1話 閉ざされた世界
はじめまして、初投稿です。作品を何度も修正して書いております。自分で悪い所が分からないので教えて頂ければ良いなと思い投稿しました。
1話 閉ざされた世界
空を見上げると、いつものようにのんきな雲が浮かんでいた。
もくもくと食べられる形と色とふわふわ感で、まるで綿菓子のように
「何も変わらないか」
他人から見たら空を見上げている俺、自分でもその理由が分からない奴がここにいた。
空を見上げてしまうのは、
・雲に梯・・・達しがたい望みを叶える(雲に橋をかける飛行機(雲))
・籠の鳥、雲を慕う・・・自由な境遇を求める(雲まで飛ぶことのできない鳥)
からか?
別段あっても、そんなことで日常の生活は何も変わらない。
しかし、その正体は人間の都合だ。人間はそれを求め、また叶えている。
もし自分が自由を求め叶えたい(掴みたい)なら、その前にしなければいけない事がある。
だから、ずっと見ていると目がチカチカ、眩暗する昼下がりの太陽が昇る空から俺は目を離した。
俺は学校を卒業し就職出来ず無職となった。ぶらぶらしていると生活できないのでアルバイトを始める。転々として今はコンビニ勤め。もちろんバイト生活なので自宅からの通勤である。独立して自炊なんてとんでもない。
昼からのアルバイトの仕事だと朝の活気が消え去ってしまい皆からなんだか出遅れたような気がするのは俺だけではないと思う。
そう・・・・俺は負け組だった。
その事はこれまでに十分考えた、考えなくていいのに必要以上にやっていたと思う。今さら何をしたいのか劣等感を抱えながら今日も仕事に行くため相棒の自転車と共に出発する。
――コンビニに到着。
「お疲れ様です」
勤め先は、どこにでもあるコンビニ。俺は入り口付近の従業員に挨拶をして事務所に入り準備を整えた。
事務所から出て、
さあ今日も一日頑張ろう!
お客さんが来たら必ず言う一礼一声、
「いらっしゃいませ!」
そしてお客さんの買い物帰りに一礼一声、
「ありがとうございました!」
これを何度も繰り返しながら平日の業務を全てこなした。店内はお客さんが所構わずいて、いつも忙しい。まあそんなところしか男は雇ってもらえないのだろうけど・・。
「ピンポーン!」
おっとお客さんだ、不平不満は後にしよう、ピンポーンの音が鳴るたびに気をとられるがどこにいてもピンポーン=お客さんだった、なぜなら店員は外にあまり出ないから。
「ピンポーン!」
「ピンポーン!」
「ピンポーン!」
たまに「ピーッ!」や「ブーーーーッ!」、「ピピピピピピ!」と音が鳴って
時間になる。
終わったのでそそくさと帰る支度をとり、
「お疲れ様でしたー」
この一言と共にアルバイトの仕事が終わった。
忙しい仕事なので始まりから終りまではいつも早い。短時間労働は募集条件が理由で、他のコンビニも同じ条件だった。その理由は保険をかけたくない、多くの人を雇いたい、休んだ時用など理由付けしてみた。コンビニは業種的に時給と雇用形態が低い事がその発端だろう。
仕事帰り、近くのスーパーで簡単な買い物を済ませ自宅に帰る。
アルバイトの時給にあった経済的活動(安いスーパーに行く)をする。もし客観的な目があったとしても、みんな理解してくれると思う。
この俺の低い生活水準は今に始まったことではない。
その発端は学校卒業後から始まった。会社に応募しても正社員やパート従業員は全て不採用となり、渋々アルバイトとして働く。そこからは階段を下るだけ、負の連鎖となる。
誰も好きでアルバイトをしているわけではない。もっと長時間働いてお金が欲しい。みんな(同じ年の人)と同じ生活をしたいと考えている。
仕事先で誰かと、例えば同級生に顔を合わせると顔を背けたかった。アルバイトをしている所を見られる事が、とても恥ずかしくて嫌だった。まあ、そうしていても否応なしに見られるわけだけど。
悟られないように相手が気を使っていることもあり余計に関係がギクシャクした。相手の表情で気づいた事が分かった時は、俺は困った顔をしていたと思う、また焦点が合わなかった。
しかしそれを受けとめないと、ここから先へは進めない。その事はアルバイトを転々として気づいたのだが・・。
自宅に帰るとちょうど午後六時半、夕食をとった。たまに七時になったりもするがそんな時間までコンビニが混むのは稀である。
いつも買い物で買ってきたもので簡単な夕食を作る。大体十分位で葱を洗い包丁で切って豆腐を入れ煮込む。そこに味噌を何回かに分け溶かし入れ吸い物は完成。続いて半額の刺身を用意し、ご飯を温め直した。
手をにぎにぎ、舌ペロリ。いつもこんなディナーだと心が元気になるなと思った。
午後七時、合掌をする。
「いただきます」
普段の夕食は納豆か卵か鶏肉で質素な生活のお手本である修行僧みたいな食事だった。そうして貧民層の生活で心が荒んでいったが、今夜はそれが修復されたような気持ちになった。
全ての理は己の心次第という悟りがあると言う、いやないない。修行僧がどうやって欲を絶っているかは修行僧でないから分からないし、俺はまだ好きなものを食べている。
まあ極貧な生活は今に始まったことではないので、さほど気にはならなかったのだが、美味しいご飯は心を和ませるのは本当であると思った。実際、自分が食べてそう感じているのだからなおさらだ。
食べながらテレビを見る。
アニメ『ファーストフード作りません課』、俺は日課のようにいつも夕食時にアニメ番組を見ていた。このアニメは妙に気になるアニメで、昔から仲がよかった二人の男女アルバイトが新しいファーストフードの発案に奔走する内容の番組だ。
最初は二人で一緒に発案して提出したが、それでは審査できないと言われ別々に発案することになる。この課では一年に発案が三回通ればアルバイトからパートに、さらに十回通れば正社員になれるという画期的制度があった。
今日の放送は女の方が三回通ってパートに昇進し、男は悔しくて落ち込んでいく場面だった。今日で五話、後は次回に続く。
アニメが終わりエンディングが流れた。視線をご飯に向け、箸と茶碗を持って食べることに集中した。
「カチャン!」
おっと!箸を立てる音が響いてしまった、お行儀が悪いな。アニメを見ていると箸が進まないのでその反動か、せわしなく食べてしまった。
次は気を付けて、そおっと食べる。
「パク、パク、もぐもぐもぐもぐ」
ご飯を頬張る。
「ピチャ」
ワサビを溶かした醤油に刺身をつけ箸で持つ、ご飯の上にいくまで垂れないように気を付けながらご飯の上にのせて、今度は一緒に持って口へ運ぶ。ああ~これは美味しい!なんて言葉一つで表現できるものではない。
「パク、モグモグ、モグモグ、モグモグモグモグ」
ある程度噛んで飲み込む、そしてあとに味噌汁をすする(飲む)。
「ふうー」
ああ美味しい、満足感と香りとのど越しに浸る。
次にご飯を味わうように噛んで一日の仕事を振り返った。あのときは、ああしたほうがよかったかな?あの時はもっと声を出そう。この時はあえて見ないようにしようとアルバイトながら思い耽った。
今やっているのは短時間勤務の仕事だが、何もしていなかった頃と比べると随分と生活が良くなった。
俺が長期勤務の正社員に就こうとすると仕事が途絶えた。
なぜか?
仕事をしていて面接を受けると面接日と仕事が重なったり面接官が、「今の仕事があるのなら続けてはいかがですか?」と言ったり、不採用にする理由をその場で作られた。
ほーんとこっちのことなんてなーんも考えていないと思う。断る理由探しをしているみたいに付け込まれた。
仕事が途絶え無職となった後、正社員の仕事に就けずどうしようもなかったので俺は再びアルバイトを探した。パートは保険が必要だからと、不採用になる可能性が高いからだ。
やってもやっても、浮かばれない俺の心は次第にかたく冷たくなっていった。しかし美味しい味噌汁と優しいバイト店仲間は、その心を温め軟らかくしてくれた。アルバイトでも何でも仕事をやっていれば好きなものが買えるし多少の見返りがある。
そう仕事をすれば自由がうまれた!
そう仕事をすれば自由がきいた!
仕事をした後のご飯が美味しいと思うのはアルバイトでも何でも同じ。無職の時なんて居たたまれないし味わえず、なぜか美味しくなかった。
「この味噌汁、美味しいぃ」
俺は美味しいお味噌汁に感動した。
続いて味噌汁の葱を箸で掬い食べようとした時の事、
「この・・
気づいたらアニメソングは終わっていた。そしてCMなのか声が聞こえた。俺は瞬時に、この声と台詞が意味するものを悟った。
見逃してはいけない
と。自信に満ちて説得力のある人気声優のような声音、言葉をためて発するまでの間、とっさのことだったがすぐにテレビを見た。
・・世界があなたの未来を変える!」
こちらをみて一人の司祭の女が語りかけている。
「今世界は開かれていると言われています」
どこだろうか森・山・川・空・地、所々が映し出されている。
「情報化社会というネット社会が世界を構築しスマートフォンによって皆さんはその情報と世界を共有して生活しています。そこのあなたも世界の知識を探るスマートフォンをお持ちでしょう。分からないことがあっても調べればすぐにあなたの元へ情報が届きます」
「開かれているあなたには問いません、開かれていないあなたに話します、言います、伝えます。まだ分からないことがあるあなたに教えます、答えます、応じえます」
「この世界があなたの未来を変える。ルーレイファワーク、あなただけの異世界」
テレビ画面に【ルーレイファワーク】と【あなただけの異世界】のテロップが流れる。
「まだ知らない異世界があなたを待っている。私と一緒に未来の扉を開きませんか?私があなたの手を引いたように」
俺は箸で持ち上げた味噌汁の葱を持ったまま食べるのを忘れていた。その葱からポタポタとテーブルと下の絨毯に汁が垂れていた。
「あっ!!」
急いで台所からふきんとタオルを持ってきてテーブルと絨毯を拭いた。味噌汁だと香ばしい臭いが染み付くから丹念に拭かなければ。テーブルはタオルでふき取り、絨毯の方はタオルとふきんで交互に拭くという作業をくりかえした。
ある程度拭き終わった所でCMに思いを巡らす。何が開かれているあなたはゲームをしなくて良いだ。そんなの誰がやるか。いやそれが誘いだな。
『私があなたの手を引いた』ということは、こちらも手を引けという事だろう。それが扉を開くと。そういう宣伝文句の罠は常套手段で、既に経験済みでお見通し&無視ゲー。
おっと、しっかり吸い取らないとタタンがタンと。臭いがしなくなるまでふきんとタオルを交互に使い叩いて拭いた。
夕食後、茶碗を水につける。
そして食後の休憩、また憂鬱感からか、楽しいことがないこれまでの自分の人生を無性に考えたくなり振り返った。
学校を卒業し就職につけずアルバイトを転々とした。その時、何回も同級生に会い恥ずかしい思いをした。同級生たちはこれみよがしに俺に会いに来た。俺も調子を合わせ答えたが本調子でなかったのは分かってほしい。その時の俺はアルバイトという身分でとても弱かった。
仕事はこれまでアルバイトで低賃金、ハードな仕事を押し付けられ暴言や嫌みを言われ、効率・向上・改善・声出し・早さ・少人数・etcをさんざん求められ売り上げが順調・上上・過去最高でも時給は勤めて三か月経った試用期間後の時給からほとんど変わらなかった。
会社はどこも口裏を合わせたように賃金は上げられないと答え増えていかず。会社と会社が横でつながっているのではないかと思ったりした。
そうやって独り言のようにぶつくさ言って毎日、草のような生活を過ごした。
そして今は・・・・・
アルバイトだ。
やっぱり変わらないアルバイト。
どんどん皆に差をつけられていく。同級生は年収何万位あるのだろうか?仕事も恋愛も生活もツールも俺とは全く違ったものになっている事が見て分かった。
仕事では出世や昇進・昇給してるんだろうな。新人の部下が一人ついているのか?ボーナスはどの位貰えるんだ?恋愛は忙しいかな?やってる暇ないかも、取引先の女性と知り合いになれそう、好きな人とかにも告白できるだろうし何より自信が持てる、正社員は経済力があるって見られるし良い事尽くめだ。
生活やツールは最新スマホで検索、車でどこへでもGO。彼女とデート、ナンパは海に山に綺麗なお店。食費もそんな困ることないだろうし外食も月に何回か行っているだろう。
俺みたいにスーパー違えて買い物に走るとか、金に困って残飯漁ることもきっとないな。俺は学生時代に買った服を着てるし、新品の服は食費をケチったお金を使ってもクマムラやネットのアマダンの安いものを買う選択肢すらなかった。
「~はぁ」
これでいいか、これでいいか、と何度も悩んでいました。