真に迷子を恐れるべきは来訪者ではなく学習能力皆無のお嬢様
「ヨドさん?醜態をお見せしてすみません。適当に居間で休んで‥」
私ミンネフランルがそう言い終わるより先にヨドさんは掃除を開始してました。それも完璧超人執事コウレ君に匹敵する手際の良さで。
「こちらの棚、移動させても大丈夫でしょうか?」
「ええ、構いませんが……正直、ここで力を使うのは少し……」
一般的な女子高生の力では到底動かせない重さの棚です。しかし、
「大丈夫ですよ。これぐらいなら」
ヨドさんはあっさり持ち上げました。メイドとしての所作だけじゃなくて怪力の持ち主でもあるみたいです。
私も当然手伝ったのですがそれも不要なレベルのスピードであっという間に部屋の大体の不用品はまとめられていました。
まあ私だってその気になればこれぐらいはできる自信ありますけど!
「まだシミも残ってますので掃除洗剤貸してもらえますか?」
「どうぞ……すみません、仕事ばかり増やしてしまって」
「いいんですよ。この館に入ること自体、アビリスター側が勝手に決めたことですし、迷惑をかけているのはこちらですから。洗剤が足りなさそうなので、買いに行ってきてもいいですか? 他にも買いたい私物がありますし」
自室の掃除はおろか、学校へ行く身支度すら満足にできないアギお嬢様に、爪の垢を煎じて飲ませたい気分です。
「荷物持ちぐらいは手伝わせてください」
「私もいくぞ」
雷から逃げるチャンスと言わんばかりに名乗りを上げたお嬢様。
「ダメに決まってるでしょ、アギ。これから苦手科目復習しますからね。」
「一応ヨドはステップ9なんだぞ。彼女の買い物に付き合うのはこのセントカクラ家の次期当主として当然の義務だろ」
こういう時だけ都合よく次期当主を強調するアギお嬢様。まあコウレ君もどうせ本人にやる気がろくにないのは承知してます。
「まあヨドさんがいいのであれば。僕は館の家事が残ってるので同行できないですが。」
そもそも学校すら不登校で執筆以外は基本食っちゃ寝するだけの生活で外出する気になるのもそれはそれで貴重ですし。
「まあ、ヨドさんが良ければ。私は館の家事が残っていますので同行できませんが……お嬢様は迷子にならないでくださいね?」
こうして私とアギお嬢様、そしてヨドさんの三人で、商店街での買い物帰りの散歩を楽しんでいました。
「まったく、コウレの奴は何を言ってるんだ。ここに来てまだ数日のヨドはともかく、私が迷子になるなんてあり得ないだろ。私の確かな信頼と実績を知らないわけじゃないだろうに、キッズケータイまで押し付けてくるとは……」
「ですよね……」
(オクスタン高の山で蝶々を追いかけて3日間遭難し、熊に全裸で拘束され捕食されかけたこと。新年会を抜け出して自称100人殺しの放浪者に誘拐されたこと。漫画取材で電車を乗り間違えてベーカ星まで行き、現地で連続殺人犯に遭遇したこと……)
正直、キッズケータイどころか、セントカクラ家の警備精鋭を呼んでもいいレベルの「確かな実績」を誇っています。
「お前ら暇か?」
日課になってるジョキング中のマスブレ殿と遭遇しました。
「一応ちゃんとした買い物中ですけど?」
「既にお荷物は購入済みのようだな」
元妻に向けられたジロッとした視線。
「…まるで私がお荷物みたいだなおい」
「まあまあ、ロル君」
仲裁に入ってくれるヨドさん。
「くれぐれも迷子になるなよ?ミンネの前だけならともかくヨドもいる前だからな」
「なるかバーカ」
「はいはい。じゃあ俺も見張り要員にならせてもらうよ」
「そういえばミンネさんってひょっとしてロルさんのご親族の方ですか?」
「腹違いの姉ですわ。もちろんこの家のメイドなのもそのコネと思っていただいて結構ですわ」
私は別に気にしてはいません。コネと思われるのも慣れています。しかしヨドさんは申し訳なさそうにしました。
「すみません。苗字が同じですし、顔も似てるなと思って……」
「コネなんてことはないぞ。ミンネは普通にメイドとして有能だぞ。なにしろあのコウレが認めた女だからな。」
「もちろん姉ってことをミンネ自身から自称したとかではない。共通の知り合いから容姿が似ていると指摘され、DNA鑑定などで異母姉弟と判明したんだ。色々あって今はこうしてメイドとして働いている。」
そこで初めて兄と共に私がもともとアビリスターの頂点・ステップ9の一人である総合破壊能力者の異母姉であり大師族セントカクラ家次期当主の「元義理の姉」ということを知りました。
「私はコネとかなんて思ってませんよ。実際ミンネさんは本当に綺麗ですし料理とかもすごく上手ですし。」
「基本的に前の屋敷でも、コウレ以外は最低限の人員しか置かない主義だ。どうせジジイの息のかかった連中しか寄越されないからな。でもミンネはコウレが『万能』と太鼓判を押したからな」
「まああいつにとっても実際飛び級とはいえ高校生なのに下着とか女性特有のものとかを男の自分がやるんじゃなんていうか恥ずかしいしな。実際ミンネ達は頭の良さは確かだからまあアギ相手でも家庭教師役も務まるしな。」
そんな会話をしている中、私は不穏な気配に気づきました。どうやら今日の買い物は、ただの散歩では済みそうにないようです。




