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D評価だらけの最下位部署ですが、社長の孫にだけ才能の光が見えるので三ヶ月で立て直します  作者: そらのことのは


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第7話 証明

 証明とは、綺麗な資料ではない。


 圧倒的な「現実」を叩きつけることだ。


 大会議室。


 全社員の視線が、壇上の3人に注がれている。


 高瀬、坂井、久我。


 私は客席の端から、彼らを見ていた。視界を歪ませる。


 橙、青、白。3つの光が、強く絡み合っている。


 眉間の奥が、じくじくと痛む。昨夜からずっと、光を見続けている。


「それでは、第3営業部の提案を聞きましょう」


 専務が冷ややかに言った。


「時間は15分です」


 他部署の半分の時間。明らかな不利。


 だが——。


「15分で十分です」


 坂井が涼しい顔で答えた。


 突然、会場に轟音が響き渡った。


『ガガガガガ……キィィィィン……ドスン!』


 耳をつんざくような機械音。金属が軋む不快なノイズ。作業員の怒鳴り声。


 役員たちが顔をしかめる中、剛田部長だけは身を乗り出した。


「……町工場の音だな」


 坂井が頷いた。


「はい。これは、大阪の製造現場です。この音の中で、毎日何が起きているか——」


 音が止まる。


 スクリーンに映し出されたのは、1枚の写真。


 油で汚れた職人の手。部品が届かず、止まってしまったラインの前で呆然と立ち尽くす背中。


「私たちのAI物流システムは、効率化のためではありません」


 坂井の青い光が、鋭く輝く。


「この『止まった手』を、もう1度動かすためのものです」


 会場の空気が変わった。


 次に久我が前に出た。


「俺が実際に50社回って聞いた話だ」


 久我がスマホから音声を再生する。


『伝票がどこにあるか分からねえ』

『毎日45分も探してる』

『タブレット? そんなもん使えるか』


 久我の白い光が力強く輝く。


「『A-23の資材、どこだ?』って話しかけるだけで、AIが場所を教えてくれる。

音声入力システムです。既存のハンディ端末を流用した試作版は、もう動いています」


 最後に高瀬が前に出た。


「私たちは、帝都建設様で実証実験を行いました」


 高瀬の橙色の光が、温かく輝く。


「剛田部長、結果をお願いします」


 剛田部長が立ち上がった。


「ああ。うちの現場で1週間、資材検索の工程だけ試させてもらった。

最初は職人たちも嫌がってたが、3日目には『これ便利だな』って言い出した」


 高瀬が最後のスライドを出した。


『導入後の作業効率:+32%(資材検索工程のみ)』

『教育コスト:従来比-85%(初回研修時間の比較)』

『現場満足度:94%(現場監督・職長アンケート)』


「そして——既に5社から、導入に向けたPoC費用の内諾をいただいています」


 会場が沸いた。


 だが。


「待ってください」


 冷たい声が、熱狂を切り裂いた。専務だった。


「実証はたった1週間。それで長期運用を語るのは危険ではありませんか?」


 専務の目が、鋭く高瀬を射抜く。


「音声認識の誤認識率は? 

もし『A-23』を『A-28』と認識して、間違った資材で事故が起きたら——誰が責任を取るんですか?」


 会場が静まり返る。合理の刃。


 私は専務を凝視した。銀色の光が、鋭く輝いている。


 ——違う。これは「敵意」じゃない。彼は試している。本当に信用できるのか、と。


 視界が一瞬、暗転した。こめかみに激痛が走る。


(見すぎた……)


 高瀬が言葉に詰まりかけた時。


「専務」


 剛田部長が低い声で言った。


「あんた、現場を知らねえな。音声認識が100%完璧? 

そんなもん、最初からねえよ。でも、今のやり方も完璧じゃねえ。

伝票が見つからなくて、ライン止まってんだから」


 剛田が立ち上がった。


「俺たちが欲しいのは、完璧なシステムじゃねえ。

『今より少しマシ』なシステムだ。事故の責任? そんなもん、俺が取る」


 高瀬が顔を上げた。


「誤認は起きます。

だから、AIが認識した直後、『A-23、ボルトですね?』と音声で確認を返します。

作業員が『おう』と答えて初めて確定する。

0.5秒余計にかかりますが——その0.5秒で、事故は防げます」


 沈黙。


 専務が、わずかに目を伏せた。


「……なるほど。リスクヘッジとしては、妥当です」



 審議の結果。


「AI物流システムコンペ、最優秀賞は——第3営業部です」


 会場が沸いた。


 私は3人を見た。


 3つの光が、混ざり合い、巨大な虹色の柱となって立ち昇っている。


 勝った。本当に、勝った。


 その瞬間、強烈な目眩が襲ってきた。私は椅子の背にもたれかかった。



 会議後、廊下。


「柊さん」


 専務が立っていた。私は壁に手をついて立っていた。


「今回の判断は、正しかったようですね」


 私は専務を凝視した。


 銀色の光。その縁にあった黒い滲みが——薄くなっている。


「私は、効率ばかりを追いかけていました。

でも、あなたたちのプレゼンを見て気づいた。効率の先に、人がいる」


 専務が私を見た。


「誤解しないでください。私は、まだあなたたちのやり方を全面的には認めていません。

ですが——検証する価値はある、と思いました」


 専務は去っていった。



 その夜、第3営業部のフロア。


「やったああああ!」


 久我が叫び、高瀬が泣き、坂井が笑い、森川と上田と仁科が抱き合っている。


 私は、その光景を見ていた。


 フロア全体が、色とりどりの光で満ちている。


「真白さん! ありがとうございました!」


 高瀬が駆け寄ってきた。


「私は、何もしていません。戦ったのは、あなたたちです」


 深夜、執務室。


「おめでとう、真白」


 祖母が微笑んでいた。


「でも、分かっているわね? 光は、生まれた瞬間から消える可能性を持っている」


「第3営業部は守れた。でも、これで終わりじゃない」


 祖母は1枚の辞令をデスクに置いた。


『人事制度改革プロジェクトリーダー 柊真白』


「あなたの能力を、会社の『仕組み』にするの。あなたがいなくても、光が見つけられるように」


「専務も同意したわ。『再現性があるなら採用する』と」


 祖母は微笑んだ。


「第2章の始まりよ」


 私は辞令を手に取った。


 全員を救うつもりはない。

 だが、勝てる形には必ずする。


 私たちは、証明した。


 光は、個人の奇跡ではなく、構造で増幅する。


 それでも光は揺れる。常に、消える可能性を抱えている。


 だからこそ——仕組みにしなければならない。


 私がいなくても、誰かが光を見つけられるように。


 そして、新たな戦いが始まろうとしていた。

全8話。完結まで毎日投稿します。

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