第38話 セブンストリート
喫茶店ANYYOUに『ルーレイファワーク』のゲームのメンバーが集結し話し合う。
「夢で事の経緯は二人から全て聞いた。俺が皆を巻き込んだわけだから話したい」
「当然よね」
「待ってました」
「あの世界は元々、神々が大地や川を始めモンスターや人間に至るまで作った世界だった。
ある日、その世界に住むため二人の女神が降り立つと女神リリスはモンスターを総べる王としてダンジョンマスターに君臨し、女神エリスは人間の一人として冒険者になった。
モンスターは時が経つにつれ種類が増えて活動が盛んになった、一方の冒険者は知識や剣技を学び魔術を覚え力をつけていった。
その後、二人は文明の発展と時代の進化のため勝負を始めた。
勝負は俺達がスマホでプレイした『ルーレイファワーク』のゲームに似た世界で繰り広げられた。
ところが勝負の際中、ある一人の冒険者が現れた。その名はブラック。
冒険者ブラックはエリスより先にダンジョンを攻略し見事リリスを倒した。
リリスはエリスと勝負していたがブラックの勝利を認めない訳にはいかない。
そこで話を聞いてほしいというブラックの言葉を願い事として聞き入れた。
もしリリスの命をくれと言うのなら疑っただろう。
全知全能の神ではないリリスは無知だった。なんとあろうことかブラックの話を聞いて悪心を抱いてしまった。
知ってのとおり神は悪魔になることはない、つまりリリスが悪心を抱くということは悪神になることを意味していた。
悪神リリスことダンジョンマスターかつリリスロードは何かに憑りつかれたように毎日貪るように異世界に関する研究に没頭した。キメラの合成から始まり不老不死の研究、人間の人体実験、さらに異世界転移の方法まで探っていった。
それは不運にもブラックの狙い通りの行動だった。
エリスはリリスの変化・変貌を見てすぐに気づいた。
ブラックの正体は悪魔だと。
なぜなら人間の叡智や文明の進化から神を変える力(話術)を人間が得る事は不可能だから。また、それを授けたのはエリス本人だから。
人間の心には悪魔が湧く根源の憎悪や怨みが存在している。から悪魔が生まれる可能性はあった。
ただ、これほどまでに強い悪魔が生まれるかは分からない。
この広い世界や宇宙で崩壊や消滅を意味する悪魔の異世界転移は創造主である神の意に反する行為、万死に値する、阻止しなければならない、禁止、禁忌、禁断事項の一つ。
その悪魔の侵入を阻止するため神々は、あの異世界に知恵や道具(武器や人魚など)を残していった。
神々も悪魔が神に影響を与えたわけだから、かなり焦ったと思う。
その状況の中、俺たちは異世界に連れて行かれた。
以上、女神リリスは自分を守るため自身に魔法をかけた。だが魔法の甲斐もむなしく悪神なったリリスは悪魔の思惑通りの行動をとっていた。そしてエリスは力の一部を奪われ救いを異世界に求めた。
カタリナの魔術で魔法は解けなかったがリリスの記憶は蘇ったようだ。おかげでエリスも力を取り戻せたし二人とも自由になれた。あの二人なら、ずっとあの世界を守ってくれるはずだ」
「私は全く原因が分からずに起きたのかと思いました」
「聞いただけでどっと疲れた。ちょっと肩が凝ってきた」
「それじゃ私が肩を揉みましょうか?」
「モニカさんがおばあちゃんになった」
「シロップ、私は功労者だからもっと敬いなさい。あと、みゃあ肩を揉んで」王様気取りのモニカさんが目を細め偉そうに命令する。
そう・・・・原因は分かった、けど
「人間たちとモンスターがまた戦っているじゃない」空から砂地を見下したエリスはリリスに愚痴を言った。
「だって人間だけにすると人間同士で争うんだもん」面倒くさそうに答えるリリス。
「人間は欲深いから争いを引き起こす。それで勝ち取れるとさらに他人を蹴落とそうとする。助けたり妨げたり複雑な生物」
場景が変わった。
「覚悟しなさい!」エリスは背後から杖を翳した。
「ちょっと待って待って」素手である事と戦闘する気はない事を伝えるために両手を見せた。
「そうはいかない。こんな夜更けに空を飛び回る人間なんているわけがない。モンスター!まさかブラック!?」
「きゃ~私、私」とリリスは顔を指差し叫ぶ。
「・・・」
「いったぁい、何するのよ!?」杖で叩かれたリリスが涙目で言う。
「確認しただけ」
「確認で叩かないで。話してなかったけど私は月夜に森に近寄ると容姿が変化して見えるの。だから怪しく見えただけ。これはお返しー、えいっ」
「あ、やったわね。もう許さない」
「いったぁ~い、やめて苦しぃ~」エリスの愛情いっぱいの抱き着きにリリスは体が締め付けられ叫んだ。
「反省するまで嫌よ」
「あっ、ライム!」
「ライムはとっくに帰ったわ。嘘つき女はこうよ、あーっ!!」
エリスがリリスを逆さにするため持ち上げると前方の見通しがよくなったのか俺がいることに気づいた。
「こんにちは」
「ライム!」
「久しぶり」逆さで宙ぶらりんの状態のリリスが俺に向かって手をパーにして挨拶する。
「久しぶり」と俺も手をパーにして返す。
「エリスは元気そうだな」
「うん」とエリスはリリスを抱えたまま恥ずかしくなって顔を赤らめて返事する。
「ところで、どうやってきたの?」エリスが首を傾げて尋ねてきた。
「エリスが連れてきたんじゃないのか?」
「ううん違う。ああっ、でも姿だけだし、私に心当たりがある」
「はぁ、よかった。それであの後、ここはどう?」
「争いは絶えないけど平和よ」
「リリスはどう思う?」
「・・・えーっと、まあまあいい感じ」と口角を上げ高飛車にこたえるリリス。胡散臭い返事というか俺は既にここがどうなっているか知っていた。
「アルスも、セイラも家族ができて楽しく暮らしているわよ。街のみんなも」
「よかった、二人がまた変わったらどうしようかと思って」
「私たちは女神だから心配しないで」と言いエリスは胸元に手を当て微笑んだ。
「そうそう、あまり良い女神じゃないけどー」と髪を触りながら言葉を付け加えるリリスだったが、髪は逆立ったままである。
「リリス、それは余計よ。言わなければならないのはライムたちをこの世界に連れてきた理由、私たちとても迷惑をかけたから」
「その理由は知りたい」
「立って話も何だから、そこに座りましょ」
二人は、すぐ近くの切り株に移動する。
すると月明かりに照らされた女神リリスとエリスの姿がはっきり見えた。
「き、きゃあ~。下ろして下ろして!」
「えっ!?あっ、ああ、あああああー!」リリスの悲鳴にエリスはリリスを抱えている事を思い出し、今のリリスの破廉恥な姿を見て納得、急いで地面に下ろした。たとえ女神でも一連の事を一瞬で理解し行動するのは不可能である。
ドサリとリリスは地面に転がり落ちた。
おい、妹と言っても女神だぞ。その扱いは酷過ぎるだろッ。エリスは天然だったっけ?
「見たでしょ」リリスは起き上がり土を払いながら俺に聞く。
「見てない」
とりあえず本当の事を言ったら神罰が下りそうだから嘘をついた。
宙ぶらりんの状態の時からリリスの足や下着が見えていたし、転がり落ちる絶好の場面を見逃す奴は普通いない。起き上がる所までバッチリ見た。
「悪神!謝罪して」
「ゴメンネ、女神は罪を犯さないけど」と自分の頭をポンと軽く叩き舌を出し謝るエリス。
「おばさん女神、ふざけんなって」リリスはギャルみたいにキレる。
「怪物魔女に言われたくない」エリスはにっこりとした表情をして穏やかに答える。
「あー腹立つ。だいたい夜に見目が変わると言ってるのに理解できないバカ姉が女神するから悪いんじゃない。アホ、暴力女」
「黙りなさい、手がかかる妹をもつ容姿端麗な姉はたーいへん。ブス、チビ、貧乳女」
「×□/*#△&駄@」
「&B-×く◇×!=\我」
「おーい!!俺がいまーす。俺を忘れてない!?」
「それが何よ?」
「人間風情が邪魔する気ぃ?」
二人とも言ってくれるな、これでも俺は異世界攻略者だぞ。それにしても二人とも意外と短気だな、おまけに反応が子供っぽい。これじゃ女神の自覚が足りん、またブラックのような奴が来てしまう。
「えー知恵の神ではないエリスと容姿に不満があるリリス!!」
俺が言葉を発すると揉めていた二人がビタッと止まり顔をこちらに向けた。
「なぜ、あながた知ってるの?」
「ブラックみたい!」
驚くのも無理はない、それは
「二人から少し前に聞いた」
「そうね」
「人間かー」
お互いが顔を見合し二人は切り株に腰掛けた。合意が達成したのか喧嘩はおさまったようだ。
そしてエリスは事の経緯を説明した。
「あの世界は・・―――――――――――――――――――」
「なるほど、そう言うことがあったのか」
そりゃーエリスの陳腐な知恵じゃ・・できるようにならないだろう。それに化粧を作る方法や理想のスタイルになるにはリリスのように試行錯誤やるわけで行動パターンを読めてしまう。
それより世界創造の成り立ちまで俺が知っていていいのか?他の神に助けてもらえと文句の一つも言いたいが神の行動に逆らう気はない。
「私たちは、しばらくここに住もうと思ってる」
「ちょっと生活には不便だけど~」
「よかった、どうするのか少し心配だった」
「あなたは若い、もっとライムは人生を楽しみなさい」
エリスはそう答えた。
「そう、人間には重荷よ。この世界には私達がいる」
「わかった」
突然、目の前が薄暗くなり視界から二人が消えかかった。
「エリス、リリスまた会おう!」
消える寸前、二人は俺に向かって手を振っていた。
あまり平凡な世界だとつまらないかw。楽あれば苦あり、山あり谷あり、異世界に女神あり。
「お疲れ様でした。ほーら血色もいいー」
「あの頃、私たち心配で夜も眠れませんでした」
「うん、私は寝不足で学校でボーっとした」
「皆、心配かけたわね。むこうでは寝不足になる事もあったけど戻ってきてからは徐々に眠れるようになり、今ではすっかり良くなったわ」
「ああ、体調が良くなった」
「よく神の悪戯っていうけど、あそこに行くのが運命だったら相当ショックよ」
「戻って来れたんです、女神(二人)を悪く言うのはやめましょう」
「どうして!?もし私たちが負けていたら死んでいたのよ、わかってる!?しかもリリスはエリスを殺していたかもしれない。そうなったら神殺しの神がうまれる神話級の事態じゃない」
「それは案ずるより産むがやすい。逆に、もしエリスが恐れて何も行動しなかったらそうなっていたかもしれません。それと神々は対抗する手立てとして神話級の武器を俺達人間に与えてくれました」
「神話級武器!」前のめりになり目を輝かせて言うシロップ。
「ゲームなら隠し宝箱やイベントアイテムですね」
「そうです」俺は頷いて肯定的に言う。
「適当ね」と飽きれるモニカさん。
「結局、運命は神のみぞ知るわけだ」
「私も女神は知ってると思います」
エリスに聞いてないけどそういう事にしておこう。
「それもいい加減。まあいいわ、いまさら言ったって何も始まらないわ」
と言いモニカさんは諦めた。
「そういえば俺はアプリコットさんがどうやって調べた(来た)のか不思議でした」
「種明かしをすると電波を利用しました。電波は宇宙空間、他空間を移動できます。例えばブラックホールの観察に何が使われるかわかりますか?電波望遠鏡つまり電気エネルギーを利用した望遠鏡が使われる。その結果、時間や空間に歪みなど影響があると分かりました。また宇宙には電波が走っているといわれています。
つまりスマートフォンのアプリは電波通信で電波が関係します、その関係上を辿ってクッキー(履歴)を集めて行けばあの場所に繋がる(辿り着く)わけです。」
「クッキーと電波集め?」
「そんな所でしょうか」
「・・・」
シロップがクスと笑った。ウケたのは良いが俺はジョークを言ったつもりはない。
「シロップの名前は+-の電極だったから家電物の名前のアプリコットさんに引かれたんじゃないか?」
「関係ない。私がアプリコットさん引かれた理由は強いから」
「俺はライムとシロップで砂糖漬けが作れそうだから引かれたけど」
「あっそ」
シロップが俺を相手にしていない。二十歳越えで「あっそであしらわれるのはきついぞ。
モニカさんがちぇいちぇいと肘で俺の腕をつついてきたので
「なんですか、モニカさん」と尋ねると。
「シロップに絡むのはやめて」とお説教、
「だってシロップも意味が分からないくせにクスッて笑ったから関係を聞いただけで。ちょっと、痛いですモニカさん」
「やめなさい」
「はぇい」
俺はシロップに鼻で笑われていきり立ったがモニカさんの正論論破で俺は敗北の返事をする。
「ライムさんの言葉は考えようによっては合ってます。電磁場は難しいので磁場で言うとN極とS極は引かれ合います。それ回れば0のような円を描き電気(+-)を作り出します。異空間(異世界)も同じ空間を回っている時間軸が他の異空間(世界)とぶつかってしまった時に他の物を取り入れたりするとかいいますよね。それが釣り合っている時に質量?重量?があってもゼロで運べるのだったか忘れましたが・・。
理論はあまり詳しくないので間違っているかもしれませんがタイムワープ、リープ、スリップ、トラベルなんちゃらでやってるあれです」
「へぇ~」
あってるんだ。そして+-なんちゃら空間を渡りシロップが助けに来た。そう目の前の少女は俺の恩人だった。あ、お礼を持ってきたんだった。
「シロップ、これよかったら」
俺はおもむろに綿菓子を鞄から取り出しポンとシロップの前に置いた。
シロップは綿菓子を見て目を丸くした。俺は文房具や玩具にしようか迷ったが趣向を凝らして綿菓子に決めた。
「俺のお礼」
言ってて気づいた親父ギャク、シロップはさらに白けてしまった。
「ゼロよかったですね、プレゼントは気持ちが大切です。それじゃ皆さん注文をしましょう。お店の人がお待ちのようです」
にっこり笑いながらシロップの顔を見て言うアプリコットさんは優しそうな人だった。
「賛成!」
シロップが綿菓子を揉んでいる。おいおい、揉んで遊ぶな。それは俺の大切なプレゼントだ、ぎゃわーっ!!同情のドの字もなく綿菓子は揉み解されていった。
また、そんな俺の気持ちは露知れず全員はスイーツとドリンクの注文に夢中。
初対面同士顔を向い合わせていると少し食べづらいし緊張する。顔をジロジロ眺めているのは俺だけだが。
「あーっ、このフルーツ美味しい。異世界じゃフルーツという単語すらタブーだったからーここは気持ちが楽ー」
「俺なんかあっちで歩くのすら神経使ったもん」
「異世界人の事がバレたら捕まりそうだったわよね」
「はい」
「異世界の服どうでした?」
「ごわごわしてたけど天然素材で悪くはないかな」
「綿花の生地、最高!服は柔らかいし着ても痒くならない、寝心地いいわー」
「この世界の服は変わってない」ときっぱり述べるシロップ。
「変わったんだよ、俺たちは」
「ふふふ犯罪者みたいな言い方ですね」
「そりゃ正体がバレると捕まるわ、服装や言葉がおかしいと怪しまれるわ、逃走犯のように制約をつけて生活していたせいで安心できる日がなかったの」
「そうそう、部屋でも息が詰まるやら宿屋で挨拶やら気が置ける」
「最初は信用されないかもしれませんね」
「部屋は一緒?」
「違う」
「そうするとモニカさんは向こうで一人ですか」
「私はすぐに仲間と打ち解けたから寂しくはなかった」
「そういうのも冒険に関係ありそう」唇を触り先輩の話に感心するシロップ。
「ライムは何の仕事してる?」
「実は無職で実は仕事を探してます、モニカさんは?」
同級生や知り合いでもないから話してもいいかな、と思い俺はプライベートな質問に正直に答えた。
「悪いこと聞いたわね、私は姉に紹介してもらった仕事をやってるわよ」
「紹介してもらった仕事って給料良いですか?」
「まあまぁかな。収入は減ったけど生活には困らない給料よ、贅沢は言ってられない。ライムこれ食べてみて」
「はい、頂きます。おおっ、ピーチが入ってフルーティーな味わい」
「これケーキの生クリームとピーチが混ざっているのよ」
「果実・果汁ともにベストマッチ(最上級の調和)です!」
「二人とも変」
「聞いてあげましょう、過酷な環境が人間を変えたんです」
「ふふふふ、あはははは」と腹を押さえて笑うみゃあ。
「フフフ」と下を向いてこっそりと笑うシロップ。
皆とあれこれ話して食べると一層美味しいなと思った。
「こういう場所で集まると皆であれこれ話せるからいいですよねー。悩みや困った時、私はゲームのチャットでフレンドに相談していました」
「うん、今日はゲームのフレンドだから会って話ができるけど普段は仕事で友達にも会えず相談できない」
「そうです。社会で生きるのって大変で正に戦闘です、ゲームで戦う仲間が現実の仲間になって悩みを解決する、皆はベストフレンドです」
「アプリコットさんも俺たちの仲間ですよ」
「そうですか、仲間になれて嬉しいです」とアプリコットさんが感動して目を輝かせている。
「ゲームならフレンドガチャ当たり。リアルなら素敵な友達ができた」
「はい」
「みんな本当にありがとう、俺が巻き込んだせいで皆に本当迷惑かけてしまったなぁ。でもさー皆が俺たちを救うため戦ってくれてその気持ちが嬉しいかったぁあー。で俺、こんな話するつもりじゃなくもっと軽く考えていたのに・・ああぁ言わずにはいられなくなった。だって会って話しているぅうからぁあ・・」
くそっ、涙があふれてきやがる。
「そうねぇ、こんな大変な事になるんだったら私も教えてほしかったわよ。帰ってきてこれだけは言いたい。これからも皆一緒に仲良く頑張ろう!」
「手間取ってしまいスミマセン」
「頼りなくてゴメンナサイ」
アプリコットさんとみゃあが頭を下げて謝った。
「いいから」
「構わない」
「遅れたけど力になれてよかった」
「シロップがいてよかった~」
「シロップありがとうぉお~。さっき言いそびれたけど俺は、お前に助けられたんだ」
俺は席を立ちシロップに近寄った。この機を逃したら二度と感謝の気持ちを伝えられないかもしれない。
「ちょ、ちょっとライム近寄らないで、アニメ見すぎて頭おかしくなってる」
いつもと様子が違ってシロップは弱腰だった。
「何言ってるんだ、お前がいたから助かったんだぞぉお~っ」
「シロップーありがとうぅーううぅ。今度からあなたの力を認めるからっ」
「このままじゃ私が助からない。助けてみんなー」シロップは左のアプリコットさんに抱き付くわけにもいかず右にいる俺を遠ざけるように皆の顔を見回して言った。
「あはははははぁ」
「はははははは」
「ライムさん、席に戻ってあげて下さい」
「シロップもアニメ見ろ、アニメには夢や希望や未来がある。怒られて家に帰ってきても自分を癒す、落ち込んでも励ましてくれる、つまらなくてもわくわくする」
「ライムはアニメに頼る怠け者」
「なんだよ、それー」
どういう意味?大人になりきれない大人とか。
「シロップは普段何してる?」
「私は学校で勉強、塾とゲーム。後はテレビと動画見て就寝」
「普通だな」
学生は勉強して友達と遊ぶ。俺は何をすればいいんだろう。
「ゼロは学習が大事だといいたいようですね」
「よし、それなら俺は初心にかえり、もう一度勉強しようかな」
「勉強ー」
「やってみて下さい」
「私、モニカさんの生活の話が聞きたいな」
「そうね、私は一人暮らしでアパートに住んでるの。で朝は・・」
俺は話しの合間に窓から外を見た。
隣では皆、自分の生活について話していた。俺は数か月経ったがうまくいかないので話す気にはなれなかった。
俺は向こうの世界に行った。
そして沢山の冒険者が死んだ。
自分が死にそうになった。
仲間が助けてくれて自分は生き残った。
改札口が数十メートル先に見える。その改札口を抜けたら右に曲がる。そのまま通行人の列についていき駅を出ると待ち合わせやたむろしているグループが待つ危険エリアに入るはず、そうすると多くの人の目に晒されてしまう。
行動をシュミレーションしたあきおは駅の構内で人のいない方へ軌道修正し駅から出た。そして建物の陰に隠れる。また知らない人達の人ごみに紛れる。
誰もこっちを見ていない。
誰も異変を感じていない。
みんな違う話をしている。
周囲に気を配りながら自分の五感を全て活用し全方向に注意を払う。そして変化がないか確認しながら目的の場所へ向かう。
「なあ、友二。あれ、あきおじゃねーか」
「どこだ、ははは、どこにあきおがいるって?なぁー嘘だろぉー、あいつはもうとっくに死んでるはずだ」
「本当だって。ほら、あそこにいる物体」
どこにでもある洋服とメガネ、帽子で変装した巨体な男の方を指差すシンジ。
「マジ!?あきおだ、まだここに住んでいたのかよ。とっくにこの街からいなくなったかと思ったけど、あいつ何しに来たんだ?」
「まさか遊びに来たとかw」
「ないない」
「しばらく見ないうちにまた一段とおデブちゃんになって悪臭漂わせてるぞ。昔はモンスター並みの巨体デブだったけど今やモンスター以下の最低デブだな」
「ちょっと見に行こうぜ」
「おう」
「へへへへへ~」
「はっははは、久々だ!」
「くそっ、俺達に気づきやがった!」
あきおは耳を澄ませていた。人々の声と雑音の中に混じった心に突き刺さる刃(言葉)がないか。金きり声に似た言葉が近づくと探知機のように耳が鳴る。突然、耳鳴がした。あきおは、金きり声がする方角を避けるように急いで駆けだした。
「よぉーデブ男!!」
「デブ~!!」
「ぅ」
遠ざかっている途中も、あきおは背後から罵声を浴びた。
その声に耐えられなくなり顔を振って声を耳から遠ざける。さらに何も考えないようにして意識を飛ばした。
同時に周囲の音や声は遠ざかるように小さくなる。
だが姿は望まない方向から現れ、声は否応なしに耳を通り越して頭に浸食してきた。
耐えて耐えて、あきおは走った。
「・・?」
喫茶店の窓から外をみると見覚えのある顔の男が走っていた。そして男はすぐに遠ざかっていった。
思い出すため意識が外から内にむかった。すると肩に違和感があり見ると「思い耽ってないで話しましょう」とモニカさんが声をかけてきた。
俺はモニカさんの顔を眺め言おうか言わないでおこうか考えた。
「ちょっと外が気になって」
「なーに皆の話は興味がない?」
「興味はあります、ぜひ教えて下さい」
ふふっ、そう言えば接客・販売でお客さんが来てるのにレジにいても気づかなかったことあった。背景に溶け込むというか、しかも身長が高くても体格がふくよかでも気づかないw。これぞ魔の店内。
「異世界の嫌な記憶は忘れましょう」
「はい、それは」
俺は、もう人間が傷つく所を思い出したくはない。それとは別でもう一つ、何か心に引っかかっている。
モニカさんを見た途端、少し前に見た人影と記憶の姿が重なって一致した。さっきの、もしかしてアッキー?あの大柄な体は異世界のアッキーと瓜二つ。
「ねえ、本当にどうしたの?」
「もしかしたら外にいたのアッキーかもしれない」
「どこ、どこにアッキーがいるの?」
「どこどこ、私も見たい」
「いないじゃない」
「もしいたらアッキーここへ来るかな?」異世界では人付き合いが苦手そうだった。
「それはアッキー次第ね」
「いないのなら仕方ありません」
アッキーも皆の事を命の恩人だと思っているだろう。だから仲間に会いにやってきた。
俺はMeellにメッセージを入れた。
≪アッキー、連絡してほしい。≫
メッセージはすぐに返ってこなかった。
「話してたら忘れる所だった。アプリコットさん、私達に手伝ってほしいゲームがあるって言ってなかった?」
「はい。私とゼロ、他メンバー四人が挑んでもクリアできないゲームがあります」
「そのステージをクリアするのがアプリコットさんに対する恩返し」
「簡単そうじゃない」
「それで俺たちの出番か」
俺は日常を取り戻してくれたアプリコットさんの力になりたい。
しかし、仕事もせずに娯楽ゲームなんてやっている暇はない。
(注)本書の作者は(地球)物理学、宇宙物理学に詳しい知識人ではありません。




