第39話 師匠の観光
<三人称視点>
「こ、これは……!」
ヴァレリアは視線を上に向けると、思わず言葉を詰まらせる。
隣でニヤッとするカナタは、師匠のヴァレリアに改めて紹介した。
「ここが日本、そして東京の街並みだよ」
「まさか、これほどとは……!」
少し前、カナタは師匠のヴァレリアと再会した。
死んだはずの彼女が復活したことは謎だが、せっかくの機会だからと、彼女をギルドから連れ出したのだ。
異世界から来たばかりのヴァレリアは、見知らぬ大都会の風景に驚愕している。
しかし、カナタは首を横に振った。
「まだまだこんなものじゃないよ。実際に色々体験してみないと!」
「あ、ああ!」
ヴァレリアを連れて行きたい所があるようだ。
先導するカナタに、ヴァレリアも意気揚々と付いて行く。
今だけは、懐かしき二人だけの空間だ。
──だが、一方その頃。
「こちらC。目標を捉えています」
ココネは建物の屋上に張り付き、双眼鏡で二人を覗いていた。
カナタに「師匠が緊張するから」と付いて来ないよう言われたが、はいそうですかと引き下がるタマではない。
カナタとヴァレリアの関係をより探るため、ストーカーしていたのだ。
「主様と女の距離、28……いえ、27cmです」
その細かすぎる報告をしながら、トランシーバー伝手に他へたずねる。
「みなさんはどうですか」
『はーい、こちらR。街を焼き払う準備はできてるわ』
「……距離が一桁になるまではやめておきましょう」
もちろんココネ以外の三人もストーキング中だ。
主に過去の女がいては許しておけるはずもない。
ルーゼリアに続いて、エルヴィとミカも報告をした。
『手なんか近づけたら、わたしの刃物が刺さるよ』
『んー、いつ“バブみ部隊”を投入させようかしら』
「了解です。二人もひとまず待機で」
ここまで息の合った四人は見たことがない。
どんなダンジョンの時よりも、四人はコンビネーションを発揮していた。
ちなみに、カナタはそんな従魔たちに気づいている。
(……まあ、だよなぁ)
能力【超感覚】の効果だ。
予想通りすぎる行動に、カナタは呆れたため息を漏らす。
しかし、隣のヴァレリアは笑みを浮かべていた。
「中々に頼もしい仲間じゃないか」
「え、従魔がいるの分かるの?」
「これだけ殺気を向けられていればな」
「あぁ……もう何もかもすいません」
ヴァレリアの背中には、遠くから殺気が刺さりまくっている。
カナタのような能力は持っていないが、騎士の勘でさすがに気づいたようだ。
それでも、ヴァレリアは堂々としていた。
「なに、やましい事をするわけではないんだ。ワタシは構わないさ」
「だったら良いけど……」
「それより面白い場所へ連れてってくれるのだろう?」
「……! うん!」
すると、今度はヴァレリアから駆け出す。
同時に、街には特大の舌打ちが響き渡った。
「「「「ちっ!」」」」
「「「……!?」」」
それには周辺の人達がビビったという。
「すごくいいよ、師匠!」
試着室から出てきたヴァレリアに、カナタは思わず手を叩く。
それほどに彼女の姿は様変わりしていた。
「カ、カナタ、これはなんなんだ……?」
「これは和服だよ」
カナタが早速連れて来たのは、着物屋さん。
サラサラの金髪はまとめてもらい、より上品さを増している。
綺麗なスカイブルーの瞳に似た色の着物は、背の高いヴァレリアにぴったりだ。
騎士譲りの姿勢も相まって、華麗な和服外国人のようになっていた。
着物屋の店主も、ヴァレリアの姿をよく褒めている。
「本当に綺麗ですよ。ここまで似合う人は中々いません!」
決まり文句ではあるものの、それが冗談とは思えないほど、ヴァレリアの格好は目立っていた。
カナタもうんうんうんと首がもげるほど頷いている。
「こういうのも悪くないでしょう?」
「ワ、ワタシには可愛すぎないか……?」
「そんなことないよ! ここは日本なんだから思いっきり楽しんで!」
「……っ」
その言葉に安堵したのか、ヴァレリアも口元を緩める。
騎士道一筋だったとは言え、他国で見かける可憐な女性には思うこともあった。
そんな姿になれたことが嬉しいのだろう。
「ありがとう、カナタ」
「じゃあテンションも上がった所で次に行こう」
「ああ!」
ヴァレリアの声は、聞いた事もないほど上ずっていた。
ちなみに、この一分後にさらに着物が四着売れたという。
「ここは何というか……すごいな」
道中で入った場所に、ヴァレリアの目は慌ただしく動く。
少し耳も抑えている。
「ここはゲーセンだね。俺もたまに来るよ」
「ゲー、セン?」
入ったのは、街中のゲームセンター。
ヴァレリアが途中で興味を示し、案内してあげたようだ。
行きつけの場所に、カナタは順に指をさしていく。
「クレーンゲームとか、コインゲームとか」
「ワ、ワタシには何が何だか……」
「あ。これとかならいいかも」
そんな中で、一つヴァレリアが楽しめそうなものを見つける。
パンチングマシーンだ。
「ここを殴って、どれだけ拳が強いかを計るゲームだよ」
「……ほう?」
ヴァレリアは火がついたように微笑む。
早速腕まくりをした手にグローブをはめ、カナタがゲームを開始した。
──忠告を交えて。
「あの、壊さないようにね?」
「わかっているさ」
「ほんとかなあ……」
そんな時、ふと後方から声がかけられる。
複数人のヤンチャそうな男達だ。
「ははっ、姉ちゃんかわいいねえ」
「そんなことせずに俺たちと遊ぼうよ」
和服美人のヴァレリアが目についたのだろう。
だが、すでにゲームに夢中なヴァレリアは──ドガアアアアアッ!
「「「……!?」」」
強力なパンチを見せた後で、ヤンチャそうな男達に振り返る。
「ん、ワタシに何か用か?」
「「「な、なんでもありませーん!」」」
プシュウウと煙が上がっているマシーンには、エラーの表示がされていた。
今までの最高が「306」の中、これは999以上の数値。
元騎士団長の力を遺憾なく発揮していた。
「む、軽く殴ったのに数字が出なかったな。故障か?」
「ははは……やっぱり」
カナタには予想通りだったようだ。
その後も、二人はいくつかのゲームで遊んだ。
エアホッケーやバスケットマシーンなど、身体能力が生かされるゲームでは、ヴァレリアがことごとく記録を更新していった。
そうする内に、ただでさえ目立つヴァレリアもいては、カナタの存在は周囲に気づかれる。
「え、あれ魔王じゃね?」
「本当だ。隣の外国人は彼女か!?」
「サインくださーい!」
「ま、まずい……!」
元々気づいていた者もいたのだろう。
誰かが声をかければ、自分も自分もと騒ぎは大きくなる。
カナタはヴァレリアを連れて、ゲーセンを抜け出した。
「ここは一旦抜けよう!」
「お、おお?」
そうして、カナタとヴァレリアはゲーセンを堪能したのだった。
夕暮れ。
「カナタはこちらでも有名人なのだな」
しばらく移動し、二人はベンチに座っていた。
人通りが少ないこの場所で、ヴァレリアは微笑んでいる。
「うん。なんか成り行きで……」
「魔王と聞いた時は何のことかと思ったぞ?」
「それも成り行きとしか言えない……」
「ははは、こちらの魔王は尊敬の対象なのだな」
カナタが配信者としてのことを話すと、ヴァレリアは喜んでくれたようだ。
過去のことも含めると、なおさら。
「それに上層部──探索協会にも認められているだろう。王国の二の舞にならなかったことが、ワタシはこの上なく嬉しい」
「師匠……」
加えて、今のカナタについても。
「カナタがこの世界に戻れて良かった。今の楽しそうな表情を見てるとワタシも安心するよ」
ヴァレリアは日頃から、カナタへ言っていた。
キミにこんな世界は似合わない、キミを一刻も早く戻したいと。
異世界に来たばかりで、現代に思いを馳せていたカナタに声をかけ続けていたのだ。
そして、現代の良さも身をもって体験したようだ。
「この世界は魔族──いや、魔物は地上には出られない。だからこそ、平和が保てるのだな」
「そうだね。でも、異世界もきっと平和になってるんじゃないかな。ちょっとやりすぎな従魔たちのおかげで」
「ふふっ、そうだったな」
すると、ヴァレリアはすくっと立ち上がった。
「今日は楽しかったぞ。そろそろ帰るとしようか」
「そうだね」
「だが、一つだけ頼まれてくれないか。やっぱりワタシは、あちらの方が肌に合うみたいだ」
「うん?」
視線を移したのは、ダンジョン配信が流れているモニターだ。
「ワタシもダンジョンというものに行ってみたくてな」




