第308章:崩壊の果て、凍りついた時間
早瀬ホールディングス、そしておじさまが動かした国家権力の容赦なき包囲網は、文字通り一瞬にしてすべてを押し潰した。
かつてあれほどの栄華を誇った南条財閥は、神宮寺クリニックの不祥事や度重なる不正融資が次々と白日の下に晒され、瞬く間に連鎖倒産――事実上の【廃業】へと追い込まれた。さらに、その裏で糸を引いていた源玲奈の実家、源ファイナンスも裏社会との繋がりを完全に断たれ、すべての資産を国に差し押さえられて同じく【廃業】の運命を辿った。
「嘘だ……、こんなことが、あってたまるか……っ!!」
すべてを失い、莫大な負債と罪だけを背負わされた南条隼人と源玲奈は、身ぐるみを剥がされるようにして絶望の暗闇へと突き落とされた。二度と這い上がることのできない、自らが撒いた悪意の報いという名の地獄の底へと。
しかし――悪党どもをどれほど完璧に破滅させようとも、奪われた命も、壊れてしまった愛しい妻の心も、すぐには戻らなかった。
早瀬系列病院の特別病棟。
空中庭園から碧に抱きかかえられて戻ったかすみは、鎮静剤によって辛うじて眠りについていた。その痛々しい寝顔を見つめる碧の前に、神妙な面持ちをした主治医が歩み寄る。
「碧様……大変申し上げにくいことですが、かすみ様の現状についてお伝えしなければなりません」
医師は静かに首を振り、重い口を開いた。
「肉体の回復は順調ですが、度重なる拉致監禁の恐怖、そして何より、双子の颯様と瑠璃様を失ったことによる精神的なショックが大きすぎます。防衛本能からか、現実を拒絶し、激しい錯乱や幻覚を引き起こしている状態です……。これ以上のケアは、当院の設備だけでは限界があります。一度、精神的なアプローチに特化した【専門の病院】で、じっくりと診てもらうのが良いのではないかと……」
「専門の、病院……」
碧は拳を握りしめ、言葉を失った。かすみをこれ以上、自分の手の届かない遠くへ行かせたくない。けれど、彼女の壊れゆく心を救うためなら、どんな手段でも選ぶつもりだった。
その時――。
ベッドの上の毛布が、わずかに揺れた。
「……ん、う……」
かすみがゆっくりと、長い睫毛を震わせて瞳を開いた。だが、その瞳には碧の姿も、美しい朝日の光も映っていない。ただ、霧がかかったような虚ろな光だけが漂っている。
かすみはゆっくりと上体を起こすと、白衣を着た医師の方へと、弱々しく、しかし何かに縋るように視線を向けた。
「先生……?」
その唇から漏れたのは、あまりにも純粋で、だからこそ病室にいる全員の胸をズタズタに切り裂く、悲痛な問いかけだった。
「私の赤ちゃん……颯と瑠璃は、どこにいるの……? 早く、抱っこさせて……。ママのところへ、連れてきて……?」
まだ、現実の世界へは戻ってこられない。
我が子を求める母親の健気な声が、静まり返った病室に冷たく響き渡り、碧は堪えきれずにかすみの身体をきつく、狂おしいほどに抱きしめることしかできなかった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




