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地下深くの異空間に響く、重苦しい足音。
吸血の呪いを帯びた王弟の背後から現れたのは、爛々と眼光を放つ一人の男だった。
「よう、リュカ。相変わらず趣味の悪い掃除をしてるじゃねえか」
男の名は**“狂犬のザザ”**。
かつてリュカと同じ特殊部隊に身を置き、その狂気と腕っぷしにおいてのみ、唯一リュカと肩を並べた伝説の「バラガキ」だ。彼は現在、この国の裏権力と古き血族の契約者として、最強の傭兵に成り果てていた。
「ザザ……お前が生きていたとはな」
リュカが軍刀を構えるが、その手はかすかに震えていた。ザザが振るう特大の斧剣が、空気を切り裂く。
激突。爆風が地下通路を崩壊させる。リュカの剣技は鋭く、精密だが、ザザの攻撃は「理不尽」そのものだった。重力すらねじ伏せるような膂力で、リュカの防御を正面から粉砕する。
「お前の『合理』なんてのは、結局のところ脆い張りぼてだ。俺の『本能』の前じゃ、紙屑同然よ!」
ザザの斧がリュカの肩を深く切り裂いた。
リュカは後方へ吹き飛び、石壁に叩きつけられる。鮮血が床を汚し、リュカの意識が遠のく。心臓が跳ね上がる音だけが響く中、彼は初めて「死」の気配を肌で感じた。
「隊長ッ!!」
エレオノーラが叫び、大剣を振るって割って入る。しかし、ザザは面白そうに鼻で笑うと、エレオノーラの剣の柄を拳で打ち抜き、彼女を壁際まで蹴り飛ばした。
「邪魔だ、女。俺とリュカの殺し合いだ」
地面に這いつくばるリュカを見下ろし、ザザがトドメの一撃を振り下ろそうとしたその時。
リュカは、口から溢れる血をぬぐい、不敵に笑った。
「……はは、……そうか。お前は、『答え』を持ってやがったんだな」
リュカの身体から、黒い霧が立ち上る。
彼がこれまで封印していた、敵を皆殺しにした際に得た「負の記憶」と、自らの魂を削り出すほどの禁術。リュカの瞳が、人間のものではない爬虫類のような黄金色に輝き出す。
「お前を殺すためなら、俺の『魂』ごとこの世から消えても構わねえ。お前は俺の鏡だ、ザザ。俺が一番嫌悪する、俺自身の姿だ」
リュカの身体が、物理法則を無視した加速を見せる。ザザの斧がリュカの首を狙うが、リュカはそれを避けることさえせず、自身の身体を貫かせる代わりに、懐深くへ飛び込んだ。
リュカの素手が、ザザの心臓を掴む。
ドクン、という音。地下室の時間が止まる。
「……お前も、死にたかったんだろ? この腐った世界で、一番になろうとした結果が、結局は誰かの捨て駒だ」
リュカの指先が、ザザの胸を内側から突き破る。ザザは驚愕に目を見開き、そして満足そうに、狂ったような笑みを浮かべた。
「……へえ、……やるじゃねえか。……最後は、俺たちの中じゃ一番の『人殺し』だった……お前の勝ちだ……」
ザザが崩れ落ちる。
リュカもまた、呪いの力に身体を蝕まれ、意識を失って倒れ込んだ。
廃墟と化した地下室。ジンが帳簿を閉じる音だけが静寂に響く。
「……死にかけてますね、隊長。ですが、これでようやく『会計』が合いました」
リュカの呼吸は浅く、死の淵にいた。しかし、その顔は不思議と穏やかだった。巨悪の門番を倒した今、彼らの前にはついに、王国の心臓部とも言える「漆黒の玉座」への道が開かれたのだ。




