第31話 平穏な日々、そして
「ギャオオオオオオッ!!」
大きな部屋の中に、咆哮が響き渡る。
対峙したのは、ダンジョンボス『メガトンコング』。
巨大なゴリラ型の魔物だ。
とてつもない迫力に、思わず気圧されそうに──ならなかった。
「【バブみの波動】」
後方のミカママが、黄緑の波動を放出した。
目に優しい色の波動は、メガトンコングの取り巻き『ミニコング』を包み込む。
すると、ミカママはふっと笑う。
「みんないい子ね」」
「「「ガウウッ!」」」(ママー!)
幼児退行したミニコングたちは、もうミカママの意のままだ。
ミカママが指示すると、一斉にメガトンコングに襲いかかる。
「敵はあっちよー」
「「「ガウウッ!」」」(うおー!)
「ギャオオ!?」(ちょっと!?)
この攻撃は予想できなかっただろう。
途端に困惑するメガトンコングだが、あの二人から目を離してはいけない。
ダンッと飛び上がったのは、ルーゼリアとエルヴィだ。
「お姉さんを忘れないでね──【朱雀炎舞】」
「わたしから目を逸らすとか正気? ──【血染めの夜】」
「ギャアアアアッ!」
“炎”と“赤い棘”に襲われ、メガトンコングは声を上げた。
そうして足元が疎かになれば、あの子の餌食だ。
槍を片手に飛び出したのは、ココネ。
「──【氷の結晶】」
「ギャッ……!」
メガトンコングは一瞬で氷漬けとなった。
すると、ココネはこちらに振り返る。
「主様、今です!」
「おう!」
ここまでお膳立てされて、決めないわけにはいかない。
俺は高く跳び上がり、剣を上方に構える。
繰り出すのは、取り戻した三つのスキルを元にした攻撃だ。
「はあああ! ──【空間断絶・四重奏】」
「ギャアアアアアアアッ!!」
【空間断絶】と【共奏】を合わせた斬撃は、見事にメガトンコングを両断した。
【超感覚】で弱点を正確に見抜いたのも活きている。
ちょっとやりすぎたかもしれないけど。
「とにかく、これで討伐完了!」
俺は着地し、浮遊するカメラに向き直った。
一部始終を見ていた視聴者からは、あふれるようにコメントが流れる。
《うおおおおおお!》
《さすが魔王様!》
《トイレ行ってたらボス戦終わってた……w》
《楽勝かよ》
《Aランクダンジョンでもこれかあw》
《うん知ってた》
よかった、今回の配信も盛り上がったくれたみたいだ。
「じゃ、帰る準備するかー」
「「「はーい」」」
そうして、素材などを回収しながら、俺は思考を巡らせる。
魔王軍での焼肉配信から、約一か月。
上級資格を取得したので、俺たちはB~Aランクダンジョンを中心に、いつも通り活動を続けていた。
まあ、大体は“蹂躙”だけど。
今日も来たこの場所もAランクだけど、やはり話にならなかった。
これにも理由がある。
俺はチラリと視線を移すと、ルーゼリアが勝ち誇っていた。
「今日はお姉さんが一番活躍したかなあ」
「いいえ、ココネには及びません」
「そーんなことないわよ! じゃあここで直接やるかしら?」
「ココネはいつでも良いですよ」
ココネが混じって対立し始めたので、俺が間に入る。
「ダンジョン側の心配をしなきゃいけなくなるから、勘弁してくれ」
「「たしかに」」
「……それで納得すんのも怖えよ」
ココネは『魔物侵攻』を経て、潜在能力を全て引き出した。
結果、元々最強の才能を持っていたココネは、従魔の中でも一つ抜けたんだ。
だけど、他三人も簡単に認めるタマじゃない。
「じゃあ、次はお姉さんが上だと認めさせるわ」
「わたしも日々鍛えているんだよねえ」
「ママ、少し頑張っちゃおうかしら」
ルーゼリア、エルヴィ、ミカママ。
三人もココネに追いつけ追い越せと、さらに力を付けている。
でも、視聴者にはツッコミ所があるようで。
《その力どこで使うんだよwww》
《あまりにも過剰戦力》
《敵の方がいないんだよなあ……》
《一番相手になるのが従魔同士ww》
《身内だけでインフレしてて草》
うん、どのコメントにも激しく同意だ。
今の戦闘だって、メガトンコングを相手にしてたわけじゃない。
あくまで、どれだけ活躍できるかの道具にしかなっていなかった。
彼にもボスのプライドがあるだろうに……。
そうこうしながら素材を回収し終えると、エルヴィが近づいてきた。
「カナタ様、“タダ飯案件”はまだぁ?」
「言い方ー!」
変化があったのは、ココネに対抗することだけじゃない。
なんと、俺への案件が増えた。
きっかけは魔王軍での焼肉配信だ。
あの日の配信は伝説となり、大将は涙目になっていた。
だが後日、それは“嬉し涙”に変わったという。
本店は在庫補充のため数日の営業休止をしたが、チェーン店には翌日から大行列が起こったそうだ。
最終的には、大将はすごく儲かったらしい。
そこで、噂を聞いた他店が話を持ち掛けてきたわけだ。
いくつかの店を思い出したのか、ココネはぼやーっと遠い目を浮かべる。
「回転寿司に串の食べ放題、スイーツパラダイスなんてのも。どれも夢のようなお時間でしたね……」
「店によっちゃ悪夢だろ」
しかし、どれもが利益を上げたとは限らず。
中には、本当に涙を流した店もあるという。
ジェネラルマネージャーの締霧さんによると、俺たちへの案件は「究極の諸刃の剣」なんて呼ばれているんだとか。
《食べ放題シリーズはガチで神回》
《原価高い店は大体終わるんだよなあwww》
《飲食業界で指名手配されてるだろ》
《カナタ君の食費は大丈夫なのか?》
《こいつら本当はそこまで食べなくても平気らしい》
《前の配信で言ってたな》
《食べ放題の時に本気出すだけなんだって》
《余計にタチ悪いじゃんwww》
《やっぱり泣かせにいってて草》
《焼肉の大将は運が良かったのか……》
でも、視聴者の反応が良いのは確かだ。
ココネがぷっくらお腹を恥ずかしがったり、若干酔ったミカママが激甘えさせモードになったりなど、数々の名シーンは生まれている。
まあ、時と場合を見て出来る時にやろう。
「では探索も終わったので、本日はここまでにしますね! ご視聴ありがとうございました!」
今日の配信も成功したことを振り返り、配信を終える。
だが、ココネがふとたずねてきた。
「今日は少しお早いですね」
「あそこに行かないといけないから」
「はっ、そうでした!」
俺はスマホを取り出して、スケジュールを確認する。
夕方からは、一つ面倒な目的が入っていた。
「探索協会からの“お呼び出し”だ」
そして、なんとなく抱いた嫌な予感は、後に的中する。
この件をきっかけに、また波乱の日々が始まることによって──。




