第19話 新たな装備
「ここで全員倒せば、一気に受験者が減るな」
試験開始早々。
カナタの前に、結託した探索者たちが立ちはだかる。
だが、カナタはむしろ好機だと向き合った。
張り切っている従魔たちと共に。
「じゃ、やるか」
「はい!」「ええ!」「あはっ!」
しかし、相手も上級試験を受けにきた猛者たちだ。
確かな実力を持つ上、カナタの事は知られていた。
「あいつは一撃だけだ」
「ああ、速さはねえ」
「従魔の遠距離だけ気を付けろ」
有名になりすぎたカナタは、今の弱点を認識されている。
【空間断絶】の威力は絶大だが、自身の機動力は無いと。
対して、カナタはフッと笑った。
「それは前までの話だ。今の俺は──違う!」
キュイインと、エンジンのブーストのような音が鳴る。
かと思えば、カナタの姿が消えた。
「「「……!?」」」
次の瞬間、天井から技が放たれる。
「【空間断絶】(ミニ)!」
「「「ぐわああああっ!?」」」
カナタが瞬時に上を取ったのだ。
目で追えなかった半数は、攻撃をもろに食らう。
彼らは装備の損耗率が70%を超え、あっさりと失格となった。
「よし。いい感じ!」
「「「……っ!」」」
すると、カナタの装備にキラリと光るものが見える。
探索界隈では、ある意味有名な“銘”だ。
黄金に光るその銘は『ロメンシリーズ』。
《あれってロメンシリーズか!?》
《最近配信で素材集めてたかと思えば!》
《装備作ってもらうって言ってたよな!》
《あのロメンに作ってもらったのかよ!》
《あっちい!》
《まさか試験でお披露目とは!》
──ロメンシリーズ。
装備職人『ロメン』が作る装備のことだ。
この日までも、カナタは毎日配信をしていた。
最近行っていたのは“素材集め”。
きっかけは、ロメンよりDMをもらったからである。
『魔王様、毎日配信を楽しみにしています。ぜひ僕に装備を作らせてください。ちなみに、決してロリ好きではありませんが、推しはココネたそです』
そうして、カナタは装備を作ってもらった。
ただし、ロメンシリーズが有名なのは、性能が良いからではない。
良くも悪くも、性能が“トリッキー”なのだ。
ほとんどからはゴミだと罵られるが、ごく一部からは絶賛される。
ユニークすぎる性能のため、ロメンは一般的には忌避される職人だ。
それでも、カナタは喜んで作ってもらった。
“使いこなせる自信があったから”。
「来ないからこっちからいくよ」
ボッと移動をブーストさせたカナタは、今度は壁を走る。
「ははっ、やっぱりすごい装備だ!」
「「「……!?」」」
異世界で培った経験により、カナタの戦闘センスはずば抜けている。
そして、役立っているのが【超感覚】。
このスキルで装備を完全に理解し、研ぎ澄まされた五感で性能を引き出す。
何かと避けられがちなロメンシリーズ。
だが、共通して言われていることがあった。
性能を最大限まで引き出せば、間違いなく現代最強の装備だと。
「【空間断絶】(手加減)!」
「「「ぐわあああああああっ!」」」
最強能力×最強装備
弱点だった機動力は完全に補填された。
爆速的な加速をし、壁を走り、天井を伝う。
今のカナタを止められる者はいない。
「さあ、次はどいつだ?」
《うおおおおおお!》
《かっけええええ!》
《これロメンシリーズだろ!?》
《使いこなせるのやべえって!》
《ブーストも下手したら自爆だからな》
《壁に突っ込んでケガするだけなのに》
《どんなセンスの塊なんだよ!》
《この厨二感たまんねえええ!》
《これはさすがに魔王様!》
ちなみに、C級ダンジョンまでの素材でこの性能だ。
上級資格を得て、より上のダンジョンに潜った暁には、さらにトリッキーで破格の性能も期待できるだろう。
すると、従魔も負けじと攻撃に参加する。
「主様、ココネもいきます!」
「おう見せてやれ!」
従魔もロメンに装備を依頼していたのだ。
だが、使いこなせない為、トリッキーな性能は付けていない。
恩恵は多少の底上げのみの、趣味全開な装備だ。
「いきます! へーんしんっ!」
ココネが“氷のステッキ”(自作)を掲げると、体がまばゆく光り始める。
どこか既視感のある演出と共に、ココネの格好が変わり始めた。
やがて光がなくなると、現れたのは──
「キュア・ココネ参上っ!」
ファンシーな水色姿のココネ。
若干際どいが、可愛さが全面に押し出た格好だ。
これは“魔法少女”である。
「主様に代わってお仕置きです! ──【夢雪星】!」
「「「うわあああああっ!」」」
ココネはステッキを振り、星型の氷塊を降らせる。
装備により、さらに威力(と可愛さ)が増した技だ。
その見た目とは裏腹に、集団の一部を破壊した。
「主様、ココネかわいいですか!」
「うん。似合ってるよ」
「えへへっ」
最近アニメで見た魔法少女になれ、カナタにも褒められ、ココネは満面の笑みを浮かべた。
《ココネちゃん!?!?》
《魔法少女だとおおおおお!?》
《うわあああああああああ!(歓喜)》
《デザイン神すぎだろおお!》
《やってることエグいけどw》
《装備で威力も上がってるやん!》
《テレビで見てたのかな》
《かわいいーーー!》
続けて、ルーゼリアが大人の笑みを浮かべる。
「ふふっ。お姉さんも見せちゃおっかな」
ボオッと炎に包まれたルーゼリア。
再び姿が見えると、装備がド派手に変わっていた。
“愛”を意味する真っ赤なドレスだ。
足には切れ目が入り、両肩が出ている。
お姉さんらしいセクシーな格好だ。
「カナタ君、お姉さんの愛を受け取って! ──【情熱の愛】
「「「ぎゃあああああっ!!」」」
愛を抑えきれなくなったルーゼリアは、ハート型の炎を放つ。
装備でより高精度に炎を操れるのだ。
激しい炎は、集団の中央で燃え盛る。
それから、炎で自らレッドカーペットを作り、スタスタと歩き始めた。
《お姉さん美しいですううう!!》
《セ、セクシーだ……》
《ふむ。これは素直にエッチですね》
《ウェディングドレスっぽい!》
《もう結婚した気でいる?笑》
《それで何で燃やすんだよwww》
《プロポーズに巻き込まれる探索者さん泣》
《ハート型の炎きれい!》
《レッドカーペット作んなww》
最後に、エルヴィが声を上げる。
「わたしもいくね、カナタ様ぁっ!」
取り出したのは、紫色の“ムチ”。
それがトリガーだったのか、バシィンと地面を叩くと格好が変わる。
服装が所々ハート型にくり抜かれ、深いピンクへと色が染まった。
全身深ピンクの格好に、ムチ。
吸血鬼の羽根と、病んだ目まで加わった。
ドSを思わせる煽情的な衣装だ。
「あはははっ、楽しいわぁっ! ──【闇の舞踏】」
「「「があああああああっ!」」」
「ありがとうございます!」
エルヴィの棘で探索者たちは体を操られる。
傷つきながらも舞踏しているかのように。
ムチの恩恵により、棘の精度が上がっているのだ。
《うわーお!!》
《これはエグイってえええ!》
《さすがにエッチすぎんだろ!》
《協会公式でなんて格好してんだwww》
《僕も調教してください!》
《あっ、好き……》
《ムチで棘を指令してるな》
《なんか喜んでる奴いない?w》
《目覚めてる奴いて草》
そして、気がつけば──。
「こんなところかな」
「「「……っ!」」」
百五十人程いた強者は、地面に伏していた。
これが魔王カナタと従魔たちだ。
《こいつら強すぎて草》
《もはや試験荒らしだろwww》
《ロメンシリーズもかっこよかった!》
《従魔はほとんどコスプレ大会だけどw》
《一応、技も強くなってるから!》
《これ以上強くしてどうすんだよww》
《ロメンの趣味いいじゃねえか!》
《趣味というかもはや性癖だろwww》
《冷静に考えたらこいつら何してんの?笑》
すると、カナタはハッと思い付いたように目を開く。
そのままドローンにグッドポーズを送る。
「ロメンシリーズ、好評発売中!」
《宣伝かよw》
《公式で宣伝してて草》
《こいつらマジで出禁なるぞww》
《やりたい放題じゃねえかwww》
《さすがにロメンシリーズ買うわ》
《俺も買う》
《効果絶大やんw》
ちなみに、宣伝したのは好意だけではない。
ロメンは装備提供だけでなく、カナタの“個人スポンサー”となっていた。
有名な職人も、すっかりカナタの配下だ。
「よし、進むぞ!」
「はい!」「ええ!」「あはっ!」
こうして、カナタは結託した探索者を攻略。
波乱の幕開けを乗り切ることができた。
結果、開始直後に受験者が三分の一になるという前代未聞のスタートとなる。
しかし、困難(?)は続く。
「来よったか」
「「「……!」」」
しばらく進んだ先にいたのは、一人の探索者。
白い髭を真っ直ぐ下に伸ばした、おじいちゃんだ。
その放つオーラに、カナタは口にした。
「あなたが、試験官ですね」
「いかにも」
この上級試験には、要所に試験官が配置されている。
試験官を務めるのは、“特級探索者”。
上級探索者のさらに上である。
(これが一番上の資格持ちか……)
特級は、上級の中でも別格の上澄み。
日本で三十人にも満たない、最上位の実力者だ。
すると、戦闘狂のエルヴィが口に出した。
「面白くなってきたじゃない」
対して、おじいちゃんは笑みを浮かべる。
「ふっ。お主らなど一秒も必要ないわ」
「……へえ?」
次なる試練がカナタ達に降りかかる──。




