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22、交通事故

 ここは交通未来研究所。

 自動車通勤の番場はいきなり本社に突っ込んだ。割れるガラス、ひびの入る壁、壊れる自動車。こんなことは最近ではしょっちゅうだ。よく見慣れた光景。カーチェイスパンクだちのとち狂った頭では、アクセルをどれだけ激しく踏むかしか考えることはない。速度限界でカーブを曲がる。ブレーキも限界ならアクセルも限界。そして、人を見たら突っ込む。

 交通死亡事故だ。なに、驚くことはない。最近じゃ、自動車という殺人機械が人をひき殺すことは貧富の差なく行われており、何も驚くことはない。

「いったいどうしたというんだ、川谷」

 番場が交通未来研究所で不思議そうにたずねる。たった一人をひき殺しただけで退社を命じられるなんてびっくりだ。何を悪いことをしたというんだ。

「番場、きみは何もわかっちゃいない。頭の狂った自動車キチガイどものせいで我が国の交通事情は最悪だ。世界の最も大きな死因は、今や交通事故だ。このままでは交通事故で世界が滅ぶ」

 番場は呆れて答えた。

「何をいってるんだ、川谷。おまえまであそこを引っこ抜かれた負け犬のようなことをいって。自動車を走らせたら、ひき殺す。それはとても自然なことじゃないか。人間誰しも人をひき殺したいと思ってるんだよ」

「おい、これは真剣な話だ。どいつもこいつもハンドルを握ると性格が変わってしまう。自動車は人を興奮させる麻薬みたいなものだ。速度と破壊力だけを追求した自動車が世界中で作られ走ってる。世界中でだ。このまま自動車を事故らせつづけたら、あっという間に世界は破滅する。みんな自動車事故の中毒なんだ」

「そうはいっても、今や自動車会社は人をひき殺しやすいように自動車をデザインしている時代だしな。その方が車が売れるんだ。しかたないだろう」

「ああ、勝手にしろ。交通課の警察がデモで廃止された時からもっとこの危機に備えるべきだったよ。このままでは交通事故で世界の人類は絶滅する」

「それがどうしたってんだ」

 そして、次々と世界中で交通事故が起こり、番場は生き残った最後の人類に向かってアクセルを踏んだ。交通事故が起こり、番場と彼を除く最後の人類が交通事故で死亡した。

 こうして人類は滅亡した。


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