表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都捕物帖  作者: 虹の箸
8/18

octo

地下深くの異空間に響く、重苦しい足音。

吸血の呪いを帯びた王弟の背後から現れたのは、爛々と眼光を放つ一人の男だった。

「よう、リュカ。相変わらず趣味の悪い掃除をしてるじゃねえか」

男の名は**“狂犬のザザ”**。

かつてリュカと同じ特殊部隊に身を置き、その狂気と腕っぷしにおいてのみ、唯一リュカと肩を並べた伝説の「バラガキ」だ。彼は現在、この国の裏権力と古き血族の契約者として、最強の傭兵に成り果てていた。

「ザザ……お前が生きていたとはな」

リュカが軍刀を構えるが、その手はかすかに震えていた。ザザが振るう特大の斧剣が、空気を切り裂く。

激突。爆風が地下通路を崩壊させる。リュカの剣技は鋭く、精密だが、ザザの攻撃は「理不尽」そのものだった。重力すらねじ伏せるような膂力で、リュカの防御を正面から粉砕する。

「お前の『合理』なんてのは、結局のところ脆い張りぼてだ。俺の『本能』の前じゃ、紙屑同然よ!」

ザザの斧がリュカの肩を深く切り裂いた。

リュカは後方へ吹き飛び、石壁に叩きつけられる。鮮血が床を汚し、リュカの意識が遠のく。心臓が跳ね上がる音だけが響く中、彼は初めて「死」の気配を肌で感じた。

「隊長ッ!!」

エレオノーラが叫び、大剣を振るって割って入る。しかし、ザザは面白そうに鼻で笑うと、エレオノーラの剣の柄を拳で打ち抜き、彼女を壁際まで蹴り飛ばした。

「邪魔だ、女。俺とリュカの殺し合いだ」

地面に這いつくばるリュカを見下ろし、ザザがトドメの一撃を振り下ろそうとしたその時。

リュカは、口から溢れる血をぬぐい、不敵に笑った。

「……はは、……そうか。お前は、『答え』を持ってやがったんだな」

リュカの身体から、黒い霧が立ち上る。

彼がこれまで封印していた、敵を皆殺しにした際に得た「負の記憶」と、自らの魂を削り出すほどの禁術。リュカの瞳が、人間のものではない爬虫類のような黄金色に輝き出す。

「お前を殺すためなら、俺の『魂』ごとこの世から消えても構わねえ。お前は俺の鏡だ、ザザ。俺が一番嫌悪する、俺自身の姿だ」

リュカの身体が、物理法則を無視した加速を見せる。ザザの斧がリュカの首を狙うが、リュカはそれを避けることさえせず、自身の身体を貫かせる代わりに、懐深くへ飛び込んだ。

リュカの素手が、ザザの心臓を掴む。

ドクン、という音。地下室の時間が止まる。

「……お前も、死にたかったんだろ? この腐った世界で、一番になろうとした結果が、結局は誰かの捨て駒だ」

リュカの指先が、ザザの胸を内側から突き破る。ザザは驚愕に目を見開き、そして満足そうに、狂ったような笑みを浮かべた。

「……へえ、……やるじゃねえか。……最後は、俺たちの中じゃ一番の『人殺し』だった……お前の勝ちだ……」

ザザが崩れ落ちる。

リュカもまた、呪いの力に身体を蝕まれ、意識を失って倒れ込んだ。

廃墟と化した地下室。ジンが帳簿を閉じる音だけが静寂に響く。

「……死にかけてますね、隊長。ですが、これでようやく『会計』が合いました」

リュカの呼吸は浅く、死の淵にいた。しかし、その顔は不思議と穏やかだった。巨悪の門番を倒した今、彼らの前にはついに、王国の心臓部とも言える「漆黒の玉座」への道が開かれたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ