ゲーム 2
レシートにルーレイファワークのゲームの宣伝が書いてあった。のは目の錯覚だった。庄はアプリをインストールしゲームを始める。そして砂地から街に移動、酒場に行った。
これまでゲームで主人公の名前を考えるのに、時間がかかったことはありませんか?使える名前をいくつか用意しておけば、あーら不思議すぐに決まります。
そのうちの一人の太った男に話しかける。大柄で鎧を身に着けている姿から戦士だと判断した。タッチすると、
ライム:
と文字入力画面が表示された。
すみません、と俺は入力しEnterキーを押すと画面に文が表示された。
ライム:すみません
シロップ:ん?
アッキー:ああー・・
モニカ :なぁーにぃー?
みゃあ :はい
各々が言葉に応えるように文字が表示された。
アプリで、こんなに自由な答え方が出来るゲームはあまりない。これはオンラインチャットである。文字の:の左側が名前で右が文字入力画面となる。
スマホ画面の右上にキーボードの絵があったので、そこを押すと画面の中央にテキスト入力アイコンが表示された。人をタッチする以外の方法もあるようだ。俺はチャットの要領で文字を入力していく。
ライム:俺はライム。さっきナイトの職種を選んでゲームを始めたんだけど、この席に入れてもらえませんか?
長い文字は折り畳まれ、自動スクロールされる。
アッキー:もちろん僕はアッキー、戦士だよ。
みゃあ :ええ、私も初心者です、私はヒーラーを選びました。
モニカ :よろしく。私は魔法使いのモニカ、モニカって呼んでね
シロップ:うん、エルフのシロップです。
四人はそれぞれ別の職種だった。
左からシロップは背が低く小柄でツインテール、マントを纏い、耳が尖がったエルフ。アッキーは話しかけた大柄な男で戦士、モニカはカールしている髪に赤黒いローブを着た魔法使い、みゃあはショートヘアーで白と青のローブを着ている細長型のヒーラー、みんな職種に合った特徴的な格好だ。
皆、良い人たちでよかった。色々質問してみよう。
ライム :これ敵とかいますよね?
モニカ :いるよ。もちろんゲームと同じ
ライム :RPGのゲームとか?
モニカ :そう、アクションRPGゲーム
ライム :敵はどこにいるの?
アッキー:街の外やダンジョン、でも強い敵は出現しないから大丈夫
ライム :レベルを上げて装備を整えていってボスを倒すようなゲーム?
アッキー:う~ん、ここに敵はあんまりいない。それよりプレイヤーの方が多いかな
ライム :プレイヤー?
アッキー:うん、他のプレイヤーとの戦闘だよ。モンスターはダンジョン以外であまり出ないから。イベントで街に来ることあるけど
ライム :それで強くなれるの?
アッキー:なれるよ、レベルも上がるから。でも喧嘩になるからモンスターを倒す方がいいかな。
そうなんだー。戦いが始まったら自動オプションが開かれて、ちゃおが教えてくれるだろう。やっぱり早く攻略するには聞いたほうが早いなと思った。
ライム :ところで俺は砂地にぽつんと立っていたところからゲームが始まって、この街まで来たんだけど皆そうなの?
みゃあ :いーや違うよ。私の場合、街の中で突然家族と住んでいてテーブルを囲んでいた
アッキー:僕はベッドの中で眠っていた
モニカ :私はダンジョンでモンスターに襲われてた。酷いのよ、チョーでかい嘴で突かれていたの
シロップ:私は生まれる所から、でもすぐに成長した
どうやらシナリオは決まっていないようだ。別々のものが用意されていたのか?
ライム :へえー、大変ですね、皆さん
アッキー:まあ、そんなことも
ライム :じゃあ、このルーレイファワークのゲームCMで司祭の女が未来の扉を開くと言っていたけど、どうなるんですか?
アッキー:CM?ゲームにCMはないけど・・・
モニカ :未来はそんなに簡単に変わりません
みゃあ :ネット社会は情報が鍵になります。ゲームで未来の扉を開く?何を言ってるのかさーっぱり
シロップ:意味不明
次々に返答チャットが表示された。
どうやら皆、このゲームのCMを見ていないようだ。CMなんて偶然目にするものだから見ていないのだろう。
ライム :はははははは
と入力し、とぼけてみる。ないのなら、このゲームに用はなくなる。
だが、もしかしたら後のイベントで現れるかもしれない。せっかくだし、チャットできるゲームは初めてだから、もう少しプレイしてみよう。
ライム :話を戻すけど、このゲームを進めるにはプレイヤー同士で”フェア&スクエア”バトルをしたりダンジョンに行くので合ってる?
アッキー:いい、だけどそれでは先へ進めない。ダンジョンを抜けないと次の街へは行けない。
ライム :それってどういうこと?
モニカ :待ってアッキー、ここからは私が話すわ
アッキー:じゃあ、お願いします。
モニカ :ではこのゲームの進め方を説明します。まずプレイヤー同士で戦闘しスキルを覚えます、ある程度強くなったらダンジョンに行きます。そこでモンスターを倒したり鉱石やモンスターの一部を集め売却してGoldを得ます。それで装備品を整えます。ここまではいい?
ライム :はい、理解できます
モニカ :ここからが本題よ、このゲームはダンジョンの攻略に関して問題があります。私たちもこれから進めていく上で当たる壁だと思うから話しておくね。次の街に行った途端に仲間が急に消えたらしいの、この話は他のプレイヤーから聞いたんだけど・・
ライム :どうして消えたんですか?
モニカ :分からない、飽きてやめたか、そういう設定なのか。次に進むとイベントで一人ぼっちプレイヤ-になるのか、単に教えたくないのか、さーっぱりわからない。ちなみに今、私たちがここにいるのはダンジョンの難易度が高くて先へ進めないって理由よ、もうお手上げって感じで。ところで、ライム君はこのギルドに加入希望で良い?来てくれるとメンバーが揃うんだけど・・。
ライム :もちろんです、よろしくお願いします。
モニカ :お願いね
ライム :はい
俺は飽きたら次の街でやめようと思ったが、それは言わないで胸にしまっておくことにした。
モニカ :私たちはダンジョン以外の戦闘の時はたいてい酒場にいるから、そこで待ち合わせしましょう
ライム :わかりました
モニカ :じゃっ、ゲームの話は、ここまでにして私は失礼するわ
ライム :はい、ありがとうございます
シロップ:さよなら
アッキー:さよなら
みゃあ :失礼します
俺はツイていた。みんなからアドバイスを受けて、あっという間にゲーム知識が増え、初心者レベルから抜け出せた。基本的な事を理解し、その補足としてヘルパーの案内人ちゃおに尋ねた。
えっとアイテム変換っと。メニューのヘルパーを起こし、アイテム変換のバーをタップする。
『もしかしてアイテム変換ですか?』
「もしかして、そうだよ」
『アイテム変換は、モンスターが落とす特殊アイテム(鱗やツノ)を素材として加工することで得られる物で武器やアイテムがあります。
まーたぁまたまた、特殊アイテムを加工するにはGoldが必要ですが、加工を一切せず売却して最初から加工された武器や道具(一部除く)を買うこともある意味アイテム変換と言えるかもしれません。どう考えるかは、あなた次第!!』
ビシッと腰に手を当て指をさす。
そうか・・・相変わらず明るいな、ちゃお。寝起きで元気なヘルパーだ。そうやって装備を整えていくのか。いろいろな手順があって最初は難しいが慣れれば簡単だな。
そして・・
俺はゲームで2週間、皆と一緒に楽しくプレイした。三週間目からはダンジョン攻略に挑む。
―――――――――
ライム :よし敵が尻尾を落としていったぞ
モニカ :それは薬になるから売ると良値で買ってもらえる!
ライム :うひゃーマジ?
―――――――――
ライム :やばいHPが底をつきそうだ
みゃあ :大丈夫、すぐに回復魔法で傷を癒します
―――――――――
アッキー:ライム、そこには落とし穴があるよ
ライム :そ、それ早く言ってくれ
カチッ・・カチッ
穴に落ちそうになった。トラップが発動してカチッと音が鳴り床が開いたが、動いたのがよかったのかすぐに閉じた。
ライム :助かったよ、アッキー
アッキー:僕は落ちて即死だった
ライム :そりゃーお気の毒に
アッキー:それでも皆は冒険続けてた(涙)
ライム :・・・。
たいていのゲームは復活にGoldやアイテム、高度な魔法がいるから、それを集めていたんだろう。
―――――――――
シロップ:ライムそこ危ない!
ライム :えっ!おわ、あああっ!
モンスターがたくさん近づいてきていた。
ライム :やばい
シロップ:立ち止まると敵の的!
ライム :ゴメン、そうなんだ
―――――――――
そうして一か月ほど過ぎた頃だった。
今日は土曜日の夕方、ゲーム人口が爆発的に増加する時間帯。どのゲームでも、この時間帯はログインプレイする。仕事は早く終わるので、いつものようにルーレイファワークをプレイした。
土曜以外は一人でプレイし自分のスキルを増やし、土曜はみんなでダンジョンに挑戦、その反省会も含めて皆でチャット。スマホのゲームは現実世界から逃げた場所と考えていたが、こうやって皆でチャットしていると、そう思わなくなった。現実でコンビニで人と対面して仕事をして話すことと変わらない、そう皆(他者)とチャットしていて感じた。
そもそもスマホアプリはパソコンの応用。パソコンはアプリを仕事の業務用ツールとして会議に使われてきたはずなんだが、いつしかゲームも入ってきた。そして仕事用とゲーム用の中間のようなアプリが出来てきて、使われなくなったアプリも増えていったような・・。
ある日のこと、
モニカ :ねえねえ、皆
ライム :どうしたんですか?
モニカ :こうやっていつも土曜日に集まるんだけど
アッキー:集まってる
モニカ :今度から、もっと効率を良くするためMeell交換しておかない?皆のログイン時間が連絡できると予定が立てやすいからさー。Meellなら万が一、情報が漏れても悪用されることは少ないから。他のギルドでMeell使っている人、多いみたいよ
アッキー:僕はどちらでも
みゃあ :出会って三か月だとちょっと早いかな
ライム :いやいや、もう仲も良いし信用もとれていると思うけど
シロップ:いいよ
大人しいシロップ。
俺たちはゲームメールを使った。これはイベント用の通知と同じでギルドメンバー間だけのやりとりができるゲーム機能である。
「タ・・・タラーラ」
メールでMeell番号を交換、
俺はすぐにMeell番号を自分のMeellに登録した。えっと、メンバーで俺以外の男、おちゃめなアッキー、おとなしいみゃあ、明るいモニカ、冴えるシロップと入力する。
モニカ :みんな登録できた?
モニカがゲームチャットで尋ねてきた。
ライム :うん
俺はできるだけ早い返事の単語を入れる。よし一位だ。
みゃあ :いいよ
みゃあに勝った!ライバル心むき出しの俺。
アッキー:僕も
アッキーは若いのかな?いつも言葉使いが幼い。これは俺の偏見であるが現実に近づく分、相手のことを知りたいと思った。
シロップ:ちょ
意外に遅いシロップ、いつもの冴えがない。
モニカ :えー、どうしたのシロップちゃーん。もしかしてこういうの苦手かなー?
こういった女なのかモニカさんは。
シロップ:うるさい!ちょっと待って
あのシロップが崩れかけている。冷静で戦闘感覚にずば抜けたクール女子が
モニカ :もしわからないことがあったら、このお姉さんになーんでも聞いてね。ゲーム以外の事でも教えてあげるから
シロップ:終わったからいい
モニカ :残念だなぁー
シロップ:残念でした、きゃはは
モニカ :あれぇー、冷静なシロップちゃんが荒げもない
シロップ:それで
モニカ :乱れる所を見ると、まだ子供とか
シロップ:いえ、違います
モニカ :そう?
シロップ:はい
モニカ :じゃあ、今度みんなで会わない?家が遠いかもしれないけど。
シロップ:私は会えません
モニカ :そうだよね
シロップ:はい
モニカ :子供だよね
シロップ:違います
モニカ :じゃあ会いましょう
シロップ:会えません
モニカ :なぜ?
シロップ:秘密です
ライム :おいおい、いい加減やめろよ。皆仲良くやろう
とりあえず仲裁役を買って出た。これ、誰それが子供とか言ってるけどオンラインだと、外で誰かから覗かれたらバレるぞ。実際、俺はスマホでゲームしている所を何度も見られたことがある。
モニカ :それはあったわ
シロップ:私は小さい子供の画像なので、よく子ども扱いされます
ライム :そう思う、逆に子供ってことにしたらどうだ?
シロップ:考えてみます
モニカ :お・・・。
意外な反応だったのでモニカさんは驚いたようだ。
アッキー:このゲームで子供体系のキャラクターは珍しいからみんな子ども扱いしてたかな。他の冒険者がキャンディあげたり、入店を断ったり
シロップ:はい、ありました
モニカ :それでシロップなの?
シロップ:馬鹿にしてる?子供だと思うなら一度勝負してもいい。
モニカ :勝負?私はそれでもいいよん。ただ面白くないから何か賭けましょう。
ライム :モニカはハーモニカか、なにかなのか?
モニカ :それ、おしい~
ライム :やっぱり
モニカ:うん
当たったのはいいがそれで話は終わった。シロップとの勝負を俺との勝負に持ち込ませたかったのに。
アッキー:二人ともそこまで
今度はアッキーが仲裁者。ナイスタイミング!!
モニカ :なーにアッキー、いつもみたいに黙っててよ
アッキー:う~ん、その勝負Meellでしばらく話してからにしよう。僕もさ、まだ慣れてなくて
モニカ :慣れる?
アッキー:Meell交換の後で、すぐに会わないよ。まあ普通は信用できてから交換するんだろうけど
モニカ :信用できないってこと?
アッキー:そうじゃーなくて、みんなだから、もう少し分かってからの方がいいかなって思うんだ
モニカ :そうね、じゃーそうしましょう。滅多に口を挟まないアッキーが言うんだから今回は特別に待ってあげるわシロップちゃん。勝負の日まで何を賭けるか決めておいて
シロップは何も言わず黙っている。意地悪なモニカでイメージが変わって見えた。
モニカ :明日の午後五時からMeellでメール開始よ。
みゃあ :私の家、午後七時から夕食だから丁度
ライム :俺は不規則・・
そして、その日の土曜は終わった。
口語的表現が難しかった。