第38話 まさかの再会
<カナタ視点>
「会長! 失礼します!」
朝一番、俺は急いで会長室の扉を開ける。
先ほど、耳を疑うような連絡をもらったからだ。
その報せ通り、部屋の中には二人が座っていた。
「来てくださいましたか、久遠君」
会長と、そしてもう一人。
俺はその姿に思わず目を見開く。
「ほ、本当に……」
長いサラサラの金髪は結ばれ、まとめられている。
服を貸してもらったのか、いつもと違う落ち着いた格好だけど、凛とした様は記憶と変わらない。
その勇ましい姿に、俺の目元にはうるっとくるものがあった。
「ヴァレリア!」
彼女はヴァレリア。
俺が召喚された王国の騎士団長を務めていた人だ。
異世界では俺が初めて慕った人物で、王国では唯一親しかった。
ヴァレリアはフッと優しい目を浮かべると、手を差し出してきた。
「久しぶりだな、カナタ」
「うん!」
感動の再会だ。
感極まった俺は、そのままヴァレリアと抱き合う──のは止められた。
「「「ちょっと」」」
「……」
俺とヴァレリアの間に、従魔たちが割り込んできたからだ。
全員両手を広げ、ゴゴゴゴと怒りの目を浮かべている。
いつも以上に怖い俺に目を向けて、全員で一言。
「「「この女だれ!?」」」
「反応しすぎだろ……」
まあ、従魔も会ったことがないもんな。
不審に思うのもしょうがない。
俺はヴァレリアに手を向けながら、紹介した。
「ヴァレリアは、俺の“師匠”だよ」
「「「ししょおおおお!?」」」
「……だからガン飛ばすのやめてね」
こうして、俺はなぜか現代に召喚された師匠ヴァレリアと再会した。
再会して、しばらく。
「カナタには頼もしい仲間ができたのだな」
一息つき、師匠が笑みを浮かべる。
めっちゃ従魔たちに睨まれてるけど、さすがの落ち着きようだ。
俺は従魔たちを見ながら返す。
「うん。ちょっと個性的だけどね」
「「「それほどでも……///」」」
「褒めてねえよ」
そんな中、会長は難しい顔を浮かべていた。
「やっぱり事実なんですね。異世界のお話は」
「はい。今まで黙っててすみません」
「いえ、気遣って下さったのは分かりますので」
この際なので、会長にも異世界の事を話した。
師匠はダンジョンで発見されて、ギルドで保護されたらしい。
そこまでしてもらって事情を話さないのは、不義理だと思ったからだ。
それに、これから魔人を警戒するにあたっても、会長には共有しておいた方がスムーズに動けるだろう。
「では後ほど、魔人についてもっと教えてください」
「もちろんです」
ひとまず会長さんは納得してくれた。
対して、現状に全く納得していない者が四人いる。
エルヴィはトントントンと指でテーブルを叩きながら、口を開いた。
「そ・れ・で? ヴァレリアさんとやらは、どうしてカナタ様と離れたんですかねぇ」
「おいおい」
「わたしだったら一生離れないけどなぁ。カナタ様が好きじゃないなら、それはそれで都合が良いですけどぉ」
「嫌な言い方……」
明らかに嫉妬交じりの追求だ。
他三人も「よく言った」とうなずいている。
対して、師匠は一呼吸おいて答えた。
「ワタシは魔族との戦争で命を落とした」
「……!」
そう、師匠は俺が従魔たちと会う前に死んでいる。
色々と教えてくれた後、最後は未熟だった俺を庇うように。
それから師匠の思いを受け継ぎ、俺は死ぬ気の修行の果てに『七つの能力』の手にした。
師匠は不思議そうに続ける。
「そのはずが、気がつけばダンジョンとやらに居たのだ。さらに、保護してもらったら違う世界だと言うではないか。さすがに困惑したよ」
「師匠……」
「ワタシも心細くてな。まずは君を探そうとしていたんだ」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
またも懐かしい笑顔に、俺も顔が緩む。
だが、ガンッとエルヴィの足がテーブルに乗せられた。
「けっ」
「……もうやめて差し上げなさい」
知らない人物と親しげなのが気に喰わないんだろう。
エルヴィは直接的だが、他三人もニコニコしつつ目が全く笑っていない。
師匠も多少ビクっとしながら、話を続けた。
「こちらに帰還したということは、魔王討伐は成し遂げたのだな。……こ、心強い仲間もいるみたいだし」
「はい、みんなとなんとか」
「それは良かった。さすがの王国もカナタを無事に送還したのだな」
「……! いや、無事というよりは……」
それには言葉を詰まらせてしまう。
そうだよな、師匠はあの事を知らないんだ。
俺が気まずそうにしていると、ココネが代わりに答えてくれた。
「主様は処刑されたのですよ」
「なんだと!?」
「力を持ち過ぎましたからだそうです。どうしてか処刑後に帰還できましたが、ココネは今でも許せません」
「……っ!」
師匠は手で頭を抑えた。
「そこまで腐ったか! あの外道たちが!」
「大丈夫。今は無事だから落ち着いて」
「……す、すまない」
王国でも、貴族じゃない師匠は俺によくしてくれた。
騎士団長を務める傍ら、色んなことを教えてくれたんだ。
おかげで騎士団だけとは良い関係性だった。
だけど、師匠と死別した後で俺は酷使されるようになった。
後になって思えば、師匠が上層部の盾になってくれていたのかもしれない。
師匠は怒りを抑えながらも、首を横に振っている。
「くっ、あれほどカナタにはよくしろと言ったのに……。ならば、奴らはまだあちらでのぼせ上っているのか?」
「心配はありませんよ」
「え?」
しかし、それにはココネがニコッと怖い笑顔で答えた。
「ココネが召喚士を殺しましたので」
「お姉さんも百人ぐらいやったかな」
「わたしは革命を起こしたけどね」
「ママは国をバブみで満たしたわ」
「……!?」
他三人も続くと、師匠ですら空いた口が塞がらない。
「そ、それはなんというか……すごいな。いやまじかよ、えぇ……」
「ははは……」
あの師匠が思わず本音が漏らしている。
俺はうなずくと、師匠に声をかけた。
「てことで、民の心配はないよ」
「そうか……えぇ、何それ頼もしっ。だ、だが、カナタが殺されたのは──」
「もう恨んでない。だから師匠もどうか気にしないで」
「……カナタがそう言うなら」
俺の言葉に、師匠はなんとか矛を収めてくれた。
ならばと、俺は次の提案をする。
「それよりも、まだ何も体験していないでしょう?」
「な、何の話だ?」
「ここは日本。ディスイズジャパンです!」
「???」
まだ困惑している師匠に、俺は手を伸ばす。
「俺の故郷を紹介します!」
「……! ああ、よろしく頼む!」
師匠も顔を晴らして立ち上がる。
従魔に俺の手を遮られ、師匠の手が迷子になりながら。




