第35話 脅威の能力
「能力は返してもらおうか」
カナタは前方から来る魔物と相対した。
現れたのは、大きなグリズリー。
A級『グレートズリー』だ。
「グルオオオオオッ!」
通常の個体でも、凶悪な魔物として有名である。
さらに、カナタの『七つの能力』の一つを宿しているようだ。
先程のマイコの『魔力結晶』のレーザーが物語っている。
(一体なんだったの……?)
貯金をはたいて特注したアイテムだった。
A級魔物でも倒せると思っていた。
しかし、多属性のレーザーは命中するどころか、跳ね返ってきたのだ。
その脅威は視聴者にも伝わっている。
《さっきは何が起こったんだ!?》
《レーザーが返ってきたぞ!?》
《反射されたように見えたけど……》
《やばいスキル持ってるんじゃ》
《これが異変の正体か!》
そんな中、エルヴィがすっと前に出た。
「カナタ様、わたしが行っていい?」
「わかった。気を付けろよ」
「ええ!」
エルヴィ含め、カナタ達は能力の見当がついている。
だが、久しぶりに血沸き肉躍る相手だ。
戦闘狂のエルヴィは我慢できなかったのだろう。
狂気の笑みを浮かべたエルヴィは、紫の翼を広げて飛び上がった。
「──【血の雨】!」
そのまま、無数に展開した赤い棘を一気に放出する。
全てが鋭利な刃物のような棘だ。
対して、グレートズリーは咆哮を上げた。
「ギャオオ!」
「……! あはっ!」
すると、赤い棘は全て反射される。
エルヴィは再度展開した棘で相殺するが、一旦カナタの元へ下がった。
能力の確信は得られたようだ。
「やっぱりすごいね、カナタ様の能力」
「なんで嬉しそうなんだ……」
エルヴィの変わらぬ狂気にぞっとしつつも、カナタは目を細めた。
(やはり【反射領域】か)
──【反射領域】。
自身の行動で、相手の攻撃を反射する領域を展開する。
カナタの能力の中でも防御に秀でたスキルだ。
《やっぱり反射じゃねえか!》
《うっそだろ》
《これどうすんだ!》
《え、まじで最強の能力じゃない!?》
《なんかエルヴィは嬉しそうなんだけどw》
《今の攻撃が返されるかよ……》
エルヴィの技は、多方面から放たれた。
だが、それを全て反射してきたのだ。
全方位を【反射領域】で囲っているようにも思える。
「こ、こんなの……!」
「魔王様……!」
後方で見守るマイミイ姉妹も、脅威の能力を実感したようだ。
相変わらずチートじみたカナタの能力だが、これで怯える従魔じゃない。
次は自分がと言わんばかりに、二人が飛び出した。
「主様、ここはココネが」
「お姉さんもいこうかな」
「二人とも!」
ココネとルーゼリアだ。
頼もしい背中だが、カナタはじっとした目を向けた。
「……仲良くやれよ」
元々、従魔の中でも、二人は特にライバル意識が高かった。
現代に来てからは抑え気味(?)だったが、ココネの覚醒により、ルーゼリアの意識が再燃。
最近では、ちょいちょい争うことも増えていた。
また二人は、氷と炎という正反対の性質を持つ。
二つの大きな力がぶつかり合えば、周辺を爆破させる恐れがあるのだ。
それらを考えて、最近カナタは二人に「喧嘩禁止令」を出した。
カナタの言葉に、二人はこくりとうなずく。
「もちろんです、主様」
「お姉さんだもん」
言葉を言い残し、ココネとルーゼリアは同時に飛び立った。
すぐさま宙から放ったのは、それぞれの得意技だ。
「はああ! ──【絶対零度】」
「ふふっ! ──【真紅の抱擁】」
左右上空から、氷と炎の技が放出される。
しかし、やはり二つの技は反射された。
鏡面反射のように、ココネの技はルーゼリアへ、ルーゼリアの技はココネへと跳ね返ったのだ。
「「くううううっ!」」
「ココネ! ルーゼリア!」
これは相性の問題だ。
二人は圧倒的な強さを持つが、技は威力に特化している。
小細工なしの技は、簡単に跳ね返されてしまうのだ。
何発撃とうとも、互いの攻撃が互いに飛んでしまう。
その光景に、カナタは声を上げた。
「二人とも! もうその辺で──ん?」
しかし、よく見れば二人の表情がおかしい。
どこか高揚しているようで、いつものライバルを見るような表情になっていた。
しかも、二人は一切グレートズリーを向いていない。
「はあああ!」
「うふふっ!」
「あ、あいつらまさか……!」
カナタの違和感は確信に変わった。
「反射を利用して互いに攻撃してやがる!」
「「あはははっ!」」
技を反射して、間接的に攻撃し合っていた。
「喧嘩禁止令」の抜け穴をついた、合法的な争いだ。
もはやグレートズリーを“反射する壁”にしか思っておらず、二人は密かに闘争本能を満たしていた。
せっかく力を手にしたグレートズリーも、これにはしょんぼり。
「ギャウ……」(相手にして……)
《この二人マジでww》
《どこまでも対抗し合うんだよなあ》
《そんなに争いたいのかよww》
《クマさん「無視しないで」》
《利用されてるだけで草》
《あのー他所でやってもらっていいですか?w》
《ピンチかと思ったら相変わらずで草》
《クマさん眼中にねえじゃんww》
そんな攻防がいくつか続き、ココネとルーゼリアは肩で息をする。
「やるわね、ココネ」
「そちらこそ、ルーゼリア」
「……」
戦っているという“設定”を忘れたのか、二人はすでに名を呼び合っていた。
呆れるほどのライバル意識に、カナタも真顔だ。
すると、パンパンと手を叩く音が聞こえた。
「はーい、みんなそこまでよー。そろそろ真面目に戦うわよー」
「ミカママぁ!」
従魔がふざけ倒す中、ミカママが仕切るように声を張った。
さすがの“ママ力”に、カナタもぱあっと顔を晴らす。
すると、ミカママ自らが前に出た。
「じゃ、ママがやっちゃおうかな──【バブみの波動】」
ふわっと浮かび上がらせたのは、髪色とよく似た黄緑色の波動。
物理攻撃ではないため、効くだろうと踏んだのだ。
しかし、相手が悪すぎた。
「グオオッ!」
「はっ……!」
さすがはカナタの能力と言うべきか、波動すらも反射する。
グレートズリーに当たる前に、反射領域で波動が跳ね返ってしまったのだ。
すると、ミカママ自身が【バブみの波動】に包まれた。
「あぁっ……!」
「ミカママーッ!」
カナタの迫真の声と同時に、視聴者が一気にざわついた。
《ミカママが呑み込まれたぞ!?》
《大丈夫か!?》
《いや痛みは無いから大丈夫だろうけど……》
《これどうなっちまうんだ!?》
《まさかミカママがバブみに……?》
《なんかドキドキします!》
変な期待が寄せられているようだ。
こんな展開はカナタですら見たことがない。
(こ、これは……!?)
何が起きるか心配になる中、ミカママは悶え始める。
「うぐっ……バ、バブ──いいえ、耐えてみせる!」
「!?」
「でも波動が強くて……おぎゃ──いや負けない!」
「ミカママ!?」
ミカママは時々おぎゃりつつも、歯を食いしばって耐える。
“母性”と“幼児性”がせめぎ合っているのだ。
《対抗してる?www》
《若干おぎゃってるぞ!?》
《これミカママの貴重映像だろww》
《こんなの一生見られないってえ!》
《うっひょおおおおおお》
《バブってもええんやで^^》
《楽になろうミカママ》
視聴者も応援(?)しているが、ミカにもママとしてのプライドがある。
「おぎゃらない! 私はおぎゃらないわ!」
「ミカママ、もういいんだ! 苦しむぐらいなら楽になってくれ!」
「カナタちゃん……!」
カナタが駆けつけると、最後まで抗いつつもミカママは力を抜いた。
数秒後、ミカママは閉じた目を再び開く。
「ミカ、ママ?」
「……あっちいって」
「ん?」
カナタが心配で声をかける。
対して、ミカママはむすっとした表情でカナタを押した。
「あっちいってって言ったの!」
「うわっ!」
少し反抗的な態度……否、“恥ずかしげな態度”だ。
カナタを離し、すっと立ち上がったミカは、前髪をいじりながら視線を逸らした。
「ち、近づかないでよね……」
「「「……!」」」
その姿に、従魔三人が目を見開いた。
亜人とはいえ、みんなも乙女心は理解できる。
今のミカママの状態を直感したのだ。
(((思春期になっちゃった……!)))
母性と幼児性が中和され、ミカはちょうど中間の精神年齢となった。
年で言えば、小学生高学年~中学生。
つまり、“思春期ママ”の爆誕だ。
ミカは横髪をくるくるといじりながら、チラッとカナタを見る。
「別に、カナタちゃんなんて好きじゃないんだから……っ」
「!?」
思春期で「好き」という感情を持ち始める頃だ。
反抗期ではないが、ミカの思春期にはツンデレが入っていた。
普段は絶対見られないミカの姿に、視聴者は湧きあがる。
特に、ミカのファンからは熱烈なコメントが送られた。
《かわいいいいいい!!》
《カナタ君のことチラチラ見てるww》
《絶対好きじゃんwww》
《思春期ママかわいすぎだろ!》
《髪いじいじするの好き》
《おいおい神回か!?》
《ガチ神回きたああああああ!》
《こんなの見れると思ってないって!!》
《ワイの新たな推し爆誕》
《ミカかわいいぞ!》
もう一生拝めないかもしれない姿に、今日一の盛り上がりだ。
しかし、収集がつかなくなっているの事実。
そろそろ決着を着けるかと、最後はカナタが立ち上がった。
「やっぱり自分で取り返さないとな」
「グルル……」
再び剣を向けるカナタだが、周囲の不安は拭えない。
反射をしてくる相手にどう戦うのかと。
後方のミイコは思わず声を上げる。
「ま、魔王様! どういう作戦で!」
「……そうだな」
だが、元の持ち主はカナタだ。
ふっとドヤ顔を浮かべて、それっぽい答えを口にした。
「裏の裏は──表だ」
「「「?」」」
誰もピンときていないようだが。




