リアル 4
仲間を探すライムは、エルフとドラゴン族についてエリスから話を聞く。仲間が見つからないもんだからエリスを仲間にした。するとヘルパーがいなくなり冒険の進行に困った所に戦士のアルスが現れた。
アルスを見兼ねて追いかけたエリスは、進行方向に立ち塞がり交通誘導の警備員のようにワンドを横に持った。
「仲間はどうするの?アルス」
「仲間?おっとそうだ、ヒーラー探しだ」
「はぁ~っ」
下を見て溜息、アルスに飽きれたエリス。
あと一歩、ヒーラーを探し出せばメンバーが揃う。さっきアプローチをかけたカウンター席のヒーラー以外に、この街でヒーラーの恰好をした冒険者を見た記憶はなかった。まるで見当がつかない。
「ここにはいないようだ、しばらく待ってみるか?エリス」
「他を探しましょう」
急かされるように酒場を出た。
「なあエリス、ヒーラーがいそうな場所知らないか?」
「物知り博士じゃあるまし知らないわよ」
物知り博士は知ってるんだな、じゃあ博士はどこにいるんだ?と自問自答したが、探すとなると余計に遠回りになりそうなので遠慮した。
「ヒーラー、ヒーラー」
まだ言ってるアルス、お前は天然か。それとも雑然か。
「別々に探してみる?」
「手分けするのか」
アルスが相槌を打つ。
埒が明かないのでそうした。
まず正面入口に戻る、探す方法を決める。俺は右、エリスは真っ直ぐ、アルスは左に分かれ探していくことになった。俺はエリスが女だから襲われないよう街の人から見える真っ直ぐな道を勧めた。
三人、それぞれ前に進む。
「誰もいないか」
「ガサガサッ」
これはおばあさん、お年寄りは何で家の前で休むのが好きなのか?こちらの世界でも同じだ。
「ここもダメか」
あいつらは何をやっているんだ?何人か集まっている、地面の穴を見ている。
大きい街だ。街の中頃で道が切れる。道のない草むらの上を塀に沿って歩くと坂があった。登っていると合流できないので避け多少中央寄りである左にズレた、一応その場所を念頭に置く。
前に進んで1.5km位で街の角に着いた。
さらに角で左に曲がり歩を進めた先に教会があった。
教会の裏手に子供が二人いて、うち一人が頭を押さえている。壁で死角になってぶつかったみたいだ。見た事あると思ったら、さっきの子供達だ。俺はやあと右手を挙げた。
「ええいええ」
「うわーっ」
「おおーっ、お前ら駆けっこしてた子供だな。こんな所までよく来たな」
教会の角から青の刺繍が入ったコットンローブを着た、女がやってきた。彼女は子供のおでこに左手を当て右手に銀の錫を持つ。頭ゴッチンしたから手でさすってあげて痛みを和らげている。
「痛いの痛いのとんでいけか、いいなお前ら」
「それおまじないでしょー、何か雰囲気違わない?」
突然、エリスが横から顔を出した。
「いつ来たんだ?」
「今よ、そっちに人影が見えたから」
「ほぉーっ」
「ふぇーっ」
「ほら見て!子供たちが感心してる」
「綺麗なお姉さんの手に当てられたんじゃないのか?」
「あなたならそうなってると思うわ。それより口で何か言ったの見えなかった?」
「痛いのじゃないんだよな・・」
「あれは回復魔法を唱えていたのよ、聞いてごらんなさい」
「そうか、なるほど」
俺はポンと手をつき納得した。
「あ、あの、すみませーん」
子供に手を当てている女性がこちらを見た。
「回復魔法を唱えていたんですか?」
「はい、傷の手当です」
「医者ですか?」
「いいえ、私はセイラ。将来、教会で働き聖母のような存在になれる事を目指している見習いです」
「それで、子供たちを魔法で治していたんですね?」
言い回しが変かな。
「気づいたら神の思し召しで来ていたんです、癒しの手となれれば幸いと思って回復魔法をかけました」
教会、回復魔法、聖母、癒し…、
「セイラさんはヒーラーね?」
「はい、そうですが」
俺は透き通った目が輝くセイラから神聖な気配を感じとっていた。ヒーラーってこれだよ、これ。
「やったぁ、ヒーラーが見つかったぞ」
俺は飛び上がった、横にいるエリスも微笑む。
あとはアルスだ。
「おーいアルス~!」
―――三十秒ほどして、
「おお~い~!」
アルスがそれに反応した、こちらに近づいて来る。
「ここだーここ」
「今行く~」
頭ゴッチンした子供二人の頭を、なでなでしながらセイラはこちらを見ていた。
「ちょっと待って下さいね、セイラさん」
「はい」
もうそろそろ来るはずだと思ったら、
「はぁはぁ、お揃いですね、お二人さん」
「当たり前よ。それにしてもアルスは汗っかきねえ」
「そうですか、努力家なんだが」
努力家かあ・・・。
「それはそうと見つかったんですか?」
「うん」
俺たちの会話を聞いたセイラが気にしてこちらを見ている。息無し言うのもちょっと怖い。
「あのー」
「何でしょうか?」
「セイラさん、私たちのギルドに入りません?」
俺がまごついていたのでエリスが話を切り出した。
「お断りします、私はこの街のシスターになるのが夢です。いずれ街の人と共にご逝去された方にご冥福を捧げ、天にお祈りを捧げたいと思っています」
「そう、シスターの仕事はそれだけだと思っているのね」
「ええっ!違うのですか?」
「違う、教会は祈りだけやってればいいんじゃなくて悪魔信教に対抗したり呪いを解いたり傷を癒したりするの。本当の救いをやってこそ真実の生きとし生けるシスターで人々に人生を説くことができるはず。そしてそれらはギルドの中でより高度な回復魔法を学び、瀕死の状態の仲間を回復させてこそ培われるもの」
「じゃあ私はこのままではなれないのですか?」
「なれないことはないけど、呪いを解くことはできないかもしれません、例えばヒーラーがなぜギルドに加わっているか分かる?」
「教会に入るためですか?」
「そのための方もいるでしょう。私は教会以外でもいろんな分野で活躍できると聞いています」
「そうですか・・・それではギルドに加入します」
!?俺たちは一斉にセイラを見た。
「どこにだ?」
俺が言うと、
「あなたのギルドに」
セイラは強い目をしてライムの手を取った。
「いいのかセイラ」
余りある変わり様である。
「何言ってるんですか!皆さんヒーラーはそのためにいるんですから」
!! アルスは志を同じにした同志に聞き入る。
・・・ エリスはしめしめと思ったのか聞き役に回る。
――― 俺は何もなかったかのようにエリスの口車にのせられたセイラの言葉を聞く。
「うん、それなら自己紹介するわね」
「私はエリス、魔法使いを担当!」
「俺はライム、一応これでもナイトだ!」
「俺はアルス、戦士としてさっき入ったばかりの野暮な野郎だ、同志としてお互い頑張ろう!」
「みなさんよろしくお願いします!」
セイラが仲間に加わった。
俺はしばらく仲間になったセイラを見ていた。セイラは茶色のセミロングの髪にそばかすが少しあり茶色の目と小鼻、白桃の唇の容姿でそんなに教会が似合ってなさそうな女性である。
「なっなんですか、ライムさん」
「えっああ、何でもない」
田舎育ちに見えるが、典型的な目鼻立ちをしたサンサンドの女性だ。
「みんな揃った所で、冒険へ出発だ!」
俺を先頭にエリス、アルス、セイラと仲間になった順番で並ぶ。ただ真後ろにいるわけではなく列は乱れて四列平行になっていた。
格好よく出発してみたが俺は新米リーダー、何も分からない。目的地はアルス、しなければいけない事はエリスに聞くつもりだ。プレッシャーで汗がダラダラと垂れ首や脇も熱くなってきた。
「グギュゴゴゴォー!」
「なんだ敵襲か?」
「ア、アルス悪い。俺の腹の音だ」
「なんだ腹が痛いのか?さっそくヒーラーに治してもらおう」
「えっ!?」
「いや昨日から何にも食べてないんだ」
まだ日が浅い三人に腹の音を聞かれ恥ずかしい、だが何か食べないと鳴り止まなさそう。
「それでしたら、これ食べて下さい」
ヒーラーのセイラは布に包まれたパンと色のついた汁を持っていた。
「これは」
「それは子供たちにあげようと思って持っていたんです。他にも親がいなくなった子供や飢えで倒れている冒険者たちにもあげています」
「いいのか?もらって」
「はい」
「ありがとう」
「いいえ」
まさに神対応のシスター、見た目と歯ごたえがパンのような物は少し甘かった。ジュースのような色のついた液体は酸味と苦みがしたが飲めなくもない。
「エリスさん、アルスさんもどうぞ」
「俺はさっき酒場で食べたからいいんだ」
「ありがとうセイラ」
エリスは笑って受け取り食べる。
お腹がふくれたので探検がてら適当に歩き回る。イベント発生やアイテム発見、何か気になるものが出てくるかもしれないと、まさに当てのない行動。
歩いたが何の収穫もないとわかったのは街で教会の鐘が三回鳴ってからの事、皆うだうだ言い出した。
「だるいだるいだるいだるい」
エリスが唱えている、だるいという詠唱というか文句。
「ふへぇえええ」
熱さに耐えられず気の抜けた声の腑抜け戦士、耐え抜いてみせろよ。
「何時なの、体を休め賜え」
セイラは相当バテていて体力のなさはエリスより上だ。言い方は優しいが言葉はストレスがこもっている、神に祈っても思うようにはならないかな。
「なあエリス」
「なーに、近づかないで暑いんだから」
「次はどうすればいいんだ」
ひそひそと俺はエリスにきいた。
「何も考えないで歩き回っていたの?ゲームでやったでしょ。次は情報収集で他の街に行くための情報を入手することよ」
「入手なしで探せないかな?」
「運が良くないと迷子になるから無理。乗り物の調達にもお金がかかるし、次の街に行けない場合ならそのためのアイテムとかレベルが必要になる。モンスターや冒険者と戦闘になることもあり得るし行動は情報次第ってことになるわ」
「そうなんだ、それなら」
「まずは街で情報収集だ!」
拳を掲げて俺は言った。
「さすがライム」
「ふっ、当たり前だ」
セイラには気づかれなかったがエリスは飽きれていた。
「鐘が三回鳴ったけど、あれは何だ?」
「あれは時間です、光球が中指と薬指の間隔を動いたら一時間となり一回鳴らします」
「そうなんだ」
ということは十五度だから、三時間歩き周っていたということになる。途中何回も休んだりしたけど何やってたんだ俺は・・・。
「また手分けするか?」
アルスが言う。
「情報収集はリスクがあるから行動は一緒にします」
エリスが言う。
「そうですね」
「ところでアルスは仲間を探したって言ってたけど他の情報は知らないか」
「以前のギルドの経験で良いのなら話すと、情報はその時々で変わるんだ。それは状況が変わるからだろう、あと朝と夜では違うのが普通だぞ」
「ふぅ~ん、なら今に入ってくるかも」
「良い読みだな。新しい人が来ると状況も変わる」
そう言って俺は人気のない街の丘の上方まで歩いて行った。ここまでくれば、さすがに誰もいないだろう。異世界の話を聞かれるのは良くない。
「そう言えば、この街に来て気付いたんだが仲間が早く見つかるのは外から人が来ているんじゃないかと思ったんだが」
普通の声の音量でエリスに尋ねる。
「それはあるわね、こうやってメンバーも見つかったわけだし」
「俺は酒場も宿屋も街の中も回ったけど見慣れない冒険者はほとんどいなかったぞ。これまでで十人位かなー。
でも戦闘は多かったな、一歩街の外に出ると次から次へと凝りもせず飽きもせず。冒険者に成りたての雑魚をなりふり構わず倒す奴らがいた」
とアルスが言う。
「どういうことなんだ?エリス」
「雑魚でも倒せば経験値がもらえるってことよ」
「アイテムも手に入ることがあるぞ」
アルスが言った。
でもそれは盗賊のような気がする。
「いやそれじゃなく新しいメンバーが外から来るってことだよ」
俺がエリスを見るとエリスは俺から目をそらした。なんだ今の違和感は。まるで初めて俺の目を見てくれたような、今の部分に秘密があるかも。もしかしたらエリスも外から俺と同じように転移しているんじゃないか?
そうすると、俺にだけ元ヘルパーのエリスがつくのは変かもな。あ~っ、考えれば考えるほど人の関係が複雑になる。
「アルス?」
「なんだライム」
「アルスは別のギルドに入っていた事があったんだよな」
「過去に三回あるぞ」
「戦闘で負けると、どうなった?」
「それは決まってるライム、ケガで済まなかったら死あるのみだ」
「そうか教えてくれてありがとう」
「そのあとは教会に仲間を連れて行って祈りを捧げ火葬する。もし、このメンバーのうち誰かそうなったら後はそうしてくれ。そうしないと死体に群がるモンスターがいるからな。奴らは、どこかへ死体を運んでいく。きっと食べているんだろう。人間を食ってうまいと思えば人間を襲うようになるし味を覚えられたり目をつけられたら厄介になる相手だぞ」
「それは怖いな」
俺はこの世界の現実を少し知った。まだ戦闘に至っていないから知識だけでも、と考えたがよかったのかどうか。
街は狭いようで広い、何年経ったっても知らない人や物事があったり、それでいていつも見ている風景と場所である。