やはり万能執事の女装姿目当てで召喚能力使うメイドは間違ってない
「うわっ……なんですかこれ、またですか……?」
召喚されたのは、非常に可愛らしいコウレヒメ様でした。
私の能力《魔術師召喚》には、男の子を召喚すると自動的に女装姿、女の子を召喚すると男装姿になってしまうという特性があります。
猫耳メイド姿の男の娘をご覧になって、ヨドさんが頰を赤らめていらっしゃいます。
「もともとこいつは幼少の頃から生粋の女装マニアなんです。男へのナンパ人数でギネス宇宙記録を更新するのが夢なんだとか」
「……そうなんですか?」
「んなわけないでしょう。ヨドさん、信じないでくださいね」
相変わらず嫌そうな顔をされるコウレヒメ様に、私は緊急時とはいえ申し訳ないと思い、目の前で手を合わせました。
でも、きっと私の表情は少し笑みを浮かべていたと思います(笑)。だって、本当にかわいいんですもの。
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うんだが?」
こういう時、意外と冷静に対応できるのがマスブレイカー殿です。
当然ながら、大量の暴漢たちは既に四方から私たちを取り囲み、武器を構えていました。
しかし、コウレヒメ様とヨドさんがそれぞれ四割ずつ、私は二割程度の戦力で暴漢たちを制圧していきました。
あっという間に全員が無力化され、アビリポリスが到着する頃には全てが片付いておりました。
「早く召喚解除してくださいよ、ミンネさん!」
「ダメだぞミンネ。こんなかわいい猫耳メイドさんを元に戻すなんて。せめてヨドの歓迎会まではこの服装でいてくれ。文句なしの礼装だしな」
「このどこがどう礼装なんですか!!」
いつも通りの光景に、マスブレイカー殿は苦笑しながら私たちの会話を眺めていらっしゃいます。
「これはお嬢様のご命令ですからね。仕方なく……」
「だったらその面白がってニヤついた顔を元に戻す努力ぐらいしてくださいよ……」
「なんかコウレ君がアギちゃんを呼び捨てにする理由が、わかった気がします」
私は数年前、訳あってこちらのメイドになりましたが、コウレ君はお嬢様のことを、主従関係を保つか嫌味を言う時以外は呼び捨てにされます。「はい?」
「だって、なんだかお嬢様と執事というより、親子か兄妹、あるいは……夫婦みたいな感じで」
夫婦という言葉に、思春期の女の子らしい反応をされたお嬢様が頰を赤らめられます。
ヨドさんは何かを察したように優しく微笑んでいらっしゃいました。
「まあ、幼い頃から面倒を見てきたからな」
「まあ、アギの両親もアギのお世話に関してはそこそこ熱心ではあったさ。セントカクラ家の関連施設で擬似商店街を作ってお店屋さんごっこをしたり、貧しい家庭の男の子を集めて巨大逆ハーレム施設を作ったり……。実の親があのような調子ですから、あのクソジジイや他の使用人も呼び捨てを咎めるどころか、アギの教育方針にも文句を言えないというわけ」
もはや慣れたのか必死に普通の笑い方をするヨドさん。
ちなみにマスターブレイカー殿のいうクソジジイとはお嬢様の祖父様に当たるヌルタイジ様のことです。
もはや慣れたのか、ヨドさんは必死に普通の笑顔を保っていらっしゃいました。
その夜、ヨドさんの歓迎会が行われました。
「結局この服装で参加するなんて……」
「はは……」
苦笑しながらも、女装コウレヒメ様をなんだかんだ可愛がる目つきでご覧になるマスブレイカー殿とピラーセルさん。
「お次はこの私のアギリサイタルを!」
お嬢様とヨドさん以外、全員の表情が青ざめました。アギお嬢様は料理だけでなく歌も天災的です。
もしターミナル駅前の巨大スクリーンで放送したら死人が出るのは確実なレベルです。
「お嬢様、せっかくの歓迎会なのにそれはやめてくださいよ。お願いします!」
必死で泣きながら中止を懇願するコウレ君。
彼はハイスペックな執事ですが、こういう時だけお嬢様呼びかつ土下座までしてしまうのが、数少ない欠点です。絶対に自分の歌を聴かれたくないという意思が痛いほど伝わってきます。
「こういう時、本音を隠さないよね、コウレは」
コウレ君のお顔を見ながら苦笑されるピラーセルさん。
アギお嬢様ご本人は、料理も歌も上手だと思っていらっしゃるので、歌を聞かせるのもアギ様なりの好意の表し方(特にコウレ君への愛情も含まれて)なんですが……。
待ってください。これは使えるかもしれません。
「おい、そこまで私の歌が嫌だって言うのかよ」
「それは……」
「そうですわ、お嬢様。リサイタルをなさる際には、今日歌う曲目などについて目を瞑って一分ほど歌い方をイメージなさると良いらしいですよ」「それもそうだな」
お嬢様が目を瞑られた隙に、私はコウレ君に耳打ちをいたしました。コウレ君は少し戸惑われましたが、背に腹は代えられないとばかりにあっさり納得されました。
「アギ、ごめんなさい。どうしても今日、僕が歌いたいんだ」
「は? なんでだ?」
「この姿だと尚更、僕の心の中にある歌手魂が乗り移っちゃったんです」
「女装姿で歌いたいのか!」
ペットが理想通りの成果を発揮した飼い主のような顔をされるお嬢様。
「アギは本当にかわいいし、大人っぽいです。だからこそ、歌う姿を人に見せたくないんです。どうせならその姿を一生、独占したいぐらいなんです」
まあ、大人っぽい以外は本心からのセリフです。
大好きな男性からの「独占したい」という言葉に、お嬢様の歌いたい欲は完全に降伏されました。
かくして地獄のリサイタルは阻止され、かわいい男の娘のお色気のあるのど自慢——いえ、萌え自慢を楽しめた、良い一日の終わりになりました。




