2-2 一触即発、牛丼屋!
「ばーか、そんなんじゃねーよ。お前のためだよ――」
そう言うと比呂子さんはひと呼吸おいたので、オレは比呂子さんの横顔を見つめ続きの言葉を待った。
続けて比呂子さんが口を開く。
「――ナメてると死ぬぞ」
ゴクリ……。
いきなり比呂子さんが別人に思えた――。
――牛丼屋でヤンキー兄ちゃんに絡まれてたおっさんのことを思い出した。
なんでも、おっさんがこぼしたビールで服が濡れたとかで、ヤンキー兄ちゃんがおっさんに絡みだしたんだよ。
オレは店の隅っこで「おっさんも変なのに絡まれて災難だなあ」とか「オレまで巻き込まれたりしないよな」とか思いながら、目立たないように牛丼を頬張りながら見てたんだけどね。
最初はおっさんも「すまんすまん」と謝ってたんだけどさあ、調子に乗ったヤンキー兄ちゃんは「クリーニング代を払え」っておっさんの胸ぐらをつかんだわけよ。
そしたら、そのおっさんが一変してさ。
メガネを外して立ち上がってヤンキー兄ちゃんの胸ぐらをつかみかえしてさ、「おい、コゾウ、誰に言ってんだ」って。
デカい声で怒鳴ったりせず、静かに低い声でね。店の隅にいるオレにまではっきりと聞こえたよ。
それまで冴えないリーマンのおっさんだと思ってたけど、その一言でヤのつく職業の人だってすぐに分かったね。
ヤバかったね。関係ないオレまでチビリそうになった。
「二、三人ヤッててもおかしくないな」とか「ためらいなく引き金を引けるんだろうな」とか思った。
気迫で圧倒するってこういうことかって初めて知った。
ヤンキー兄ちゃんもすっかりブルっちゃって、「ゴメンなさいゴメンなさい 」って平謝りだったけど、そっからずっとおっさんのターンで、最終的には「事務所で話しようか」っておっさんに肩を抱えられてドナドナされていった――。
その時のおっさんと同じく、いや、それ以上に今の比呂子さんはヤバかった。
比呂子さんの言ってることは決して冗談なんかじゃない。
浮ついていた気持ちなんか完全に吹き飛んだ――。
「そんなビビんなって。今回は安全だし、しばらくはあんま無謀なことはさせねーから」
いつも通りの態度に戻った比呂子さんが、固まっていたオレを安心させるように言い放った。
その言葉でオレはようやく息を吐けたが、まだ心臓はバクバクで足はガクガクだった。生まれたての子鹿ちゃん状態だった……。
「でも、まあ、一応、肝にだけは命じておけよ、なっ」
オレの肩を叩きながら、比呂子さんはオトコマエにそう告げた。