表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき街の何でも屋 ~ネオン都市のストレイシープ~  作者: 薄氷薄明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

「何でも屋と、七人の客」

 再建されたばかりの、真新しい木の香りがするバー。

 だが、中身の空気は昔のままだ。

 カウンターの奥でクインが特殊銃の手入れをし、エイヴが新調された分厚い帳簿を睨み、ハリーがソファで退屈そうに欠伸をし、アーロが気怠げに窓の外を眺めている。



「……ねえ、これ聞いてよ」


 エイヴが帳簿の真新しいページを指差した。


「新しくできた一番街の酒場、法外なボッタクリをやってるみたい。国の衛兵の巡回ルートの死角と、時間帯の隙を正確に突いてね。法の下に置かれたからって、グレーな連中のしぶとさは相変わらずだわ」


「俺が店ごとぶっ飛ばしてきてやろうか」


 ハリーが嬉々として首の骨を鳴らす。


「馬鹿。公認窓口がそんな派手な真似できるわけないでしょ。表沙汰にせず、裏の理屈で潰すのよ。クイン、どうする?」


「……依頼なら、受ける。それだけだ」


 クインはカチャリと銃のシリンダーを戻し、静かに立ち上がった。



 その時。カラン、とドアベルが鳴った。


 店に入ってきたのは、七人の男たちだった。

 シドウェル、イオネル、ユーリス、ルシエン、ヴィリー、ダリル、イーデン。

 エヴァジスト王国騎士団の精鋭たち。だが、今日彼らは豪奢な軍服や重装甲ではなく、目立たない私服に身を包んでいた。


「……おや」


 先頭に立ったシドが、店を見渡して小さく微笑んだ。


「営業中ですか、何でも屋」


「見ての通りだ」


 クインがカウンターから身を乗り出す。


「王国のエリート様が、こんな掃き溜めに何の用だ」


 イオネルが肩をすくめながら、慣れた様子でカウンターに近づく。

「極秘任務でね。この区画の近くに来ているんだ」


「で、任務のついでにウチでサボりか?」


 ハリーがニヤリと笑う。


「人聞きの悪いことを言うな。情報収集という立派な任務の一環だ」


 ユーリスが呆れたようにため息をつきながらも、外套を脱いで席につく。ヴィリーやダリルたちも「ようやくまともな休憩ができる」と息を吐きながら、思い思いの場所に腰を下ろした。


 シドが、カウンター越しにクインを真っ直ぐに見据えた。


「そういうわけです。正規軍の目が届かない、裏路地のネズミの動向……。この街の『公認窓口』であるあなた方に、情報提供と……ついでに、この街で一番『ぼったくらない』美味い酒を依頼したいのですが」


 新しい街。新しいルール。

 それでも、彼らの居場所は、根本的なところでは何も変わっていない。

 表の法が裁けない歪みを、裏の理屈で処理する。強大な国家の騎士たちすらも、最後はこの泥臭い何でも屋のカウンターを頼るのだ。


 クインは、かつてないほど穏やかで、しかし確かなプロフェッショナルとしての顔で、七人の客に向かって言った。


「……依頼なら、聞こう」


 窓の外では、新しいネオンの光が、名もなき街――いや、『ネオン街』の夜を優しく、そして力強く照らし出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ