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異世界転生したのに誰も成り手がいない死神に強制就職させられました【完結済】  作者: カナタカエデ


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3/3

三話

「いや〜驚いたな!まさかタモンが死神とは!」


ダンジョンの奥。陣を張っていた場所から離れた谷間に、僕たちは来ていた。

本来なら闇に沈むはずのその空間は、地下を流れるマグマの赤い光に照らされている。


揺れる光が、互いの影を歪ませていた。


パチ、パチ、と音がする。

マグマに何かが落ちて、焼けて、消えていく音だった。


熱いはずなのに、背中を伝う汗は冷たい。



「その……騙して潜り込んだみたいになってしまって、すみません」


「別にいいよ、そんなことは」


バージーンはあっさりと言い切った。


「それより――死神なら、本当にゼグーロを滅ぼせるんだよな?」


「それは、もちろん。

だけど……瀕死の状態でしか、僕らの力は発動しないんだ」


少しだけ言葉を選ぶ。


「だから、バージーンにゼグーロを瀕死にしてもらわないと……」


「へぇ〜。死神って言っても、万能じゃないんだな」


「まあ……そうだね。

シイが話していた死神は別格で、自分で瀕死に追い込んで魂を回収できるけど、僕には戦う力はないから。


ははっ……向いてないよね、死神なんて」


自重気味に笑うと、バージーンは答えることなく岩に腰掛けた。

僕も向かいに座ると、彼は淡々と語り始めた。



「実は……ゼグーロとは何度も戦ってる。そのたびに、もちろん俺が勝ってる」


一拍、間があく。


「なのに、この世界じゃ魔物を完全に滅ぼすのは難しいだろ?

あいつ……昔は魔人だったんだぜ?

何度も倒して、いつのまにか蘇って、さらに強くなる。その繰り返しだ」


静かな声だった。


「俺だって何度も死にかけてる。けど……それに終わりがあるなんて、考えたこともなかったな」



バージーンの表情は穏やかだった。

戦いの前だというのに、その心は凪のように揺れていない。



「でも――終わるんだな」


「え……と、まあ、たぶん」



ー死とは終わりー


それは、この世界の人にとっては未知のものだ。

けれど、バージーンから恐れは感じられなかった。



「そう思うと、なにがなんでも勝つしかないな!

任せてくれ、タモン!!」


「あっ、はい。それは……お願いします」


いつもと変わらない様子に、不思議と空気が軽くなる。


だが次の瞬間、バージーンは顔を寄せ、真剣な目を向けてきた。


「それより!タモンがいた世界について教えてくれ!!」


「ええ…そんなこと聞いてどうするんだ?」


「気になるだろ!異世界なんて行ったことないからな!」


(バージーンからしたら、こっちが異世界の住人なのか)


わくわくとした感情が、そのまま顔に出ている。


過去の話をするのは正直気が重かった。

だから僕は、この国にはないもの――スマホや飛行機、そういう文明の話だけを選んで話した。


バージーンは、子どものように目を輝かせながら頷いていた。



ーーー



翌朝、シイは消えていた。


転送陣が稼働した痕跡があり、おそらくダンジョンの外へ出たのだろう、という結論になった。


エルフがいなくなったことを心配する僕とは対照的に、バージーンはあっさりと言った。


「もう下級魔物が出る階層じゃない。気にしなくていい」


まるではじめからシイが存在しなかったような結末に、パーティの中にはわずかな気まずさが残っていた。

それでも――ボス戦まであと少しだという共通認識が、全員を繋ぎ止めていた。

報酬を考えれば、ここで離脱する者はいない。

そして、さらにダンジョンを進んだ数日後、ついにゼグーロの住処へと辿り着いた。


ボス戦の直前、声を上げたのはアイネだった。




「ねえ!もう一度、あんたの手帳を確認させて!」

「え?」

「もしゼグーロ以外の名前があったら……あんたは参加させられないから」



「……わかった」


僕は胸ポケットから手帳を取り出す。


昨日の夜には、ゼグーロの名しかなかった。

このパーティの中に、手帳に現れるような人間はいない。……大丈夫だ。


手帳を開こうとした、その瞬間。


バージーンが、素早くそれを奪った。


無表情のままページをめくり、ほんの一瞬だけ目を走らせる。

そして、何事もなかったかのように手帳を閉じ、アイネを睨んだ。


「ゼグーロの名前だけだ。

いい加減にタモンを疑うのはやめろ。彼にとっては、これも仕事だ」


「なっ……私はみんなのことを心配して――」


「まあまあ。バージーンが確認したんだから大丈夫だろ。

さあ、ここからは気合い入れ直さないと!」



そのまま戦闘時の配置が共有される。

僕はギリギリまで後方待機。

そして、ゼグーロが確実に倒れた瞬間、前線に出て魂を回収する役目を担った。



「バージーン、さっきはありがとう。

でも僕は気にしていないから、アイネと気まずくならないでね」


「それは大丈夫だ。あいつとは長い付き合いだからな」


「なあ、タモン」


「ん?」


「何があっても――仕事をやり切れよ」


「ああ。僕にとっては命に関わるから、そこは大丈夫!」



バージーンは笑った。


これからボス戦を控えているとは思えないほど――明るい顔だった。



そして、ついにゼグーロの住処へと辿り着いた。


空気が変わった。

足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような圧が全身を包み込む。


熱とも、冷気とも違う。ただ「異質」だった。


「来るぞ」


バージーンの一言。

その直後、地面が裂けた。


轟音とともに、黒い巨体が這い上がる。

溶けた岩のような外殻。無数の傷跡。

そのすべてが、何度も倒され、何度も蘇った証だった。



『バージーン!!またお前かあぁぁあ!!』


地から這い出るような声にならない咆哮が、空間を歪ませる。


「前衛、展開!!」


ロンが地面を蹴る。

アイネの詠唱、サーシャの矢。戦闘は最初から全開だった。


だが――硬い。


攻撃は通る。だが決定打にならない。

削っても、削っても、肉が蠢き再生する。


それでも、バージーンだけが違った。


一閃。

圧倒的な速度と重さで、確実にゼグーロを削っていく。


戦いは長引いた。

何度も削り、何度も戻り、それでも少しずつ追い詰めていく。


「今だ!!」


渾身の一撃がゼグーロを地に沈めた。

動きが止まる。


「……やった!!」


誰かに背を押された。


「タモン、早く!ゼグーロを!!」


僕の足が動いた。

震えながら、ゼグーロの前に立つ。


手帳を取り出し、開く。

最後の行に書かれた名前が目に入った瞬間、思考が凍りつく。

そこには、あるはずのない名が記されていた。


一瞬の戸惑いがゼグーロに最期のチャンスを与えてしまう。

魔王の振り絞るような最後の一撃が強い光を放った。

避けられないと理解した瞬間、目の前に影が割り込んだ。


鈍い音。肉が裂ける音。


「……な、んで……?」


バージーンがその一撃を受けていた。

血溜まりが地面にでき、膝が崩れる。


『よお……これで相打ちかぁ』


手帳を握りしめる手に力が入った。


「魔王ゼグーロォォオオオ!!!」


僕は叫ぶと同時に、手帳には、

魔王ゼグーロ 残り三日の横に、完了済みの文字が浮かび上がる。


ゼグーロは声を上げる暇もなく、跡形もなく消えた。

背後から仲間たちの足音が近づく。


僕は腹に大きな穴を開けた勇者を見つめた。

そして、震える声で、言葉を紡ぐ。


「……勇者……バージーン」


その瞬間、彼の目が見開かれた。

そして――ニヤリと笑う。


「……お前……けっこう向いてるよ」


その言葉を最後に。


彼の体は崩れ、霧となって消えていった。


まるで最初から存在しなかったかのように、世界から消えた。


手から滑り落ちた手帳には、ゼグーロの下に文字があった。



勇者バージーン 残り30秒 完了済み



















ーーーー


「多聞くん!やっと見つけたよー!」


小さな田舎町の小さな食堂、その場所にやってきた赤髪の魔法使い。


「サクラさん!!どうやってここが?」


「ふふーん、サクラ様を舐めては困りますよ。

今回はずいぶん大変だったみたいだねぇ」


「え、ああ……いえ、いつもどおりです」


「あっれ〜死神だってバレて大変な目にあったって聞いたけど?」


「うっ……さすがの情報網ですね。

バレたときはそうでもなかったんですが……パーティの仲間の命も奪ってしまったので」


その言葉を聞いてもサクラが顔色ひとつ変えないことはわかっていた。

彼女はすでに生粋の死神なのだ。


「聞いた聞いた!あのパーティの勇者も手帳に名前も出たんだってね。

でも、どうして名を呼んだの?」


「え?いや、だって」


「ゼグーロを回収したんだから、勇者を回収出来なくてもすぐ君が死ぬことはなかったと思うけど?」


たしかにそのとおりだ。

バージーンの名は前日の夜にはなかった。そして残り時間は、手帳を開いた時には1分を切っていたのだ。

僕は、あの後の惨事を思い出した。怒り狂うアイネに呆然とする仲間たち。ギリギリ殺されなかったが、真面目に危なかった。


あの数秒で、バージーンの名が出たことを理解して、その後の状況を想像するのは容易ではなかったが、それでも出来うる限りの選択肢を頭に並べた。


「なんとなく、バージーンは知ってたと思ったんだ。自分の名があること」


「そうなの?」


「彼だけが戦闘前に手帳を見たからね。

冒険者だから……見たかったんじゃないかな、

終わりを」


そう気づいたから名を呼んだのだ。

まるで言い訳のように呟いた言葉をサクラは穏やかな表情で受け止めた。



「たしかに、終わりのない世界の終わり……ちょっと気になるかもね。


じゃあ、タモン君!

今日は美味しい和食が食べたいな」


「なるほど!サクラさんは僕の料理を食べるためにわざわざ探してくれたんですね?」


「ふふっそれだけじゃないよ。

同僚のメンタルケアは大事だからね」






そしてーーまたいつもの日常が始まった。



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