよ」
「愛理そういう細かいことは置いといて、まずはあのハチ野郎を倒すべきでしょ? ちゃっちゃととっちめて」
はよバンバン。
なノリで2人が言ってくる。
あのさ私は子供の夢を叶えるサンタじゃあねえんだわ。人をなんだと思っているんですかねみなさん。
今着ているミラクル・ラビットパーカーは。
素早さと、かつ超能力に長けた服装である。
この間使ったときはちょっとした小手調べだったが、今日はやりたい放題させてもらうことにしよう。
とりま。
今は空腹で倒れたシホさんを救出に向かうため、私は後ろを2人にまかせ。
「まあ援護ぐらいは頼むよ。ピンチなったらでいい」
「……了解です。シホさんを助ける事できたら早々手当てはしておくのでお任せください」
私は1人。
シホさんの倒れている方向へと駆けるのだった。
☾ ☾ ☾
宙から放たれてくる毒玉。
それを払いのけながら私は林中を駆け回る。得意の跳躍や能力を駆使して縦横無尽に避け疾走する。
因みにこういうことだってできる。
なんの変哲もない大木にわざとぶつかろうとして。
毒玉は私に。
命中せず木が私の身代わりとなる。
これは体を透明化する能力で、お化けやすり抜けバグみたいに障害物を貫通させることができる。持続時間はそこまで長くないのだが、嗅覚、視覚、感覚全てを無効化させ完全に空間と一定内同化させる能力。
これにより攻撃は身代わりとした木がただ倒されただけになり、攻撃は私には当たらない。
直弾した毒玉が木に当たると、それを猛スピードで腐敗させ一瞬にして溶かしてみせる。
うぇ。
まさかの溶解能力持ちかよ。
紫色のなんだか闇鍋スープ似な色だけれども実際の物をみるだけでもぞっとする。
透視化を解除させると前へと出て攻撃を仕掛ける。先手を取られ再び今度は毒玉を連射されるが。
少し血が上ってきたので、超能力を使い白い膜を張った。
「ラビット・リフレクト!」
体全身を覆う。
これは数分間の間、触れた物を数倍の引力にして跳ね返す反射技。
しかも効力が切れた直後に再び溜まる。
お察しのいい方は、もうお気づきかもしれないが。
つまりループ系の技ですはい。
「グシャァ!」
悪癖のようにまたしても数弾こちらに吐いてくる。
今度はわざと当たるように、わざと避けない。
「しゃあぁ!?」
毒玉が私の身に接触した瞬間。
飛んできた速さとは比べものにならない速さで、デスホーネットの方へと飛んでいく。
跳ね返っていった毒玉は、デスホーネットの顔面に直撃し視界が閉ざされる。
「目潰しなってやんの~!」
宙に浮かぶハチを嘲笑うかのように指さす。
目を拭くのに精一杯で私の声は届いていない様子。
体制を立て直しているが。
今のうちだ。
走りながら目を瞑り、シホさんの位置を探る。
すると少し進んだところにある道辺りで、青い点がずっと止まっているのが確認できた。
確か、青って仲間の信号だったよな。
話は逸れるけどなぜ、信号の青信号って緑色なのに青って言うんだろ。
まあいいや。
うつ伏せに倒れるお方1名、地面に横たわっていた。
明らかにそれは餓死寸前ぐらいなまでに、腹を空かせたシホさんの姿だった。
痩せ細ってはいない、ぐうの音を何度もならしながら私の出す食事を待っている。……あのシホさんお腹空いているのは分かるんだけど、敵にそれだと悟られちゃうよ。
私はシホさんを抱き起こし生存確認。
「シホさん大丈夫? うわこれはマジでやばそうだ……」
彼女の顔はまるで干物状態。
揺すってもなんか微々ともしないし、頼むシホさん死なんでくれ。
作品的にあなたはいいヒロインポジだから、このままドロンなんてまっぴらごめんだからね!
手の平を広げ彼女の大好きなおにぎりを作った。
共有能力になったおかげでいちいち姿を変えなくとも、生成出来るところこれは利点である。そこのところ狂政に感謝しないとだな。
とは言え反則武器は作らない作るな危険。
おもんないから私はいざってときにしか作らない。
最強の技をお見舞いして勝利納めて勝つ的なあれ。
要するにKYですわ。
「はへ? そ・れ・はおにぎり! ぱくっといっちゃいます!」
ばく!
「「いってえええええええ」」
私が手渡したおにぎりは、彼女の口に運ばれ燃料として変換される。
愛理さんの手ごとまたしても食べようとして。
「あ、すみません! また愛理さんのお手を」
「く、いくら腹減っているからって私は生でも焼いても美味しくないからな!?」
「食べませんよ! ……それよりも」
まじまじとミラクル・ラビットパーカーをジロジロみた空を仰ぎ状況把握。
なんだ今の間は。
どうせ「またかわいいですね~」とか言いそうだったけど、私が変な事言いそうだから控えた感じだよこの人。
……シホさんなら少しは妥協してもいいかもだけど。
するとシホさんの過敏な耳のセンサーは即座に敵の位置を明確に捉え、私を茂みと同じ高さまで屈むよう指示する。
「あのハチのモンスターあんな高くに」
「え、まさかと思うけどめっちゃ飛べたりする?」
「いえいえ、いくら私でもそこまでは。飛べたとしてもほんの一瞬です」
まあですよねぇ。某格闘マンガみたいに飛べたり常人はできません、はい常人はです。
「……困りましたね。一撃を叩き込めばあの位置から下まで突き落とすことは可能かもしれませんが、タイミングを見計らうのが難儀です」
拳をあごに当てながら考え出すシホさん。
一撃ねぇ。彼女なら落下なんぞ余裕で耐えられそうだが、狙うとしたら……うーんそうだなあ。
飛び回るハチの体を悠々と観察。
……咄嗟に思いついたのは羽を切り落とす。まあこれが妥当でしょうね。
できるか? 数十メートルもここから離れている位置にいるぞ。
「凄い剣術とかないの? イクスなんとかってぶっ壊れ技は除いて」
「その"ぶっ壊れ"という言葉の意味はわかりませんが、そうですねどれも地上で使うと被害甚大なので場所を選びますね……ここだと到底無理です林はおろか向こうにある街にも被害およびますよ」
ご都合主義的なあれか。
そりゃまともに使えねえか。山さえ抉る化け物火力だもんな。
火力調整がきかないのなら使用は断念するしかないか。
私も少しの間考え慮る。
効率のいい策はないかと考えを巡らせてみる。
あぁなんでこうなった。こうなるくらいだったらスーちゃんでも同行させ(ミヤリーはスルー)、そうすれば耐性やらなんやら魔法で付けてもらい対策は練られたんじゃあないだろうか。あ、でもこれは私の判断ミスですね。……さて他に……他に策は。
すると今着ているパーカーでふと思いついた。そこでシホさんの盾を見ながら着目。
「なんですか盾なんか見て」
「シホさん、跳ね返す技って使える?」
「えぇまあ。剣に構わず戦闘系の技は大方と」
あのハチ野郎を打ち負かすには、私とシホさんの力が必要不可欠。
顔にかけられた毒玉を拭ったデスホーネットは。
再び私達を見つけようと、縦横無尽に当たりを荒らしまくる。
向こう側からは。
武器を振るいながら戦うスーちゃんとミヤリーの姿があった。
どうやら隠れている場所を破壊され、そのまま戦闘に持ち込まれたみたいだね。
大丈夫なのかなあの2人。
「……は、奇襲とか卑怯ですよ!」
「私、この戦いがおわったら愛理に言いたいことあるのよ?」
手から繰り出される攻撃に対してミヤリーは、器用に片手の剣を盾代わりにし片方を敵に突き立てようとしている。
不意にスーちゃんの方には毒玉を発射され、彼女の魔法が詠唱中に途切れてしまう。
「……ミヤリーさんそれ、愛理さんがいたら"死亡フラグ乙"とか言ってきますよ」
スーちゃん今まさにそれ言おうとした。
2人は猛然と繰り出される、突きの猛攻を潜り抜けながらかわしていく。
メタル系か何かと見間違えそうな素早さでノーダメで回避。
「2人が時間を稼いでくれている間に、私が考えたハチ狩り作戦をやるよ」
ネーミングセンス皆無なのはともかく。
2人が時間稼ぎしている間に私達は作戦を練るのだった。
……というかミヤリーとスーちゃん全然毒ってないな。