第36話 カナタの策
「裏の裏は──表だ」
ようやく前に出たカナタは、グレートズリーへ剣を向ける。
従魔たちが苦戦(?)しているため、自分が決着を着けようと言うのだ。
しかし、その言葉には後方は首を傾げる。
「「「?」」」
浅いのか、深いのか……おそらく浅いが、カナタなりの作戦があるのだろう。
それを有言実行するように、まずは一発。
カナタはあいさつ代わりの斬撃を飛ばした。
「【空間断絶】……!」
「グオオッ!」
カナタが剣を振るうと、曲線型の斬撃が飛んで行く。
しかし、【反射領域】を宿すグレートズリーの咆哮により、やはり斬撃は返ってくる。
それには斜め下から【空間断絶】を発動し、弾くように対応した。
斬撃は壁へと直撃し、ぽっかりと形通りの跡が残る。
「グオッ」
「……」
グレートズリーは、ふんすと鼻息を鳴らした。
壁の跡も確認し、あれほどの攻撃を反射したことに得意げになっているのだろう。
対してカナタは、段々と口角が上がっていく。
「そうそう。これだよ、これ」
「グオッ!?」
やがて浮かべたのは、楽しい“遊び”を思い出したような邪悪な笑みだ。
この表情は魔王と言わざるを得ない。
《カナタ君!?》
《どうしたんだ急にニヤッとして!》
《反射されておかしくなったか!?》
《いや解決法を見つけたんじゃないか?》
《これは魔王》
《新しいおもちゃ見つけちゃった》
《なんか分からんけどいけえ!》
コメント通り、おもちゃを見つけたようにカナタは前に飛び出した。
「よっしゃいくぜえ!」
さっきの初撃は“確認”だ。
相手の反射が思った通りに機能するか、確かめただけに過ぎない。
そして、予想通りの挙動を示したため、カナタは本格的に攻略に入った。
「断絶!」
「グオオッ!」
カナタのメイン火力は【空間断絶】。
もう一度斬撃を飛ばすが、やはり反射されてしまう。
しかし、今度は角度を変えて放っていた。
より接近して下から放ったため、斬撃はカァンッと斜め上に反射したのだ。
──それに向けてカナタは斬撃を放つ。
「はあッ!」
すると、チッと掠るように斬撃が交差し、角度が変わった。
一発目の斬撃は【反射領域】へ向かい、もう一度反射されたのだ。
まるで壁打ちでもしているかのように。
カナタはそれを繰り返す。
「うりゃああああああ! 断絶、断絶ぅ!」
「グ、グオオオッ!?」
反射された斬撃は、次の斬撃と掠り合い、再び反射されにいく。
掠って角度が変わった斬撃は、次の斬撃で軌道を修正される。
それが繰り返されれば、反射する斬撃はどんどん増えていく。
すなわち、カナタと反射領域の間では、玉(斬撃)が増え続ける“無限のラリー”が始まっていた。
「まだまだぁ!」
「グ、グオオ……」
目の前で勝手に攻撃が反射される、グレートズリーくんを差し置いて。
《うおおおお!?》
《なんだこれえええええ!?》
《めちゃくちゃ斬撃が飛び交ってる!?》
《互いに反射し合ってんのか!》
《これって計算して放ってんの!?》
《魔王様やばすぎだろwww》
《しかもまだ増えていくぞ!》
《どこまでいっちまうんだ!》
《でも巻き込まれたら大変だぞ!?》
しかし、それぞれの斬撃が一撃必殺クラスの威力だ。
カナタ自身も食らえば致命傷だろう。
加えて、反射パターンは、斬撃一つごとに指数関数的に増加していく。
それを全てコントロールし、今なお数を増やし続けるのは、正気の沙汰じゃない。
それでも、カナタは剣を振り続ける。
「おらおらおらぁ!」
「グ、グオオッ!?」
【超感覚】により、全ての軌道・反射パターンを予測しているというのもある。
だがそれ以上に、カナタはこれを楽しんでいた。
(久しぶりに断絶ラリーができるなんて!)
異世界では、よく行っていた遊びのようだ。
もう一つの能力を使い、一人で断絶ラリーをやっていたのも今では懐かしい。
そちらの能力は取り戻していないため、今までは出来なかったが、久しい光景にカナタは心を躍らせていた。
その姿に、ココネは両手を合わせている。
「主様……っ」
異世界ではよく見た光景だったのだろう。
カナタは努力によって、最終的に七つの能力を使いこなした。
その過酷な特訓は、ただ頑張るだけで乗り越えられるものじゃない。
カナタは、スキルを極めることに関しては、人一倍情熱を持っているのだ。
つまり、能力で遊ぶのが好きだった。
「そろそろかな」
「グオオッ!?」
やがて反射する斬撃は、数えきれない程に至る。
しかし、斬撃の数々は美しく対称的になっていた。
カナタは全ての反射を計算し尽くしていたのだ。
「こい!」
そして、同時にカァンッと反射した全方位からの斬撃は、一点に集約する。
カナタの元へと。
あとはそれを──打ち返す。
「うおりゃあああああああ!」
カナタは体を回転させ、勢いを付けて【空間断絶】を放った。
多くが重なり合い、集約された斬撃は、一つの巨大な斬撃へと変わる。
これを正面からぶっ放した。
「【空間断絶・集約】……!」
「グギャアアアアアアッ!!」
バリィンッっと反射領域がぶっ壊れ、カナタの攻撃が貫通する。
グレートズリー本体は成す術もなく、後方のダンジョンごと両断された。
無敵に思える【反射領域】にも限度は存在する。
従魔が手を焼くほどの耐久力だが、カナタの強大な技はそれをも上回ったのだ。
裏の裏は表、これはすなわち──
「正面突破ぁ!」
超火力で脳筋解決という意味だ。
《うおおおおおおおおっ!!》
《貫通したあああああ!》
《無敵じゃなかったんか!》
《でも従魔でも壊せなかっただろ!?》
《魔王様やべえええ!!》
《これでこそ脳筋集団の主だ》
《すげーもん見せてもらった》
《やはり力は全てを解決する》
《さすがだぜ魔王様!》
最後は圧倒的火力でぶっ放した爽快な光景に、配信は最高潮に盛り上がる。
カナタもさすがに疲れたのか、安堵したように腰を下ろした。
すると、カナタにぽうっと光が灯った。
(お、【反射領域】回収っ!)
これで目的は達成。
ついでに調査の依頼対決も勝利である。
そんなカナタを称えるように、後方から従魔たちが駆けつけた。
ココネ、ルーゼリア、エルヴィだ。
「さすがです、主様」
「やっぱりカナタ君ね」
「わたしももうちょいやりたかったけどなー」
しかし、あと一人がいない。
カナタが振り返ると、ミカは髪をいじりながら恥ずかしげに口にした。
「ま、まあ、あんたにしては頑張ったんじゃない。別に、どうでもいいけど……ごにょごよ」
「はははっ」
まだ特有のツンデレを発揮していた。
思春期ママの効果は切れてなかったようだ。
《ミカママあああああ!》
《ツンデレまじで良いぜ》
《かわいいwww》
《お前ら最後にこの姿を拝んどけよ!》
《波動の効果切れないでええええ!》
《いつまでも見ていたい……》
《アホ、普段がママだからこそギャップが活きるんだろ。この素人どもが》
《ガチ勢わいてて草》
《それだけのインパクトだったなww》
そうして、対決相手のマイミイ姉妹も寄ってくる。
先に口を開いたのはマイコだ。
「久遠カナタ……さん、私が愚かでした。あなた達と張り合おうだなんて」
「いえ、気にしてませんよ。むしろこれぐらいじゃないと、探索者なんてやってられませんよ!」
「ふふっ。そう言ってもらえると助かります」
それから、妹のミイコも。
「魔王様、すごかった」
「あはは、ありがとうございます。今度はまた、協力して探索でも行きましょう」
「……! はいっ!」
おとなしめのミイコが、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ぼちぼち撤退でも──ん?」
しかし、これで対決は終幕とはならず。
【超感覚】で前方を見たカナタは、すぐさま声を上げた。
「やばい! ダンジョンが崩れるぞ!」
「「「え……!?」」」
カナタの【空間断絶・集約】により、前方が消滅したのだ。
形を保てなくなったダンジョンは、今にも崩落しようとしている。
さーっと青ざめたカナタ達は、急いで反転した。
「に、逃げろおおおおおお!」
「「「うわあああああああ!」」」
カナタ達が道を作り、マイミイ姉妹はソリに乗る。
とにかく上へ上へと。
さっきとは別人のような無様な姿を晒しながら、カナタ達は走り抜けていく。
「「「わー、ぎゃー!」」」
《結局こうなるのかよwww》
《あんなにかっこよかったのにww》
《こいつらせわしないなあ笑》
《さっきまでのが台無しで草》
《顔が必死過ぎるwww》
《魔王様らしいわ》
《最後はわちゃわちゃします》
《なんか緊張感ねえんだよなあ……w》
その後、ダンジョン崩落からなんとか逃げ切り、調査の対決を終える。
これほど異変調査の危険と、カナタ達の力を見せれば、クレームも減るだろう。
カナタ達は、これからは公に調査を任される立場へと昇格したのだった。
★
後日、探索協会の会長室。
「すみませんでした、会長」
そこには頭を下げるマイコの姿があった。
隣ではミイコも同じ姿勢である。
「ミイコはともかく、私では異変調査は力不足です。潔く諦めることにします」
対決を経て、自身の力を顧みたのだろう。
すると、会長は口を開いた。
「顔を上げて、マイコさん」
「え?」
「たしかに探索者としてのあなたは、異変調査には不向きかもしれない」
「……はい」
これも対決を見ての正直な感想だろう。
しかし、この後の言葉も本音には変わりない。
「でも、あなたの知識や予習の執念には驚かされた。あれは認めざるを得ない」
「え?」
「依頼は異変調査だけではない。あなたにもいくつか協力してほしい依頼があるわ。きっと最適だと思う」
「……!」
それから、ミイコに対しても。
「ミイコさんも、手伝いをしてくれる? 上級者向けの依頼もあるの」
「は、はいっ!」
「よし」
そうして、会長は手を叩いた。
「仕事はたくさんあるわよ。あなた達のせいで、俺たちも私たちもって苦情がたくさん届いたんだから!」
「「……」」
「返事は?」
「「は、はいっ!」」
返事をしながら再び謝る二人だが、顔はどこか晴れやかに見える。
二人──特にマイコの目的は、協会から認めてもらうことだったからだ。
これからはやる気に満ちて依頼をこなすだろう。
こうして、カナタ達とマイミイ姉妹の対決は、幕を閉じたのだった──。




