第384章:仮初のランウェイ、王者の帰還
「受付終了まで、あと三分です。……やはり、早瀬夫妻は欠席ですね。入学取り消しの手続きを――」
学校関係者が時計を見ながら、来賓席の南条隼人にペコペコと報告する。隼人は「フッ、仕方のないことだ。親の無責任のせいで子供の未来が消えるとはね」と、勝利の優越感に浸りながら冷酷に微笑んだ。
だが、その傲慢な笑みが、次の瞬間、会場全体を震わせる「地鳴り」のようなざわめきによって凍りつく。
バァァァンッ!!!
講堂の重厚な扉が大きく開け放たれた。差し込む鮮烈な春の光を背負って姿を現したのは、見る者すべてを圧倒する、気高き三人の影だった。
格式高い最高級のスーツを完璧に着こなした、早瀬財閥総帥・早瀬碧。
その隣で、気品溢れる訪問着に身を包み、涙の跡を隠して美しく微笑む妻・かすみ。
そして二人の間に挟まれ、青藍高校付属中学の真新しい濃紺の制服をバシッと着こなした、凛々しい表情の早瀬蓮。
「な……ッ!! なぜ、ここにいる……っ!?」
来賓席の隼人が、思わず椅子から立ち上がり、激しい衝撃に顔を引きつらせた。
「遅れてすまない。早瀬碧だ。息子の入学手続きと、保護者の出席確認をお願いする」
碧の低く冷徹な声が受付に響き渡る。その圧倒的なカリスマ性と王者のオーラに、学校関係者は気圧されながら「は、はい! 只今確認いたしました!」と、震える手でタブレットの『出席』ボタンを押した。隼人が企んだ「入学取り消し」の謀略が、跡形もなく粉砕された瞬間だった。
しかし、堂々と並んで歩く碧とかすみの間には、まだ冷たい硝子の壁のような緊張感が漂っていた。
受付を済ませ、講堂の保護者席へと向かう通路の途中で、かすみは前を見据えたまま、隣を歩く碧に向けて静かに、しかし毅然とした声で囁いた。
「……碧さん。後で話し合いをしましょう。これまでのことも、今後のことも含めて、全て」
「……かすみ」
碧が微かに息を呑み、視線を落とす。あの別荘での甘い声の残像が、まだ彼の胸をズタズタに引き裂いたままであることを、かすみも痛いほど分かっていた。だからこそ、今はただ、母親として一番大切なことだけを告げる。
「でも、今日は蓮の晴れ舞台なのよ。あの子が一生懸命頑張って勝ち取った、一度きりの大切な日。だから……今は最高のパパとママでいましょう」
かすみの力強い言葉と、息子を想う温かい眼差し。
碧はその言葉を真っ直ぐに受け止め、静かに拳を握りしめると、深く頷いた。
「……ああ。分かった、かすみ。今日は蓮の日だ」
二人はまだ傷を抱えたままであったが、蓮の父親と母親として、互いへの絶対的なリスペクトを胸に、前を向いた。
来賓席から血の涙を流さんばかりに睨みつけてくる南条隼人の視線を、碧は一瞥する価値もないとばかりに冷たく無視し、家族三人で堂々と、光り輝く式典のランウェイを歩んでいくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




