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セブンストリート2

アプリコットが『セブンストリート』のゲームの話をすると風雲急を告げる。

「アプリコットさん、ゲームは何時集合ですか?」


「私は皆が集まる時間帯にしたいと考えています」


「もし参加するにしても俺は夜しか出れません」


それを聞いたアプリコットさんは頷き軽く微笑んだ。一方、隣の席に座るシロップは飲み干したジュースの氷を解かすためフーッとストローを吹いていた。現代の子供の遊びは俺の時代と何ら変わっていない。

あれ以来ゲームは、やめたわけだが皆とゲームも気晴らしにいいかも。忙しかったらログインしてすぐ終わればいいし。


「俺も参加します」


「本当ですかライム君!?心から・」と言いかけた時に俺の視界ににゅっとモニカさんの後頭部が現れた。モニカさんはドスの利いた声で「ライムの参加はキャンセル。それと大事な事隠してない?」


もしかしてモニカさん怒ってる?俺は意味不明な質問と理解不能な怒りをぶつけたモニカさんに興味津々。とりあえずモニカさんの後頭部で三人の顔が見えないので俺は体を左に傾けた。すると二人は気まずそうな顔をしている。


「すみません、皆さんを誘う前に話す事がありました」ちょうどアプリコットさんがテーブルに手をつけたまま頭を下げて謝った。平たくいえば軽い土下座。


「もう話さないで!それ異世界の話なんでしょ!!私があれからどうなったか知らないくせに・・・」


俺は耳を疑った、異世界!!?そんなパラレルワールド、異次元がいくつも存在してたまるか!しかし、モニカさんの涙声は信ぴょう性が高く言わば紛れもない事実を物語っている。


半信半疑だったが考察しなくとも自ずと答えは出た。アプリコットさんとシロップ二人の険しい顔を見れば異世界が真を物語っていた。

俺は迂闊でうつけものだった。仕事探しや異世界の疲れにかまけて気楽に参加の返事をしていた。


みゃあは人差し指を顎に当て「モニカさんお願いします、私に何があったのか詳しく教えて下さい」異世界に行っていない、みゃあからしてみればモニカさんが怒る理由を知る由もない。


「これは全部異世界の話。私が振動で目が覚めるとモンスターがすぐそこを歩いていた、私は一人だったから息を殺し気配を消した。辺りは獣の臭気が漂い、その禍々しい妖気に反応し体が勝手に震えた。布が擦れる音さえ許されない状況の中で私は地面に思いっきり身を押し付けた。むせても咳が出来ず、痛くても声を出せず呼吸を止め必死に耐えた。もしモンスターに見つかれば殺されていたと思う。

 ある時、歩いていて無性に気になって後ろを振り向いた。その感覚を一言で言うなら殺気。目の前には空を飛んできた巨大なモンスターが大きな口を開けて迫っていた。私は何とかしなくちゃと思いとっさに屈んだ。紙一重でかわせたから食べられなかったけど一歩遅かったら体は噛み砕かれ即死。後でべちゃりと音がするから足元を見るとモンスターの涎が垂れていた。もしまた襲って来ていたらと思うと背後が気になってしょうがない。後ろを振り返り安全を確認して安心する、見ないで我慢すると不安になり気が落ち着かない。不安が押し寄せる度にそれを繰り返していた。

 またある時、ダンジョンの建物の角に立つ男に話しかけようと私は近づいて肩を叩いた。なのに・なのに・・男の体は部分的に抉られ、この世のものと思えない顔をして死んでいた。私は驚いて後ろに倒れ込んだ。瞬間、私の顔があった場所は抉られた部分から這い出てきたモンスターに食べられていた。私は怖がりで命拾いした。

 それから私は建物の角にさしかかる度、覚悟しなければならなくなった。角の奥にモンスターがいないかと。体は戦闘、逃走どちらでもできるよう常に身構えていた。角を過ぎると過剰に反応した体は神経を張っていたせいか反動で一気に強張っていた。

 不安と緊張、恐怖で心が圧迫され休息が潰されて安心できる日がなかった。胸が痛くなっても痛みが治まるのを待つだけ、ずっと我慢。そんな私にぁあぁア」


「モニカさん!大丈夫ですか!?」


「・・っつ、はぁ、はぁ、はァ」


「落ち着いて下さい!」


モニカさんは極度の緊張状態で心臓が早鐘を打ったのか、胸をおさえている。俺は話を聞いているだけで異世界の恐怖の光景を思い出した、それは瞬く間に俺の頭の中を埋め尽くした。


・・――――

 

ちっ、危なかった!俺も恐怖に支配される所だった。一瞬、物思いにふけるように時間がとんでしまった。すぐにモニカさんを確認する、隣のモニカさんは息を荒げていた。


それから約十分後モニカさんは落ち着ついた。そして、それを待っていたかのようにアプリコットさんが口を開いた。


「すみません、最初に・・話す事でした」


「ごめんなさい・・」


「言い訳はやめて!!今更謝ったって絶対許さない」


「モニカさん落ち着いて下さい、また胸が痛くなります」


そう言う俺を見てモニカさんは落ち着いた。俺はモニカさんの理解者の一人。だが二回目の口論でさらに雰囲気が悪くなって皆が沈黙してしまった。


それから、だんだんと空気が淀んでいく・・・。


十五分経過後、重たい空気は濃くなっていた。周囲は沈黙したまま。


三十分経ったが誰も視線を合わさない。そればかりか体を動かすのさえ憚られ体が痛くなった。注文したメニューとドリンクに誰も手を付けない。沈黙を破る行為が仲間割れを起こす行為だと皆認識しているかのようだった。


俺も戻ってから毎日、恐怖の連続で異世界から抜け出せていない事は自分でも認知していた。

それでも俺は皆に会いたかった。他人から見ればゲームなんてくだらない、時間の浪費と思うかもしれないが俺には大切な時間だった。いやゲームというより皆といて話す時間が大切だったのかもしれない。止まった自分の人生もゲームの次のステージに進むことで進んでいくように感じた。だから次のステージは俺の希望の光。


さっきの話しの先に待つのは異世界か死か恐怖か。どの道、俺の出会いたくないものに行きつく気がする。それでもこのまま沈黙状態を放置できない。たかだかゲームの話をする、しないで最悪、喧嘩別れになってしまう。


ゲーム?そうだ俺にはゲームがある!

ゲーム理論やゲーム思考は俺の十八番、得意中の得意分野。ゲーム化か、はっはっは!

まず勇気を奮い立たせることなしで恐怖突破、沈黙ダンジョン攻略が可能!!さらに感情論にとらわれず(感情移入せず)実行できる!!おまけに意見や質問、最終的な判断は論理的なデーター処理(意見処理)で返答すればいい!!これなら直に出来る!!俺は恐怖に打ち勝つため機械仕掛けに口火を切った。


「困った・・それじゃ、これからどうしたいか皆の気持ちを教えてほしい。どうするかはその後決めよう」


弾は『ゲームの台詞』、トリガーは『ゲームキャラの発声』だ。無論、マシンドール(機械音)の口調にはなっていない、完璧にゲームの主人公になりきった。話の展開は自然の流れに任せよう。


「私は皆と喧嘩別れしたくありません。まだ皆とゲームの話がしたいと思っています」


「アプリコットさんは死の危険を顧みず皆の救出に手を貸してくれた。私の気持ちは以前と一緒で恩返ししたいからゲームを続ける。私は他に頼む人がいません、断られたらどうしようと悩んでいたら話が遅れました、ゴメンナサイ」


目が潤んでいるシロップの瞳に嘘はなかった。声も震えて葛藤や悩んだことが伝わった。そもそも俺は本名と重要な話がある事を事前に聞いている。そこまで言った子供のシロップを責める気はない。


「ゼロ、お気遣いありがとうございます。でも無理なさらず、不安になったらいつでもゲームをやめて下さい。

 最初に、私が救出に手を貸した理由は皆さんの生存を知ったからです。次に私が皆さんを救い出せた理由は女神の加護があったから。おそらく加護はエリスさんの姿が消えた後もついていたはずです。それが間違いなら悪心を抱いた神に人間が勝てることはないでしょう。終盤エリスさんが来たわけですが・・。最後に加護がなかったら、この世界に戻れません」


なるほど、ずっと加護が・・。合理的で理屈に合う返答。


「みゃあはなぜゲームの話がしたい?」


「私は数字や商品と付きあうだけの仕事に疲れてゲームを始めました。ははは、疲れてゲームなんて自分でもおかしいです。モンスターと戦い皆と交流できる場所を探しました。最初は挨拶だけでいいかなと思った私ですが今は話せないと満足できません。

 私は皆に会えたのはゲームのおかげだと思っています。そしてゲームはアプリコットさんを連れてきました。しかし、この拍手喝采な展開にいわくがついていました。そんな事で私は仲間を引き離したりはしません。ゲームで発生した問題なら解決にあたるのはギルドメンバーとして自分の役目です。途中で投げ出したりしません」


みゃあは現実思考で危険な世界には無頓着らしい。まだ普通のゲームだと思っている。色んな人との交流や経験が足りないようだ。さては俺と一緒で、わいわい皆と話しながらゲームする事に沼ったな。


「俺は趣味の話ならしてもいいかな」


「私は何も話すことない」


「・・・」


 モニカさんは会話を否定した。ゲームなら会話無しでストーリーやダンジョン進行・攻略できるが、これは現実の会話、モニカさんの番で話が終わってしまった。そしてモニカさんから話を聞くルートも行き止まりとなった。話が分かれてしまった選択肢「結論がまとまった。俺とモニカさんは離れたテーブル席で待つ。みゃあは二人の話を聞く、それでいいかな?」


「賛成です」


俺とモニカさんは店内のこちらとは反対方向の通路端の窓側の席に移動した。


「モニカさんはここにいて下さい。俺は様子を見てきます」

もし危ない話なら中断させようと思いながら、三人が話すテーブル席とモニカさんのいるテーブル席の間に腰を下ろした。ここなら三人の声も聞こえる。


「ではゲームについて話します。このアプリは現実に影響のある危険があります」


「はい」


「アプリコットさん、私が話す。だって私が皆に頼もうって言ったから」


「それですね、それではゼロにお任せしましょう」


「『セブンストリート』は拡張現実世界の大型大人数同時参加オンラインロールプレイングゲーム。略称で表現するならAR型MMORPG。ゲームの世界に入る時はログインするだけ、参加は自由、動く時も各人が別々に行動可能。武器を買うのは実際に店に入り品物を持って店主に渡しお金を払って買うから画面の武器をタップ一つで購入完了するスマートフォンのゲームに比べて時間が必要。だからゲームの進捗度は遅くなる。一つのエリアをクリアするのに私でも一週間以上かかってしまうゲームです」


なんとシロップが一週間かかるゲームらしい。


「街を歩いて一時間経過してしまい疲れてゲームを終了した日もあった。でも良い勉強になった」


一時間歩いた??疲れて勉強になる??


「実際に歩けるの?」


「うん、歩ける。他に音や匂いを含む五感も全て感じて使うし、たーっくさんの動作ができる、現実と同じ」


「面白そう」


驚愕して思わず席を立ってしまった。現実と変わらないゲームなんて今までにやったことがない。

おまけに五感があるのなら『ダメージの痛み』もあるはず。それを聞けと念じながらみゃあの顔を直視したが当の本人は気がつかなかった。


「初心者が本格的なバトルを繰り広げながら頭で作戦を立てながら戦うと一連の行動に時間がかかる。戦闘の勝敗には早さが要求されるが普通に剣を持って戦えばモンスターは倒せるから慣れれば簡単。

仮に自分が倒されても経験値やアイテム、Gold、位置がセーブ開始時にリセットされるだけだから安心。それと・・・あの」


「ゼロその続きは私が話します」


「クリアを目指すのなら命の保障が出来ません」



「・・・トクン、ドクン、ドクンッ!」


言葉を耳にした途端に、普段感じられない鼓動の音が感じられる程大きくなった。鼓動は段々と早くなり俺の胸を叩いた。危険だ危険だと俺の心に伝えるように心臓が鳴って俺を呼びかける。すごい痛い。

さらに顔の頬がヒクヒクと動いて痙攣する。そして痙攣が止まると引きつけ状態になり顔が固まった。これは頭が本能的に体に拒否信号を出すことを意味する。

その強迫観念は異世界の記憶を無理矢理呼び起こした。頭に焼き付いて消えない戦闘の恐怖や死体が頭に浮かび上がる。何度も死にかけた。あの日、あの場所、あの瞬間を思い出す。一つ間違えれば俺は死んでいた。


死んでいた・・・!?


少しの時間でいいから頭と心臓、静かに待ってくれと俺は自分の体に言い聞かせた。俺は異世界に舞いもどったわけじゃない。大丈夫、大丈夫、まだ俺はここにいる。だから命は安全だ。すぐに台詞をリロード(再充填)して。


「ちょ、ちょっと待った!」


これだけは無視できない。みゃあは俺の大切な仲間。仲間は俺が守る。


「死ぬ危険があるゲームなら、みゃあを誘うな!」

なりふり構わず俺は二人の前へとび出して言った。俺が言える最善の言葉。


後ろめたい気持ちがあるのか二人の顔は困っていた。


「そんな危険を冒してまでゲームをクリアしなければならない理由があるのか!?」


「あります!クリアすればゲームに関する好きな願いを叶えてもらえます。それもプレイヤーの人数分」


「だから行こうというのか?そんなもんのために命を賭けてゲームするお前らはバカ野郎だ!!」


「それがないと傷ついたプレイヤーを元に戻せないし、ゲームも終わらせられないんです!!ゲームで傷つくなんて普通ありえません。ゲームは本来、負けたり悔しかったりしますが楽しいものなんです」


「傷ついたプレイヤー!?」


「ゲームをするだけなら命の保障はできますか?」


みゃあが恐る恐る尋ねた。


「はい、保障できます。ただ絶対とは言いきれません。それより、みゃあさんは自分の事を考えて下さい」


「ダメージの痛みは?」


「あります。ないと何が起こったのか分からず逆に危険です。最大でも倒れた位で」


倒れた痛み、ゲームのコントローラーの振動とは明らかに別物。


「みゃあ、アプリはおそらく仮初の世界だ。五感があっても本当はそこに物も痛みも存在しない。ここで生活してきた俺たちではとてもじゃないが扱いきれない世界」


「ライムさん、それを扱う者がプレイヤーでその世界がゲームです。そんな心配するなら一緒についてきて下さい」


「俺が!?」


「だってライムさんはゲームのリーダーで、異世界経験者なんですよ」


「まさかゲームする気か?俺にそんな事言われても。ええっどうすれば・・」


「ほ・ん・と・言われてもねー」


「モニカさん!!」


「はぁ、胸騒ぎがしたから来たの。話を聞くのは嫌だけど、みゃあが危険な目に遭うのはもっと嫌。さっさと続きを話してアプリコットさん」

苦楽の感じ方は人それぞれ、風も雲も時と共に流れる。

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