第380章:小さな逃避行、涙のシェルター
早瀬邸でかすみがパニックに陥っていたその頃――。
重厚な門構えを誇る貝森財閥の邸宅の玄関前に、二人の小さな影が立ち尽くしていた。凛と蓮だった。二人の瞳からは、大粒の涙がポロポロと溢れ落ち、足元を濡らしている。
「……湊、百合……っ。出てきてよ……ぅ」
インターホン越しに震える声で訴える凛の姿に、貝森家の重臣たちが驚いてすぐに扉を開けた。中から飛び出してきたのは、親友の湊と百合、そして母親のあやめだった。
「凛!? 蓮くん!? 一体どうしたの、そんなに泣いて……!」
あやめが駆け寄り、二人を抱きしめると、蓮はあやめの衣服にしがみつきながら、わんわんと声を上げて泣きじゃくった。
「お家に……お家に帰りたくないよぉ……っ!」
「蓮くん……? どういうこと?」
湊と百合が心配そうに顔を覗き込むなか、姉の凛が涙を拭いながら、必死に言葉を絞り出した。
「パパとママが……ケンカして、今、離れ離れに住んでいるの……。お家の中がずっと冷たくて、怖くて……もう耐えられなかったの……っ」
子供たちの口から語られた早瀬家の危機に、あやめは息を呑んだ。あの深く愛し合っていた碧とかすみが、離れ離れになっている。子供たちがどれほど傷つき、不安な夜を過ごしてきたかが、その涙から痛いほど伝わってきた。
しかし、あやめはふと、窓の外から差し込む眩しい朝日に目をやり、ハッと表情を強張らせた。
「……待って。蓮くん、今日は青藍高校付属中学校の入学式でしょ? 湊と一緒に、待ちに待った新しい制服を着て行く日じゃないの……? その、制服はどうしたの……?」
あやめの問いかけに、蓮はただ首を激しく横に振り、さらに顔を伏せて泣き続けるだけだった。
クローゼットに残されたままの、真新しい制服。子供たちは、自分たちの未来の輝かしい一日さえも投げ捨てて、バラバラになりかけた家族の痛みに耐えかねて逃げ出してきたのだ。
貝森邸のリビングに、子供たちの切ない泣き声と、重苦しい沈黙が広がる。入学式の主役であるはずの蓮が制服も着ずに泣いているというこの異常事態に、あやめはすぐさま事の重大さを察し、早瀬夫妻への連絡を決意するのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




