13話 Secret meeting and noisy launch~秘密の会議と騒がしい打ち上げ~
「「「「カンパーイ!」」」」
「おいちょっと待て、なんで部屋にウィーク以外がいるんだよ」
無事模擬戦も終え、部屋に戻ると豪華な食事と見慣れた顔ぶれがいた。
ユイナとウィークはともかく、ヘンドと、もう一人は……ユイナに瞬殺されていた子までまでちゃっかりいた。
「お前ら、何やってんだ」
「テストが終わったら打ち上げはしないとね」
ユイナが当たり前かのように言ってくる。確かに行事とかが終わったら打ち上げはするが、テストが終わって打ち上げをするものか?
そこのあたり常識が違うのかもしれない。
「打ち上げをするのは分かったがなんでヘンドと、ユイナに瞬殺されていた子までいるんだよ?」
「ちょっと!なんで名前がわからないんですか」
「いや、名前が覚えにくいなと思って」
「なんでクラスメートの名前を覚えていないです!?」
「クラスに入って少ししか経っていないのと、ユイナに瞬殺されていたのが相まってだな」
「瞬殺されたこと言うのやめてくれません!」
だって、すぐにやられてたらその記憶しか残らないじゃん?だってインパクトが強すぎるんだよ。
「わるい、それで名前は何て言うんだっけ?」
「ミリカ、ミリカ・ファロンですわ。お気軽にミリカとお呼びください」
「わかった、よろしくなミリカ。それより何でこの部屋にいるんだ?」
「それはユイナさんに勝つためですわ!」
「はい?」
思わず変な声が出てしまったが、こいつは何お考えてるんだ?
なぜこうな事になってしまったかはわかる気もするが、確認をするためにじっとユイナを見つめる。
「あははは……実は私が模擬戦で勝ってからこの調子なんだ」
「当たり前ですわ、負けた相手に負けっぱなしはファロン家のプライドが許しませんわ。さあ次は何で勝負しましょうか」
「何でもいいよ」
「ではじゃんけんで勝負をしましょう。では尋常に勝負!」
「最初はグウ、じゃんけんポン、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ、…………」
二人はじゃんけんを始めたが、わざとやっているんじゃないかというぐらいあいこが続いている。
そんな女子の陰で、ほとんど空気扱いされている男子の姿がそこにあった。
「暇……だ」
「うん、暇だね……」
だめだ、これは重症だ。相手をされなさ過ぎてショックを受けているパターンだ。正直言ってウィークの弱っている姿は拝んでいたいが、ヘンドの弱っている姿は見たくない。
「なあヘンド、どうしてお前がここにいるんだ?打ち上げに参加するキャラには見えないんだが」
「ウィーク……に、連れてこられた……」
「なるほど、お前も災難だったな。そこの災難の源はほっといて、ご飯を食べようぜ」
「ほっとかないで!少しは僕も相手してくださいよ!」
流石に耐えられなかったウィークが切れてしまった。そんなに相手されないのがいやだったのか、さっきからイライラしている。
「どうしてお前、イライラしてんだ?」
「そりゃあイライラしますよ。模擬戦で瞬殺されて落ち込んでいたところに、打ち上げなのにガン無視される僕の気持ちにもなってくださいよ!」
「そ、そうか。それは、すまなかった」
ウィークのものすごい剣幕に押され、謝ることしかできなかった。
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スカード・カイソンは今、ある部屋の前に立っていた。呼吸を整え、意を決する。
三回扉を力ずよくノックする。
「スカード・カイソンです!例の結果を、お伝えに来ました」
「入れ」
扉を開けると、アルステラ魔法騎士学園第36代目理事長シグルス・ラケルタの姿がそこにはあった。
シグルス・ラケルタは重々しい空気を漂わせていた。気の弱いものが睨まれたら失神しそうな眼を持っている彼は、空いてある席を指さす。
「そこに座れ、少しは楽にしていいんだぞ」
「では、お言葉に甘えて」
スカード・カイソンがそう言い、座るとさっきまで漂っていた重々しい空気は一瞬にして無くなった。
「今回の入学性、イガラシ・カズトはどうだった」
「はい、報告によりますと魔法のテストでは何とか合格したそうです。火の粉、水噴射、までは順調に合格したそうですがで問題があったそうです」
「問題とは何だったんだ?」
「実は、魔導石にヒビが入るほどの魔力を込め微風の魔法を発動したところ、中級魔法の暴風ほどの威力があったそうです」
シグルス・ラケルタは眉間にしわをよせ、信じられないという表情をしていた。
「それは確かなのか?」
「はい、ハイケルからの確かな情報です。彼女ほどの魔法の使い手が言うのですから間違いないかと」
「そうか、それなら模擬戦のほうはどうだった」
「模擬戦の内容は――――」
スカード・カイソンは一通りの説明をしていく。防戦一方だった事、その状況を打破すべく誰も思いつかない行動をとった事、最後は引き分けで終わった事。
「――――という事が模擬戦の主な内容です」
「大体は分かったが、スカードの見て思った感想を正直に言ってほしい」
「私が見て思ったことは、矛盾しているという事です」
「どういう事だ?」
「イガラシの身体能力は、鍛え抜いてもたどり着くことができるか分からないぐらいの境地に達しています。ですが、剣さばきは全くなっていません。剣術だけで見れば、ほぼ素人と変わらないでしょう」
「なるほど、これで確信が持てた」
シグルス・ラケルタは今までの話を聞いて一つの可能性にたどり着く。
「イガラシ・カズトは天の祝福者の可能性がある。」
「……どうしてその結論に」
スカード・カイソンは声を震わせながらその疑問を投げかける。その表情は何か後悔をしているように見えた。
「今まで授業で使っていたのは最下級クラスの魔導石だった。だが、テストの時に使われていた魔導石は中級ランク、まず割れることはない。そして並外れた身体能力、剣術は素人。何らかの能力を使ったと見て間違いないだろう」
「もしイガラシが天の祝福者だった場合でも、絶対に守り切ります。私の、いや俺の生徒は何があっても守りきる。あの時からそう決めているんだ」
スカード・カイソンは力強く、そして決して折れぬ覚悟を持って、そう宣言する。
「あの事件から、もう4年が経ったのか。……お前がどれだけ辛い思いをしたかは、わかっている。それでもワシは、お前を頼りにしている」
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「どうしてこんな事になってしまったんだ」
周りを見渡すと、
ーー気持ちよさそうに寝ている、ミリカ。
ーー俺に寄りかかってくる、ユイナ。
ーーやけにハイテンションになっている、ヘンド。
ーー机に付して泣きじゃくる、ウィーク。
俺は、この状況をどうするか考えながら、一人悲しく食事をしていた。
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スカード・カイソンがシグルス・ラケルタを訪ねていた頃、五十嵐たちは食事をしていた。
ユイナとマリアの勝負はユイナに軍配が上ることで、並べられていた豪華な食事にありついているわけである。
「そろそろ醍醐味を投入しないと」
ウィークがそう言い近くにあったガラス瓶を手に取る。
俺は手に取った物を見て目を疑ってしまった。
「ウィーク、これってまさか酒か?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「いやいや、俺たち未成年だろ。酒なんて飲んだらだめだろう」
俺は当たり前のことを言うと、周りは俺を信じられないかのような目線を送ってくる。
「イガラシさんは、お酒を飲めないんですの?」
「飲めないんじゃなくて、飲めないんだよ。俺の国では煙草も酒も、20歳にるまで飲んではいけないっていう法律があるんだよ」
「おかしいですわね?18歳まで飲んではいけない法律がある国は聞いたことがありますけど、20歳何て聞いたことがありませんわ」
この世界の飲酒のルールは甘すぎるだろ!未成年で飲酒すると体に悪いって、中学生でも習う一般常識だぞ。
……この世界で俺の常識が伝わった事が無いかがする。
そう思うと別世界なんだなとつくずく思う。
「ところで、この国の法律では何歳から飲酒オッケーなんだ?」
「カズトはつい最近この国に来たばかりだから知らないだろうけど、アルマート国では12歳から飲酒は許可されているんだよ」
ユイナがそう答えてくれた。それよりも12歳からオッケーという事は、ここにいる全員は酒を飲んだ事があるってことか?
「お前ら酒飲んだ事がある奴は?」
「私は貴族のパーティーとかで飲みますわよ」
「私も飲んだ事があるよ」
「俺も……飲んだ事はある」
「僕は良く飲むよ」
全員飲んだ事があると、この中で俺だけ飲めないのは恥ずかしい気がする。かといって飲んでいいのか?
良いはずだ、この国では法律でオッケーされてるんだから。
「よし、ドンドン飲もう!」
「「「「おおーー」」」」
そしてみんなのグラスに、赤色のワインのような酒を注いでいく。
みんなのグラスに酒が入り、高く掲げる。
「無事テストが終わったことを記念して、かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
とりあえず一口飲んでみる。
マズ!このアルコールの味が苦手だ。よくみんなは飲めるよな。
ウィーク何て一気に飲み干したぞ。
そこそこ順調に酒盛りが進んでいた頃ミリカが、ある事を口にする。
「ユイナさん!私は、あなたに一度も勝てていませんの。今ここで飲み比べの勝負をしましょう!」
「良いわよー、どこからでもかかってきなさい!」
お互いに酔っていると思われる、ユイナとミリカが勝負をし始めた。大丈夫なのだろうか?お互い顔が赤い。
ユイナとミリカを心配するだけではだめなようだ。
――ウィークが、鳴き始めている。
「僕だって頑張って、ヒック、たんですよ!それで瞬殺されるって、ヒック、どういうことなんだよ」
「おいおい、どうしたんだよ……?」
「イガラシ君は良いよね!ヒック、もともとそんなに強いんだから。僕だって、ヒック、強くなろうとしてるんですよ!それなのにあいつは、あいつは!ウワアアァァァ!」
どうするんだよ、これは手をつけられない。
ウィークの対応に困っていると、奇声が聞こえてくる。
「OU、IYAAAAAA!!!」
誰だよこいつ、絶対にヘンドじゃないな。というかヘンドじゃないと信じたい。
あんな気だるそうな少年がこんなことになるはずが無いんだから。
「Ou?カズト!もっと酒を飲めよ、せっかくの酒盛りだろ!?」
「ことごとく期待を裏切ってくんな!ていうかお前ら酒癖悪!」
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ユイナとミリカは飲み比べをして、ミリカの限界がくるのがユイナより早く、酔っ払って寝てしまった。
対戦相手がいないユイナはさっきから俺に突っかかってくる。
ていうか、やけに密着してくる。さっきからチラチラと谷間が見えてまともに顔が見えない。
「カズトー抱きついて良い?」
「いやいやだめだろ。何でも俺に抱きつきたいんだよ」
「やったー!抱きついて良いんだね。じゃあ遠慮なく、ぎゅー!」
ユイナが俺の体に抱きついてくる。体にさっきから柔らかい感触が襲ってきてユイナの顔をまともに見えない。
「ユ、ユイナさん?そういうのは好きな相手しかしてはいけないんですよ」
「じゃあ私はして良いんだね」
「へ?それってどういう……」
「だって私カズトの事がーー」
俺に何かを言う前に力尽きてしまった。さっきは、何て言おうとしてたんだろ?気になる。
意味深な発言した張本人であるユイナはスヤスヤと俺の膝で眠っていた。
「まあ、また聞けば良いか」
さっきのことは、また聞くことにして心の棚に入れておくことにした。
こうしてテスト終了祝いの打ち上げは終わったのだった。
付け加えるとウィークは夜中じゅう泣きじゃくり、ヘンドはさらにテンションが上がっていた。