第47話 能力の真価と発見
「あとは任せろ」
奮闘したエルヴィに代わり、カナタが前に出た。
見上げた先には、一匹の魔物『クロタカ』がいる。
「クワァ……」
クロタカはカナタの能力【重力操作】を持っている。
これはカナタが異世界の“後半の旅”で得た力であり、今までの能力と比べてもより強力だ。
それでも、カナタのやる事は変わらない。
「まずは一発! ──【空間断絶】!」
「クワッ!」
「……! さすがに当たらないか」
【空間断絶】は空間そのものを斬り裂く斬撃。
それは【重力操作】の範囲空間すら一刀両断するが、斬撃自体が速くない。
クロタカは自ら回避し、再び重力空間を展開した。
(やっぱ能力を攻略しないと無理かなー)
動きも素早いクロタカを仕留めるには、より近距離で攻撃しなければならない。
やはり【重力操作】の攻略は必須だろう。
それを確かめられたことで、カナタは真っ直ぐ向かう
「ま、すぐに取り戻してやるよ!」
《カナタ君いけえ!》
《主様の出番や!》
《信じてるぞ魔王様ー!》
《エルヴィちゃんの仇とってくれ!》
《あとは任せろがフラグにならないように頼む》
カナタが到着したことで、エルヴィは配慮して自身の配信を切っている。
両チャンネルの視聴者が見守る中、カナタは【重力操作】の範囲内に突っ込んだ。
「クワッ!」
「おっと! ──【反射領域】」
クロタカが重力を強めると、カナタも能力で対抗する。
反射の恩恵で大きな重力は受けないが、それ以上体が進まない。
体の周囲にまとうだけの【反射領域】に対して、【重力操作】の方が効果範囲は広いからだ。
(懐かしく思えるな。だったら……!)
しかし、これはあくまで探り合い。
【反射領域】を回収した時と同じく、カナタは対【重力操作】を熟知している。
カナタが自分の能力と戦うのは、初めてではない。
「こんなのはどうだ? 【共奏】」
「カナタ様……!」
カナタは、味方から能力の一部を借りる【共奏】を発動させる。
それにはエルヴィが反応を示した。
借りた能力がエルヴィのものだったからだ。
さらには、それを“パワーアップ”させる。
「【血染めの夜】に【空間断絶】を付与」
「……!」
カナタが両手を広げると、小さな斬撃が無数に浮かび上がる。
エルヴィが扱う赤い棘の要領で、斬撃を展開したのだ。
これは一つ一つ、全てが【空間断絶】と同じ性質を持つ。
「名付けて【空間断絶の夜】なんてな!」
「クワアッ!?」
つまり、空間を貫通する無数の斬撃が、豪雨のように襲いかかる。
《あれ全部貫通してくんのか!?》
《やばすぎだろ!》
《エルヴィちゃんの技理解してるな》
《かわせるわけなくて草》
《急に別ゲー始まったwww》
《クロタカさん逃げてぇ!》
《そんな夜嫌すぎるwww》
クロタカもなんとか逃げようと飛び回る。
だが、無数の弾幕をいつまでも避けきれるはずがなく。
「クァッ……!」
「ヒットしたあ!」
数発の斬撃がクロタカを貫き、飛翔する体がフラつく。
ダメージを負い、クロタカの意識は能力の制御から逸れた。
カナタはその綻びを見逃さない。
「おりゃあっ!」
「クアアッ……!」
上から迫ったカナタは、クロタカの頭を叩きつけるようにかかとを落とす。
クロタカはクラっと眩暈を起こし、高度を下げていく。
あとはもう、勝負を決めるだけでいい。
「終わりだ──【空間断絶】」
「クア、アア……」
巨大な斬撃はクロタカを真っ二つにした。
それぞれの能力を生かした、華麗なる討伐劇だ。
ヴァレリアも含め、周囲は改めてカナタの強さを思い知らされる。
「まったく、師匠の立場がないな」
「これがカナタ様ですよ」
《うおおおおおお!!》
《まじかよ圧倒じゃねえか!》
《やっぱりカナタ君が最強!》
《エグいわ魔王様》
《エルヴィも十分最強なのに!》
《ただのツッコミキャラじゃなかったんだ》
《↑カナタ君の強さ知らないにわかはアーカイブ全部見直せ》
《過激派も見てます》
《つえええええええ!!》
そうして、崩れ去るクロタカから、カナタへ光が移る。
「よし」
五つ目の能力【重力操作】を取り戻したのだ。
これにて一件落着。
──かと思いきや、辺りから騒々しい声が聞こえてくる。
「「「グオオオッ!!」」」
「「「……!」」」
途端に群がってきたのは、ダンジョンの魔物たちだ。
戦闘音が静まり、エサを求めてやってきたのだろう。
しかも、ここはA級ダンジョンの下層。
どれもA級を下らない強力な魔物ばかりだ。
突然の事態に、エルヴィとヴァレリアは臨戦態勢を取る。
「んもー、こんな時に!」
「やるしかないようだな」
「大丈夫だよ、二人とも」
しかし、カナタが二人を制止させた。
そのまま二人の盾になるよう前に立つと、右手に力を込める。
「久しぶりの感覚だな」
「「……!」」
カナタは半透明の球体を浮かばせると、それがぶぅんっと辺りに広がる。
先程の戦闘で既視感のある空間だ。
空間が辺り一面を覆うと、カナタは拳を握った。
「【重力操作】」
「「「グオッ……!?」」」
その瞬間、空間内の魔物は全て地面にひれ伏す。
大きな重力に、上からのしかかられたように。
だが、クロタカが使用した時よりも重力は何倍も大きい。
「疲れた仲間を襲うなんて野暮じゃないか」
「「「グオ、オ……」」」
【重力操作】の強さ・範囲は使い手によって変化する。
元の持ち主であるカナタの【重力操作】は、クロタカが使うそれとはまるで違う。
ひれ伏した魔物は、指一本動かすことができない。
《全員土下座してらwww》
《土下座ってかひれ伏してるww》
《これってさっきの技!?》
《この光景怖すぎて草》
《まじで魔王じゃねえかwww》
《これで人間って主張する方が無理あるって!》
《恐ろしや恐ろしや》
《名実ともに魔王になられたのですな》
しかし、賢い魔物は何かを察知し、【重力操作】の範囲外から見守っている。
「「「グオオ……」」」
「うーん、倒すのも面倒だな」
すると、カナタは振り返った。
「んじゃエルヴィ、行くぞ」
「はい!」
異世界でも最後まで一緒だったエルヴィは、何をするか分かったのだろう。
首を傾げるヴァレリアには、カナタが声をかけた。
「師匠は俺がだっこします」
「ちょっ、はあ!?」
「初めてだとちょっと怖いですから」
「な、なにを──って、おわっ!?」
カナタが再び力を込めると、三人の体がふわりと浮く。
回収した能力は【重力操作】。
重力を“操れる”能力だ。
すなわち、重くするだけではない。
「うし、地上まで一直線だ!」
「はいカナタ様っ!」
「う、うわああっ!」
カナタは【重力操作】により、周囲を“無重力”にした。
相手には大きな重力を与え、味方の重力は小さくする。
この“弱体化”と“強化”の両性質を生かして初めて、この能力は真価が発揮される。
これが、旅の後半で得たスキルたる所以だ。
《操作ってそういうことかよ!》
《味方の体は軽くできるんか……》
《このスキルえっぐwww》
《クロタカは使いこなせてなかったんやな》
《空間内で戦ったら無敵じゃんwww》
《あーあまた魔王が壊しちゃった》
《もう手がつけられんくて草》
「ひゃっほーい!」
「ひゅーんっ!」
「ぎょええええっ!」
こうして、カナタ達は五つ目の能力【重力操作】を回収し、ダンジョンを後にしたのだった──。
★
その日の夜。
「今回もお疲れ様でした」
ギルド本部の会議室で、会長がカナタ達へせっせとお茶を持ってくる。
どう考えても立場が逆だが、集まった従魔たちは満足げだ。
会長もほっと安心すると、早速本題に入る。
「それにしても、魔王の魂とやらは見つかりませんね」
会長には色々と手を回してもらっているので、ある程度の情報を共有している。
一応カナタの能力回収という進展はあったが、一番の目的は達成していない。
しかし、カナタは首を横に振った。
「それについてなんですが、今回の探索で思ったことがあります」
「え?」
「境界までいくと、違うダンジョンへ飛ぶと判明しましたよね」
「そうですね。私もびっくりでしたが」
今回、カナタ達は現代ダンジョンの概念をひっくり返した。
ダンジョン同士は繋がっていて、境界まで進むとダンジョン間を移動できたのだ。
とはいえ、壁を壊すなど他の誰にもできないため、ほとんどカナタ達専用の通路と言えるが。
その件を共有しながら、カナタは仮設を立てる。
「だったら、まだ探していないところもあるかと」
「そ、それって……!」
「はい」
会長も勘づいた場所を、カナタに口にする。
「ダンジョンの下の境界です」




