88話 うさぎさん達と、危険な大型昆虫さん その1
【どこにでもいるスタンダードな弱いヤツと戦うと勝負が一瞬でケリがつく】
シホさんの無双劇もおわり、再び歩き出したのはいいものの未だに彼女の殺伐とした光景が目に焼き付いているせいで頭から離れない。
丁度いつもながら空腹状態になったシホさんに配慮し、近くにある木へかけより現在エネルギー補給中。
「今日のおにぎりも美味しいですね」
「そそう? 普通に作っただけなんだけどね」
無論能力を使って今作り出した物。鮭入りのほやほやな一品だ。
爆弾おにぎりぐらいありそうな大きさのおにぎりを渡したのだが、魚の餌に食いつく魚のように彼女は黙々と食べ始めた。
巨大なおにぎりはというと、ひとかじりするだけで小さくなっていく。気づけば大きさは半分になるくらいに。
「すごい食べっぷりね。……ってまだ3分くらいしか経っていないのにもう半分いったの?」
「えぇ。この愛理さんがくれるおにぎりが特においしくて……名前は知りませんが中に入っている魚がとても美味ですよ?」
「……気になるわね。ねぇシホ1口でもいいからちょーだい!」
腹ぺこさんに頼みこむミヤリー。そっとばれないように彼女のおにぎりへと手を伸ばそうとするが、
ガシッ!!
「うぐ!!」
力強い手を使いシホさんはミヤリーの手を掴んだ。ギィとした音を聞かせやらんぞと言わんばかりな様子で。
ミヤリーがシホさんの方を怖ず怖ずと一見すると、青ざめる微笑を浮かべた彼女が。
瞠目させ寒心するミヤリー、何かを言いたそうだったが先に口を開いたのはシホさんだった。
「ミヤリーさん……なにしてるんですか?」
「え、シホなに? ちょっと米粒取ろうとしたんだけど……」
誤魔化そうとしらばくれるが。
「あぁいいんですよ。隠さなくて……でも私ご飯を取られると無性に無性にむっしょうに! 怒りが湧いてくるんですよ。……なのでね? 食事の邪魔しないでくれます」
ぎぃぃいぃぃ。
「いたたたた! 分かった分かったから! ごめんって! 食事の邪魔したのは悪かったからさだからその怖い顔をやめて、怒りのこもった手も離してお願い!」
力を抜いてシホさんはミヤリーを束縛から解放する。
隣で見ていた私とスーちゃんは。
「……こ、ここここここわいぶるぶる。し、しほ、シホさんってご飯取られるとあんな風に怒るなんて……ぶるぶる。どどどど、どうしよう今度彼女を怒られたりすることしないか私心配です……」
いつになく悍ましい光景を見たスーちゃんは背中を向けながら屈んで独白に陥っていた。
そうとう食の怒りに恐怖を覚えたのだろう。……いや声調が徐々に上がっていく彼女の喋りようが非常に怖く感じたが……。
「だ、大丈夫スーちゃん? ……心配いらないって食べ物を取られるとああなるかも知れないけど邪魔しなければ大丈夫だって」
「……本当ですか?」
ふいと近寄った私の方を振り返り涙目で聞いてくる。
ど、どうしよう。めっちゃ顔かわいいんだけど。いやそうじゃなくて……ほらここでギャルゲの主人公なら。
「うん大丈夫だよ、オーケー牧場! ……だからさ立とうよスーちゃん」
「うぅ……ありがとうございます愛理さん」
とりま慰めるのが一番。おふざけなセリフを言いながら彼女を元気づける。
差しのばした手を取り立ち上がるとスーちゃんは正気を取り戻してくれた。
……いつも冷静なスーちゃんを恐怖させるとはシホさん恐ろしい子。
「……でもまあミヤリーさん、それ欲しいなら愛理さんに頼めばいいじゃないですか」
「え?」
私はスーちゃんを振り返る。
なんで!? 重荷さらに増えちゃうわけ?
「それもそうか……あぁでもこういうの愛理嫌がりそうだし……私は遠慮しておくわ」
「……やけに素直ですね」
「それ。熱でもあるんかいミヤリー?」
「ないわよ!! ばりばり元気よ」
そんなやりとりをしていると、シホさんが食べ終わり。
「愛理さんごちそうさまです。これであと3時間は持ちますね」
「は、早いよシホさん待ってくれぇ」
ゆっくりと立ち上がり、率先して前へと歩き出すと私達も彼女を追うように先へと進む。
博士の言われたとおり。
先行く道にはスケールの小さそうな林が待ち構えていた。
俗に言う獣道というやつなのでは。
物音1つもない静寂とした林だが。
「……さあこの先を抜ければ、私の故郷魔法大都市グリモアですよ」
1人率先して前を歩いてくれるスーちゃん。
この道には慣れているような様子で辺りを一周見渡すとせっせと林の方へと入っていく。
「小さいながらも慣れているようで心強い」
「ですね、ほらミヤリーさん早く行かないと置いていきますよ」
「……我を忘れるところだったわ……大丈夫でしょうね即死トラップとかあったりして……愛理たのむわよ?」
と私の背中にすがりチキりだすミヤリー。
あの~ハズいんでやめてもらえませんかね。
「なによその目は」
「自分の足で歩け。幼稚かおめえはよ」
とくっ付いていた彼女を突き放し。
「あぁもう……わかったわよ。だ、だから置いていかないで」
魔法大都市グリモアか。
スーちゃんに聞けば、魔法が盛んな知名度の高い大都市なんだとか。
異世界に訪れてから、魔法というものを1つも習得していないな。今更感あるけどできれば習得できたらいいなと考えている。
あ。
でもランダム性のある魔法や、自爆してHPが0になる魔法とかはいやだよ。
ちゃんと汎用性のある、もしくは需要性のある魔法がいい。
デメリットつきは嫌だからね?
私がこの世で一番信用できない言葉は“ピックアップ”と“確率操作”である。
要は運ゲー要素は嫌いってこと。
スタンダードな物だったら妥協のライン。〇〇排出率云%アップってなんぞや知らない子ですね。
できればスーちゃんみたいな大型呪文使いたいなぁなんて……そりゃ無理か。
「深そうな林ね、奥が暗い感じだけど大丈夫なの?」
またコイツチキンモード発動しているな。
大丈夫だって、フラグ立たない限りは大イベントなんて起こるはずないから。
それにお前なら絶対耐えられるから大丈夫だろ常考。
「……えぇ。そこまで大きなモンスターも出現したりはしないので安心してください」
またバグったモンスターとかでないでしょうね?
あとインチキモンスターやらでたら、今度は問答無用で無効化パンチで粉砕してやろう。
泥試合なんて勘弁。
「でかぶつモンスターはいない?」
「……あぁ大きいモンスターですか。中大陸はそういったモンスターは少ないですよ大きさは私達と同じくらい」
つまり人と同じサイズのモンスターしか沸かないってことか。
じゃあ安心安心。
「ではまいりましょう」
長細い木々の立ち並ぶ林。
外観は薄暗い感じだがいざ踏み入れてみるとそうでもなかった。複雑な進路は全くなくシンプル設計で枝分かれしてない道のほとんどだった。
連なる木々の上を仰ぐと木洩れ日がやたらと差し込む。
「うぅまぶい」
透かさず声を漏らしながら顔を手で塞ぐ。
林から聞こえてくる鳥の鳴き声を聞きながら歩き、自然を満喫しながら奥を突き進む。
するとまたもやモンスターが出現する。
緑色の。
スライムだった。
【ナチュラル・スライム 説明:中大陸の林や森に出現する緑色のスライム。殆ど他のスライムと誤差はないので色の違うスライムと覚えればおk】
5匹ほど。
色違い系のやつだね。
散らばるように私達を囲むように、四方へとナチュラル・スライムが移動する。
ぴょこぴょこと遅い早さで。
「こんにゃろ」
軽く。
飛びかかろうとしたナチュラル・スライムをグーパンする。
即死。
間もなく私のパンチで、叩きつけられたナチュラルスライムは一撃で倒れた。
よっわ。
力も入れず軽くパンチしただけなんだけど。
さすが弱小モンスターの代表格スライム侮れぬ。
違うゲームだと作品によっては強かったりするのもあるけどそれは異例である。
他の仲間を見ても。
「スライムごときがこの私に勝てるとは1兆光年早いわよ!」
おーいミヤリー。光年は距離だって。
これは妹から教えてもらったことだけど、そこは普通に"年"を使いなさい。
ミヤリーは力溜めをして剣を一振りして、スライムを粉砕。
後ろから不意打ちに新たなスライムが襲ってくるが、ミヤリーは振り返らずに切り倒す。
「せいや!」
「……そっ」
シホさんとスーちゃんも斬撃と魔法の連携で撃退。
苦戦も強いられることもなく、あっさりとたおした。
「……ここに出てくるスライムは他の大陸にいるスライムと大して強さは変わりません。軽く一振りするだけで倒せますよ」
慣れたようにスーちゃんが説明してくれる。
「少し歯応えのあるモンスターと戦ってみたい感はある」
「……いますよ。夜まで待てばいくらでもうじゃうじゃと。……戦いたいならいいですよ私達愛理さん置いていくんで」
「置き去りはやめてくれ。……私知らない道は割と音痴だからさ」
いやいるんかい。
なら熊でもなんでもどんと愛理さんに挑戦して来いよ。
「……まあその強いモンスターの殆どは夜行性なので、夜にならないと会えませんが」
夜に活性化する強モンスターか。
毒吐いたり、遅延攻撃したりと嫌らしいギミックとか勘弁だが。
「……あぁただ1つ注意点が。注意するべきモンスターが1体いました」
スーちゃんがそれを喋ろうとした時。
こちらへもの凄い早さで接近する物体の音がしてきた。
☾ ☾ ☾
【虫除けスプレーは念入りやっておけよ?】
昆虫が羽根を羽ばたくような低音。
そしてその物体は私達の目の前に現れ、よだれを垂らしながら、臀部の部分に生える針を見せびらかしながら攻撃態勢をとる。
あこいつは。
「こいつ……ハチ?」
「……巨大なハチモンスター"デスホーネット"です」
その見た目はまさに。
巨大なハチ。
そのもので。
スズメバチを巨大化させたようなスケールだった。
人ぐらいのサイズばかりって言わなかったっけ。
例外は除くとかそんな感じか。
立ち塞がるのは著大なハチのモンスター。紺色に黒いラインが入った悍ましい見た目。
その危険な見た目に自ずと恐怖を覚えた。
うぅだからハチは嫌だって。
【デスホーネット 説明;巨大なスズメバチの見た目をしたモンスター。臀部から生える毒針に刺されると高確率で死に至る】
こ、殺されね?
デスホーネットを俊敏に針を向けながら、突き刺す勢いで私達に攻撃してくる。
「シャアアアアアア!」
「ひいいいいいい! 神様仏様~!」
周りにある木を壁代わりに場所を移しながら、敵の周囲を逸らそうとする。しかし次々と木を針でなぎ倒していき速さは相手の方が上だった。
やはり翼や羽を持っている生物ってずりぃな。
実質人間のメタみたいなものだし、それこそチートの類いじゃないか?
「スーちゃん、なんか使って魔法! 魔法!」
「……ならこれで!」
スーちゃんは立ち止まり、少々の火の弾を作り連射する。
「フレイア!」
連射し攻撃したが攻撃はかする程度で敵は怯むどころか微動だに緩みもしなかった。
寧ろガソリンの入った車のように動きが活発化している。
体格差だろうか。
大きすぎて太刀打ちできない感じ?
「な、なによ……尻の部分についてあるトゲ! なんか紫の液体が見えたような気がしたけど……気のせいよね」
「ミヤリーさんあれ恐らく毒ですよ?」
「ひぃぃぃ!? し、シホいいから蹴散らしてくれない? 毒なんてもう懲り懲りよ!」
ミヤリーとシホさんは迫り来るハチ野郎に怯え(シホさんは平然としている)前を走る私の方を追う。
「……大きすぎて全然歯応えありませんね」
「ならシホさん! 得意の斬撃で蹴散らして…………ってシホさん?」
ふと彼女の方に視線を向けようとしたが、そこに彼女の姿はなく。
通り過ぎた方にうつ伏せで倒れる、彼女の姿が微かだが確認できた。
あ(察し)
「いやこんなときに空腹モードかーーーーーい!!」
狙って……いるわけではなさそうだがタイミングが良すぎじゃあないか。
俗に言うご都合主義だとかお約束のような部類ではない。頼むからもうちょっと踏ん張れないの?
どうやらバッテリーが尽きてしまったようだ。kyな彼女の腹の減りようはいつも私の期待を裏切らない。
「ならミヤリー! なんでもいいから巻いて!」
「わ、分かったわよ!」
ミヤリーは闇のまとった斬撃で一振り。
巨大な斬撃がデスホーネットに直撃し爆発。
よしこれでやった。
と確信。
明らかにヒットした感じしたし勝ち確。
なんてぬか喜びしたのも一瞬で。
多少怯みはしたものの、再び私の方へ向かってくるデスホーネット。
「嘘でしょ!? ハチかなんか知らないけど……おとなしくやられないとかおかしいわよ!」
「1人じゃ無理そうですね、ここは力を合わせて応戦しませんと。ぐっ空腹が……何か食べ物が近くにあれば」
その前にシホさんを救出しに行きたいのだが、距離的に無理がある。
ひとまず途中で倒れ込んでしまったシホさんは後回しにし3人で対抗策を探す。
とりま。
能力でおにぎりを生成し、シホさん側の方へと放り投げておく。
あとは彼女がそのスタミナ源となる、おにぎりを認知してくれれば多少勝機が持てる。
お願いだから気がついておなしゃす!
「よし2人共、そろそろ逃げるのはやめて真っ正面から戦うよ」
「……愛理さん服の色がまた…………って今度は白と青ですか。私の色となんか被っているような気がしますがまあいいでしょう」
「確かにそれもそうね、どうにかできるんでしょうねそれで!?」
「おうよ任せておけ」
私はミラクル・ラビットパーカーにチェンジして立ち止まり。
デスホーネットと立ち会う。
2人は私の後ろで敵の出方を伺いながら次の攻撃に備え後衛へと周り援護へと回る。
よだれを垂らしいかにも殺してきそうな見た目からは、殺意が感じられるが今はこれしかない。
シホさんが目覚めるまでの時間稼ぎ。
もしかしたらまた私が仕留めたりするかもだけど、彼女が目覚めるまで3人で足止め。
まだ使用頻度は多くないけど、性能は別段高い。
分身能力辺りが効くかどうかは別として……試す価値は大いにありだな。
「やるときはやるってところ見せてやろうじゃねえかハチさんよぉ」
鋭い針を私達に向けながら待つハチを相手にして。