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24.前世の終点はどこへ向かう(4)



カミーユのことは、初めて会う前から噂で知っていた。


"二つ上の代にいるピエリエール家の末娘が、初の女性竜騎士になったらしい"という話は学生時代から有名で、特に特殊部隊を希望していた学生の間では知らない者はいなかった。


ピエリエール家は昔から近衛をよく輩出する家柄で、穏やかで真面目と評判の伯爵家だ。

だが、いくら昔からよく出仕している家とはいえ、伯爵令嬢が戦闘職種に就くというのはついぞ聞いたことがなかった。

貴族出身の女性騎士はいるにはいても、近衛として女性王族の守りに徹する以外には前例がない。平民ですら、特殊部隊に入ればあまりの勤務のキツさにすぐに脱落していくという。


それが一年目で竜と契約に至り、その上二年三年とつつがなく勤め続けているらしい。

そんな厳しい環境の中頑張っているだなんて、どんな人なんだろう。


特殊部隊入隊希望の仲間たちの中では、ゴリラのような筋骨隆々の女性を思い浮かべている者が多く、俺も例に漏れずぼんやりとそんな風に考えていた。


だが、いざ入隊して実際に会ってみるとハッと目を引く美人で驚いた。


筋肉は間違いなくついているのだが、傍目にはすらりとしたスタイルで、華奢な手首はいかにも"女の子"という感じがした。

アンニュイな雰囲気があり、色白の肌とブルネットのロングヘアは艶々で、際立って綺麗だった。

その上、ぱっと見は近づき難いのだが、少し話すと気さくで優しかった。


入って一か月ぐらいのある日、訓練前に靴紐を結んで準備をしていると、『こんにちは、ユーリス君だよね』とにこやかに話しかけられた。


はい!と大きく返事をしつつ思わず緊張で身を固くしたが、カミーユは気にした様子もなく自分の靴紐をしっかりと結び始めた。


『昨日の訓練きつかったでしょ。筋肉痛、大丈夫?』

『はい、結構キツイです』


頷きながら返事をすると、目を細めて笑ってくれた。


『一年目の最初がいちばん辛いよね。今頑張れば、あとが楽になるから』

『はっ、頑張ります!』


ガチガチに緊張したまま、また大きな声で返答すると、カミーユは眉毛を八の字にしながら、またニコッと笑った。


『そんな緊張しなくていいよぉ、年近いし仲良くしてね』


そんなこと言われても、お綺麗すぎて無理です。


まさかそんな返事をするわけにもいかず、『よろしくお願いします!』とデカい声で返した。

『じゃあね、今日も頑張ろうねえ』と、緩い声で手をふりふりしながら厩舎の方に去っていくカミーユに一礼し、頭を下げた。


顔を上げると、お辞儀したせいだけではない血の上りを感じながら、ようやくほっと息を吐いた。



その後もカミーユはずっと優しかった。


その内にこちらもカミーユのビジュアルに目が慣れ始め、カミーユの同期を主とした先輩方がいじったり笑い合ったりしているのを見るにつけ、近づき難さはなりをひそめていった。

むしろ、年が近いこともあってカミーユの方から度々話しかけてくれるようになり、俺もあっさりと懐いた。一緒に訓練をしたり戦闘したりする中で信頼も築いていった。

多分、早くから"かわいい後輩"としてのポジションは確立できていたと思う。


新人の俺は当初ヒョロヒョロで、魔法もあまり上手く使えなかった。

その時期からたくさんお世話になり、竜騎士でカミーユの同期であるロデリックと共に、実践的な魔法に関して鍛えてくれた。


もちろん、年嵩の先輩方や上司であるジュリアノにも色んなことを教えてもらったが、やはり年が近いカミーユたちの方が聞きやすいことも多かった。


魔物の討伐という実戦をこなしつつ、着実に力をつけていく中で、俺はカミーユへの尊敬を募らせて行った。

どの先輩方も努力家でかっこよかったが、カミーユの努力家具合は群を抜いていた。

恐らくたった一人の女性竜騎士として、懸命な努力をし続けねばならなかったという事情もあるだろうが、それ以前に努力をすることが骨の髄まで染み付いていた。


実際に魔物討伐では大抵の場合大きく貢献していたし、魔法のいろいろな使い方を模索したりと日々挑戦しながら研鑽を積み、三年目ながら実力者として城でも名が通るようになっていた。


また、出会った頃より魔法の種類も手数も命中率も向上しているようだった。それは特別に知ろうとしたわけではなく、日々共に勤める中で自然と知っていた。


そしてそれは俺だけでなく、特殊部隊の隊員であれば誰でもわかっていることだった。


だからこそ、あるべくして優秀なカミーユは一目置かれ、先輩方も大変に可愛がっていた。

そしてそんなカミーユが後輩である俺と仲良くしてくれているということ自体、日々の努力やそれによって着実に着けていく実力を認めてくれているような気がして嬉しかった。


カミーユは美人で気さくで優しいが、そんな表面的なことが瑣末に思えるぐらいに、人としてかっこいい先輩だった。


きっと俺は、カミーユがゴリラのように筋骨隆々の女性だったとしても、憧れを抱いていたと思う。




一年目の終わりに、ワイバーンの誘拐からカミーユを助けた後は、なんだか少しカミーユからの態度が変わったような気がしていた。

それまでは単なる"かわいい後輩"としての扱いだったが、ワイバーン以降はなんとなく一人前の男としても扱われているような感覚があった。


『お、ユーリスちょうど良いところに。これ、棚の上に載せてくれない?』


ある日特殊部隊の執務室に入ると、カミーユにそんなふうに声をかけられた。

艶があるブルネットヘアをポニーテールにまとめていて、振り返ったカミーユの後ろでたゆんと揺れた。

ニコニコとしているカミーユの手元を見ると、梱包された箱がある。

棚は178cmある俺の頭よりさらに上の高さで、足元には小さな脚立が置いてあった。


『いいですよ』


軽く請け負い、脚立にひょいひょいと上った。

荷物を受け取ろうと斜め下を振り返ると、カミーユが思ったよりも近くにいて内心びっくりする。


俺がいつもより上にいるせいか、下から見上げるカミーユはひどく小さく見えて、華奢な骨っぽい手で一生懸命荷物を持ち上げている彼女は、なんだか可愛かった。


『おお』


なんとか平静を装いなら手を差し出すと、カミーユはちょっと笑った。


『なんすか』

全然渡してくれないのでちょい、と肩を小突くと、カミーユは『ごめんって』とますます笑いながら荷物を渡してくれた。


『びっくりしてたからさ。なんかかわいくて』


バレていたか。

何でもないふうに装ったこと自体の方が恥ずかしく、自分の目元がブワリと赤くなるのがわかる。

心臓がバクバクし始めてなんだかよくわからないまま、ふわふわと荷物を上げて奥にしまった。


『かわいくないですよ。カミーユ先輩の方が可愛いです』


いっそのこと、とやけっぱちな気持ちでしれっと言うと、カミーユは『ええ?』と笑った。

色白の顔がうっすら蒸気して、ピンクに染まっていく。


『そんなこと…なんか、ユーリスの王子様みたいなお顔で言われると、変な気分になる』


頬を赤らめてポツリと呟いたカミーユを見ながら、勘違いするな俺!!!!!と内心言い聞かせた。


気さくで優しい美人の先輩は、俺だけにじゃなく皆に気さくで優しく美人だ。


だが、カミーユなら魔法で棚の上に荷物を載せることもできたはずなのに。


それよりも、俺に頼る方が楽だと思ってもらえたことが、なんだかくすぐったかった。

何でも出来て、自立したタイプのカミーユに、そんなふうに少しでも頼られたのはかなり嬉しくて、その日の訓練は一層捗った。





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