86話 うさぎさんの戦士、町のコロシアムに参加する その1
【飯テロは人類が作り出した最強釣りエサ説が濃厚】
翌日。
昨日、大会の説明を聞き、時間もいい具合だったのでそこでお暇した。
周囲に建つ、林立とした建物の中からこれだという自分達にあった宿屋で一泊。
探り回っていて分かったのだが、宿の数も山ほどあった。高価そうな外装と武器を象っているオブジェなどがたくさんあり選ぶのに一苦労した。
そして今日。
街の通りにでると人の賑やかな声が、いくつも重なり合い賑わいを放っていた。
雑踏で溢れる人の数はというと某即売会にいる連綿としたオタクのように多く、歩くのにも一苦労。
立ち止まれば、冒険者達に押され先へ進めなどと急かされ時間は待ってくれない状況だ。
「人多いですね、昨日とは打って変わった感じです」
「聞けばここって大会の日になると、大盛り上がりするみたいよ」
祭みたいなものかな。
そういえば辺りに昨日はなかった露店がちらほら見える。
ラーメン、焼き鳥、果実を焼いたものなど。
こういった文化が発展しているということは、やはり私以外にも転移者、転生者がいるということかね。
現に。
狂政がいるように、他にもこの世界へ訪れている人が居るということを多少視野に入れるべきか。
なにやら美味しそうな臭いが漂ってくる。私も知っているぞこの芳醇な香りは……飯テロじゃん。
臭いに導かれるまま進路を辿っていくと屋台で調理している場所へと行き着く。
「……愛理さんこの金ぴかご飯は一体なんなんですか?」
すると急にスーちゃんが、匂いに釣られてとある露店の方へと駆け出す。
私の袖を引っ張りながら興味を魅き屋台の方に指を指す。
背が低いので頑張って身を乗り出し、うさぎのように。
ぴょんぴょんと跳ねながら対象物を確認しようとしている。
なんかかわいい。
きんぴかご飯とは一体なんぞやと、私は鈍足で駆け寄る。
きんぴかご飯。
……。
「きんぴかごはん……ってあぁこれか」
そのきんぴかご飯の正体が一体なんなのか、近づいて凝視するとなんのことか合点がいった。
「あぁチャーハンか」
「チャーハン一体なんなんですかそれ?」
「聞き慣れない料理ねそれ、こんな黄ばんだようなご飯が果たしておいしいのかしら」
こら! ミヤリー食べ物に文句をいうんじゃない! ……って店主が焼いているチャーハン? を焼きながらこちらを眼付けている。
異世界にチャーハンの文化ってあったっけ? 作品にもよるがピラフのような物はあった気がする。
色や臭いまで完全に同じだし、これがこの世界におけるチャーハンなのだろうか。
きんぴらご飯ね。
畢竟。チャーハンは黄金チャーハンとも言われているし名称的には違和感はない。
すると黙々とした店主から厳つい鋭い視線が向けられた。
(なにこれ、私なんか邪魔しちゃあ悪かった感じこれ?)
と心で冷や汗をかくような気まずい顔をする。
墓穴を掘ったかと少々背徳感を覚えながら。
それは不良に喧嘩をふっかけられた、ときのような表情でガチで怖く感じた。
「す、すんません。調理の邪魔なんかして。邪魔でしたよね」
うなり声を上げながら物言いたげに依然としてこちらを見つめる。
根太いその怨声は自然と私に鳥肌を立たせるのだった。頬とかつねって来ない大丈夫なのこれ?
とりま弁明してみる。
「邪魔した訳じゃないんすよ。……においに釣られて美味しそうだなぁって」
いや私説明するの下手くそか。
そんなことを考えていると追い打ちを掛けるように後ろからミヤリーが小さくささやき。
「下手じゃないあんた説明」
「うっせえ! これでも頑張った方だぞ? ……というかそれ自分でも思ったことなんだけど!」
意外みたいな顔すんのやめろや。
なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔して。
店主の方に向き直ると。
「……」
少々間が空く。
まじまじと見つめる店主は、しばらくしてからようやく口を開いた。
怒鳴られるか?
うん、"覚悟はできているか? 俺はできている"とか言ってきそうな視線。
大丈夫かな、連続パンチされて吹っ飛ばされたりは。
「面白い格好してるな。気に入った、ほらよこれは俺からのサービスだみんなで分けて食ってくれ」
急に解顔させ綻んだ顔になる店主。
と店主は私達に人数分のチャーハン? を手渡してくれた。
怒られるどころかセルフサービスでもらっちゃったよ。
「うさぎの姉ちゃんあんた面白いな。旅芸人か?」
「いや、一応うさぎの冒険者なんだけど」
「……最初その黒服の子の愚痴を聞いてイラッときたが、あんたのその様子見ていたらそれも覚めてな。それにそっちの小さな魔法使いの子を見ていたらそうもいかないと思って」
やさいせいかつ。
というか根に持ってたんかい!
我ながら店主の怒りを鎮めることには成功したらしい。
と私が代金を支払おうとすると、手の平を向けてきた。
拒むような様子で。
「ああいいっていいって。あんたら別の大陸から来たんだろ見れば分かる。それはサービスだこの町を十分楽しんでいってくれよな」
「あ、ありがとうございました」
とGJサイン。
めっちゃ心の広い人だった! おっちゃんなにものだよ。超能力者か予知能力者!? うんわからん。
しかもチャーハンめっちゃ盛られているし。
「ただでくれましたね」
「……愛理さん、このご飯凄く美味しいですよ。もぐもぐ手が進みます……ぱくぱく」
「黄ばんだご飯とか言っちゃったけど、案外美味しいわねこれ」
先ほど通称チャーハンアンチと化していたお方はスプーンを口に運ばせ幸せそうな顔で頬張っている。
シホさんは……ってもう完食しちゃってるし……やはり彼女の食べっぷりは大食い級だな。
【バトル厨はいつも戦うことになると性格もが変わるやつもいるらしい】
腹ごしらえが済ませ会場へ。
形はドーム状の石英構築の大きなコロシアムだった。
冒険者らしい人々が群がるように受け付けの方へと並び、長蛇の列を作っていた。
少し冒険者達の声を盗み聞き。
「俺、このコロシアムの戦いで優勝したら結婚するんだ、だからこの戦いは誰にも勝利をゆずれない」
死亡フラグを公の場で晒す戦士。
ちょっとそこにいる戦士さん、それ絶対帰ってこれないパターンですよ?
「必ず会心が出る斧買ったんだけどさ、全然攻撃が当たらないんだけどこれ大丈夫か? 言っていた通り会心は必ず出るがいつも攻撃が全部当たらないから扱いにくい」
「おいおい、だったらそれ外せよ、やっぱり使い慣れた武器の方がいいと思うぜ?」
「無理、はずそうとしたけど外れない」
「まじで?」
呪いの武器に悪戦苦闘する斧使いと盗賊さん。
それ致命的なデメリット背負った武器だけど、バグ技使えば2回攻撃できる最強武器になるのでは。よしこんなところに油を売ってないでラスボスの城まで行こうぜお二方。
「それにしても中々番が回ってこないですね、私達は何番目になるのでしょうか」
「そんな私が知る由ないよ。あと100年待てば大丈夫だと思う」
「愛理ふざけたこと言わないでよ。ここはもうちょっとだとか言えばいいんじゃない?」
ふざけたことって。
ディスるなよ、咄嗟にでたジョークなんだからさ。……ちょシホさん! ジョーク! ジョークだから!
険しくなりそうなシホさんを見ていられず、私は冗談だと言い切る。
「スーちゃんなんかない?」
「……なんかとは?」
この状況を打開すべく、スーちゃんに問いかける。
愛らしい様子で首を傾げ目を丸くさせているが、ねだるように私は彼女に頼み込み。
「ちょっとだけでいいんだ、魔法なんか使って」
「ダメですよ、ちゃんとま………………って?」
仕方なしに先ほど予備用に買っておいたチャーハンを取り出す。
本当はシホさんにあげるつもりだったが前言撤回。
これが私の最後の足掻きだああああああああああ!
「……それはチャーハン!? 早く言ってくださいよそういうのは。……仕方ないですねやりますよ」
スーちゃんちょろい。
凄く気に入っていたみたいだし上手く話を運ばせることができた。
天才魔法使い愛理さんの術中にやぶれたり! ……なんつって。
「あまりこの魔法使いたくなかったのですがチャーハンのためなら」
【スーちゃんは熱烈チャーハンリストの称号を手に入れた!】
熱烈チャーハンリストってなんやねん。
なにやらスーちゃんは魔法を唱え始め、小声で言い放つ。
「……インチキン」
すると即座に受け付け前までワープした。
ちょうど前の人の順番がおわったタイミングだった。
インチキンって。
まんまインチキな魔法ってことかな。
【インチキン 説明:ずるいことができる魔法。状況に応じて対応可能詳細は不明】
事情絡みの秘密事項てんこ盛りな魔法。ほかにも色んなことできそうだな。
って私達の番が回ってくる。後ろの人から悍ましいオーラが漂ってくるが、無視だ無視世の中騙された方が負けだってね。(さりげなく図に乗るアホなクソうさぎ)
「4人参加ですか?」
「いいえ、私1人で他は私の応援です」
シホさんが自ら率先して言い出す。
そして土台に出された1枚の紙切れに、書いてある項目欄に色々書き込んでいく。
記入がおわると、お姉さんからコロシアムの説明が始まる。
まとめると。
多人数で勝ち進んでいく、言わばトーナメント方式。
復活戦もあるらしく、多少の保険がきいたような内容だった。
あと当然だけど殺すのは原則禁止、相手側が一方的に戦闘不能の状態ならばそこで試合終了。
余計な手出しをすると即失格となる。
「他にご用件は? もしなにもなければ先へお進みください」
不正はなかったと言うべきか。
というか周りの人も何事もなかったように聞き流しているけど……。まあいっか。
ばれなきゃ反則じゃないんだぜ?
☾ ☾ ☾
会場へと進み、一旦シホさんと分かれ、私達は観客席側へと向かい、コロシアムの開会式を見物。
シホさんの方を見ると、こちらの存在に気がつき軽く手を振ってくれた。
「……彼女やる気満々ですね」
「シホらしくていいじゃない。それにあのベルトただ巻いておくだけって博士言ってたし」
サーセン博士が手渡してきてくれた無限ベルト。
これはボタンを押すと錠前が展開し、体に完全固定し効力が働く。
ヒーロー物でみたことあるぞこれ。……1度やってみたかったんだよね高々に『変身ッ!』って。
あ、でももう私やっちゃってるか。『ラビット・パーカーチェンジ!』って。あわよくばもっとかっこいい格好で言いたかった。過ぎ去ったことにぐだっているのはあれだけれども。
先ほどからシホさんは、一切倒れることなく余裕ぶっているが。
なんかシホさんがシホさんじゃない。
なにをいっているか分かんないと思うけど、とりあえずそういうことだとお察ししてくれ。
程なくして。
1回戦が始まる。
客席で遠目で土俵を見ながら戦いを観戦する。
ようやく
シホさんの番が回っていき彼女は円形の場に姿を現す。
相手は武闘家。格闘系の闘着をした一般男性。
「ふふ、この日の為にどれだけ力を付けてきたか。女戦士殿手加減は無用だいざ尋常に勝負」
「はぁ。よく分かりませんがわくわくしてきましたよ。失望させないでくださいね」
優しい面々を持ちつつバトルファイターと化したシホさんは、しかめた目つきになり愛用の剣と盾を携えた。
そして開始の合図となるホルンが鳴った!
最初に駆け出したのは武闘家。
手に何やら火の衣を纏わせ火の拳を彼女に向かって放つ。
「たあああああああ!あたたたたたたた!」
猛然と放つ炎の拳。
高速から放たれる火花散るパンチにシホさんは軽やかに避ける避ける。
「豪快な攻撃ですね、見事な正確な位置で攻撃してくるとはお見事」
余裕ぶりながら彼女はいつの間にか、彼の背後へと瞬間移動。
彼は残像を追い後ろを向く。彼女の存在に気がついた武闘家は。
「なっ! いつの間に」
「遅い」
聞く間もなく、シホさんは手に持つ剣で二連撃を放つ。その攻撃によって勢いよく地面へと叩き潰される。
「へへ、油断したまさかこれほど強い剣士とは願ったり叶ったりだ! だあああああああああ!」
「っ!」
豪快な炎の拳を彼女に向かって放つ。どうもこれが彼の精一杯の大技らしい。
「これは、どんなものだろうと焼き尽くす防ぎようもない技。いくらあんたでもこれはさけきれまい」
するとシホさんは、片手に持つ大きい丸い盾の方を前にだした。
「そんな弱そうな盾で何ができる! この俺の大技を防ぎきった者は誰1人とていなああああああい!」
「それはどうでしょう」
衝突する拳と盾。
突風を発生させながら、渦巻く歓声の中圧抑を加え敵からの攻撃を増長するがごとく押し上げていく。
拳を頑丈な盾で払い飛ばすと彼の身を包む火は火花を散らしながら消え去る。
「ば、ばかな!」
「残念でしたね、私の持つ盾は特別製なんですよっ!」
その場で静止する敵を、右手に持つ剣に力を入れシホさんの渾身の剣撃が炸裂する。
舞い上がるかまいたちのような強烈な斬撃。風浪のごとく吹き荒れる嵐の刃は敵を巻き上げる。
たちまち交差する斬撃の渦に巻き込まれ体が反った。
タイミングを逃さず、彼女は数メートルほど離れた彼に向かい宙を蹴り跳躍。そして風の中を丸ごと断ち切るように力を込め一閃。
彼女が着地し剣を鞘に収めると、渦は次第に縮まっていき消滅。
敵は苦しそうな声を上げながら、地面へと落下し為す術もなく落下。最後の力を振り絞り手のひらをシホさんの方に向けるが。
「ま……待て! しょ……勝負はま…………だ! ぐふ」
しかし体力に限界がきていたのか、とうとう荒い息づかいをした後にその場で倒れ込むように気絶。再起不能である。
周りも今何が起こったのか分からず、漠然としていた。数秒おいて歓声が彼女に向かって響き渡った。
「あぁどうもどうも」
RTAシホさんやばすぎ。
照れくさくはありながらも、彼女は引き続きコロシアムにて連戦を重ねる。
圧巻の実力差、そして彼女の高い技量を最大限まで活かした華麗な戦術は観客を釘付けにさせるのだった。