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異世界転生したのに誰も成り手がいない死神に強制就職させられました【完結済】  作者: カナタカエデ


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二話

バージーンのパーティに参加して、80日が経った。

期限が迫る中、それでも僕の心は、思っていたより軽かった。


理由は単純だ。

このパーティが、想像以上に強かったからだ。


魔法使いのアイネ、弓使いのサーシャ、武闘家のロン。

元からのメンバーである三人を中心に、バージーンの人柄に惹かれて集まった仲間たちは、いつの間にか20人規模にまで膨れ上がっていた。


バージーンは常に最前線に立つ。

一瞬の隙を突く高速移動で敵を斬り伏せるその姿は、勇者というよりも戦場に慣れきった戦士だった。


一方の僕は、相変わらず戦闘とは無縁だ。

毎日の食事の準備に、食料の調達と運搬。

気づけば一日が終わる。


「いやぁ〜タモンさん、すごいですね。一人でこの量を用意するのは大変でしょう?」


夕食の支度をしていると、サーシャが顔を出した。


「そんなことないですよ。

たった20人分ですから。それに、時間があれば皆さん手伝ってくれますし」


このパーティは三つに分かれている。

戦闘部隊、治癒部隊、そして後方支援。


当然、僕は後方支援だが、同じように武器や薬草、食料の運搬や、治癒部隊の補佐役、転送魔陣やダンジョンの地図作成など、さまざまな役割の人が集まっていた。


「僕も手伝いますよ〜」


言っているそばからやってきたのは、後方支援の中でも魔物の死体処理を担当するエルフ族のシイだった。


この世界には死がない。

魔物も人間も「瀕死」以上の状態が存在しないのだ。

その状態で死神に魂を抜かれない限り死ぬことはない。瀕死のまま数年放置されたとしても、僧侶や魔法使いに治癒魔法をかけられれば、たちまち元に戻る。


だが、下位魔物に対してだけは、エルフによってその肉体を滅ぼすことが出来た。

エルフ族にだけ許された特権であり、とても残酷な儀式だが、確実に魔物を消し去ることができる。


そのため、ダンジョン深く潜るパーティには、必ず必要不可欠な人材だった。


エルフというのは、美しい精霊のような印象だったが、この世界でのエルフの多くは、下位魔物の死体処理を生業としていた。


 


「ねえ、タモンさん、知ってます?」


「ん? なに?」


「この世界にいる死神のこと」


シイは笑った。

いや——笑っているはずなのに、どこか噛み合っていなかった。

口元だけが吊り上がり、目はまったく笑っていない。


「そいつらはね……僕らみたいな術じゃなくて、もっと、こう……簡単に」


指先で空をなぞる。

何かを書いているような仕草。


「一瞬で殺せるんですよ」


くく、と喉の奥で笑う。


「魔物も……人間も関係なく。

くくっ……いいですよねぇ、ああいう無駄がないの。

しかも奴らはね、異世界から来たそうですよ」


「へ、へぇ〜……それ、本当?」


「間違いないですよ。僕は一人、死神に会ったことがあるんですよ。ひひっ」


「気になりますか?」


その視線には、シイの不気味さが纏わりついていた。


(それ……サクラさんのことだろうな……あの人、鬼みたいに強いから、死神ってこと隠さないし……)


「そうだね。シイは、その死神を見てどう思ったの?」


「……あの女は……おぞましかったですね

あいつは持っている手帳に書かれた名前を読むだけで魂を奪っていった。

おいらたちも魔物の死体処理をしていますが、そんな簡単なものじゃない。

失敗したら、自分たちも大怪我をするような術をかけているんだ。

なのに、あいつは簡単に……」


シイの言葉からは、彼が会った死神がサクラさんだと確信した。

彼の中には彼女に対する恐れと、怒りがあった。


「シイたちがいなかったら、ダンジョン攻略は一気に難しくなる。

魔物はみんな自然治癒が可能だからね。

だから、死神と比べる必要はないんじゃない?」


「タモンさんなら、わかってくれると思いましたよ。

このメンバーの中でも、いてもいなくてもいい人ですから」


にまぁ、と笑う。


頭の中で、元の世界で見てきた“エルフ”と呼ばれる存在を思い出した。

精霊の如く美しいもの。

できれば、ああいうエルフが見たかったと思う。


この世界のエルフは、とてつもなくプライドが高い。

異世界でなければ、確実に近寄ることはない存在だっただろう。


(僕に対してまで……見下していないと気が済まないんだな……)


それでもそんな言葉に苛立つことはなかった。

元の世界では周りを気にしてばかりいたのに、この世界に来てからの僕は、感情がほとんど欠け落ちてしまっている。


「ありがとう。僕は役に立たないことも多いから、何か手伝うことがあったら、いつでも言って」


そう言って、その場をやり過ごそうとした——その時だった。


ぽとり、と軽い音がした。


足元に落ちたのは、一冊の黒い手帳。


(あ——)


血の気が引いた。


一瞬で拾おうと手を伸ばす。だが、それよりも早く、シイの手がそれを掴んでいた。


「……これは」


シイの表情が、ゆっくりと歪んでいく。


「おい……これ……まさか」


ページがめくられる。


静まり返る空気。


「——死神の、手帳じゃないか?」


「な、なんであんたがこれを持ってる?!」


シイの大きな声が陣で休憩した他のメンバーたちに届く。

その瞳に黒い靄がかかっていくのと同時に、空気が冷たく変わっていくのを感じる。


「何言ってるんだ、シイ。それはただの手帳だよ」


刺激しないように取り返そうとすると、一歩下がった彼が、開いた手帳を掲げて叫ぶ。


「魔王……ゼグーロ………残り二十日!!」

「これ……この書き方間違いない!!」

「お、お前死神だろ……!?」


ざわめきながら周囲の仲間たちが集まってくる。


サーシャも、ロンも、アイネも。

誰もが、こちらを見ていた。


「タモンさん何事ですか??」


サーシャがシイの肩に手を置くと、真っ直ぐにこちらをみた。


「そ、それが、シイが勘違いを……」


「勘違いなもんか!なあ!みんなも一度は聞いたことがあるだろ?!この世界にいる死神の噂!!


こいつは、異世界から来た死神だ!!ゼグーロの魂を奪うためにこのパーティに潜り込んでるんだ!!」


(終わったな……)


逃げ道はない。


「……返してもらっていいですか」


なるべく平静を装って言う。

だが、その声は思ったよりも冷たく響いた。


「返す? これを?」


シイが笑う。


「ほら、やっぱり……あんた——死神だよな?」


ざわめきが、一気に膨れ上がる。


「聞いたことある……死神は本物の死を与えれるって噂……」

「人間も殺せるんだろ……」

「こんなやつ、パーティに入れてていいのか?」


空気が、明確に変わる。

恐れと、嫌悪と、排除の視線。


「……みんな少し落ち着いてくれ。詳しい話は僕らが聞くよ」


サーシャがそう言った。


「死神が作った食べ物なんて食べられないわ」

誰かが一言そういうと、何人かが同意して、不穏な空気に呑まれそうになる。


(ゼグーロの住処まで後少しなのに、ここで離脱はきつい……どうにか説得しないと)


サーシャの視線が、明らかに変わっていることに気づいた。もともと僕を信用していなかったアイネも普段は友好的なロンも。


——その時だった。


「どうした?みんな集まって」


低く、よく通る声が響いた。

全員の動きが止まる。


バージーンだった。


「バージーン、ちょっと」


サーシャたちがバージーンを連れ少し離れる。

何を話し合われているかは言わずもがなだ。


五分も経たずにバージーンは輪の中から抜け、ゆっくりと前に出て、シイの手から手帳を取り上げた。


一瞬だけ中を確認し、そして——何事もなかったかのように閉じる。


「タモン」


「……はい」


「これは、お前のものだな」


手帳が差し出された。


「……はい」


周囲がざわめく。


「で、君が死神ってのは本当?」


バージーンは普段と変わらない様子で尋ねる。


どう答えるのが正解か……頭の中で言葉を考えるも彼の瞳を見ているとうまく嘘をつける気がしなかった。


「ああ、僕は死神だ」


「ほらみろ!こいつは俺たちを殺しに来たんだ!」


シイが叫ぶ。


「ち、違う!君も見たじゃないか。今手帳に名前が残ってるのは魔王ゼグーロだけだ!

確かに死神だが、対象者は手帳に書かれている名前だけなんだ!!

だからこのパーティの誰も死ぬことはない」


「……うん、そうみたいだな!

君がいれば魔王に死を与えられる!最高じゃないか!


なあ、みんな!!」



バージーンの言葉になにより驚いたのは僕だった。

いつもどおりの柔らかな笑顔が、不思議と恐ろしく感じる。


「シイ、君の言い分もわかるが、このパーティは寄せ集めなんだ。

みんな色んな事情があって参加してる。

俺はタモンを信頼してるからこのまま参加してもらうつもりだ。



さあ……!文句ある人は申し出てくれ!」


騒いでいた皆、押し黙った。シイさえも、何も言えなくなっている。


サーシャやアイネたちの表情が、バージーンの独断だというのがわかる。


(どうして庇うんだ……?)


「文句はないみたいだな。

じゃあ、タモン、ちょっと話さないか?」


「あ、ああ…あ、でも食事の準備が」


「あとはやっておくよ」


サーシャが何人かに声をかけ、みんなテキパキと動き出した。


結局、何も読み取れないバージーンとともにその場を離れるしかなかった。


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