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1日1回ガチャ無料!  作者: 相舞藻子
サフラ拒絶領域
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自分に素直に





 雪の都ピエタの夜。

 分厚い雲が空を覆い、月や星空は拝めない。


 だが、そんな分厚い雲を撃ち抜くように。

 炎で形作られた、”巨大な竜の顎”が天へと昇っていき。


 星空へと届く、大穴をブチ開けた。


 その大穴の中を。

 機械の翼を持つ小さな影、ミレイが飛翔する。



 その翼は、あっという間に雲の合間を抜け。

 美しき、夜天の下へと飛翔する。



「――うわぁ、綺麗。」



 ミレイの腕の中には、キララが抱きかかえられており。


 若干、身長差が否めないものの。

 いわゆる、”お姫様抱っこ”の形となっていた。




 分厚い雲と、輝ける星の海の合間を。

 目的もなく、舞い続ける。


 2人以外、誰もいない、なにもない。

 そんな、世界を。




「雲の上は寒いって思ってたけど。むしろ、街よりも暖かいね。」


「……うん。本当に温かい。」



 ミレイは、風を感じ。

 キララはぬくもりを感じる。


 2人の”あったかい”は、おそらくは別の意味であろう。



「……浮遊大陸。あんなのがあるくらいだから、やっぱ地球とは違うのかも。」



 遠い空の先に。

 雲の上に浮かぶ、巨大な陸地が見える。


 5つ存在するという、浮遊大陸、そのうちのどれかが。



 何もかもが遠くて。

 それでも、手を伸ばせば届きそう。


 そんな不思議な世界に、迷い込んだように。





「そもそも、もっといろんなクエストを受けるために、帝都に行こうって話だったのに。わたしのせいで、かなり足止めしちゃったね。」



「……ううん、そんなことないよ。」


 キララは、優しく囁く。


「わたしだけじゃなくて、ソルティアさんだってそう。”みんな一緒が一番だから”、そうしてるだけ。」


「……そっか。」



 ただ、想ってくれる友達がいる。

 それが何よりも、ミレイにとっては幸せだった。



「それに、いいことだってあったよ?」


「いいこと?」


「うん。ミレイちゃんを通して、シュラマルさんとか、イーニアちゃんとか、フェイトちゃんとも仲良くなれた。」


「あぁ、確かに。起きたら、みんな仲良さげにしてたから、ほんとびっくりした。」



 氷漬けになったミレイを、起点にするように。

 出会いが、また新たな出会いを呼び。


 取り巻く繋がりが、より大きなものへと変わっていく。



「ミレイちゃんが空から降ってきて、それを受け止めたって聞いて。まるで”おとぎ話”みたいな話で、ちょっと羨ましかったなぁ〜」



 その話は、きっとシュラマルから聞いたのだろう。



「そう? でもわたしは、”もっと素敵な出会い”を知ってるよ?」



 こんな特別な気分なため。

 つい、ミレイの口が軽くなる。



「この世界に来たばっかで、初めてのクエストを受けようって時に。ピタっと、”手が触れて”。不安や期待でいっぱいいっぱいだったわたしに、”一緒に行こう”って誘ってくれた。」



 その時の光景が、まだ昨日の事のように思い出せる。




「――そんな出会いのほうが、わたしは好きだよ。」




「……え。」


 その言葉の意味を理解するのに。

 キララは、少し時間がかかり。



 けれどもゆっくりと、頭に染み込ませると。



「――ふふっ。」



 ひどく甘美な夢の中。

 深く深く、沈んでいった。






◆◇






 ピエタの街のそばにある、広大なる森の一角。

 オールトの世界へとつながる、”ダンジョンの入口”があったその場所は。



 もう誰も近づかないように。

 フェイトの手によって、”巨大な氷の柱”が埋め込まれていた。



 氷の柱は、ダンジョンの最深部まで突き刺さり。

 オールトたちの残骸や、襲ってきた”木の根っ子”を、例外なく凍らせた。



 ”本来ならば”。

 これにてダンジョンは攻略され、それ以降は何も起きないはずである。



 だがしかし。



 オールトのダンジョンの最深部。

 その更に下に、もう一つ”別のダンジョン”が存在し。


 最悪の世界と繋がる門が、未だに開き続けていることを、誰も知らない。



 ”より強くなった”、その木の枝が巻き付いていき。

 絶対的な氷の柱に、亀裂が生じた。






◆◇






「ふっふ〜ん。」



 タンタンタンと、陽気なステップを踏み。

 ぴょんぴょんと、軽やかな足取りも忘れない。


 ”完治したことのアピール”なのだろうが。

 センスの欠片もないその動きは、まるで子供のおゆうぎ会のように見える。




 ホープ家の屋敷にて。


 ミレイ、キララ、ソルティアのパーティと。

 屋敷の人間であるイーニア。

 そして、フェイトを含めた5人が、部屋に集っていた。




「わぁ〜!」


 キララはハイテンションに手を叩くものの。



 それ以外の面子は。

 ”完治に至った経緯”を聞いて、ドン引きしている最中であった。 



「……寄生体に治してもらったって、とても正気とは思えないわ。」


「ええ。きもちわるい。」



 イーニアとフェイトに関しては、ミレイの人格すらも疑っている。



「そうでしょうか? この見事なまでの”浅はかさ”。これぞ、ミレイさんの本領というものでしょう。」



「ふっふっふ。やはり分かっているな、ソルティアよ。」


『……酷い侮辱のように思えるが。』



 なにはともあれ。

 自由に動けるようになって、ミレイはご機嫌であった。





「じゃあ、なに? 貴女たち、もう帝都に行っちゃうわけ?」


 イーニアが尋ねる。



「……まぁ。そう、なるのかな。」



 あくまでも、ミレイたち3人で決めることではあるが。

 怪我の療養が必要なくなった以上。近いうちに、帝都へ向かう予定ではあった。



「……フェイトも、ミレイと一緒に付いて行くの?」


 イーニアが、少し寂しそうに尋ねる。



「まっ、そうなるわね。主の命を守るのが、アビリティカードの役目だから。」


「”こんなやつ”、別に貴女の助けがなくたって平気じゃない? このままピエタに残ればいいのに。」


「そうね。有り難いけど、遠慮しとくわ。わたしの居ないところで死なれたら、ホントたまんないし。」


「……そう、なのね。」



 ミレイが氷漬けになり、眠っている間。

 使い魔的存在であるフェイトは、ミレイの守護をフェンリルに任せて。


 自分の力の影響で変わってしまった、この街の手伝いを行っていた。


 凍りついた、大量のオールトの死骸を砕き、地面に埋める作業をしたり。

 強すぎる冷気を弾いて、街の気候を安定させたり。



 ”能力”を遺憾なく発揮し、街の復興を行った。



 自身の力の影響で、街中が氷漬けになったと告白した際に。

 ピエタの街の住民たちは、フェイトのことを快く受け入れてくれた。


 敵の侵攻を止め、この街を救った救世主であるのは、紛れもない事実なのだから。



 そして、その中でも。

 特にイーニアは、フェイトのことを気に入っていた。



 自分よりも強い力を持ち、比較的歳も近い。

 そんな”特別な相手”だからこそ、こうして屋敷にも住まわせた。




 だからこそ。

 ”カードの所有者”という理由で、フェイトに自由に指図可能なミレイのことを、イーニアは内心疎ましく思っていた。




 Sランク冒険者とはいえ。イーニアはまだ、”10歳の少女”である。

 言葉や態度を、大人のように隠したりは出来ない。


 それ故。

 自分への”当たりがきつい”理由を、ミレイは何となく察していた。




「……えっと。別に、良いんだよ? わたしのカードだとしても、フェイトは”1人の人間”なんだから。自由に生きたって良いし、この街で冒険者としてやっていくのも、全然アリだと思う。」




 自分のカード、自分の能力によって生まれた存在。

 だからという理由で、フェイトを奴隷のように扱ったりなど、ミレイは絶対に思わない。



 そこに、”心”があるのなら。



 召喚者として、ミレイはフェイトの自由を尊重するつもりである。




 だが、




「――余計なお節介よ。別に、”アンタのため”に、わたしは道を決めてるわけじゃないわ。」




 フェイトからしてみれば。

 ”その考え”こそが、甚だ見当違いであった。


 主と使い魔だから。

 ミレイに死なれると、自分も消えてしまうから。


 ”そんな理由”で付き従うほど、彼女のプライドは低くない。




「……”わたしの運命”なんだから、わたしの好きにさせなさいよ。」


 誰にも聞かれないよう。

 フェイトは、そう最後に呟いた。




「!?」


 その瞬間。

 キララは謎の危機感を覚えたという。











「はぁ。」



 ミレイたちと話した後。

 どうにも気分が晴れないため、イーニアは1人、あてもなく屋敷の中をウロウロしていた。




 頭の片隅から離れないのは、楽しそうに笑う、”ミレイと仲間たち”の姿。



 元より、ミレイ第一で行動していたキララは別として。



 口では色々と言っていたものの。

 結局はフェイトも、ミレイの事を気にかけていた。



 最後の1人、ソルティアも、無表情で何を考えているかはよく分からないが。

 ああいうタイプの人間が、嫌いな人間と行動を共にするとも思えない。




(……”あんなやつ”、なんでみんな構うのよ。)




 領主の娘にして、4つ星カードの所有者。

 ”自分は特別”という認識が、物心ついた時から存在した。


 そのため、同年代の友達は1人も居らず。作ろうとも思わなかった。


 自分は特別だから。他者より優れた能力を持っているから。

 不甲斐ない凡人達の代わりに、この街を守る”義務”がある。


 そんな思いで突き進み。

 史上最年少で、イーニアはSランク冒険者の1人となった。


 けれども、まだ彼女は幼い、わずか10歳の少女である。

 子供としても未成熟で、素直になれない年頃でもある。




 ”自分が何を欲していて、なぜミレイのことが気に食わないのか”。

 特別が故に、気づけない。




 悶々としたまま、イーニアが廊下を歩いていると。




「――よっ。」


「げっ。」



 同じSランク冒険者である、イリスと遭遇し。

 思いっきり顔をしかめる。



「……貴女。昨日わたしの頭に、あんな”汚物”を撒き散らしておいて。よくもまぁ顔を出せたわね。」


「あー、悪いとは思ってるぜ? わりとマジで。」



 昨日、パーティで酒を飲みすぎた結果。

 イリスとイーニアの間では、とても”悲惨な出来事”が起こった。



「アレほど不快感を覚える行為は、他にないわ。」


「ちゃんと埋め合わせはするからよ。ほら、アイスでも奢ってやるから。」


「そんな子供っぽいもの、食べるわけないじゃない。」


「あぁ? 十分ガキだろうが。知らないオッサンとかにも、ホイホイ付いてく年頃だろ?」


「あのねぇ、わたしをそこらへんの子供と一緒にしないでくれる? 領主の娘で、Sランク冒険者でもあるのよ。」


「んなもん関係あるか。オレがお前くらいの時は、近所のガキと喧嘩三昧だったぜ。」



 格闘戦が得意なのは、幼少期からの積み重ねでもある。



「……呆れたわ。だから貴女って、”責任感”の欠片もないのね。」


「責任感?」



 わずか10歳の少女から、そんな”単語”が出たことに。

 イリスは違和感を覚える。



「そうよ。力には、それに相応しい責任が伴う。優れた能力を持って生まれた以上、わたし達には他の凡人達を守る責任があるの。ふらふら飛び回ってる貴女に、責任って言葉の意味が分かるのかしら?」


「……いいや、分かんねぇよ。オレは”駄目な大人”だからな。多分、お前のほうが正しいんだろ。」



 だからきっと。

 これ以上イリスが何を言おうと、イーニアには響かないのかの知れない。



「――特に、”これからの世界”じゃな。」



 非常に、残念なことではあるが。

 これまで自由を謳歌してきたイリスにも、その終わりが近づいていた。



「そうだったわね。”七星剣サテライト”を解体することで、正式なSランクの数を”20人”に増やし。全員を、”世界中のギルドに派遣する”。」


「ああ。いつどこで、”今回みたいの”が起きるか分かんねぇからな。Sランクが最低1人は居ねぇと、何もかもが手遅れになっちまう。」


「ユリカもそうだけど。武蔵から陰陽師が派遣されてきたのも、それが理由かしらね。」


「だろうな。門に詳しい魔法使いなんて、ろくに居ねぇだろうし。」




 ”何が原因なのか”は、神のみぞ知ることだが。

 異界の門の発生頻度は、世界中で上昇傾向にある。


 ジータンに現れた”怪人”や、ピエタに襲った”大量の魔獣オールト”など。

 Sランク相当の実力者でなければ、対処不可能な事案も発生している。


 だからこそ。

 ”最悪の事態”を防ぐため、Sランク冒険者達が矢面に立つ必要があった。




「そういや、オレたちが担当する街、”抽選で決める”って話だけど。お前は参加しねぇのか?」


「ええ。”元々、1つの街を拠点にしていた者は、そのまま残って構わない”、って話だし。当然、この街に残るつもりよ。」



 皇帝からの命が下る前から、イーニアはこの街を守り続けてきた。

 イリスのように、不自由だとも思わない。



「ったく、本当に可愛げのねぇ奴だな。”ミレイ”のほうがよっぽど子供ガキっぽい、……いや、あいつは大人か。」



 イリスの口から出た、その名前に。



(……またミレイ。)


 イーニアは、再び機嫌が悪くなる。


 何が気に食わないのか、その理由すら知らずに。





「――他の街に行けば、気の合う”友達”とか、出来るかも知れねぇぜ?」


「……え?」





 その言葉を聞いて。

 なぜ、自分がこれほど”動揺”しているのか。


 イーニアは不思議で仕方がない。



「いや、だってお前。キララとかフェイトとか、あいつらくらいしか友達居ねぇだろ。」


「……わたしに、友達なんて居ないわ。あの2人だって、ちょっと歳の近い、同じ冒険者ってだけ。」



 そう、それだけのはずである。



「オレは、まぁ大人だからな。ある程度は、1人の時間も大事っつーか、気ままにやれて好きだが。お前はまだガキだろ?」


「そんなの関係ないわ。友達とか、一緒に遊んだりだとか。そんなくだらないこと、興味もないから。」



「でも向こうは、多分お前を友達と思ってるぜ?」


「っ。」



「”特別”だろうが、”頑張り屋”だろうが結構だが。無理して意地張るくらいなら、自分に素直になれよな。」



 イリスの言葉に、妙に心を揺さぶられて。



 それと同時に。

 イーニアの聡い頭脳は、自らの抱く、”苛立ち”の理由に気づき始める。




 特別な力を持ちながら。

 そのくせ、友達や仲間に囲まれて。



 ”素直に子供バカで居られる”。

 ”そんなミレイが、羨ましかったのだと”。




「ふふっ。」



 ようやく、”10歳の少女”らしい表情になった。

 そんなイーニアを見つめながら。


 駄目な大人は、微笑ましく思う。





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