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謂れのない罪をでっち上げられたので、取り敢えず王太子殿下の性癖バラしておきますわね?  作者: 塵芥


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13/31

『13』


 蹄の音が規則正しく響き、その心地よい音に身を預けながら、ユリウスはぼんやりと窓の外を眺めていた。


(……最初からこのような形で帰ればよかったのですわ。なのに、どうして私は居座ってしまったのでしょう?)


 顎に手を添えながら、険しい表情を浮かべるユリウス。その瞳には、自身ですら持て余すほどの感情が宿っていた。


 車窓から流れる景色は、人里離れたトワの屋敷から遠ざかるにつれて徐々に賑わいを取り戻していく。


(久しぶりの雑踏ですわね)


 ユリウスはどこか懐かしさを覚えながらも、早く屋敷へ帰らねばという焦りに駆り立てられていた。


 しかし――


 両屋敷のちょうど中間地点で、馬車が不意に減速し始めた。

「どうしたのかしら?」


 ユリウスは内心で御者を警戒しつつ、淡々と確認した。


「申し訳ございません。少々車輪の調子が悪いようでして……すぐ確認いたします」


「そう。何分ほどで確認を終えるのか教えて頂けますか?」


「車輪の問題になるため、不備がなければ十分ほど。不備があれば三十分から一時間ほどになるかと思います」


「わかりました。再発しないよう、念入りにお願いしますわ」

 丁寧な言葉遣いを心掛けつつも、ユリウスは内心で焦燥感を募らせてしまう。


(こちらは急いでいるというのに、タイミングが悪すぎますわ)

 だが、苛立ったところで状況は変わらない。彼女は気持ちを抑えるように扇を開き――瞬間、ふと小さな疑問が浮かび上がる。


(なぜ彼は私に何も教えてくれなかったのでしょう)


 自分の身代わりとなった従者という話から、何らかの計画があったのは明らか。


 一瞬の疑念。しかし、ユリウスはすぐに答えを導き出した。

(……簡単ですわね。彼は私を信用していない)


 最初は信用できず教えなかったとしても、数週間も同じ屋根の下で過ごしていれば、途中で教える機会はあったはず。

 それでも最後まで明かさなかったということは、そういうことなのだろう。


 トワ・レイヴン――彼は冷静沈着で、決して本性を見せない男。


 どこか人を寄せ付けない雰囲気を漂わせ、無言の圧力で周囲を支配しているように彼女には感じられた。


 だが、レイヴン邸での日々の中で彼は確かに変わった。


 とはいえ、それはユリウスだけが感じた小さな変化に過ぎないのかもしれない。


 そんな彼女の脳裏に真っ先に浮かんだのは、腹の探り合いをした時の彼。その次に浮かぶのは、心配そうに自身を抱きかかえる冷たくも優しげな彼の手の感触と表情。そして――さり気ない優しさ。


「彼、出会った頃よりも、丸くなったように思えたのですが……どうやら私の思い過ごしのようですわね」


 ポツリと呟いた瞬間、彼女の胸に締め付けられるような痛みが走った。


(なにかしら、この感覚は……。少し心臓に痛みを覚えた気が。……まさか、少しずつ彼に毒でも盛られましたか?  それとも――何かの病気かしら?)


 疑念と困惑を交錯させながら、彼女は静かに胸元に手を当てると、車窓の外へ視線を移す。


(あら?)


 ふと、ピンク髪の女性が目に留まった。


 百六十センチ前後で、決して小柄とはいえないその女性。ドレスはかなり質素で、装飾品を好む令嬢が多い中、珍しいタイプゆえ彼女の記憶にも残りやすい。


(……あれは、ベリタスさんです……わよね?)


 だが、その歩き方にはどこか粗野で無骨な印象があり、何かに苛立っているように見えた。


(まるで男性のような荒々しい歩き方をしておりますわね。いくら新興貴族とはいえ、淑女として有るまじき歩行。どちらに行かれるのかしら?)


 ユリウスは言い知れぬ違和感を覚え、目だけで彼女を追った。


 すると、ベリタスと思わしき女性は、理髪店で立ち止まると迷わずその店の扉を開け中へと消えてしまう。


(……理髪店? 令嬢なら普通、侍女か専属の使用人に屋敷内で髪の手入れをさせるはず……。とはいえ、フィユート家は元商人の出。何かしらの取引でもあるのでしょう)


 若干の違和感は残るものの、商人の家柄なら現場に赴くこともあるだろうと考え、ユリウスは視線を車内へと戻した。


(……それにしてもこれだけ時間が掛かっているということは、不備があったということ。普通、問題が生じれば報告するのでは?)


 しかし、この馬車はトワから借りているにすぎず、ここで抗議するのはリスクが高い。


 ユリウスは苛立ちを窓の外の景色で紛らわせるように、再び外へ視線を向けた。


 しばらくして、先ほどベリタスらしき女性が入った理髪店の扉が再び開く。だが、そこから現れたのは先程の女性ではなく、男性にしては小柄な白髪の青年だった。


(……あの殿方、先ほどのベリタスさんと歩き方が似ていますわね。とはいえ、女性が男性を装うなど有り得ませんわ。まだ商談が終わっていないのでしょう。それに、パバート様との婚約を解消した以上、彼女と関わることもないはずですから、考えるだけ野暮ということでしょう)


 ユリウスはそう結論づけると、馬車の不具合が直るのを静かに待った。


 一時間後――


「ユリウス様、大変お待たせしました。車輪の修理が済みましたので、すぐに出発いたします」


 御者はそう告げると再び御者台に座り、馬車を走らせた。


 その様子にユリウスは、ようやく帰れるのかとホッと一息ついた。


 しかし、心の中には小さな違和感が燻るように広がっていく。


(この胸騒ぎは一体……?)


 言い知れぬ不安を胸に抱きつつユリウスは、ユアマーシャル邸へ向かう馬車に身を任せた。


 ◇

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