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4-1 2回目

「さ、た、ん、こ」

「さ、た、ん、こ」


 砂場のへりに座っているオレは、地面に書かれた平仮名をひとつずつ指差しながら読み上げる。

 隣に座るサタン子ちゃんがオレの真似をするように繰り返した。


「そうそう。さたんこ。サタン子ちゃんの名前だよ」

「なまえ、さたんこの」

「わかった?」

「さたんこ、わかった」


 真剣な顔をしてコクコクとうなずくサタン子ちゃん。前回会ったときとは違い、今日は長い黒髪を同色の大きなリボンでまとめていて、シックなドレス姿とよく似合っている。

 ちなみに、このリボンはオレからのプレゼントだったりする。


 オレが勇者バイトをやっていく度に貯まる『神様ポイント』を消費して、リボンやらなんやらとサタン子ちゃんの服装をカスタマイズできるんだって。ゲームのアバターみたいだね。

 ちなみに、前回も着ていた黒いドレスは、サタン子ちゃんの初期装備らしい。早くポイント貯めて、いろいろ買ってあげたい。


「カワイイね。似合ってるよ」


 ってサタン子ちゃんに言ったら、水溜りに映る自分の姿にじっと見入ってた。相変わらずの無表情だったけど、口元をほんのちょっと緩めて小さく頷いていたから、きっと気に入ってくれたんだろう。いや、本気でいろいろ買ってあげたい!


「そうそう。その調子で文字と言葉をいっぱい覚えていこうね」

「さたんこ、いっぱいおぼえる。もじとことば、いっぱい」


 うんうん。向上心があるのはいいことだ。


 今日は前回から3日後、バイト2回目だ。前回で採用試験には無事パスしたんだけど、まだまだ研修期間中。今日もまったりサタン子ちゃんと遊ぶだけだ。まあ、しょっぱなにひと騒動あったんだけど……。

 というわけで、本日の勇者バイトのテーマのひとつは『サタン子ちゃんに平仮名を教えよう!』だ。もうひとつはまた後ほど。

 前回のバイトで感じたんだけど、サタン子ちゃんは5歳くらいの見た目の割にはボキャブラリーが少ない。それに単語を並べるだけで、ちゃんとした会話をするにはほど遠いレベルだ。舌っ足らずなしゃべり方がカワイイんだけどね。

 とまあ、そう思ったから、サタン子ちゃん本人の名前から始めてみたんだが、どうやら文字に興味を持ってくれたようだ。白く透き通った指先が汚れるのも気にせず、砂場に何回も『さたんこ』と書いている。

 うん、やっぱリボンで正解だったな。長い髪をかき上げながら砂遊びしている姿もカワイかったけど、さすがに邪魔になるからな。


「次はどの字にしようか?」

「ゆーさくぱぱ」

「ん?」

「ゆーさくぱぱ」

「ああ、了解」

「りょーかいー?」


 最初は呼びかけられてるのかと思ったけど、どうやらオレの名前を書いてみたいらしい。嬉しいような恥ずかしいような……。

 いまいち噛み合っていない会話にキョトンとしていたサタン子ちゃんだったけど、オレが地面に書いてみると、すぐに真似しだした――。


 そんな調子でしばらく続けていたが、前屈みで砂場に字を書き続けるってのは意外としんどい体勢だ。


「うーん、腰が痛い。サタン子ちゃん大丈夫?」

「さたんこ、だいじょぶ」

「サタン子ちゃん元気だなー」

「さたんこ、げんき」

「オレは疲れちゃったよ」

「ゆーさくぱぱ、つかれた?」

「ああ、ちょっと休もうか」

「いや。やすまない。さたんこ、もっとおぼえる」


 口調と表情は変化なかったが、紫色の瞳からは力強い想いが感じられた。

 サタン子ちゃんの初めての反発だった。前回も含め、今までオレの言うことに従うばかりだっただけに、その子どもらしい、人間らしい振る舞いはオレの心を和ませた。


「大丈夫だって、いいものがあるから。これがあればもっと覚えられるぞ」

「いいもの?」

「ああ」


 オレは手の砂を払って立ち上がり、背筋を反らした。こわばっていた筋肉が伸ばされて気持ちがいい。


「だから、その前に手をキレイにしないとな」

「うん。わかった」


 納得していただけたようだ。


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