3-16 マンツーマンディフェンス
「たっだいま~」
神様が帰ってきた物音でオレは目を覚ました。
昨日の帰宅時と同じように、神様は弁当が入ったビニール袋を振り振り、リボンで結んだ赤い髪をゆさゆさ、とゴキゲンな様子だった。
よほど弁当が楽しみなんだろうな。食いしん坊な神様だ。
「おう、おかえり」
「アンタ、電気もつけないでなにしてんのよ」
「あー、寝てた」
「そう。まあ、疲れただろうしね…………って、ゆうさくっ!」
明かりをつけて、室内を見回した神様はなにかを察したようだ。
「あんた、かいものは?」
「あー、寝てた」
「はあっ? ねてたじゃないでしょ!! かいものいくってやくそくしたでしょ!!!」
そう、オレは神様がバイトに行くのを見送った後、そのままこたつで寝てた。もちろん、買い物には行ってない。
神様の言うとおり、約束してたんだけど、しゃーない。相手の期待を裏切ることに定評のある勇作君だからな。
「ああ、約束したな」
「じゃあ、なんでいってないのよっ!!!!」
「詳しい説明と簡単な説明、どっちがいいんだ?」
今にも掴みかからん勢いだった神様だったけど、落ちついて対応するオレを見て少し冷静になる努力をしたみたいだ。目を閉じて、二、三度深呼吸してから腰を下ろした。うん、えらいえらい。
「…………詳しく話して頂戴。ワタシがちゃんと納得できるように説明して」
「昨日から散々ハードだったしな。朝からステーキ食ってこたつに入ったら動けなくなるのは当然だろ。こんな状況をセッティングされたら、どうぞ寝てくださいって言われてるようなもんだろ。ていうか、むしろ寝ないと失礼なくらいだ。いつでもどこでも寝れるのがオレの数少ない特技だしな。それに昨日まで引きこもりニートだったオレが、いきなり買い物とかできるわけがないだろ。社会復帰にはリハビリが必要なんだよ。だいたい服屋の店員とか、店入った瞬間からマンツーマンディフェンスでグラ○ィウスのオプションかよって感じだし、友達感覚のタメ口で『これ似合うじゃん?』とか話しかけてくるし、なんで疑問形なんだよ。そっから、さも当然のように専門用語並べてきて、わかっていないコッチを見下してる態度が感じわりーし、なんだよデニムってGパンでいいだろ! それで 『ちょっと着てみようよ』とか、『着てみれば雰囲気わかるから』とか、しつこく試着を勧めてきて、一回着たら断れる空気じゃねえし、あげくにはオレが選んだ服を見て『えっ、それ選んじゃうの?』みたいに小馬鹿にした態度取るし、だったら置いとくんじゃねえよ!! いいじゃねえか、Tシャツをズボンに入れようが、シャツのボタン閉めようが。服くらい好きに着させろや!! つーか、そもそも服を買いに行く服がないしな。というわけで、オレがひとりで買い物に行くとかそんなん無理に決まってるだろ」
「…………で? 簡単に言うと?」
「メンドくさかった 」
「ばかああああああ!!!!!」
――めっちゃ叩かれた。今朝の肩パンみたいなのを全身くまなく何発もポカスカやられた。細い腕で大した力はなかったけど、塵も積もればってやつで、すげー痛い。
神様はオレをフルボッコする最中に、怒りのあまり手元にあった弁当を掴んで投げつけかけたけど、ギリギリの理性で思いとどまった。うんうん、食べ物を粗末にしないのはいいことだね。
「あんた、ばんめしぬきよっ!!!」
かーちゃん以外に初めて言われた。やっぱ食いしん坊な神様だな。
それから、怒った神様は一言も口を利いてくれず、オレは空腹に耐えながら、ひとりこたつで寝るハメになった。
今朝の神様の言葉を思い出したから、「こたつで寝るとカゼひくんじゃなかったっけ?」って言ったら、すげー勢いで枕が飛んできた。




