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物騒なハロウィン 前編

「ねぇ起きて!そっちが起きてくれないとこっちの準備が遅れるの!早く起きてよ!」


 朝6時。寝ている所を妹の優希に起こされた。まだ、もう少し寝たい。


「んん…まだ…もうちょっと…あと…5時間……」

「せめて5分にしなさいよ!!……いや5分も寝かせないから!さっさと…してよっ…!」


 そうして、体を起こされ、無理やり食卓にひきずりこまれた。急に起こされたから目がぼやけて前がよく見えないし、状況が飲み込めない。よーく目を凝らしてみると、白飯…のような何かと、味噌汁…のような何かが机の上に並んでいる。

「いただきます」と、優希の声が聞こえた。そうか、今朝飯の時間か。


「ちょっと…さっさと食べてよ。あたし、さっきから遅れるって言ってるでしょ」

「わかった、わかったから……いただきます」


 優希に催促され、箸を持つ。ぼやけた目を覚ますため、まずは温かい味噌汁を体に流し込んでいく。やがて目の前がはっきりして、景色が見えてくる。

 制服の上からエプロンを着た優希の姿が写し出され、何故かその視線はやや斜め下を向いている。…こいつスマホ見ながら飯を食ってやがる。


「優希……スマホ見ながらの飯はやめろ。目が悪くなるし、味噌汁飛び散ると壊れるぞ」


 優希に注意をしてみる。しかしその顔は、どこか腑に落ちない表情へと変わった。「いや…あのさ…」と、反抗期の優希は何か反論してくる。


「…いつも夕飯の時に本読みながら食べてる人に言われたかないよ…」

「そうかな…」

「そうです!!自分で買った本ならまだしも、借りた本を机に置いて読むなんて言語道断ですっ!あとはよ食えって言ってんでしょうがっ!!」


 早く食え早く起きろだのせっかちな優希に急かされ、間も無く朝食を終えた。







 学校に行くための準備を整え、寮の玄関までやって来た。その場でしゃがみ込み、リュックを床に置く。ジィー…と、リュックのチャックを開けて中身を確認してみる。教科書やノート、筆記用具などが入っている。そして…

 この間用意した「サクラ」の衣装も、綺麗に折り畳んで入ってある。一応これで外出先でも着替えられるため、行く先々で戦いに身を投じることができる。そう…全ては"世界(ここ)にいるはずの家族に見つけてもらうため。白や黒の活動や、街の安否なんてどうでもいい。


「姉ちゃん……」


 キュッッ!!と、反射的にリュックのチャックを勢いよく閉めた。そう、私が『闇の魔法』を使える、ということは誰にも言っていない。16年間、ずっと隠し通してきていることだ。もしそれが気づかれてしまった時には白い瞬間(ホワイト・モーメント)に注目され、加入を促されるという面倒くさいことになりかねない。

 後ろを振り向く。ビシッ!!と、優希が金属製のお玉を私に指して、「ふふん」と笑った表情をする。


「トリック・オア・トリート…!さあ、どういう意味か分かるよね?」


 …なんだそれ。と思ったが、16年生きて来た知恵を振り絞って意味を探す。10月31日…

 そうだ、今日"ハロウィン"ってやつだ。


「ああ、今日ハロウィンか……なんだっけな…それ。菓子くれなきゃぶちのめすって意味だっけ」

「イタズラよ!!い・た・ず・ら!!どんな間違え方してんだか………ちょっとは世間の流れでも観察しておきなさいよ…」


 しかしそうは言われても、今は菓子を持っていない。無いものをせびられてもどうすることもできないが…


「すまんが私、今何も持ってないぞ」

「そりゃそうよ、まだどこにも出かけてないんだし。だ〜か〜ら〜…」


 持っているお玉をクルクル回して、もう一度こちらを指す。…というか何故こいつはいつもお玉を持ってるんだ。


「帰ってくる時にあたしの好きなお菓子を姉ちゃんが買ってくること……いいね?」

「んなアホな……お前今までそんなこと頼んで来なかったろ。最近寮に来てからなんか変だぞ」

「問答無用。拒否権はないよ」


 じゃあ、いいね?とか聞かないで欲しい。こんな歳になって姉に菓子をせびる、優希の思う「クール」とは何なのか全く分からない。


「それで、もしも用意できなかったら……」

「…できなかったら?」


 ボッ……と、優希の持っているお玉に激しい炎が灯る。そして笑顔のまま、しかし声は低く。


「ぶちのめす」


 やっぱり「お菓子くれなきゃぶちのめす」じゃないか。











「さて…どこまで読んだっけな」


 寮から出て、学園の図書室で借りた本を読みながら学園へ向かう。寮は学園から離れているため、少し歩く必要がある。あと、遅れる遅れると言っていた優希の中学校は割と近くにあり、アクセスは抜群らしい。だから早くしろと言われている割には食卓で雑談したりするので、意外と言っていることと違う。

 寮の土地を出て、すぐ目の前。そこには晴界学園のブレザーに身を包んだ薄緑のポニーテールの少女が石壁にもたれかかっている。


「あっ!おはよう遥さん!」

「おはよう瑠衣花さん。行こうか」


 星野 瑠衣花。この10月というタイミングで「転校」ではなく「入学」してきた生徒。私の右隣の席の人だ。最近は一緒に登下校をするなど、まさに今、私の数少ない"友"と呼べる存在の1人である。というか1人しかいない。


「遥さん…また寝癖倒しきれてないよ。ここにも…あっ!ここにもあるよ」

「いいじゃないか別に。今日身だしなみが重要な日ってわけでもないし…」


 こうして、朝の登校は瑠衣花さんとの閑談から始まる。重たいこともなく、他愛もない話ばかりでいつも盛り上がったりして、楽しい。


「そういえばそれ……遥さん、何の本?学校行く時も帰る時も読んでるけど」

「これか?これは『転生したらアホでした』ってやつだな。コミカルなタイトルからは想像できない展開だけど面白いぞ。読んでみるか?」


 すると瑠衣花さんは苦笑いで、


「う〜ん…うん!また今度…読もうかなぁ…………あ!!そうそう!これ…」


 読みたくないというのがバレバレな反応を見せる。どうやらこういうライトノベル系は好きではないらしい。それでもこちらの趣味を否定せず、少し寄り添ってくれる。

 私は彼女のそんな優しい性格に、ちょっと惹かれる。


「はいっ!これ。遥さん好きって言ってたでしょ?これぞ逆トリック・オア・トリート……なんちゃって…」


 瑠衣花さんから3本のスナック菓子が贈られた。その菓子の名は「うめぇー棒 きゅうり味」。お値段なんと1本10円。


「そうか、ハロウィンだったな…でもいいのか?3本も貰っても」

「全然!だって安いし……あっ!でも『安い女の人』みたいな…そういう意味じゃなくて…その…なんて言うか…」


 自身の発言にあたふたしてしまう瑠衣花さんだが、もちろんそんなつもりでは無いことは承知している。


「そんな…別に悪いだなんて思ってないぞ。私は気持ちだけで嬉しいよ。それに…これ大好きだし」


 読んでいた本を鞄にしまう。ビリ…と、早速菓子の袋を開け、ガブリと喰らいつく。すると口の中いっぱいにきゅうりの風味が広がっていく。独特な味で人気のないフレーバーらしいが、私はこのシリーズの中では一番好きなフレーバーである。

 バリボリと、咀嚼音をたてながら会話を続けて行く。


「聞いてくれよ、優希がさ…『菓子くれなきゃぶちのめす』って……」

「あはは…!!なんだそれ…」













「ねえ遥さん…なんか公園に人だかりできてるよ」


 学園に向かって数分、いつもとは違った景色に瑠衣花さんは気づいた。確かに、公園に人だかり…というか、特に子供達がいっぱい集まっている。

 2人で遠くから様子を見てみると、子供の声が聞こえてくる。「ありがとう!アナスタシア姉ちゃん!!」と。その声に、瑠衣花さんは大きく反応する。


「えっっ!?今、アナスタシアって……行こ!遥さん!」

「?? 誰だアナ…なんとかって…わっ!ちょっ…」


 子供達がいなくなった隙を狙ったかのように、瑠衣花さんに手を引っ張られ、公園に連れてかれて行く。様々な遊具が並んでいるその公園には、ただ一人ぽつんと立っているのは、少し背の小さい女。黒の衣装に、白のマント。腰には片手剣が鞘に収まっており、ワンサイドアップの赤髪には、所々に焦げたような黒い色が見受けられる。

 すると、赤髪はこちらに気づく。


「む……何だ諸君ら。ここらに何か用でも?」


 どことなく近づきにくい雰囲気を持つ彼女であったが、瑠衣花さんは構わずグイグイ迫って行く。


「あのっ!もしかして……"本物"…ですか…?」


 そう聞くと、赤髪は何やら改まった表情をして、腰に手を当てる。


「ふっ…まさにその通り…!!いかにも私g」


「…アンタ誰だ」


 割り込むような形でうっかり思ったことを口に出してしまった。さっきから状況が全くと言っていいほど飲み込めていない。アナ…何とか?本物?コイツは有名人なのか?

 瑠衣花さんは、後ろを向いてコソッと私に話しかける。


「遥さん…知らないの?この人白い瞬間(ホワイト・モーメント)で有名な人だよ!」

「すまん、全然テレビとか見ないからよく分からないんだ」

「あぁ…うん。そう言うことね……わかった!この人はね…」


 と、瑠衣花さんがあの赤髪について説明しようとした時、突然赤髪が笑い出す。


 「ハハハッ!!まさか我の名を知らない疎き者がいるとはな……いいだろう!冥土の土産に教えてやろう…」

(??? 冥土の土産って……私今から死ぬのか?)


 冥土の土産とか、場面に合わない言葉をチョイスする、いかにも"厨二病"という奴っぽいこの赤髪は、指を額にあてて変なポーズをとって名乗った。


「我が名はアナスタシア……白き教団の忠実なる僕にして、炎の主席なり…!!」


 パチパチパチ…と、瑠衣花さんは満足そうに拍手をする。私も、その名前を聞いてなんとなく思い出した。確か…

『白い瞬間(ホワイト・モーメント) 火属性 第一位 アナスタシア』

 そんな肩書きの奴がいたっけ。どうやら白い瞬間(ホワイト・モーメント)には属性魔法ごとに人員がカテゴライズされているらしく、各魔法のトップが『第一位』と評されるんだとか。


「あの…こないだの事件の動画が投稿されてて…すっごくかっこよかったです!!私…それで…なんかファンになっちゃったかも…しれないです…」

「ふん…当然だ。目に入った悪人どもを討つのが我々の務めというものだからな…」


 口ではそう言いつつも、顔が若干にやけていてちょっと嬉しそうなのが見え見えである。

 しかし、そんなことよりも私はこのアナスタシアに対して、ちょっとした違和感を覚える。

 アナスタシアで、炎。なんか、合わない。


「アナスタシアで…炎…か………"氷"じゃなくてか?」

「……人のネーミングセンスに口を出していいものじゃないぞ、そこの君」


 アナスタシアからお叱りを受け、「こらっ」と瑠衣花さんにも小声で怒られた。その後は、静寂。私の発言で何とも言えない空気になってしまった。

 そんな中、口火を切ったのは瑠衣花さんだった。


「あのっ!もしよかったら…サインとか…書いてもらえたりって…」


 ファンからのその頼み事に、アナスタシアは首を横に振る。


「…む、すまないな。それはできかねない。一般人からの写真の誘いやサインなどはしてはならんという上からのお達しがあってね…敵かどうか分からぬ者に印を残すな、とな」

「そうなんだ……ごめんなさい。結構厳しいんですね…」


 しかし、その残念そうな反応にアナスタシアは、


「代わりと言っては何だが……諸君ら、菓子は好きか?もしよかったら受け取ってくれ」


 と、アナスタシアが持っている鞄からいっぱい菓子が出てきた。


「わっ…いいんですか!?こんなに貰っても…」

「ああ、さっき子供達に配っていたんだが…結構余ってしまってな。これぞ逆トリック・オア・トリート…なんてな。これも何かの縁だ。遠慮なく受け取れ。君にも…ほら」


 アナスタシアからいっぱい菓子をもらった。チョコレートに、ビスケット…などなど、全部甘ーい菓子。しかし…


「ん…私はいらない」

「なんだ、遠慮せずに受け取れ。この我からの贈り物だぞ?受け取って損はなかろう…」

「いや…余計いらない。私甘いもの嫌いなんだ。お気持ちだけ受け取っておくよ、アナスタシアさん」


 シンプルに甘い系の菓子が好きではないので、感謝の言葉だけを述べて、差し出してきたその手をのけた。が、アナスタシアは怪訝な顔を浮かべる。


「余計…だと…?さっきから散々小馬鹿にしやがって……好意で譲り受けた物を好き嫌いで断るなんてしていいものではないぞ……貴様、歳は?」

「だから気持ちだけ受け取っておくって言ったろ………って歳?歳なんて聞いてどうだって言うんだ?まあ一応、さ…………」


 三十前半と言いそうになったが、それはあくまで前の世界の年齢を合わせた場合のおおよその年齢。ことあるたびに過去のことを思い出す時があるからか、ときどき年齢がわからなくなる。「…15だ」と質問に答えるとアナスタシアは、ニヤッとした表情を浮かべる。


「ほほう…もう高校生じゃないか。そんな歳になってまで好き嫌いなんて…恥ずかしいぞ貴様?」

「別に………誰だって嫌いな物もらったら嫌になるだろう。それと一緒だ。菓子の好き嫌いぐらい自由にさせろ」

「だからな!!それをあえて受け取っておくのが人間としての心得なんだよ!いいから受け取れ!!じゃないと……」


 口論が始まる。隣の瑠衣花さんはただただ気まずそうに周りをキョロキョロしている。…すまん瑠衣花さん。

 アナスタシアは俯いて、ボソッと一言だけ言う。


「私……こんなに……食べられないよ…」


 さっきまで威張った態度をとっていたアナスタシアは、小声でそう呟いた。ただの買いすぎで私達に押し付けているのか。どれぐらい買えば消費し切れるくらいも考えられないのかこの馬鹿。


「食べられないって……アンタ自分で消費する量も考えられないのか……」


 アナスタシアは私の言葉に大きく動揺する。


「なっ…今の聞こえ……うっ、うるさい黙れ!!青二才がっ!!我が食べたいわけではない……この聖なる菓子贈りの日(ハロウィン)に子供達に授けるため買った物だ!数なんて分からなくて当然だろう…」


 「冥土の土産」に引き続き、私はまた言葉に違和感を覚えた。


「…ん?青二才は女には使わない言葉だぞ?言葉の意味もわからんなんて……アンタ、相当餓鬼だろ。そんなので私を言い負かそうなんて10年早い。年下で言い負かせられた奴なんて……妹しかいないぞ」

「二十歳だよ!!はたち!!だれが餓鬼だこのクソガキ!!ほほう、そうか…ならどうせ貴様の妹もさぞかしおこちゃまな考えなんだろうな…」


 『プチッ』と、頭の血管が切れるような音がした…気がした。どれだけ我儘であろうと私の大事な妹だ。そんな事許さん。


「お前…今、妹の…優希の悪口言ったな…許さんぞ…」


 「ーー!ーー!」と、公園だけならず他の場所まで聞こえるような言い合いは、永遠に続くと思っていたが……


「ストーーップ!!!2人ともストップ!!落ち着いてよ!!」


 瑠衣花さんがその言い合いに終止符を打った。


「ほら、遥さん!もう授業始まっちゃうから!ねっ?それと…アナスタシアさんっ!今起こった事、全部忘れてくださいっ!でも…お仕事頑張ってください!応援してますっ!」


 グイッ、と瑠衣花さんに手を引っ張られて、目の前の公園がどんどん離れて行く。その間際に、アナスタシアは腕を組んで言い訳。


「ふ、ふん!今日はここまでにしておいてやる!ま、まあ?貴様の好き嫌いというのも分からなくはないが?でも菓子でそれをやるのはちょっ」


 その言い訳に間に入るようにして、私は口に手を当ててただ一言だけ。「黙れ餓鬼〜」と叫んでみた。すると山彦のように、


「…死ねッ!!!」


 …という鋭い返事が返ってきた。

第4話です。

また期間が空いてしまいました…筆を遅らせる原因のモチベーションの力ってすごいですね…

さて今回はちょっと長くなりそうなので前編、後編に分けてみました。近いうちに後編は出せるかと…

次のエピソードも読んでいただけると、とっても嬉しいです!!

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