第1章-9 名付け親
最後の記事を読み上げようとした時、寝室から甲高い鳴き声と、カリカリと扉を引っ掻く音が響いてきた。
「ギー! ギー!!」
サクは耳に手を当て、眉間に皺を寄せた。
「なんだよ。この声……ガーディ?」
「分かりません。様子を見てきます。」
ガーディが何事かとドアへ向かおうとする中、僕は走ってドアノブに手をかけた。
「待ってください!」
そう叫んだガーディを背にして、扉を開ける。
フクロウが扉から飛び出してきた。
「ギギー!!」
羽で僕を叩くように飛びつきながら、悲鳴のような声で鳴き続けている。
「どうしたの? 落ち着いて。」
Tシャツの裾でフクロウをくるくると包み込んだ。
ある程度まで包むと、やっと鳴きやみ、ひしっと顔をくっつけてきた。
「……ピィッ……。」
「ほら、大丈夫。落ち着いた?」
ほっと息を吐いた時、サクから声がかかる。
「その黄色い生き物は……何だ?」
「え? 知らないの?」
サクを見ると、フクロウを奇妙な生き物を見るような、そして観察するような目で見ていた。
「知らないな。初めて見た。
かなり爪も嘴も鋭そうだ。肉食に見えるが、凶暴なのか?」
その言葉に、思わずフクロウを隠すように抱きしめた。
「凶暴じゃないよ……確かに爪は少し鋭いけど、温厚だし、毒もないし、トゲもないよ。
さっき暴れたのは、きっと僕がいきなりいなくなって不安だった……んだと思う。
暴れたりしないよ。」
サクはまだ疑うように、フクロウから距離を取っている。
視線に耐えきれず横を向くと、ガーディがいつの間にかフクロウを覗き込んでいた。
思わず後ろに下がるが、ガーディは構わず見続けている。
「フクロウなんて、人間みたいな名前ですね。
フクさん、クロさん、ロウさん……フクさんが似合いそうです。」
「……へっ?」
ガーディの意外な言葉に、目をぱちぱちと瞬かせた。
ガーディはそのまま話し続ける。
「しかも、丸くてふわふわして……ニャアのような愛嬌があります。
フィナが気に入りそうです。」
ガーディの言葉に、サクの表情が変わる。
「お前な……こっちはビビってるのに何だよ、それ。俺が馬鹿みてえじゃねえか。
本当に、ガーディは隙あれば恋人の話をするよな。」
サクは僕の前にしゃがみ、フクロウの顔をまじまじと見た後、僕の目を見た。
「怖がらせて悪かったよ。フクもごめんな。」
サクの表情は穏やかだった。
フクロウはサクの顔を真っ直ぐに見上げた。
「ホウッ」
小さく鳴いた。
「確かに可愛いかもな。」
サクはフクロウに触ることはしなかったが、くしゃりと笑い、ガーディに向き直った。
「ガーディ、俺はそろそろこの子の服を学校まで取りに行く。
お前はそろそろ出勤だろ?」
「いえ、今日は夕方からなので、この子のご飯を買ってきます。」
「分かった。それじゃあ、またあとでな。
フク達は留守番よろしく。」
サクは立ち上がり、ひらひらと僕に手を振った。
ガーディがペコリと僕に頭を下げる。
「すぐに戻りますね。」
ガーディはサクと一緒に部屋から出ていった。




