18 新しい仲間
あの後、猛ダッシュで僕らは家を目指して走り出し、特に追いかけられることもなく無事に家に辿り着くことができていた。幸兎とは家の場所が違うため、走っている途中で別れている。今頃は家に帰れているのだろうか、と心配をしてしまう。
流「ぜぇ…はぁ…、ゼェ…はぁ…。あーーーつかれた〜〜!!」
さとみ「凄い走ったもんねぇ、私もびっくりしてつい怯えちゃったよ〜!」
流「あの化け物、一体何者なんだろうな。お陰でトラウマになっちまったよ」
さとみ「美景さんだよ、麗美景さん」
流「ウルワ美景??」
変な名前だな、というツッコミは置いといて。確かに最初に見た姿の時は、とても麗しい美形の持ち主ではあったが、今記憶に残っている姿からは考えられない名前とのギャップであった。
流「というか、彩芽先輩を置いてきてしまった!?!?」
今頃思い出した。今頃大丈夫かな……。
流「いやでも、あの人ならなんら問題は無さそうだな」
そうだ、あの人なら間違いなく大丈夫だ。
と自分に言い聞かせるように自己暗示をかける。
さとみ「それにしても、走ったせいで汗だくだね。早くお風呂に入ってきなよ?」
流「えっ、良いのか?」
さとみ「うん良いよ……、て言っても前もって沸かしてないからシャワー浴びるだけになっちゃうけどね」
流「まあ、汗びっしょでいるよりかはマシだろう。それじゃあ、お言葉に甘えてお先に入らせてもらうよ」
ということで、僕はお先にお風呂に向かった。しっかりと体や顔、髪まで清潔に洗って、シャワーを浴びた。まあ、できれば湯船にも浸かりたかったが、まあ仕方ないだろう。夜も遅いし風呂掃除をする暇もなかったからな。そうして10分後、風呂から上がった僕はリビングに戻ってさとみに入るように伝えに行ったのだが……。
さとみ「あっ!上がったんだね」
流「うん上がったよ、でも一つ言わせてくれ…」
さとみ「なに?」
そうして僕はツッコミをする。その光景に対して……。
流「なんでお酒なんか飲んでんだよ!?」
机には、一本のビール缶とそれが入ったコップが置かれており、さとみがそれを飲んでいたということがうかがえた。てか、さとみって14歳だから未成年だよな、なんで普通に飲んでんの?
さとみ「多分妖怪だからお酒に結構強いのかもしれない!」
今さとみ、僕が思ってたことの答えを言わなかった?と思いながら少しだけ困惑する。
流「つーか、どこにあったんだよそれ?僕買った覚えないよ?」
そうだ、僕はこんなものを買った覚えは一度もない。まず、未成年はお酒を買うことができないのでここにお酒があるというのはどう考えても不自然だ。大人の人でなければ買えない……筈なのだ。そう僕が悩んでいると、彼女がその答えを口にした。
さとみ「だってこれ、お父さんが買ってきて持って帰り忘れた物だもん」
親父ぃぃぃぃぃぃーー!?!?!?
今度会ったら一発殴ろ、と心の中で強く誓った瞬間であった。殺意マシマシである。
さとみ「あっ、なんならお兄ちゃんも飲む?美味しいよ!それに、忘れたいことも忘れられるしさ!」
酔いが回っているのかそんな事を言い出すさとみ。
それはちょっといいかも、と思ってしまったがその考えを即座に振り解く。
流「待て待て待て!?!?そんなもの飲めるわけがないないじゃないか!?だって僕は未成年だぞ!それに、多分お酒だって弱いはずだし……」
さとみ「え〜〜なんで〜?」
流「いやなんでもなにも、言った通りのことなんだが……」
さとみ「なんでお酒が弱いってわかるの〜!普通飲んでなかったらわからないよね〜!」
そこで僕はしくじって、ヤバっと口に出して言ってしまった。これは完全にやってしまったなと、自らの失態を悔やむ。
さとみ「つまりはさ、あなたも一度は魔がさして飲んでしまったってことだよね!なら、もう一回飲んでも同じことだから大丈夫だよねー!」
いや…ただあのクソ親父に無理矢理飲まされただけなのだが?魔がさしたのではなく不意を突かれんたのだが?と言いたいが一応堪える。
さとみ「ねえねえ、あなたってお酒を飲んだらどんなふうになるの?別人になるの、それとも変わらない?早く教えないと、お酒を無理矢理にでも飲ますぞー!」
と嫌な笑みを浮かべながらぐいぐいと近づいてくるさとみ。彼女は持ち前の好奇心が故かどんどんと僕との距離を詰めてきた。やがて、壁に追い詰められたところで、僕は諦めて白状することを決めた。そうすれば飲まされずに済むと思ったから。だから、僕はあの時親父に言われた事をそのまま言った。
流「……おかしかったらしい」
さとみ「……えっ??」
流「どうやら僕は、お酒を飲んでしまったらおかしくなるみたいなんだって、親父から言われた」
さとみ「おかしいってどんな感じにおかしいの?」
流「いや詳しいことは知らない。だけど、普段おかしい親父がそう言うってことはそれだけおかしかったんだと思う。だから僕も、出来る限りお酒は飲みたくないんだ」
さとみ「ふーん……。俄然、もっと好奇心が高まっちゃった!」
すると、再び嫌な笑みを浮かべるさとみ。
あの話し聞いてましたさとみさん?と心の中で彼女に投げかけてみるが、その言葉は伝わらなかった。
結局、僕の行為は敵に塩を送っただけであった。
流「まっ、待て??なにをするつもりだ??まじでやめてくれ、まだ僕身長伸ばしたい」
と必死に適当な言い訳をしながら後ずさる。……が壁に追いやられているが為に、抵抗も逃げもできない状態になっていた。やば、これ詰んだわ。
さとみ「大丈夫だよお兄ちゃん、後のことは私がちゃんとお世話してあげるからさ。……だから」
そう言って、お酒が少量入ったコップを口に近づけながら…。
さとみ「はい、あ〜〜ん……!」
……そうして、強制的にお酒を飲まされてしまった僕は……、結局こうなるのかよ。と思いながらこの運命を呪うのだった。
それから数秒も経たないうちに……。
□□□
流「うーー〜……」
さとみ「あの……、なんで私の膝に頭をのっけてるの??」
流「なんでって……、柔らかくて寝やすいからに決まってるじゃん?それに綺麗だしな」
僕は完全に酔い潰れていた。
なんというか、意識が朦朧としているような、そんな感覚だった。でもどこか気分が良くて俺はついつい笑っていた。
さとみ「いやいや、どう考えてもいつものお兄ちゃんだったらやらない事だよね!?いつもは攻めて来るような人じゃないのに、なんで積極的になってんの?!」
流「あっ?俺はいつでも積極的だっつーの!!」
と頭から出てきた言葉を考えずに口走る。
一応言っておくが、僕は積極的ではない。
さとみ「……ねっねえ!私ちょっと……トイレに行っても良いかな?ちょっと、頭の中を整理したいというか……」
流「行くんじゃねえよ…どこにも〜!」
とそんな甘えた声音で言う。
さとみ「お兄ちゃんってそんな人だったっけ!?もうちょっと大人しい人じゃなかった!?」
流「なんだなんだ?もしかしてそろそろツッコミ役に回るのかお前も…?」
さとみ「そんなわけないじゃん!何言ってるのさ?!?」
とそんな良いツッコミをするさとみに、僕は上体を起こして優しく頭を撫でてあげた。そして、良いツッコミだった、と言って褒めてやった。
流「にしても、お前の顔って可愛くて綺麗な顔立ちしてるよな〜……」
さとみ「いっいきなりなにを言うのお兄ちゃん?!私は別に、さほど可愛いわけじゃないよ」
と何故か顔を赤らめるさとみ。
流「お前、酔ってるんじゃねえのか?顔が赤くなってるぞ?」
さとみ「いや酔ってないよ、むしろお兄ちゃんが一番酔ってるよ!」
と言われた。なんでだ?酒以外でこんなにも顔が赤くなることなんて無いだろ?
まあ、いいか…。
流「それにしても……、こんなに可愛いと誰かに取られないか心配になっちまうな〜」
と彼女を顔をじっと覗き込みながらそう言葉を口にする。
さとみ「お父さんが言ってたおかしくなるってこういう事だったの!?」
流「んぁ…?親父か……?アイツにはいつも世話になってるからな、あんな形でも結構アイツのこと親だと思ってるんだぜ。まあ、この前これを言ったらお前おかしいぞって言われたけどな」
さとみ「絶対それじゃん!」
と珍しく強く突っかかるさとみに、僕は疑問符を浮かべながら小首を傾げる。
流「あっ、因みにありがとうって今までのお礼を言ったら凄いおもしれえ顔で愕然としてたぜ!ガハハッ!」
と言って手に持った缶ビールを一口含む。
流「にげぇけど、まあ上手いな」
と普通に感想を述べる。
さとみ「本当にお兄ちゃんおかしいよ!なんでそんなにも性格が変わってるの!?」
さとみ「てか、口調や一人称まで色々と変わってるしー!」
といつまでもうるさくするものだから、僕はそこでいつもの悪い癖が発動した。
流「うるせぇな〜…、こういう時はキスでもして黙らせるっていうのが良くあるシチュエだが……、なんなら今黙らせてみようか?」
さとみ「…へ??」
瞬間、素っ頓狂な声を漏らすさとみ。すると、急に顔を真っ赤に染め上げて機能を停止したかのように止まった。そんな彼女に、僕は頭と頭をくっつけて熱を測ってみた。
流「お前さっきより顔赤いぞ?風邪でも引いたんじゃねえのか?」
さとみ「…はっ!……あっ、あなたのせいでしょうが!!」
と意識が戻ってそうそう逆ギレし始めるさとみ。
そんな彼女の反応に僕は思わず笑ってしまい。
流「がっはは!!」
さとみ「笑わないでよ!」
と怒られてしまうのだった。
そんな感じで長い夜は続き……。
□□□
気づけば僕は、硬い床の上で横になっていた。妙に体が怠く、そのまますぐに頭痛や吐き気に襲われた。まただ、またあの時のように記憶がない…。案の定と言うべきか、飲まされた後の記憶が欠落していた。さとみに聞けば何かわかるかな?とそう思った僕はさとみの方に視線を向けたのだが……。
さとみ「………(寝息)」
流「……寝てるのかよ。じゃあ起こすわけにもいかねぇし、学校に行くか」
なにがあったのかわからないが、何やら爆睡していたようなので起こさずにしてあげることに僕は決めた。そうして僕は自室にへと戻り、準備を済ませて学校に向かった。
弁当はとりあえず……、久しぶりに購買で買うか、と思いながら……出発するのだった。
□□□学校の教室
今は休み時間。もうそろそろで中間も近くなり、テスト勉強をしなくてはならない時期になってきた。まあ大丈夫だろう、僕はいつも一夜漬けで猛勉強するからな。それで点数が悪かったら……その時はその時だ、補修でもなんでも受けよう、と心の中で考えていると……。
幸兎「おい流ー!聞こえてるー?」
流「おっ?」
幸兎「よっ!どうやら無事みたいだな。連絡入れたのに全然返信が来ないから心配したんだぜ」
と幸兎が元気よく話しかけてきた。もちろんその隣には真紀もいた。どうやら、幸兎達も無事のようだ。
流「あー、悪い!全然気づいてなかったよ。それと、どうやらそっちも無事みたいだな!」
幸兎「まあな!」
と言って僕らはグーの手を重ねた。
真紀「アレは本当にビビったね〜。いくら知り合いだったにしても、あの姿は初めて見たよ」
真紀「そういえば、今日さとみちゃんは?」
流「アイツは今日、ぐっすりと寝てたからあえて起こさないでおいた」
真紀「そうなんだ」
幸兎「てことは、今日お前一人なんだな」
流「まあ、そうだね」
幸兎「よっぽどのことが無い限りさとみがお前の近くにいないことってなかなか無いよな……。またなんか喧嘩でもしたのか?」
こういうとき勘がいいよなコイツ……、と思いながら話を逸らすための話題を考える。
幸兎には流石にこんなことは言えない。なぜなら、バレると色々とメンドイからだ。なんか問い詰められたりとか、誤って学校中に言ってしまったとか、どこで誰が聞いてるかわかったもんじゃないから気が気でないのだ。そう考えているうちに話題が一つ上がった。
流「……そういや、もうすぐで中間だよな?幸兎は前回のテスト何点だった?」
唐突ではあるが、不自然では無い無難な話を切り出した。それに幸兎は……。
幸兎「俺か?俺は学年ではトップtenの順位に入ってるんだぜ。聞いて驚くなよ……?順位はなんと10位だ!!」
流「なっ、なんだと……!」
その衝撃的で圧倒的な順位に、僕は驚くだけ驚いておいた。正直なところ、テストの順位がいくらにせよ、赤点を取らなければいいだけの話なのだ。それがテストなのだから…。と僕はそんな感じで思っている。
幸兎「でっ、そっちは何位なんだ?」
と、流れ的にそう聞かれるのはわかっているので僕は即答して答えた。
流「…122位くらいだったかな」
この学校の一年生の生徒数は約180人くらいはいるので、平均くらいの順位に僕は収まっている。
幸兎「ほぉ、平均くらいか……。なら大丈夫そうだなお前も!そういや、勉強はいつもどんなことしてんだ?」
だんだんと話題が逸れていったことに喜びを感じながら、答える。
流「僕はいつも一夜漬けだぞ?」
幸兎「えっ?一夜漬けなのか?」
流「ああ…。テストの日の前日にその範囲をやるって感じだな。ほら、範囲表もらってるからどこをやれば良いのか簡単にわかるだろ?」
幸兎「まあ、確かにそうだけどよ……。一夜漬けって効率悪いんだぜ?大丈夫かお前?」
流「まあ、大丈夫だろ………多分」
と説得力のない返答を返すと同時に、休み時間が終了した。
肉附「それでは、保険の授業を始めるぞー!みんな席につけー…」
と先生が言うと、生徒たちは次々と自分の席へと帰って行った。
肉附「日直?号令」
さーて、今回のテストでは僕はどれくらい赤点回避を狙えるかな……楽しみだな、と思いながら午前の授業を受けるのだった。
□□□
そうして時は過ぎ、昼休憩の時間……。
僕らは屋上に出向いていたのだが、つい先日まで見かけることがなかった男女がいた。
僕はそれを見て、なんとなくこう思った。
爆ぜろ、……と。
女「むむっ?アノ男二人と少女はもしかして……」
すると、
だが待ってほしい、少なくとも僕はあんな少女とお喋りした記憶はない、まず会った覚えがない。いや待て……、あの女子の顔どっかで見たことがあるような気がするんだよな……と、思った僕は遠くからじっくりと彼女の顔を真剣に観察する。
男「どうしたんですか、そわ子さん?って、誰かおる!?」
男がこちらに振り向いた瞬間、何故か変に大きなリアクションをとった。
女「あー…別に、君はいつも通りにあの名前で呼んでくれてカマわん……。あの二人は、昨日会ったカラな」
何を話しているのか、僕らには一切合切聞こえてこないためわからなかったが、何か話しているのはなんとなくわかった。すると、その男との会話が終わったのか、その少女は僕たちの方に近づいて声をかけてきた。
女「やあ、昨日ぶリだな三人とも。」
とどこか聞き覚えのある声を出す目の前の少女に、僕は疑問が湧いた。顔をよく見てみると、全然表情が変わっておらずずっと無表情な顔をしていた。
僕は思わず尋ねた。
流「あの〜?どちらさまでしょうか?」
女「…あれ?わからないのかい……。なら教えてやろう、私はな」
すると、一瞬にして彼女の周りが煙で包まれ始めた。しばらくすると、彼女を覆っていた煙がだんだんと晴れその姿を明らかにした。その衝撃的な姿と名前を……。
技子「私だよ。全能智技子さんだよ〜」
流「…えっ??」
幸兎「…おっ??」
その驚くべき光景に、僕らは長い時間唖然とするのだった。
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