2. 育児日記
10/17(月)
絵梨が生まれて以来の育児日記だ。久々に日記帳を買ってみたのでなんだか懐かしい。絵梨の部屋にも色違いのものを置いておいた。親子でお揃いというのも久しぶりだ。照れくさい。喜んでくれるだろうか。絵梨は長くの間愛しい一人娘だった。次女も、絵梨のようなかわいい子が生まれてくるかと思っていたのに、梨花は無愛想でまったくかわいくない。おかしい。実の娘なのに、梨花を愛せない。私はどうしたらいいのだろう。母親失格だ。それにしても、やっぱり梨花は苦手だ。どうしてだろう？ 絵梨はあんなに愛しいのに……。
10/18(火)
頑張って朝からシチューを煮込んだ。家族揃って食べようと思っていたのに、よりによって梨花が7時半を過ぎて帰ってきた。おまけに見せてきた成績表がひどい。絵梨とは大違いだ。梨花のせいで一家にみっともない噂が立ったりしたら困る。夫もこっぴどく梨花を叱り付けていた。絵梨はおいしそうにシチューを食べてくれた。うれしい。
10/19(水)
また梨花が夕飯に遅れた。今度は8時半だ。もう我慢できない。一体あの子は外であんな時間まで何をしているのだろう？ 9時ごろまでドアは開けなかった。反省させなければ。私はきっと育児を間違えたのだ。長女が優秀だと次女の教育が疎かになってしまうという。もっと注意して躾ないと。それにしても高校生にもなってあの子はなんでああなんだろう？
10/20(木)
大学時代の親友に電話をした。懐かしい。彼女にも二人娘がいて、色々と相談できて楽しかった。次女を愛せないことを打ち明けると、大丈夫よと言ってくれた。でも途中で廊下から足音が聞こえたので心配だ。梨花に聞かれただろうか……。
10/21(金)
週末に夫の実家へ帰省することになった。憂鬱だ。義母は頑固でやたら梨花に執着していて鬱陶しい。若いときから意地悪な婆だったので、仕方ないが。手土産はどうしよう。
10/22(土)
梨花が週末を心待ちにしている。いつも愛せないが為に乱暴している罪悪感が少し軽くなった。でも同時に長女に「梨花のこと虐待してない？」と聞かれた。どきりとした。いや、これは虐待じゃない。教育だ。高校生にもなってまともに一般常識のできない梨花が悪いのだ。
10/23(日)
夫の実家へ行った。義母は早々梨花を連れて部屋に戻っていった。私と絵梨は居間でだらだら数時間過ごした。馬鹿みたいだ。4時間もあれば家の掃除ができたのに。とっととボケればいいのに。
10/24(月)
夫とケンカをした。理由は些細だがどうしようもないことだ。まだぎくしゃくしている。でも気にしてくれたたのか、絵梨が紅茶を買ってきてくれた。優しい子だ。嬉しくてこっそり泣いた。
10/25(火)
昨日のお礼に、長女の大好きなハンバーグを作った。頑張った甲斐があってとても喜んでくれた。でも梨花は半分以上も残していた。気に入らなかったのだろうか。半日かけたのに……。滅入ってしまう。でも絵梨が「明日のお弁当に入れて」と言ってくれた。なんていい子なんだろう。比べてはいけないとはわかっているけど、どうしても梨花の態度と比較してしまう。
10/26(水)
とうとう離婚することにした。娘たちに申し訳ない。だけれどもう夫とやっていくのはこれ以上、無理だ。娘たちの気持ちを思うと辛かった。絵梨が一緒に寝てくれた。一緒に泣いた。今後、どうするのだろう。とりあえず慰謝料で絵梨と二人でマンションを借りようと思う。梨花も一緒に連れて行くのだろうか……。
10/27(木)
絵梨が離婚のことをよっぽど心配しているみたいで、本当に申し訳がない。このことで梨花を憎んでほしくはない。だけれど絵梨に事実を言う勇気はない。夫はちゃんと絵梨に言うのだろうか？ 心配だ。梨花にも言うべきなのだろうか。でもあの底意地の悪い子に言ったら絵梨を馬鹿にするに違いない。やっぱりやめておこう。このことは私と夫の胸にそっとしまっておくべきだ。そういえば、日記を書き始めて10日が経つ。なかなか続くものだ。
10/28(金)
夫の怒鳴り癖がまた出てしまった。娘たちは怖がってしまっている。事情がどうであろうと、絵梨の育ての親はこの私だ。私から絵梨を取り上げるなんて許せない。それにしても梨花もかわいそうだが、絵梨に嫌味を言ったりしているのは腹が立つ。絵梨は何も悪くないのに。絵梨は私と一緒に行きたいと行ってくれた。
10/29(土)
また夫とケンカをした。私は絵梨と梨花を離したくて相談したのに、夫は「姉妹は一緒のほうがいい」といって聞かない。梨花と絵梨の仲が悪いことを夫は知っているのだろうか？ 絵梨はほぼ私と行くことが決まっていたので、夫が独りにならないようにか「梨花はお父さん子だよ」と言っていた。本当に優しい。でも夫は明らかに面倒くさそうな顔をした。実の娘に対して。最低な男だ。
どうも絵梨の様子がおかしい。両親が離婚するというので動揺しているのだろう。かわいそうに。本当に申し訳がない。
