十一話
今回は主人公視点になります。
もうすぐ甘い日常が戻ってくるはずですので、もう少々御辛抱を!
「関わって欲しくないなら優しくしないでよ!」
綾香は叫んでそのまま病室を後にしてしまった。
「茅野! 待ってくれ!」
俺は追いかけて病室を出ようとするが、ドアの前で無言を貫いていた優馬が俺の前に立ちはだかった。
「おい優馬、そこをどいてくれ。茅野を追いかけないと……!」
「落ち着けよ燕。何をそんなに必死になることがある?」
「何をってお前! 茅野がまた昨日みたいに襲われたらどうするんだよ!?」
「はあ……」
必死にドアを通ろうとする俺に優馬はわざとらしくため息を吐いた。
「おい、ため息ついてる暇あるなら早く俺を――!」
「――いい加減にしろよ、お前」
いきなり声のトーンが数段下がったと思うと、俺を突き飛ばす優馬。
「いてッ! なにすんだよお前!?」
「お前こそ何してんだよ燕。さっき自分で俺たちに言ったこと忘れたのか?」
「ッ、それは――」
「それと茅野を追いかけるのは違うってか? 甘えたこと言ってんなよ?」
「でも!」
「でももくそも無い。お前が関わるなと言ったから茅野は出て行ったし、そのままお前に関わることは無いだろう、もちろんお前からもな。お前が言ったのはそういうことなんだよ、燕」
「……」
「なんだよ、後悔してんのか? 自分から提案したくせに? 慰めてそんなの嫌だって言ってもらいたかったのか? 悲劇のヒーローを演じたかったのか、お前は!?」
倒れこんだ床は異常に冷たくて、優馬の言葉が俺の心に反響する。
「違う、俺はお前らに危険な目に遭ってほしくなくて!」
「んなもん、余計なお世話なんだよ!」
「余計なお世話ってお前!」
「ああ、余計なお世話だ。別に俺はお前といると得だから一緒に居ようとか、損だから離れようなんて考えてお前と一緒にいるわけじゃない。例えお前がそうだとしてもな」
「何だと! それこそ俺がお前との関係に損得勘定なんて入れるわけ無いだろ、いい加減にしろ!」
優馬に言われた一言で思わず熱がこもり、優馬の胸倉を掴んだ。
「知ってるよ、お前はそういう人間だからな」
「なら何であんなこと言ったんだ」
「お前、言っとくけど全部ブーメランだからな……」
俺の手を払ってイスに深く座り込む優馬。
そうだ、確かに思い返してみればそうかもしれない。
俺からしたら、俺と一緒にいると優馬や茅野にとって損だから関係を断つつもりだったが、逆に彼らからしたら、損得勘定で俺と仲良くしていると思われたということになる。
良かれと思ったにしろ、明らかに俺が悪かった。
「……すまなかった」
「ああ、俺は別にいいさ。燕が不器用なのは昔からだ」
「そっか……」
やはりこいつは最高の親友だ、何も言わなくても俺のことを全てわかってくれる。でも、だからこそッ!
「お前また何とかして距離置こうとか考えてんだろ。もう諦めろ」
「なんでッ、あ!」
「やっぱり図星か……。本当に頑固な奴だな、お前。いいか、よく聞けよ? 俺はお前だから一緒に遊びたいと思うし、これからも仲良くしていきたいと思ってるんだ。例えお前が借金を抱えてても、犯罪を犯していても――、面倒くさい『主人公補正』を持っていたとしても、な」
「優馬……」
「それらを厄介ごとを含めて三条燕なんだ。お前が煩わしがっている『主人公補正』だって、無ければ今のお前みたいな性格にならなかったかもしれないだろ?」
「……わかった、分かったよ。俺の負けだ、優馬。前から思っていたけどお前の言葉には何かよく分からない説得力がある。宗教家でも目指したらどうだ?」
「ふざけろ。ほれ、立てるか?お前はまだやらないといけないことがあるんだからな」
「そうだ! 茅野!」
「忘れてたとは言わせないぞ」
優馬はそう言って自分のスマホを俺に渡してきた。
「これ、お前のスマホじゃ?」
「そうなんだが、これ見てくれ」
俺は優馬の言う通り、差し出されたスマホの画面を覗いた。
「『AYAKA』これって茅野のスマホの位置か!?」
「そうだよ、お前と関わる以上何かしらのトラブルに巻き込まれるのは分かっていたからな」
どや顔でこちらを見てくる優馬。
「俺と関わる以上って……」
さっきもうあんなことは言わないと決めたはずなのに、どうにかコイツと縁を切ってやろうかマジで考えた。
「茅野はこの調子だと……そうだな、恐らく河原に向かっている」
「河原か、分かった! 今すぐ向かう!」
「そうだな。万が一別場所だった時の為に俺のスマホも持っていけ」
「サンキュ!」
優馬のスマホを受け取り、そのまま病室を飛び出そうとドアを開いた時に人とぶつかってしまった。
「すいません!」
「こちらこそすまなかった、ところで君。もしかして三条燕君かね?」
ど牛て俺の名前を知っているんだ? しっかり顔を見ると胸ポケットから警察手帳を取り出した、渋い顔のおじさんが立っていた。
「もしかしなくても警察の方ですか?」
「ああ、そうだが。君が三条君?」
「そうです。ですが今少し取り込んでいまして。後でもいいですか?」
「取り込んでいる? トイレか何かか。私の方も君に報告したいことがあったんだがな」
「報告、ですか?」
「ああそうなんだ。実は昨日捉えた大男三人組の内、主犯格であろう者が暑から逃走したんだよ」
「は? 逃走!? どうして!」
「いや、けがの治療を行った後、事情聴取を行っていたのだがどうやら隠していたナイフを取り出して職員を脅し、そのまま逃げたそうだ」
「逃げたそうだ、ってそんな簡単に言わないでください!」
「本当に申し訳ないと思っている」
「本当に申し訳ないと思ってるんですか!?」
「落ち着け、燕!」
「ゆ、優馬」
「警察の人に怒鳴っている場合じゃないだろ、今は。主犯格が逃げたんだったら茅野がより心配だ、急ぐぞ燕」
「そう、だったな! よし、それじゃ、俺たちは急ぐんで」
「待ってくれ。取り込んでいるってそう言うことだったのか、いなくなったのはもう一人の被害者の、確か茅野綾香さんだね? 我々も彼女の捜索に手を貸そう、目星はついているのか?」
「ええ、恐らく川沿いのどこかかと。燕、説明は俺がするからお前は速く茅野さんを見つけろ!」
「ああ、優馬頼んだ!」
俺は今度こそ病室を飛び出した。
茅野が再び危険な目に遭うかもしれない! そう思っただけで俺の足の回転はどんどん速くなる。
いつの間にか病院は遥か遠い。
「俺、長距離苦手なはずだったんだけどなッ!」
時折優馬のスマホを確認しながら猛スピードで河原へ向かった。
「ハァハァ、やっと着いた」
目の前にはだだっ広い河原があり、背の高い草が辺りを囲んでいて、綾香がいても全く分からない。
ただ、GPSはここで止まっているので綾香は確実にここにいる筈なのだ。
「厄介だな」
愚痴りつつ草むらに突っ込んでいく。
茅野! 無事でいてくれよ!
ここまで来てしまえばスマホのGPSも役に立たないのでとにかく草むらを走りまくる。
些細な音も聞き逃さないように、見逃さないように。
「……け……て」
「何か聞こえた!」
迷わず声の下方向に走っていく。
「た……け、て」
声はどんどん近づいていき、もうすぐそこまで来たとき、
「助けて、三条君!」
はっきりと聞こえた。やっぱり茅野は襲われていたのか!
草むらの陰から見えたのは無残にもワイシャツを裂かれ、大男に覆いかぶされた綾香の姿だった。
「てめえ!」
それを見た瞬間俺はその大男を蹴り飛ばしていた。
あまりにも急で、悲鳴を上げることも出来ず気を失った大男を見る。綾香は……よかった、大丈夫そうだ。何か声を掛けようと思ったが、あんなことを言ってしまった手前、どうやって綾香に接したらいいか分からない。
なにせこちらから関わるなと言っておきながら追いかけてきたのだ、こんなばからしい自分にかける言葉などない。
色々考えながら立ち尽くしていると、
「さん、じょう……君?」
今にも泣きそうな顔でこちらを見つめる茅野がいた。
ああ、俺は一体何を悩んでいたのだろう。
それを見た時、俺は今自分がすべきことが分かった。
「ごめんな、怖かったろ?遅れてすまなかった」
「うわあああああん!」
号泣しながら俺の胸に飛び込んできた茅野を優しく抱きしめ、泣き止ませるまでに俺はとあることを胸に誓ったのだった。
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また次回でお会いしましょうッ!
~追伸~
最近『ッ』にハマっています。




