長老の親心
ゲルマンには冒険者ギルドが無かった。近くにセンターワールドがあり悪さをする冒険者の数が極端に少ない地域で、主に休憩所として機能している。観光という程の建造物は無いが酒の出来が良いと評判で商人もここで仕入れては各地に売りに行くほどだ。
街には人間とエルフが過ごしており、平和な街に足を踏み入れたフリード達は街を見て回った。
その途中で奇怪な物を見る目に気付いたレオンは仕方なくヴァン達の拘束を取った。
「兄貴、ありがとうございます」
「悪さしたらぶん殴るからな」
物騒な物言いだったがレオンも気を赦している様子がフリードは気になった。
「アカリちゃん。もうそろそろ果物が切れて来たのよー。次の収穫はいつかしら?」
道行く人にアカリが話しかけられていた。どうやら、アカリは親しまれているらしく人気がある。
「お酒の製造に使う果物や穀物を育てています。それを街の人がお酒に変えて売ってます。結構、評判がいいんですよ」
質の良い材料を提供して街の人達が喜ぶ事にやりがいを感じているアカリを見てフリードも気になった。
「俺もいつか飲んでみたいな」
「ふふ、いいですよ。シルヴァってお酒を今は作ってもらってます。私の名前がお酒になってるんです」
とても聞き覚えのある名前にフリードは記憶を辿った。レオンがエデンで食料を買う時に買った一番高いお酒。その名前がシルヴァだとフリードは気づく。ここが生産地だったことに驚いた。それに、名前がお酒になっている……。
「そこはアカリじゃないのか?」
「私の名前はア・カリオス・シルヴァでアカリです。そのまま『アカリ』とお呼びください」
「そうだったのか」
二人で話をしているとレオンがフリードに声をかける。
「おいフリード。俺らはちょっとこの店に入るわ」
一文無しという事を忘れた男に呆れてレオンをつまみ出す。
「酔っぱらいのレオン。お前は俺達が無一文だという事を忘れたか?」
お店の隅に移動し小声で話すとレオンは笑いながら答えた。
「安心しろ。ほら、そこの看板を見てみな」
指差された場所を見たフリードは『完食したら無料』という文字を見つけた。
「な? 全部くっちまえば無料だ。しかも、ヴァン含めて六人で食ってもいいと店主が言ったんだ。最高の街だぜおい! 腹いっぱい飯食えて無料なんだからなぁ!」
フリードは全て食べればば無料という部分をレオンは理解していないレオンに心底呆れていた。
「よく考えろレオン。相手も勝算が無ければこんな事はしない。それに、ちゃんと文字は読んだか? 食べられなかったら三万ペセタを払わなくてはならないんだぞ? そんな金も無い冒険者が俺達だ」
フリードのセリフを遮る様に指を振りながらレオンが割り込む。
「今回は六人で挑戦する。だから、失敗したら二十万ペセタの支払いだぁ! はっはっはっ」
一人で挑戦した時に三万だったかとフリードは両手で顔を覆った。
「まぁ、まて。此処だけの話だけどよ。俺は馬車で聞いたんだ。あのヴァンのスキルをよぉ。あいつの体を見てみろ。フリード並みに縦もデカく横は信じられない巨漢だ。それにはアイツのスキルが関係している。アイツのスキルは『大食らい』だ。俺らよりも消化器官が優れていて沢山食べて大きく育つスキルを持ってんだ。アレがいれば百人力は間違いない」
此方も勝算がある様子にフリードは驚いていた。六人で飯を食ってる間にアカリから食料を受け取ってくるとレオンへ伝えて別れることにした。
「あの人達はいいの?」
お店の前から戻ってきたフリードにアカリは心配そうな声を掛けた。お店の陰でこそこそと話をしていたのが気になった様子。
「あぁ、アイツ等は食事を楽しむらしい。懐が怪しいが恐らく大丈夫だろう」
「あー、やっぱり。あのお店は一筋縄じゃ行かないと思います。数々の冒険者が挑戦しては負けてるのを見てますからね」
レオンの武運を内心で少し願いながらフリードはアカリとゲルマンを離れた。
直ぐ近くにエルフの里へ繋がる道があるという言葉を信じてアカリの後ろを着いていく。この道はエルフと一緒に向かわなければ迷う仕組みがあるらしく、ゲルマンの住人でも簡単にはエルフの里へ足を踏み入れる事は出来ない。
約十分程の時間をフリードは歩いた。木々が生い茂る森の中は涼しく快適な空間となっている。
そして、森を抜けると住宅が見えた。木を加工して作られた家は先程も見覚えがある。話を聞くとゲルマンの大工がこちらで家も立ててくれているとアカリが教えてくれた。良い共存関係を築けている。
「おや、誰かが里に足を踏み入れるのを感じたがアカリか。今朝から遅い時間……何かあったのかい?」
エルフの男性が近づいてきてアカリに話しかけた。その言葉を聞いてアカリが一度振り向いて小さく頷く。その意図を読み取ったフリードは『誘拐された事は黙っていろ』と解釈した。
「長老。今朝は少し冒険者さんと話が弾んじゃって……少しだけ家に招待するところです」
「おぉ、そうかい。これは冒険者さんゆっくり寛いでくださいね」
涼しい笑顔のままフリードの肩を掴んでアカリに声が届かない木々の近くまで引っ張っていく。
「冒険者さん。今朝アカリはゲルマンにお酒の材料となる果実のルミカと穀物のシーサを運ぶ話になっていた。そろそろお酒の材料が無くなる頃だからね。そして、帰りが遅いアカリの様子を見に行くと荒らされた材料が落ちていた」
恐らく事件に巻き込まれたと想像に容易く。全て見透かされているフリードは生唾を飲んだ。
「アカリが小さな頃から面倒を見ていて全てを知っている。あの子が悪い冒険者を里へ入れるとは考えないが……十分に気をつけてくれ」
長老という呼び名を聞いた時は老人だと思ったがアカリの言う通り見た目は二十代の青年だ。その目にアカリを心配する想いが込められておりフリードは一度、深呼吸をした。
「安心してくれて構わない。特に俺はアカリへ危害を加えるつもりは一切ない」
承知したと言わんばかりにフリードの肩をコンと叩いた。フリードがアカリの側に着くと何を話していたのか尋ねられる。
「アカリの作物で作った酒は旨いから飲んで行ってくれと言われたよ」
「ふふっ、長老も大好きなんです」
アカリはフリードの手を引いて自宅へ向かった。
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