「何でも屋と、七人の客」
再建されたばかりの、真新しい木の香りがするバー。
だが、中身の空気は昔のままだ。
カウンターの奥でクインが特殊銃の手入れをし、エイヴが新調された分厚い帳簿を睨み、ハリーがソファで退屈そうに欠伸をし、アーロが気怠げに窓の外を眺めている。
「……ねえ、これ聞いてよ」
エイヴが帳簿の真新しいページを指差した。
「新しくできた一番街の酒場、法外なボッタクリをやってるみたい。国の衛兵の巡回ルートの死角と、時間帯の隙を正確に突いてね。法の下に置かれたからって、グレーな連中のしぶとさは相変わらずだわ」
「俺が店ごとぶっ飛ばしてきてやろうか」
ハリーが嬉々として首の骨を鳴らす。
「馬鹿。公認窓口がそんな派手な真似できるわけないでしょ。表沙汰にせず、裏の理屈で潰すのよ。クイン、どうする?」
「……依頼なら、受ける。それだけだ」
クインはカチャリと銃のシリンダーを戻し、静かに立ち上がった。
その時。カラン、とドアベルが鳴った。
店に入ってきたのは、七人の男たちだった。
シドウェル、イオネル、ユーリス、ルシエン、ヴィリー、ダリル、イーデン。
エヴァジスト王国騎士団の精鋭たち。だが、今日彼らは豪奢な軍服や重装甲ではなく、目立たない私服に身を包んでいた。
「……おや」
先頭に立ったシドが、店を見渡して小さく微笑んだ。
「営業中ですか、何でも屋」
「見ての通りだ」
クインがカウンターから身を乗り出す。
「王国のエリート様が、こんな掃き溜めに何の用だ」
イオネルが肩をすくめながら、慣れた様子でカウンターに近づく。
「極秘任務でね。この区画の近くに来ているんだ」
「で、任務のついでにウチでサボりか?」
ハリーがニヤリと笑う。
「人聞きの悪いことを言うな。情報収集という立派な任務の一環だ」
ユーリスが呆れたようにため息をつきながらも、外套を脱いで席につく。ヴィリーやダリルたちも「ようやくまともな休憩ができる」と息を吐きながら、思い思いの場所に腰を下ろした。
シドが、カウンター越しにクインを真っ直ぐに見据えた。
「そういうわけです。正規軍の目が届かない、裏路地のネズミの動向……。この街の『公認窓口』であるあなた方に、情報提供と……ついでに、この街で一番『ぼったくらない』美味い酒を依頼したいのですが」
新しい街。新しいルール。
それでも、彼らの居場所は、根本的なところでは何も変わっていない。
表の法が裁けない歪みを、裏の理屈で処理する。強大な国家の騎士たちすらも、最後はこの泥臭い何でも屋のカウンターを頼るのだ。
クインは、かつてないほど穏やかで、しかし確かなプロフェッショナルとしての顔で、七人の客に向かって言った。
「……依頼なら、聞こう」
窓の外では、新しいネオンの光が、名もなき街――いや、『ネオン街』の夜を優しく、そして力強く照らし出していた。




