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#書道部 #臨書

「まず遠野。遠野はメリハリを付けよう。強い所と弱い所が、今は()()()()あるという感じだ。線の強弱や、それに潤渇──滲み掠れだな、はもっと付けた方がいい。」

「結構やってるつもりなんですけど」

「足りないな。今のところ、“盛り上がりの無いアクション映画”という感じだ。元の字形さえ守れれば、もっと静と動の激しい画面にした方がいい」

 今まで半紙だったから、画面にメリハリを付けるなど考えてこなかった。字の中でも力を入れたり抜いたりだとか、滲ませたり掠れさせたりだとか言われても、イマイチピンとこない。取り合えずやってみるしかないのか。

「次に三山」

 香月先輩は、三山さんに話しかけた。普通に可愛い10歳下の女の子だ、人見知りであろう先輩は話しづらいだろう。気にして、少し聴くことにした。

「強い線を引けるようにしよう」

 三山さんへのアドバイスはオレへのより単調だ。

「強い線って、太くすればいいんですか?」

「強く書くのと、太く書くのは違うんだ。まず、筆を立てよう」

「え!?(はじめ)くんのですか?それとも……?」

「いや、1000歩譲って遠野だとして、それ以外に誰がいるんだよ」

 そう言うと、三山さんは遠野先輩を見てニコッとしている。

 黙ってれば可愛い人なんだけどなあ。

「えー、立筆(りっぴつ)といって、筆を垂直にすることで力の入った線を書けるんだ。練習に、半紙に1本線を引いてみよう」

「そういえば小学生の時にやりましたよ、そういうの」

 そうすると、三山さんの筆の摩擦音が聞こえた。

 先輩は「ああ。今やってみると違うものだろう」と三山さんに告げ、オレに「なあ」と声を掛けてきた。

 会話を聴いていただけだったが、「え、今書くのにちょうどいいマインドだったんですけど、なんでしょうか」と嘯いた。

「半紙に1本線を引いてみてくれないか?楷書の様に書いて欲しい」

 オレは、いつも通り筆を運んだ。

 香月先輩から「有難う」という言葉をもらい、先輩はそのまま三山に「どうだ?分かったか?」と訊いた。オレは三山さんの眼を見たし、香月先輩もまた眼を見ているようだった。

「よく解りませんでした」

「オレとしてもそんなすぐコツ掴まれたら落ち込みます」

「遠野、邪魔してすまなかったな。では、メリハリを意識して書いてくれ。終わったら見せて欲しい」

 邪魔じゃない、寧ろ逆だ。頼ってもらえるのが凄くうれしい。

「じゃあ三山は僕とマンツーマンでやろうか」

 ズルい。

「マンツーマン……!?わたし達は女性でしょうから男性化ですね先輩ニッチですねやはり強気女属s──」

「ワンオンワンでやろうな、うん」

 いや、三山さんと同時もそれはそれでキツイかもしれない。


 オレが再び1枚書き終えると、三山さんも丁度書き終えたようだ。ずっと線の練習をしてもつまらないからか、三山さんには取り敢えず半切に書かせたみたいだ。

「うーん……」

「あー、やっぱりだめですよね……」

 香月先輩と三山さんが唸っている。

「いや三山、一度その筆を貸してくれないか?」

 先輩はそう言って筆を受け取り、出来ばかりの書の上から『永』という字を試し書きをした。

「あの、わたしの作品の上に書くのは……」

「なあ遠野。この筆、何の毛だ?」

「え?陰m──」

「知りません、白い毛でしたけど」

 香月先輩は「少し待て」と言ってロッカーに行き、三山さんに「これで書いてみてくれないか」と別の筆を手渡した。

 渡したのは、茶色い毛が混じった筆だった。

「半紙で一度試し書きしてくれ」

 香月先輩が三山さんの書の上に書いた『永』を指し、手本にするよう言う。

 やっぱり、三山さんとばかり話していてズルい。しかも手本を書いてもらったことなんて無い。

 オレは少し嫉妬して、「オレ書き終わったんで、こっちも見てもらえますか?」と口を挟んだ。

「分かった」

 香月先輩は、普段と変わらない口調で言った。


 18時になり、そろそろ切り上げることになった。最終的に、オレが4枚、三山さんが3枚を書いてフィニッシュした。

 片付けながら、三山さんが「つかれたぁ」と溢す。オレもそれに同調して「錬成会なんてもっと疲れるんだろうな」と呟いた。

 帰り際、玄関でのことだ。そういえばオレは、疑問を持っていたことを思い出した。

「先輩、そういえば何故三山さんの筆を変えさせたんですか?」

「書き味は何の動物の毛を使っているかで変わるんだ。楷書の様にかっちり書くなら硬い方が向いているし、崩すなら書きたいものに合わせる。

 最初のものは恐らく羊毛のみだ。それだとかなり柔らかいから、もう少し硬いのにしてみたんだ」

「あ、じゃあオレの選択ミスですか」

 1作分オレのせいで無駄になったと思うと落ち込む。

「なあに、それはそれで経験になるだろう。気にすることはない。

 そうだ、あまりこういう機会もないから、僕が晩御飯を奢ってやろう」

 香月先輩が珍しく提案をしてくれた。なのに。

「香月先輩、オレ晩御飯家で食べるって言っちゃってて」

「わたしも寮食あるので……」

 三山さんも行けないのか、本当に申し訳ない。

「そうか、じゃあ2人とも気をつけてな」

 寂しそうに解散を告げる香月先輩の背中が小さく見えた。そして、「あれ?何故だろうか」と言った気がした。

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