第18話 上級探索者試験
月末、某所。
──ざわざわ、ざわざわ。
ここは『上級探索者試験』会場。
上級探索者資格を志願する者たちが、会する場だ。
集まっているのは、およそ三百人。
ただし、その中でも異彩を放つ集団がいた。
「おい、あれって……」
「ああ本物だ……」
「まじで来たのかよ……」
視線が集まる先には──四人。
「なんかじろじろ見られてるような……」
「主様を讃えているのですね」
「お姉さんに惚れちゃったのかしら」
「強そうな奴はいないかなぁ」
カナタとその従魔たちである。
彼らは現在、世間で最も注目を集める者達だ(色んな意味で)。
当然、強者たちの間にも噂は広まっている。
そんな中、とある青年が近づいてきた。
「あの! 魔王カナタさんですよね!」
「は、はい」
「先日の配信も見てました。よければサインをくれませんか!」
「俺なんかのですか!?」
青年はカナタのファンだったようだ。
「じゃ、じゃあ……どうぞ」
「やった! ありがとうございます!」
カナタが照れながらもサインをあげると、青年は嬉しそうに戻っていく。
その光景には従魔たちもニコニコだ。
「「「ふふっ」」」
主にファンがいることが嬉しいのだろう。
すると、次は女性ファンがやってきた。
「あの、よければ私にも!」
「「「女が近づくんじゃねえ!」」」
「ひゃあっ!?」
しかし、従魔たちは鬼の形相でファンを睨む。
女性には厳しいようだ。
さすがにかわいそうだと思ったのか、カナタがフォローする。
「うちの者がすみません。これ、サインです」
「いえ、受け取れません! 命が危ないのでー!」
「あぁ……」
女性ファンは青ざめた顔で走り去った。
カナタが手を伸ばす中、従魔たちはガッツポーズをしている。
「「「よし」」」
「何もよくねえわ」
そうこうする中、カナタは改めて周りを見渡した。
(それにしても、みんな強そうだな……)
今の二人も含め、探索者のレベルが普段とは違う。
ここに来るのは皆、一般資格で潜れるC級ダンジョンでは満足できない者たちだ。
探索者でも一握りの強者と言える。
すると、会場に声が響いた。
「えー、皆さんお集まりのようですね」
壇上に上がったのは、白髪交じりの中年のおじさん。
スーツ姿(と疲れた顔)から、探索協会の者だろう。
本試験の進行役のようだ。
「では改めて、簡単にルールをおさらいします。まずはこちらを」
おじさんが指を鳴らすと、大量のドローンが流れてくる。
ドローンは探索者たちを捉えるように宙に浮いた。
「えー、国は配信者を推進しているため、本試験も配信されることになっています。チャンネルは事前にお伝えした通り、『探索協会公式』ですね」
おじさんの合図と共に、配信が開始されたようだ。
《お、始まった!》
《きたきたあ!》
《やっぱこの時期は上級試験だよな》
《今年はどんな奴らが来るかな》
《魔王が受けると言ってたので見に来ました》
《クソ、公式だからスパチャ送れねえのかよ!》
《ココネちゃん見てるよー^^》
探索協会公式にもかかわらず、配下(カナタの視聴者)と思われるコメントがたくさん見られる。
同接もすでに脅威の25万人。
毎年盛り上がる行事ではあるが、すでに例年の三倍以上の視聴者数だ。
これも、数日前にカナタが参加表明をしたからだろう。
くたびれた協会のおじさんは続ける。
「皆さんにはこれから、ダンジョン内で課題をこなしてもらいます。指定された素材を全て持ってくれば合格です。その素材はー、スマホにある通りです」
受付の際、探索者は試験専用スマホを受け取っていた。
不正防止のため、探索者自身の機器は預けている。
持ち込みが許されるのは、事前に申請した装備のみだ。
すると、一人の探索者が声を上げる。
「異議あり!」
「ん?」
受験者の一人だろう。
おじさんも「仕事増やすなよ……」と目を細めながら、一応耳を貸す。
「装備の持ち込みについては聞いています。ですが、彼らはどうするんですか!」
探索者が人差し指を向けたのは、カナタ一行。
「助っ人は無しのはずです。ならば、久遠カナタ一人で来るべきでは!」
「うーん……」
対して、おじさんは紙を取り出す。
「久遠氏に関しては、事前申請を頂いています。内容を読み上げますね」
「え?」
だが、当のカナタが首を傾げた。
(え、申請なんてしてないぞ?)
カナタは身に覚えがない。
送られてきた受験票に「従魔OK」とあったため、連れて来ただけだ。
心当たりがない中、申請内容が読み上げられる。
「その一『主様とは一心同体です。ひと時も離れることができません』」
「!?」
「その二『カナタ君とは愛で繋がっています。離すことは不可能です』」
「……!?」
「その三『カナタ様と離したら、腹いせに協会をぶった斬ります』
「……!?!?」
名前は出てないが、犯人は明確。
上から、ココネ、ルーゼリア、エルヴィだ。
(何やってんだよ、おまえらはー!?)
三百人が一斉に振り返ると、カナタは思わず顔を抑えた。
《公開ラブレターじゃねえかwww》
《全世界に告白が配信されてて草》
《世界中の外堀でも埋めるつもりか?笑》
《相変わらず重いぜ》
《カナタ君の顔が真っ赤www》
《魔王様照れててかわいい》
《これは恥ずい!》
《申請でもなんでもない笑》
《エルヴィはもはや脅迫文だろw》
《公式でイチャつくな(いいぞもっとやれ)》
《魔王様ご一行は普段通りだなw》
そうして、進行係は内容を締める。
「以上を踏まえ、従魔は久遠氏の“装備の一部”と見なします。テイマーが魔物を連れるのと同じという見解です」
「わ、わかりました……」
質問者は納得したようだが、カナタは強く思った。
(最初からそれだけ言えば良くない!?)
何はともあれ、従魔の参加は認められた。
すると、進行係の合図で大きな門が開いた。
「では早速始めていきましょう。こちらが試験専用ダンジョンです」
「「「……!」」」
ここは協会直轄の『上級試験ダンジョン』。
協会が手を加え、上級試験用に魔物や罠が調整されている。
この中で指定の物を集めるのが合格条件だ。
「制限時間は一時間です。それでは始めてください」
「「「うおおおおっ!」」」
探索者たちは一斉に走り始める。
周りの勢いに呑まれない様、カナタ達も足を動かした。
──しかし、ダンジョンに入ってすぐ。
「おわっ!?」
突如、カナタの足元に武器が刺さる。
【超感覚】で回避したが、訝しげに前を向いた。
そこにいたのは、多くの探索者たち。
「悪く思うなよ? 久遠カナタ」
「従魔なんてズルは許さねえぞ」
「まずはここで敗退してもらおうか」
従魔のルールに不満を持った者たちが、結託していた。
この試験では、相手を陥れることは禁止されていない。
いずれ脅威になるなら、先に排除する考えのようだ。
試験の特殊ルールを使って。
「この人数でかかれば、失格させられるだろ」
各探索者はデバイスによって、“防具の損耗率”を計られている。
どれだけダメージを負ったかの指標で、HPみたいなものだ。
本試験では、損耗率が70%を超えると強制失格となる。
本来このルールは、試験の安全面から作られたもの。
だが彼らは、これを利用してカナタを失格にさせるつもりだ。
《はああ!?》
《何してんだよこいつら!》
《結託とかアリかよ!》
《けど、ぶっちゃけ合理的ではある》
《終盤に一人でカナタと対峙するよりはな》
《先に落とした方が生き残れるってか》
《でもこれって……》
“強い者をマークして好き勝手させない”。
勝負事ではよくある光景だ。
すると、カナタはボソっと口にした。
「や、やばいな……」
「はっ! 今更怖気づいても遅えぞ?」
「いや、そうじゃなくて」
「ああん?」
強気な探索者に対して、カナタはちらりと視線を向けた。
隣には、やる気の満ちあふれた従魔たち。
「主様、やっちゃっていいんですよね」
「お姉さん、手加減って苦手なんだ~」
「あははっ、パーティーの始まりだ!」
「「「……っ!!」」」
ココネは腕を回し、ルーゼリアはコキコキと指を鳴らす。
エルヴィは狂気の笑顔を浮かべている。
先ほどの公開ラブレターがあったからか、普段より気分が高揚して見えた。
そんな様子に、カナタは息をつく。
“やばい”と言ったのは、三人の様子についてだ。
「やけに張り切っちゃってるよ」
《きたああああああ!!》
《怖すぎるwww》
《むしろやる気満々で草》
《探索者さんたち絶望!w》
《あーあ張り切らせちゃったね^^》
《大量大量っ!》
《本日の蹂躙はこちらですか?》
《しょうもない奴らぶっ倒してくれ!》
とはいえ、カナタもただ任せっきりのつもりはない。
「ここで全員倒せば、一気に受験者が減るな」
ブオンっと剣を振るい、戦闘態勢を取る。
身に付けているのは、新調した装備。
とある特徴を持つ、シリーズ装備だ。
「じゃ、やるか」
「はい!」「ええ!」「あはっ!」
こうして、カナタ達の上級探索者試験は、いきなり波乱の始まりとなった──。




